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山尾 加奈子(やまお かなこ)氏
Profile

山尾 加奈子(やまお かなこ)氏

コラソン行政書士事務所
行政書士

秋田県秋田市生まれ。横浜市立大学商学部経営学科卒業。大手金融機関の人事部、ゲーム会社とIT企業の法務部に勤務。2016年、行政書士試験合格。2018年、行政書士登録。3年間の兼業期間を経て、2021年9月、完全独立。2025年1月、『そこが知りたい!帰化申請Q&A50』を中央経済社から出版。

「外国人が安心して暮らせるようサポートしたい」
という思いが、帰化専門行政書士として結実しました。

 「困っている外国人が日本で安心して暮らせるサポートをしたい」という思いから、行政書士の山尾加奈子氏は帰化専門の行政書士になった。そして今、外国人に感謝されながら、大きなやりがいを感じている。山尾氏はどのような経緯で外国人をサポートしたいと思い、行政書士をめざしたのか。そのきっかけから、独立へのプロセス、事務所の今後についてまで語っていただいた。

外国人が安心して暮らせるようサポートしたい

 現在、行政書士として活躍する山尾加奈子氏が、大学進学にあたり興味を持ったのは経営法学。会社法、民法の債権法、労働法など、経営を行う際に重要となる法律だ。学ぶ場としては「経営やマーケティングを学びながら法律も学べるのは、楽しそうだな」と考えて、横浜市立大学商学部経営学科に進学した。

 大学卒業後は大手金融機関に勤務し、人事部で出向人事に携わった。その後、変化を求めてゲーム会社に転職。法務部で海外案件や知的財産件を数多く扱い、アシスタントからスタートし数年で部長に昇進した。

 ゲーム会社には、優秀な外国人エンジニアが大勢在籍していた。彼らが「永住したい」「帰化したい」「日本人と結婚して在留資格を変更したい」と話しているのを、よく耳にしていた。中には自分で申請して失敗したという人もいた。とはいえ当時の山尾氏には、ビザと在留資格の違いすらわからなかった。

 「彼らのような外国人が、日本で安心して暮らせるようにサポートできたらよいのに」と思って調べてみて知ったのが、在留資格や帰化を扱う国家資格、行政書士だ。

 「中間管理職として日々の業務に追われる中、こういう人を助ける仕事をやってみたい、と考えたのが行政書士をめざしたきっかけです」

2回目の挑戦で行政書士試験に合格

 行政書士は独立開業もでき、独立すれば自分で仕事の進捗すべてを決められるのも魅力的だったことから、山尾氏は行政書士をめざして受験勉強を開始した。

 1回目の挑戦は半年間、朝4時起きの独学で受験勉強を進めた。結果は6点不足で不合格。断念しようと思ったが、このまま65歳まで会社員を続けることに疑問を感じ、2回目に挑戦。仕事の合間を縫って、半年間受験指導校にも通学した。

 「受験指導校は、学校に頼るというより、カリキュラムに則ったペースメーカー的に利用しました。通学することによって、独学のときは丸暗記に頼っていた行政法などの知識が体系的にインプットされて、記述式も解けるようになりました」

 こうして2016年、山尾氏は2回目の行政書士試験で合格を手にした。

兼業で帰化専門行政書士をスタート

 合格したら独立開業も頭の片隅にはあった。ところが、いざ合格してみると、「独立開業しても、すぐにお客様がくるわけがない」と冷静に考えるようになった。

 「きちんと働いていれば毎月お給料をもらえることに、ものすごくありがたみを感じて、しばらく行政書士登録せずに会社員を続けていました」

 その後、副業禁止だったゲーム会社から副業OKのIT企業に転職。「一度きりの人生。やりたいことをやろう!」と奮起して、2018年8月に行政書士登録を果たした。

 「在留資格や帰化に特化した行政書士になる」と決めていた山尾氏は、登録前に入管業務セミナーを、登録後にマーケティングセミナーを受講した。

 「実務知識と経営力をバランスよく培うためでした。これは自分にとって大きな財産になったと思います」

 会社から兼業許可を取り、Webサイトを立ち上げ、いよいよ兼業で行政書士業務をスタート。2020年5月からはYouTubeでの配信も始めた。

 平日はフルタイム勤務、土日と夜の時間を行政書士の時間に充てた。山尾氏にとっても平日仕事を持つ顧客側にとっても、好都合な面が多かった。さらに帰化申請は原則として本人が法務局に出頭して書類申請を行わなければならないので、行政書士が平日昼間、足を運ばなくて済む。在留資格や帰化業務での兼業は、山尾氏にとって開業しやすいスタイルだったのだ。

 ちなみに事務所名の「コラソン行政書士事務所」は、日系の外国人のお客様が多いことを想定して、そういったお客様に親しみを持って覚えてもらえるようスペイン語の「Corazón」=「心」という意味から「真心を込めて」という思いで命名したという。

兼業から完全独立へ

 開業後、すきま時間を利用して地道にYouTubeのコンテンツを作成し、自身で編集・配信を継続していき、コンテンツが100個になったあたりから問い合わせが増え始めた。ちょうどYouTubeチャンネル開設から半年経ったころだった。

 外国人の知り合いも多かったので、紹介につぐ紹介でスタートから集客は順調だった。士業セミナーに参加して名刺を渡す際に「帰化専門です」とアピールすると、その言葉が耳に残るらしく、外国人関係の案件があると連絡がくるようにもなった。

 山尾氏は月何件の依頼がくるようになったら完全独立しようと、ある程度めどを立てていた。

 「帰化申請は1件の単価が約30万円。兼業なら月1件取れたら十分。月2件コンスタントに取れるようになったら行政書士専業になってもいいなと思っていました」

 ところが月1、2件どころか、ものすごい量の問い合わせがくるようになった。

 「これは昼間も対応しなければ間に合わない。そろそろ退職して、本格的に行政書士専業でやろう」

 2021年9月、山尾氏はIT企業を退職して完全独立。行政書士登録から3年の月日が流れていた。

依頼はおおよそWeb5割、顧客紹介3割、士業紹介2割

 「士業のすごいところは、開業するといろいろな人たちと出会えること」と完全独立後の感想を、山尾氏はこう語る。

 「税理士や司法書士、弁護士と、つながればつながるほど広がっていきます。独立してからは士業の集まりに行くようになりました。Web集客も大事ですが、そうした士業の方々とのリアルな交流をきちんとすることを大切にしています」

 一方、帰化・永住申請のお客様からの紹介も増え続けた。

 「帰化や永住は、許可が取れたら絶対的な信頼感につながります。それだから『私もその先生がいい』と友だちからの口コミが信頼されるんです」

 現在は、特にネパール人の帰化申請が増え、事務所の顧客比率は中国人と韓国人が約半数、残りの半数をほぼネパール人が占めている。これもみな紹介によるものだ。

 こうして依頼の割合は、おおよそWeb 5割、顧客紹介3割、士業紹介2割となった。

 お客様の多くが外国人ということから、語学について山尾氏に尋ねると、「ビジネスで使っているのは基本的に英語です。スペイン語と中国語は日常会話程度。中東系は英語で対応します」と答えた。

 山尾氏の語学力が培われたのはゲーム会社にいたとき。すべて英文契約書だったので、10年以上ビジネス英語を使ってきた。その経験が現在も大いに活かされている。

 「とはいえ、帰化や永住申請をする日本在住の外国人はほぼ日本語を話せます。今増えている在留資格『技術・人文知識・国際業務』は、基本的に会社の人事部とのやり取りになりますので、人事部の方は日本人です。帰化申請には日本語テストがあるし、永住は10年以上の居住が条件となるので、日本語ができない方は帰化ができません。そのため、日本在住の外国人と英語でコミュニケーションを取る機会はほとんどないのです」

行政書士によるワンストップサービスを提供

 「YouTubeの動画はストック型なので、過去の動画も新しい動画も見にきてくれる人がいます。さらに、私は配信先をセグメンテーションしていないので、アメリカやメキシコ、カナダ、中国、最近では中東のUAE(アラブ首長国連邦)からもお問い合わせがくるようになりました」

 グローバルな問い合わせは増える一方だ。

 「中東も中国も依頼はほぼ『経営・管理』ビザです。日本で会社を設立したいからと、会社設立からビザ取得までのすべての依頼になります。一連の流れには他士業との連携が必要になってきます。まず、定款を作るのですが、私は依頼者である外国人がやりたい業務ができる定款にすることにこだわっています。定款ができたら認証し、法人登記を司法書士に依頼して、登記が終わったら今度は税理士に開業届出を依頼。その後、経営管理ビザの認定や変更申請をします。もちろん、定款の『目的』作成の段階で許認可が別途必要となる業務であるかをチェックし、必要があれば経営・管理ビザ申請前に許認可を取得します。例えば、飲食店営業許可、建設業許可、運送業許可などですが、そういった許認可を専門にしていて、私が信頼している行政書士に依頼します。
 ここまですべてをワンストップでやってくれる行政書士が、外国人にとっては魅力的なのです。彼らの最終目的は在留資格を取得することなので、すべて私がハンドリングしていることに彼らはメリットを感じてくれるようです」

 退職したIT企業とは、今でも法務顧問として特許や商標の相談に乗り、社内の技術者と弁理士をつなぐ仲介役を担っている。その他にも法務顧問やコンサルティングを請け負っている会社がある。2024年12月には株式会社を設立し、法務顧問やコンサルティングは法人を受け皿にするようになった。

事務所の運営方針

 自分で決めて自分のペースで仕事ができるのが行政書士のはずだった。しかし、ここ最近は仕事が増えすぎてパンク状態のときもあるという。いよいよひとりの限界。スタッフを雇う節目にきている。

 「将来、有資格者を大勢採用して法人化したいのか、あるいは数名のスタッフで自分が受けられる分だけ行うスタイルでやっていくのか。運営方針を決めなければなりません。私は法人化は考えていないので、現在1名のスタッフにもう1名加えて、書類作成などをやってもらうのがよいと考えています。そして、営業ができる人に1名加わってもらえれば、有資格者を早急に雇おうとは思っていません」

 その一方で「後継者を育てて、10年後には第一線から退きたい」という思いもある。

 「10年経って60歳を迎えるころには、5名位の規模で有資格者2名、スタッフ2名の組織になっているのが理想です」

開業3年以内に書籍出版

 行政書士として本格始動したのが2021年9月。そのときから「必ずこれを実現する」と決めていたマイルストーンがひとつある。

 「本格始動してから、できれば3年以内に書籍を出版したいと思っていました。会社員時代は成果物がなかったので、専門家として業務を行うからには専門書を出したいと考えたのです」

 出版経験がある士業に「帰化申請で本を出したい」と相談したら、中央経済社を紹介してくれた。「その分野で専門書を出している人がいないので興味があります。ぜひ企画書を出してください。」と言われ提出した企画書が無事に通り、2025年1月『そこが知りたい!帰化申請Q&A50』を中央経済社から出版した。

 「マイルストーンをひとつ達成できたので、次はスタッフを採用し、営業できる人、さらに有資格者も入れて、組織体制を整える。これをこの5年以内にやりたいと考えています。そして10年後には、私がいなくても事務所が回るしくみにしたい…。今は、そんなゆるめのマイルストーンを置いています」

外国人に刺さるYouTube動画

 順調に増え続けるYouTubeとWebサイトの記事からのお問い合わせに関して、山尾氏は今、転換期を迎えている。

 「YouTubeで直接お客様と対談をして、帰化などを考える外国人が聞きたいことを話してもらう。その動画を公開するとかなり反響が大きいので、YouTubeに関しては自分でやりたいと考えています。そのような思いで毎回テーマを決め、起承転結をまとめてスクリプトを書くところから、聞きたいところを織り交ぜながらの収録、約10分間に編集してサムネイルを作るところまで、すべて自分ひとりでやっています。結局、編集作業などは平日夜や土日になってしまい、YouTubeの負担は大きいです。
 今後は、少しずつYouTubeの本数を減らしていこうと思っています。Webサイトの記事は逆にコンテンツが積み重なるストック型のものなので、増やしていきたいですね」

 外国人をターゲットにしたビジネスの場合、Web集客は大きな効果があるようだ。

 「外国人には動画での説明が刺さります。士業にとって、YouTubeは媒体としてまだまだ伸びしろがあります。それでも帰化や永住で参入してくる人はあまり多くなく、私のひとり舞台みたいになっています」

行政書士は一生ものの資格

 多忙を極める山尾氏だが、そのような中でもリラックスやストレス解消を忘れない。

 「パデル(テニスとスカッシュの要素を持ったラケットスポーツ)とキックボクシングと加圧トレーニング。以前は華道もやっていましたが、時間がなくてやめました。パデルはどハマり中で、キックボクシングはスカっとします」

 行政書士になって一番よかったことを聞くと、少し考えてから、それまでの士業の顔から一変して、おちゃめな笑顔が返ってきた。

 「ここだけの話。こんなにコスパがいい資格、あっていいのかなって。社会人になってから、仕事と並行して司法試験を受ける人はなかなかいないと思います。行政書士は、会社員でも勉強して取得している人が大勢います。資格取得後に開業すれば休みもないくらいに忙しく働けて、会社勤務時代の何倍ものお金がもらえて、外国人からたくさん感謝される。そんな国家資格があるんだって、ちょっとびっくりしています(笑)」

 もともとめざしたのは、外国人を助けたい、という思いの実現。その思いが行政書士につながった。

 「行政書士は年齢に関係なく何歳でも受験できるし、合格すれば開業できます。しかも、行政書士の業務は1万種類以上あるので、同じ行政書士でも扱っている内容は様々です。それだけ多くの分野があるので、例えば将来、私が他の業務に興味を持つかもしれない。そのときは転職する感覚で新しい業務に取り組めて、新しい仕事がどんどん広がっていくことでしょう。行政書士は、そんな広がりのある非常にやりがいのある仕事です」

 山尾氏が仕事上うれしく感じるのは、相談に乗って申請書を作るとき、お客様と一緒に作っていくという感覚がものすごくあることだという。

 「企業で10年以上法務部にいてもお客様とふれあう機会はほとんどありませんでした。今は、お客様と直接ふれあって、直接感謝されるのが大きなやりがいです。
 これだけやりがいがあって、定年もなくて、ずっと続けられる。一生ものの行政書士を、皆さんにもぜひおすすめしたいと思います。受験生には今はつらくとも合格後の自分の姿を想像してがんばってほしいですね」


[『TACNEWS』日本のプロフェッショナル|2025年6月 ]

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URL:https://visa-corazon.com/

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