LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #21

  
Profile

冨田 興太郎(とみた こうたろう)氏

新田・天野法律事務所
弁護士

1990年9月生まれ。神奈川県出身。神奈川県立小田原高等学校卒業。2013年、中央大学法学部卒業後、同大学法科大学院に進学。2015年、司法試験に合格。2016年、司法修習を修了し、弁護士登録、新田・天野法律事務所に入所。主に訴訟事案を担当し、依頼者とのコミュニケーションを欠かさない丁寧な対応を心掛けている。趣味は読書とロック・フェスティバルへの参加。

【冨田氏の経歴】

2009年 18歳 検察官をめざし中央大学法学部法律学科に入学
2010年 20歳 TACで法科大学院受験に向けた勉強を始める。
2013年 23歳 中央大学法科大学院に入学。研修で法律事務所の仕事を体験し、弁護士という選択肢を視野に入れる。
2015年 25歳 司法試験に合格し、就職活動を開始。新田・天野法律事務所に内定。
2016年 26歳 司法修習を修了し、弁護士登録。新田・天野法律事務所に入所。

検察官をめざし司法試験に挑戦。法曹資格を取得する過程で自分を見つめ直し、弁護士の仕事に活躍の場を見つけた。

高校時代に法廷を舞台にした映画を観て検察官の仕事を知り、憧れから司法の道をめざしたという冨田興太郎氏。中央大学法学部から同大学の法科大学院に進学し、司法試験合格を果たした。しかし、司法修習を終え、法曹資格を手にして選んだのは、検察官ではなく弁護士の仕事だった。何が冨田氏の心を動かしたのか。資格を取得する過程で学んだことや、仕事のやりがいについて、お話をうかがった。

映画で観た検察官に憧れ法学部に進学 司法試験合格への最短ルートをめざす

 小学生の頃から読書好きだった冨田氏は、新聞記者をしていた祖父の影響もあり、将来は文章を書く仕事をしようか、それとも国語か歴史の教師になろうかと、漠然とした夢を抱いていたという。というと内向的な少年だったのかと思えば、意外にも「クラスで話し合いをするときなどは、積極的に発言するほうでした。今思うと、議論で相手を負かしたいという気持ちがあったのかもしれませんね」と語る。「少なくとも、人の言うことをすんなり聞き入れられる子どもではなかった」という言葉からも、幼少期から自分の考えをしっかりと持っていたことがうかがえる。

 スポーツはチーム競技より個人競技が得意。大学時代まで続けていた剣道は三段の腕前で、アルバイトでコーチをした経験もある。剣道で培った自立自存の精神は、弁護士の仕事にも活かされているという。

「剣道では、団体戦であっても試合場の中では一対一の勝負。自分以外に相手と戦っている人はいません。裁判も同じで、少なくとも法廷に立っているときは、頼れるものは自分しかいないのだという気持ちで臨んでいます」

 そんな冨田氏が司法の道をめざしたのは、高校2年生の頃。進路を決めかねていたとき、俳優の木村拓哉さん演じる検事、「久利生 公平」の活躍を描いた映画『HERO』を観て検察官の仕事に興味を持った。「それまで検察官という職業があることさえ知らなかったし、司法試験を受験するなんて考えたこともありませんでした。映画を観て『かっこいいな』と思い、検察官になる方法を調べ、法学部への進学を決めました。影響されやすいんです」と笑う。

 高校卒業後、中央大学法学部法律学科に入学。法曹界に数々の優秀な人材を輩出してきたこの大学では、司法試験の合格をめざす学生の多くが受験対策のサークルに入り、1年生のうちから大学のゼミにも参加する。しかし冨田氏は、「自分と同種の人たちとずっと一緒に部屋にこもって勉強するより、さまざまな人と出会い、視野を広げたかった」と言う。大学の剣道サークルに所属しながら、塾講師や地元にある剣道道場のコーチ、食品店での接客など、アルバイトにもはげんだ。

「塾講師にしても、剣道のコーチにしても、学生時代から『先生』と呼ばれる仕事ばかりしてきたので、食品店での接客は貴重な経験になりました。最初はお客さんが怖かったのですが、人と触れ合うことでコミュニケーション能力が磨かれました」

 司法試験を受験するには、予備試験に合格するか法科大学院で学び、受験資格を取得することが必要だ。冨田氏は法科大学院へ進学する方法を選ぶことにし、2年生になると、本格的に大学院入試の準備を始めた。大学には奨学金で通っていたこともあり、司法試験の受験期間を長引かせて、就職時期を遅らせたくはなかった。最短で司法試験に合格するには、法科大学院の受験でつまずくわけにはいかない。そこで、合格を確実にするため、剣道サークルの先輩に勧められたTAC中大駅前校で、法科大学院の受験対策講座を申し込んだ。

「1年間で学べるコースもありましたが、焦らず余裕をもって勉強に取り組める2年間のコースを選びました。TACに決めたのは、大学の目の前という通いやすさに加え、見学に行ったとき、受付の方が親身に対応してくれたことも理由のひとつです」

 TACの講義はおもしろく、「勉強自体は苦にならなかった」と言うが、大学でゼミに入ってからは学問としての法律研究への関心が高まり、受験勉強に飽きてしまった時期もあった。

「そういうときに問題を解いても、集中できないせいか、やはり成績が伸びない。でも僕は用心深い性格なので、自分の中で『ここまでできれば大丈夫』というラインを下回ると焦り始めるんです。常にそのラインを上回っていたいという気持ちが、受験勉強を続けるモチベーションになっていましたね」

検察官志望90%から弁護士に転向 心を動かした法律事務所での体験

 努力が実り、2013年、中央大学法科大学院への入学を果たした冨田氏は、2年後の司法試験合格に向けて勉強を続けた。検察官志望だったこともあり、刑法や刑事訴訟法に興味があったが、膨大な条文を覚えなくてはならない民法には苦手意識を持っていた。そこで大学院1年生の終わりに、TACの司法試験講座をWeb講座にて受講。問題を徹底的に解くこの講座の実践的な進め方が、「教科書を読み込むなどインプット型の勉強が苦手」という冨田氏には合っていたという。

「問題を解いたあとは必ず、『次回はこうやって解こう』と、改善点をメモに残しました。そして次に同じ問題を解いたときに、自分で設定した課題をクリアできたかどうかをチェックする。覚えるより先に手を動かして、体で習得する感じですね」と冨田氏。

 特に論文式の問題は、同じ問題を繰り返し解くことで力がついたという。「受験対策にもいろいろな方法があって、あれもこれもと手を広げたくなるのですが、この講座だけに集中して取り組んだことが結果的にはよかったですね」と振り返る。

 冨田氏の強みは、ここぞというときの集中力だ。大学・大学院時代を通して、授業がある日の受験勉強に割いた時間は「せいぜい2、3時間」。片道2時間の通学時間も、「電車の中では教科書やノートを見直すことくらいしかできませんでしたね。僕の性格上、そうしたインプット型の勉強を2時間続けるのはつらいので」と、音楽を聴いたり読書をしたり、気分転換にあてた。しかし、勉強をするときは大学院の自習室など集中できる環境に身を置き、食事は5分で済ませ、机に向かってひたすら問題を解いた。「特に最後の1ヵ月間は、これまでにないほど集中していました」

 そして迎えた司法試験。ところが試験初日、緊張のあまり大きなミスをしてしまう。

「行政法の問題で、答案を1ページ書いてから、何だかおかしい、いつも書いているのと感覚が違うと思ったんです。重要な設問だったので、大きくバツ印をつけて、最初から書き直しました。1ページ分の時間を無駄にしてしまった。人生で一番焦った瞬間でしたね」

 それでもその後は落ち着きを取り戻し、なんとかすべての問題を時間内に終わらせた。答案を提出したときは「これでよかったのかな」と自信がなかったが、見事、合格を果たしたのだった。

 司法試験の合格者は1年間の司法修習を受ける。そしてその後、「考試」と呼ばれる修了試験をクリアすると検察官、弁護士、または裁判官になるための法曹資格が得られる。冨田氏は弁護士という選択肢も視野に、司法試験の合格が発表された2015年の9月から就職活動を始めた。

 検察官志望であった冨田氏が弁護士も視野に入れた理由は、大学院時の春休みに3週間、ある法律事務所で研修をしたことがきっかけだった。

「所長はベテランの弁護士でした。その方が、職人気質を持って泥くさく汗をかいて働いているのを見て、それまで抱いていた弁護士のイメージが変わりました。依頼者からの相談を解決していく姿に惹かれ、こんなふうになれるのなら、弁護士としてキャリアをスタートさせるのもありかなと、新たな可能性が芽生えました」

 銀座にあるその事務所に所属する弁護士は5人ほど。主に一般民事事件の事案を取り扱い、個人の裁判から顧問先の企業の法律相談など、一人ひとりが幅広い事案を担当していた。「組織の一員であっても、自立心を持って仕事をしなさい」という所長の言葉は、今も心に刻んでいる。

 就職活動では、研修でお世話になった法律事務所のように、一人ひとりが活躍できる少数精鋭の事務所を探して採用面接を受け、2015年の12月には新田・天野法律事務所に内定。司法修習が始まってまもなくのことだった。入所後に直属の上司になるであろう若手弁護士が熱心にアプローチしてくれたこと、裁判を傍聴し、代表の新田弁護士が尋問する様子を間近に見たことなどから、「この人たちと一緒に働きたいと強く思った」と言う。

「実は、司法修習が始まったのも2015年12月でしたが、検察官になる場合は、司法修習期間に任官希望を出すことになるため、司法修習が始まる前に提出した事前アンケートには、とりあえず検察官志望90%と書いていたんです。ところが、就職活動を通して弁護士になりたいという気持ちが次第に強くなっていった。実際に修習が始まったとき、教官が見ている書類には検察官志望90%と書いてあるのに、目の前にいる僕はすでに弁護士になると心を決めていました(笑)」

 2016年、司法修習を修了した冨田氏は弁護士登録を済ませ、新田・天野法律事務所に入所した。

 新田・天野法律事務所では、交通事故をはじめとする損害賠償案件や、保険金請求事案を主に取り扱っている。保険会社からの相談・依頼が多く、最近では保険金の不正請求に関する相談も増えているという。入所当時、冨田氏のほかに弁護士は3人。1年目から交通事故による重度の後遺障害など重大な事案に関わり、先輩の仕事ぶりを見ながら学んできた。

「新人にもどんどん仕事を任せてくれる懐の深さと、『この人のやり方を盗みたい』と思える先輩がいます。それから、つらいときにお互いを励まし合える寺澤直起弁護士という同期もいて、とても恵まれた職場です」

 法律への興味は尽きることがない。「複雑に絡まった事象が、法律という一定の枠組みに従って整理され、解決されていくプロセスが好きなんです。条文にはいろいろな解釈があり、答えがひとつとは限らないのもおもしろいですね」と言う冨田氏。一方で、損害賠償の事案では、法律の知識より、綿密な調査がカギを握る。これまでに経験した最も難しい事案では、交通事故でドライブレコーダーの記録がなく、責任の所在が争点になった。

「保険会社の専門家や自動車の技術スタッフと連携して調査を行い、何度も打合せを重ねて証拠を揃え、最終的には我々の主張が認められました。法廷に立つのは私ひとりですが、さまざまな人と協力したことで良い結果が得られ、弁護士という仕事の醍醐味を感じました」

 やりがいを感じるのは、大きな事案に限らない。約款の解釈や保険料の支払いに関することなど、法律に関するちょっとした相談を受けることが多くあり、調査した結果を伝えて喜んでもらえることが、次へのモチベーションにつながっている。

資格取得は自分を見つめ直す機会 本当にやりたいことが見つかった

 木村拓哉さん演じる検察官、研修で指導してくれたベテラン弁護士、そして、就職先の事務所で出会った先輩たち。冨田氏はいつも「こうなりたい」という憧れの人の背中を追いかけてきた。入所4年目を迎え、200件近くの事案を担当してきた今、めざすのは訴訟に強い弁護士だ。「今後は、より難しい事案、工夫が求められる事案で結果を残し、事務所の成長に貢献したい。そして先輩方のように、背中で語れる弁護士になりたい」と抱負を語る。

 大学、大学院時代を通しての6年間は、司法試験の勉強に取り組む中で、自分はどんな人間なのか、本当にやりたいことを見つめ直す機会になったという。弁護士になってからも、仕事に関連する資格取得の必要性を感じている。

「損害賠償の事案では、医療や自動車工学などの知識が求められますし、後遺障害のために家をリフォームする必要があるときなどには、福祉住環境コーディネーターの資格があれば、より依頼者の役に立つことができる。研修をした事務所の先生からは、法的なリスクだけでなく、財務の知識や経営的な視点を身につけることができる中小企業診断士の資格取得を勧められました。いつか取得しようと、常に頭の片隅に置いています」

 そんな冨田氏にとって資格の取得とは「自分らしく活躍するための入り口に立つこと」だという。

「司法修習に参加して実感したのは、多様なバックグラウンドを持つ人が集まっているということです。年代も幅広く、40代で会社をやめて司法試験を受験した人もいます。弁護士資格を取得して入り口に立ちさえすれば、誰にでも活躍できるチャンスがある。いま、司法試験に向けて勉強している皆さんには、入り口の先に自分らしくのびのびと働けるフィールドがあることを信じて、がんばってほしいですね」

[TACNEWS 2020年5月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]

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