タックス ファンタスティック! 第86回テーマ デジタル遺言は日本人の死生観を変えるか?
Part.6 思いを重ねる編

田久巣会計事務所の代表の田久巣だ。生成AIの進化が凄まじいと前回も書いたので重複するが、本当に凄まじい。日本時間2025年8月8日にChatGPT-5がリリースされた際は所内もその話題でもちきり。4oと何が変わるのか対立する意見も出てエンジニアとビジネスサイドでかなり議論したのであった。このように揉めたとき、どうまとめていくか気になることだろう。パブリックコメント受付中のデジタル遺言と絡めて話題にしていくことにする。
監 子 税太君、GPT-5って使ってみた?
税 太 もちろんです。自分的には結構いいですね。
監 子 そうよね?恋愛相談もなんだか絶好調なのよね。
襟 糸 フフフ。それは錯覚というものだろう。4o、o1、o3と使ってきたが、あまり変わらない印象だ。5は人間を超えたという声もあるが、まだこの襟糸には太刀打ちできていない。
監 子 フフフ。それも錯覚というものだ。5に負けを認めたくないだけだろう。
襟 糸 むむむ。後輩の身分で吾輩の口調を真似てくるとは…。
田久巣 (横から登場)先月に続き相変わらず仲がいいな。君たち、重要課題において意見が割れたときどう対処するか知っているか?
襟 糸 もちろんです。事実をしっかり突き詰めて、事実に対して誤った意見を持っている人がいれば正すように諭して、より正しい人に合わせます。
監 子 それは違うと思います。余計に揉めます。相手の意見をしっかり聞きます。そして第三者に意見を聞きます。そして配慮しながらより正しい方に合わせていきます。
田久巣 税太はどうだ?
税 太 自分の場合、家庭で意見の対立が起こりがちです。子どもがまだ小さくて家では家事と育児が大変な状況であることに加え、自分も仕事と勉強の二刀流。なので、妻からは仕事か勉強どっちかをセーブしてって言われてしまって、結構揉めます。
田久巣 そのときはどうするんだい?
税 太 相手のことも否定しないし、自分のことも否定しないで、ウィンウィンを探ります。
襟 糸 それは無理というものだ。事実は1つ。勝者は一人だ。
監 子 やっぱり税太君は甘ちゃんね。それで「私と仕事どっちを取るか」問題も解決できるっていうの?
田久巣 いやいや、そうとは言えないぞ。私は税太君のほうが現実的だし賢いと思うぞ。
AI税太 相続でも同じことが起こりえます。例えば、実家や事業を継ぎたい長男と、それらを売却して兄弟で均等にお金を分けたい二男での対立のときも、解決はどちらかに合わせてはいけないと言われています。
税 太 AI税太ぁ!やっぱり君もそう思うか。
AI税太 はい、師匠。ちなみにこのケースが起こったある相続案件では、長男が実家と事業を継ぐことで多く財産を取得することになるので、そのぶんの代償金を二男に支払うという解決をしました。一気に払えないので徐々に支払う方法を取りました。
監 子 たしかにそれはまとまりそうね!
襟 糸 むむむ。たしかに相続実務ではこの手の対立は多くて吾輩も頭を悩ませることが多いが、この解決方法には納得だ。とはいえ単なる中庸的な考えとは違うのか?
田久巣 中庸だと、土地とお金を半々に分けるとか共有にするとかになるだろうな。しかし、それでは本質的な解決にならない。承継されにくいからな。なので本質的課題である「承継」をしっかり保存したところがいい点だ。弁証法でいうところのアウフヘーベンとか止揚(しよう)というのに近いだろうな。
税 太 パブリックコメント受付中のデジタル遺言も同じようになるといいですね。デジタルにすると人不足時代において便利だけど、デジタルだと本人確認が難しいという問題。
AI税太 思いを合わせるのではなく、重ねるのが大事です。デジタル遺言賛成派の本質は公証役場の人不足が大きいなら、自筆証書遺言や民間保管の推進も解決策でしょう。
襟 糸 確かに良いことを言うなぁ。止揚だけに君の “仕様” がいいのか?
AI税太 あくまで建設的な意見を「しよう」と思っているだけです。
田久巣 襟糸君のダジャレをやっつけるとは「しよう」がないやつだ(笑)。
【今回のポイント】

意見の対立は士業実務だけでなく一般ビジネスでも頻繁に起こりうる。しかし、意見をどちらかに合わせようとするとうまくいかないことも多い。確かに相続でも譲ることが大事だと言われているが、正確には譲り合いの精神の意味であり、合わせすぎるとその後、揉めることも多い。矛盾や対立を止揚(アウフヘーベン)するのにおいて重要なのは、本質的な部分を探りそれを保存することと言われている。ぜひ思いを重ねる止揚を大事にしよう!
[『TACNEWS』タックス ファンタスティック!|2025年9月|連載 ]
筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)
1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員。慶應義塾大学・大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でSEとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人等で、会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後相続専門約60年の税理士法人レガシィへ。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年に士業事務所間で仕事を授受するWebサービス「Mochi-ya」、2020年にシニア世代向けの専門家とやりとりするWebサービス「相続のせんせい」、2024年に士業のためのSNS「サムシナ」、2025年にデジタル遺言アプリ『AIユイゴンWell-B』をリリース予定。主な著書『相続でモメる人、モメない人』(2023年、講談社/日刊現代)『100億円相続事典』(2024年、日経BP)。2025年より中央経済社『税務弘報』にて「文学で学ぶ相続の知恵」毎月連載中。YouTubeチャンネル「相続と文学」配信開始。
