LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #47
永井 拓至(ながい たくじ)氏
ロープラス社会保険労務士法人
代表 社会保険労務士
1992年5月25日、大阪府生まれ。小学校時代から水泳と少林寺拳法の2つの習い事に励み、学業との両立に忙しい毎日を送る。高校時代は大学進学を前にしてメディア系の仕事に興味を持ち、近畿大学 総合社会学部へ進学した。大学卒業後は士業向けのコンサルティングを行う会社へ就職。士業向け情報誌の編集業務を担当する中で、社会保険労務士の仕事に興味を持つ。社会保険労務士法人への転職と同時に試験勉強を始め、受験2年目に合格。2021年にロープラス社会保険労務士事務所(現:ロープラス社会保険労務士法人)を開業。「労働のイメージをプラスに」をミッションに、人事労務のコンサルティング領域で活躍の場を広げている。
【永井氏の経歴】
2010年 18歳 メディア系の仕事に興味を抱き、カリキュラムが充実している近畿大学 総合社会学部に進学。
2014年 22歳 広告代理店や制作会社への就職活動を行うも叶わず、士業向けのコンサルティング会社へ就職して情報誌の編集業務に携わる。
2016年 24歳 今後のキャリアを考え社会保険労務士の資格取得を決意。大手社会保険労務士法人に転職し、実務を学びながら勉強を始める。
2018年 26歳 受験2年目で社会保険労務士試験に合格。
2021年 29歳 ロープラス社会保険労務士事務所を開業、翌年に法人化。約1年で関与先企業が100社を突破するなど、持ち前の経営センスとクリエイティビティで事務所を拡大している。
「もっと仕事を楽しむ」ために雑誌編集者から社会保険労務士へ転身。
「労働のイメージをプラスに」という難易度の高いミッションに挑む。
「労働のイメージをプラスにする」をミッションに掲げ、企業の人事・労務の課題解決に挑むロープラス社会保険労務士法人。大学時代、希望していた広告代理店への就職が叶わず、クリエイティブな仕事への憧れや経営的思考を学びたいという思いから「士業向け雑誌の編集者」としてキャリアをスタートした代表の永井拓至氏に、キャリアチェンジの経緯から、開業から約1年で関与先企業数100社超という急成長の背景、今後の展望についてうかがった。
メディア系の仕事に興味を持ち大学の社会学部へ進学
ロープラス社会保険労務士法人は、2021年に開業し約1年で関与先企業数100社超というスピードで急成長している。この急成長を支えた、代表の永井拓至氏が持つ経営センスやクリエイティビティは、大学時代から磨かれてきたものだった。
高校3年生のとき、テレビや新聞、広告といったメディア系の仕事に興味が湧き始め、近畿大学の総合社会学部 総合社会学科へ進むことを決めた永井氏。大手広告代理店での実績があるなどメディア業界の最先端で活躍するプロフェッショナルによる講義があり、その道に進みたい学生たちにとって理想的な環境が整っていたためだ。永井氏は現役で合格を果たし進学。2年生からは希望していた社会・マスメディア系専攻へと進んだ。
メディアについて学ぶうちに、大学卒業後は広告代理店でクリエイティブな仕事をしたいと考えるようになった。講師が過去に手掛けた広告の作品や、大ヒットした商品の広告コピーに触れるたび、「自分もこんな作品を手掛けるようになりたい」と憧れを抱いた。学業以外でも、友人の会社の手伝いで経営の仕事にかかわるなど、「ルーティンではなく、常に新しいことにチャレンジできる仕事」をしたいという志向が強くなっていたという。特にコピーライターの仕事に興味を抱き、3年生の後期から始まった就職活動では、コピーライターを志望し大手広告代理店を回った。
「大阪の大手代理店でインターンも経験しましたね。その流れで東京へ出向いて、広告代理店や制作会社をいくつも受けましたが、結果は全滅。今考えるとクリエイティブ職への志向が強く、それを面接の場で前面に押し過ぎたのだと思います」
「もっと楽しく仕事をしたい」経営者の道を考え始める
メディア系への就職を断念せざるを得なくなった永井氏は、迷った末に士業向けのコンサルティングを行っている東京の会社に就職することを決めた。クリエイティブな仕事ができそう、そして税理士など経営に近い領域の専門家とかかわる機会があるため、経営的思考を学べて稼ぐ力を身につけられそうだと考えての選択だった。
就職した士業向けのコンサルティング会社は、厳しい会社だった。主に税理士とかかわることが多いため、「入社前に日商簿記検定2級を取得しておくように」と言い渡され、大学卒業前に必死で勉強して合格した。その後は、入社前の2月頃から電話営業に飛び込み営業、名刺交換、クライアントの社名暗記など課題をこなした。そうして学生気分をすっかり抜けさせられた入社後に配属されたのは、士業向けの情報誌を制作している部署だった。
「特に希望を出していたわけではありませんが、社会人として初めて取り組んだのは情報誌の編集の仕事でした。月刊誌や季刊誌など様々な種類のものがあり、会員向けに頒布しているものでしたね。テーマを決めて、士業の方たちへの取材・撮影、記事のライティング、ラフ作成、校正など、雑誌編集に関するひと通りの業務を経験しました」
約2年半の間、仕事に取り組む中で一冊の雑誌すべてを作り上げるノウハウを身につけ、同時に様々な士業のことを深く知った。そうして与えられた仕事をひと通りこなせるようになると、自分自身を少し俯瞰して見られるようになった。
「自分はコミュニティに所属するのが苦手なタイプ。思えば、小中学校で習っていた水泳や少林寺拳法も個人競技で、自分と向き合って取り組むタイプのスポーツでした。仕事に関しても同じように、どこかの会社に所属して働くより、自分の責任で自分の思うようにやるのが楽しいと感じるし、向いているのだと思います。
また、今の業務を続けることで身につくスキルや今後描けるキャリアを考えて、このままでいいのだろうか、もっと仕事を楽しむには環境を変えるべきなのではないかと不安が生じ始めました」
そんな思いを抱えながらたくさんの士業に話を聞く中で、永井氏は「自分もいずれは独立して経営者として仕事に取り組みたい」という思いを強めていった。
ホリエモンの「ビジネス4原則」を参考に社労士を選択
永井氏には、心に留めている言葉があった。起業家の堀江貴文氏の提唱する「ビジネス4原則」だ。起業して事業を成功させる方法は、「利益率の高い商売」「小資本で開始できる商売」「在庫をできるだけ持たない商売」「毎月の定期収入を確保できる商売」であること――。情報誌の取材先で各士業の方々に話を聞いて刺激を受けていた永井氏は、多くの士業の中から社会保険労務士(以下、社労士)がそれに当てはまることに気がついた。士業は、そもそも何かモノを仕入れて売るような在庫を抱えるビジネスモデルではないから、利益率は確保できるしリスクも低減できる。しかも、顧問契約をすることで継続的に収入が見込めるストックビジネスだ。そんな中で社労士の資格は、比較的短期間で取得することが可能で、多くの費用と時間を費やすリスクが少ない。そして、以前からおぼろげにやってみたいと考えていた、自分の責任で取り組める仕事なので、きっと自分に向いているはず――。
そうして社労士の資格取得に自分の将来を見出した永井氏は、2年半務めた会社を退社してTACの講座に申し込んだ。同時に大手の社労士事務所に転職して実務を学びながら資格取得の勉強を始めたのだった。
「税理士などに比べれば、社労士資格は短い期間で取得可能と聞きました。そこで2年以内に取得しようと決めて、それでダメならあきらめる覚悟でした。期限を設けたのは、時間も資本のひとつなので、2年以上かけると『小資本で開始できる』という条件に当てはまらなくなるからです。転職した事務所では助成金の申請や労務相談などの業務に携わりながら、空いた時間で勉強に励みました」
勉強方法は一般的に「効率的」と言われるものとは少し異なっていた。勉強する時間を決めて、その時間内で勉強内容を組み立てていくのが一般的だが、永井氏は違う。通勤の電車の中や昼休みなど、とにかく空いた時間があれば可能な限り勉強するというスタイルだった。
「決めたスケジュールで勉強ができなかったら、メンタルが落ち込んで、勉強を継続するモチベーションが下がると思ったのです。だから、あえてあらかじめ勉強時間をスケジューリングせず、隙間時間を見つけては勉強するようにしていました。私の場合は、このスタイルのほうが目標に向かって進んでいくイメージが湧き、モチベーションを維持できましたね。資格取得は、例えるならマラソンに似ていると思います。最初から飛ばして自分のペースを失うと、後半で力尽きてしまう。だから自分の中で自分なりの目的意識を作って、自分のペースで進んでいくことが大事だと思います」
自身の人生観について、「死ぬ間際に、もう終わってしまうのかと悔し涙を流すほど楽しく、いい人生だったと思って終わりたいと思っています」と語ってくれた永井氏。「社労士の資格はこれを実現するきっかけになるに違いない」と自分を動機づけて、必死に勉強に取り組んだ。
「社労士の勉強では、ビジネスパーソンとして社会を生きる上で知っておくべきルールを学べます。どんなスポーツでもルールを知らないと戦うことができないように、社会を生き抜く上で労働法は知っておいて損はない。ルールを知ることでもっと自分は自由に働けるようになるのでは、という考えもモチベーションにつなげていました」
「労働のイメージをプラスに」過去の経験やスキルを活かし急成長
そして、2年後の2018年に、永井氏は目標通り資格取得を果たした。所属していた社労士法人を退職し、2021年の2月に開業、5月から正式に「ロープラス社会保険労務士事務所(現:ロープラス社会保険労務士法人)」をスタートさせた。士業のコンサルティング会社や社労士法人時代に身につけたノウハウを活かしつつ、税理士からの新規紹介をメインに顧客を開拓。逆に税理士分野の案件が発生した場合には、紹介してくれた税理士に仕事を戻すなど、関係性を深めている。さらに、セミナーや交流会、SNSでのつながりを通して仕事を広げていった。
そうして事務所は、現在すでに関与先企業が100社を超え、社員3人、アルバイト10人を抱えるまでに急成長。法人化も果たし、ますます勢いに乗っている。「アルバイトは主婦と学生を採用しています。特に学生は、将来社労士の仕事をしたいという方や、すでに社労士資格を取得している方が集まってくるので、仕事への意欲が高く優秀な方が多いです。仕事のやり方やソフトの使い方などは、動画を使ったコンテンツにまとめて、eラーニング形式で学べるように教育制度を整えています。おかげで様々な手続き業務の6~7割はアルバイトでもできるようになったので、私はチェックに専念するといったフローで効率化が図れています。学生アルバイトを採用している事務所は全国でもまれですが、良い結果につながっていると思いますね」と永井氏は語る。社内教育のためのコンテンツは、将来、同業者向けに外販することも考えているそうだ。
事務所名に使われている「ロープラス」という言葉は「労働のイメージをプラスにする」という意味を込めた造語だという。クライアント企業に対しては、求職者から「この会社で働きたい」と思ってもらえるような、人事評価や福利厚生などの制度作りを提案している。それは自事務所でも同じで、従業員が就労時間や場所を気にせずに、それぞれが目的意識を持って楽しく働ける環境作りに努めているという。
今後は、事務所の規模をさらに広げて、あと1年で売上を現在の倍にするという目標を立てた。まだ30歳で業界の中では若手だが、フットワークの良さや話しやすさを評価してもらえることが多いという永井氏。若さや経験不足を懸念するのではなく、実務でしっかりと丁寧にクライアントの要望に応えて信頼獲得につなげる。そうした地道な努力が事務所の急成長を支えてきた。目標売上の達成に向け、今後はスタートアップ企業向けにセミナーの開催や書籍の発刊にも取り組むなど、業務範囲を広げていくことも考えているという。
大学時代から身につけてきた経営センスやクリエイティビティ、社会人になって得た士業とのコネクションや社労士の実務スキル。今まで身につけてきたスキルや経験を武器に、社労士という人事労務のプロフェッショナルとして活躍する永井氏。自身がめざす「死ぬ間際に、もう終わってしまうのかと悔し涙を流すほど楽しく、いい人生」をきっと実現することだろう。
[『TACNEWS』 2022年12月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]