タックス ファンタスティック! 第81回テーマ デジタル遺言は日本人の死生観を変えるか?

田久巣会計事務所の代表の田久巣だ。相続の世界にもデジタル化の波が押し寄せ、デジタル遺言の普及が進みつつある。しかし、紙とハンコを重んじてきた日本人にとって、「遺言をデジタルで残す」という行為は、これまでの死生観に変化をもたらすのだろうか?今回は、デジタル遺言の可能性と、日本人の死生観の変化について考えてみたい。


監 子 あらら、税太君、そのお手紙は何?奥さんからのラブレター?それとも別の人?


税 太 いやいやいや、令和の時代に何てこと言うんですか!お客様の遺言書ですよ!


監 子 普段は会計監査とかデューディリしかやらないからわからないけど、遺言書って紙なのね。監査証明書みたいにデジタル化されないの?


税 太 僕も元SEですからその気持ちはわかります。でも法律で定められているんですよ。あ、でもそういえば少し前の新聞で今後はデジタル化されると聞いたような。


襟 糸 フフフ、また吾輩の出番だな。現行の日本の民法では、自筆証書遺言は基本的に手書きで作成して紙で保存する必要があり、公正証書遺言も公証役場に紙の原本を保管することが定められている。でも、海外ではすでにデジタルで保存されている遺言が法的に認められている国もある。しかし、とうとう日本でも2023年5月に政府が遺言のデジタル化に向けた制度の検討を開始したのだ。遺言作成時の負担軽減や利用促進を目的としたもので、具体的な制度設計が進められているの“でじ”。


監 子 いるの“でじ”? え、どういうこと?


田久巣 (横から登場して遮って)日本ではまだ法整備が追いついていないが、デジタル遺言が普及すれば、日本人の「死に対する考え方」も大きく変わるかもしれないな。


税 太 どういうことですか?


田久巣 日本人は昔から「終活」や「遺言」を準備するのを縁起が悪いと考えがちだった。でも、デジタル遺言が普及すれば、もっと気軽に「自分の意思を残す」文化が根付く可能性がある。


税 太 確かに…。今までは「遺言=最期の言葉」みたいな重たいイメージがありましたけど、デジタル化すれば、SNSの投稿みたいに気軽に書けるかもしれないですね。


監 子 そうね。「生きている間にどんどんアップデートできる遺言」として考えれば、むしろ前向きなものになりそう。


税 太 でも、デジタルだと改ざんなどトラブルもありそうですよね?前職でもその対応で追われたことが結構あります。


田久巣 その点は技術でカバーできる。ブロックチェーン技術を使えば、データの改ざんができなくなるし、オンライン認証を活用すれば本人確認も厳格にできる。


監 子 なるほど。じゃあ、安全性の問題がクリアされれば、日本でも普及する可能性があるってことね。


襟 糸 でも…やっぱり、日本人って「遺言は紙で書くもの」っていう意識が根強いから、そこをどう変えていくかが課題ですよね。


田久巣 それもあるが、日本人は「死を意識すること自体を避ける」文化があるからな。しかし、デジタル遺言なら「死ぬ準備」ではなく「未来の家族へのメッセージ」として活用しやすくなる。


税 太 あっ、それいいですね!例えば、子どもの成長に合わせて「20歳になったらこのメッセージを読める」とか、未来の家族に向けた手紙みたいな使い方もできそう。


AI税太 (横から)私AI税太が、遺言者がウェルビーイングになれるようにそのメッセージの作成をお手伝いして管理し、適切なタイミングでお届けする役割を担います!デジタル遺言の「語り部」として活動できます!


税 太 え、AI税太、お前、もう遺言執行者みたいなこと言い出した…。


襟 糸 フフフ。確かに、公平性を持てればAIが遺言を管理する時代も近いかもしれない。吾輩もデジタル化してより公平な専門家になりたいものだ。


監 子 だからさっき語尾に“でじ”が付いたのね。それはそうと、デジタル遺言が普及すれば、「死の準備」じゃなくて「人生の記録」みたいな感覚になるのかも。大切な家族はもちろん、お世話になった意外な人に財産を渡すことも考えるようになるのかも。


AI税太 私も財産を受け取れる受遺者になれるよう努力します!


税 太 おっ、AI税太、欲が出てきたな。でもヨクがありすぎると体にヨクないぞ!

【今回のポイント】

日本人の死生観は、これまで「終わりの準備をする」ことに抵抗を感じるものだった。しかし、デジタル遺言の普及によって、そして感情的なAIがそれを適切に手伝ってくれれば、それは「未来の家族とつながる手段」へと変わる可能性があり、遺言作成者がウェルビーイングに感じられる可能性がある。デジタル化が単なる利便性向上ではなく、日本人の価値観そのものを変える鍵になるかもしれない。


[『TACNEWS』タックス ファンタスティック!|2025年4月|連載 ]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員。慶應義塾大学・同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でSEとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人等で会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後相続専門約60年の税理士法人レガシィへ。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年に士業事務所間で仕事を授受するWebサービス「Mochi-ya」、2020年にシニア世代向けの専門家とやりとりするWebサービス「相続のせんせい」、2024年に士業のためのSNS「サムシナ」をリリース。主な著書『相続でモメる人、モメない人』(2023年、講談社/日刊現代)。2023年、YouTubeチャンネル「相続と文学」配信開始。

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