日本のプロフェッショナル 日本の行政書士

杉森 正成(すぎもり まさなり)氏
行政書士法人SGX 代表行政書士
1982年生まれ、大阪府藤井寺市出身。近畿大学法学部卒業。2007年度、行政書士試験合格。大学卒業後、大阪でIT企業にSEとして勤務。2009年6月、東京のIT企業に転職。千葉県松戸市に移住。財務会計システムのSEとして6年間従事したあと、2014年に行政書士事務所を開業。2022年、事務所を法人化し、行政書士法人SGXとなる。
大学卒業後に行政書士だけでなく宅地建物取引士、海事代理士、3級ファイナンシャル・プランニング技能士の資格も取得している。
国際業務は本当におもしろい。
社員のニーズを満たしつつ成長を続けていきます。
千葉県松戸市にある行政書士法人SGXは、行政書士4名を含む総勢15名の行政書士法人だ。特徴は在留資格・帰化などの国際業務に特化した法人であること。大阪生まれの代表行政書士、杉森正成氏は、どのような経緯で行政書士を取得し、松戸市で開業したのか。そして、国際業務にフォーカスした理由などについて詳しくうかがった。
わからないなりにおもしろそうな行政書士
「まさか千葉県松戸市で開業するなんて、まったく想像していませんでした」と話すのは、行政書士法人SGXの代表行政書士、杉森正成氏。もともとは「地元大阪で地道にやっていこう」と考えていたという。資格取得を思い立ったのは、近畿大学法学部在学中にアルバイトをしていたときだった。
「いわゆる脱落組で、何とかしないといけない状況で……。そんなとき友人から『知り合いが行政書士の資格を取ったよ』と聞きました。学生時代、アルバイト先で勧められて読んだのが、行政書士事務所を舞台とする漫画『カバチタレ!』。それが行政書士との出会いでした。法学部だったので『なんだその資格は?』と調べてみると、わからないなりになんだかおもしろそうだと思ったんです」
いろいろな偶然が、行政書士というひとつの方向を指し示していた。最初に行政書士試験を受けたのは大学を卒業した年。そのときは独学で不合格。それならと2回目は通信教育で勉強して挑んだがあえなく撃沈。3回目の試験で行政書士に合格した。
リーマンショックで東京へ、結婚を機に松戸市へ
とはいえ、資格取得後は「行政書士へまっしぐら!」ではなかった。あくまで行政書士は独立開業前提の資格だと捉えていた杉森氏は「まずは社会人経験を積むために、会社員になろう」と考え、大阪にあるIT企業に入社した。
勤務1年後、リーマンショックが起きた。IT系の仕事がどんどんなくなり、雇い止めの話まで持ち上がった。そのころ一緒に働いていた開発者から「東京なら仕事があるよ」と言われ、「それなら東京へ行こう」と決断。26歳の杉森氏は東京をめざした。当時同棲していた彼女(現在の奥様)とふたりで、手に手を取って上京。右も左もわからないまま治安がよいとの理由で自由が丘駅近辺に住むことにした。
ほどなくして彼女が妊娠し、のちに結婚の運びに。当時、自由が丘の家賃は月13万円。杉森氏ひとりで家賃を払うのは厳しかった。思いあぐねて、会社の同僚に片っ端から「どこに住んでいるんですか?」と聞くと、意外にも「千葉県です」という人が多かった。日比谷線の北千住駅の先の千葉県といったら松戸駅。調べてみると、当時の松戸市であれば月5万7千円で借りられた。
こうして杉森氏は、縁もゆかりもない松戸市に移住。当時、この街で行政書士として開業するとは、夢にも思わなかった。

30歳で独立開業を決意
東京のIT系企業ではSEとして企画から携わり、仕事が楽しすぎて行政書士という資格のことはほとんど忘れていたと杉森氏は当時を振り返る。
転機が訪れたのは30歳。仲のよかった親戚のおばさんが55歳で亡くなったときだ。葬儀に参列していると、「せっかくの人生、一度は冒険してみるか!」という気持ちが湧いてきた。
きっと行政書士として開業したら、仕事で忙しくなる。その前に一度アジアを旅行してみたい。杉森氏は奥様と幼い子どもを置いて、シンガポール、マレーシア、タイ、ベトナム、ラオス、カンボジア、インド、ネパール、中国……とアジア10カ国25都市をめぐる3ヵ月の旅に出た。それが国際業務の扉を開くきっかけになっていた。
6サイトオープン、注目を浴びたのは国際業務と建設業許認可
2014年、行政書士として開業した杉森氏が最初に始めたのは、会社設立、資金調達、融資、補助金、契約書作成といった起業サポートだった。ところが、融資や設立に関わる創業補助金業務は、当時は中小企業診断士の独壇場。新米行政書士の杉森氏がやっと見つけたクライアントに提案しても不採択。苦しい創業期が続いた。
「開業して2年目、食べていくのが厳しくなり、『会社員に戻って』と妻に泣かれました。それが転機です。これまで税理士や中小企業診断士と同じフィールドで戦っていて、自分は行政書士業務を何もしていなかったことに気づきました。
そこで、全国の行政書士事務所のサイトで行政書士固有の業務を徹底的に調べて、建設業許認可申請、経営事項審査、会社設立、融資、在留資格、帰化申請の6つのサイトをいきなり立ち上げました。これでもし依頼がこなかったら、この先、行政書士では食えないだろうという背水の陣です。
そして、サイトをオープンした途端、在留資格、帰化申請など国際業務と建設業許認可の依頼が一気にきたんです」
国際業務にフォーカス
依頼がくるといいなと想定していたのは、融資と会社設立。だが、そこにはあまり来なかった。建設業許認可の新規申請も依頼者の熱意があってとても楽しかったが、杉森氏は仕事をこなしているうちに、いつしか国際業務に惹かれている自分に気がついた。
思い起こせば大阪の小学校のクラスには、中国残留孤児の転校生や在日韓国人がいて、小さいころから意識しながら育ってきた。「違和感がなかった。それが国際業務につながったのかもしれません」と、杉森氏は分析する。
国際業務の最初のお客様は、日本語が話せる中国人女性の永住者で、中国から人を呼びたいという依頼だった。
「話していく中で、すごく心地よさを感じて……。ああ、自分がやっていくべきなのはこの業務だなと直感しました」
6サイトをオープンしてから1年後、杉森氏は融資サイトを閉鎖、2年後に会社設立サイトも閉鎖した。建設業許認可関連は2021年までやっていたが、近くの行政書士に引き継いでもらった。
そのときから配偶者ビザ申請、定住者ビザ申請、就労ビザ申請、技能ビザ申請、経営管理ビザ申請、家族滞在ビザ申請、永住ビザ申請、帰化申請、興行ビザ申請、短期滞在ビザ申請など国際業務に特化する方向が定まった。
初めてのスタッフ採用、組織化に挑戦
「2020年までは効率化を進め、一人事務所でやれる完璧なレベルまで仕上げたつもりです。決して人手が足りなくて仕事が捌けなくなったわけではありません。人を採用して組織を大きくする。そこに挑戦したくなったんです」
2021年2月、それまでの自宅事務所から50平方メートルで6人分のデスクが置ける執務室と面談室が1つあるオフィスに移転。そこから採用をスタートした。
「広いオフィスに私しかいないので、応募者から『御社の従業員は何名ですか』と聞かれます。従業員0名とは言わず『今回の採用で3名採用する予定です』と答えていました。ちゃんと3名入ってくれてよかったですよ(笑)。今いるチームリーダーもそのときのひとりです」
当時は、ちょうどコロナ禍ということもあり、旅行業関係の人材が転職するケースが多かった。
「当時、積極採用をする行政書士事務所はほぼないタイミングで、あえて積極採用をしたからこそ、大手旅行会社から、とても優秀な人材が来てくれたんです。採用して一緒に働いてみるととても楽しくて。ちょっとした発見でした。自分はマネジメントが好きなんだなと気づきました」
ただし、全員実務は未経験者なので、杉森氏がすべて教えなければならない。
「在留資格や帰化申請の過去事例を50ほど用意し、社内教材にして講義しました。それを録画して、以降の新人研修の教材にしたんです」
こうして社内教育と組織の整備を進め、翌2022年には事務所は5名体制となった。

法人化後、「全員参加型経営」へと社内を変革
2022年8月、40歳の誕生日を機に、杉森氏は事務所を法人化。行政書士法人SGX(以下、SGX)とし、国際業務に特化した事務所として改めてスタートした。
2023年12月には、事務所を現在の松戸駅西口駅前に移転。2024年下半期から組織体制を見直し、そこからは、かなり離職が抑えられるようになった。
まず、入社半年間は毎週代表の杉森氏と個別面談30分、さらに既存社員と月1回の1on1の面談を実施。さらに行政書士業務だけではなく、経理、総務、採用、マーケティングといった業務以外のバックオフィス業務について指導し、業務を割り振り「全員参加型経営」に切り換えた。その結果、2024年には現在の総勢15名体制となった。
「総務、人事、経理。みんな嫌がると思ったら、各々能力を発揮してくれて、新たな経営スタイルができ上がりました。私ひとりでは何人も採用できませんが、みんなが面接に携わってくれたおかげで採用できました。さらに、約150ページのSGXの教科書も作りました。それまで暗黙知になっていた部分をすべて書き出し、必ず入社前にそれを読むように促したら、入社後のミスマッチもほぼなくなったんです」
さらにスタッフの2人が、行政書士資格を取得。2025年2月にはもうひとり有資格者が誕生し、行政書士4名の法人になった。
総合評価で顧客をつかむ
「行政書士業務はお客様の満足度さえ上げれば、紹介やリピートによって自然に前年度比120%で成長していける」
杉森氏は、開業前に聞いたこの言葉を信じてやってきた。開業2年目までの苦しい時期や人の出入りが激しかった時期。決して順風満帆とは言えないが、SGXは今軌道に乗っている。
「お客様への対応を丁寧に、きちんと結果を出す、レスポンスが早い、定期的にお客様の声を聞く。おそらくそうした総合評価で、リピートや紹介につながっていると思います」
求人募集をすると、現在は月40〜50人の応募がくる。採用で何よりも大切にしているのは、仕事をコツコツとできるまじめさ、明るさ、ユーモアだという。
「なかなか採用に至りませんが、2ヵ月に1人程度決まっているので、今後も増えていく方向でしょう」

2023年10月、松戸に東京出入国在留管理局が開設
国際業務の中で最も多いのは国際結婚案件と帰化申請。就労ビザ、永住申請が続き、最近増えているのが日本で起業する外国人の経営管理だという。それらの案件を、英語のできるスタッフ3名、中国語ができるスタッフ2名、ベトナム語ができるスタッフ2名と一緒に対応している。
「中国人からの依頼が約3割、日本人からの依頼も約4割あります。国際結婚で外国人配偶者側先行で結婚するための書類整備の依頼もあります。就労ビザでは企業側からのお問い合わせが約7割、本人からのお問い合わせが約3割です。ご本人が日本語もできるケースでは、ほぼ日本語で対応します。あとは帰化申請と永住権が多いですね。日本での起業・経営管理に対しては、日本語では厳しいので中国人スタッフと英語のできるスタッフと一緒に対応しています」
これまでお客様の居住地は近隣の松戸市、柏市が中心だったが、2022年3月にオンライン申請が可能になると、全国対応が可能になった。それからは北海道から沖縄まで、日本全国津々浦々から依頼がきている。さらに国際結婚案件ではアメリカ、イタリア、アルゼンチンなどに住んでいる依頼者とオンラインで面談し、全世界対応になった。
オンライン申請になれば、事務所が松戸である必要性もない。ところが松戸の神様は、どこまでも杉森氏に味方してくれる。
「2023年10月、松戸市に東京出入国在留管理局松戸出張所ができました。申請が出しやすくなったことで、松戸市に外国人がどんどん増えています。さらに、松戸の入国管理局の近くで入管業務をメインでやっている行政書士事務所はほとんどありませんでした。どれも偶然というより運ですよね」

国際業務は本当におもしろい
「偶然ではありましたが、国際業務という本当におもしろい領域に出会えたことは幸せでした。SGXには、『日本一安心なシミュレーションサービスを実現する』というスローガンがあります。そこに向けて、日本一安心させられるサービスを作っていこう。その思いで、みんなでチャレンジしています」
今後、伸ばしたい分野には最近できた新たな在留資格、特定技能制度があるという。
「右から左の流れ作業ではなくて、国際結婚や帰化、特定技能といったニッチな専門領域を増やしていきたいですね。同時に社員には自分の好きな分野、やりがいを持てる分野を極めてもらいたいと考えています。社員のニーズを満たしつつ、事務所として成長していきたいと考えています。将来的には支店の開設もしていきたいですね」
資格があれば、人生は変えられる
士業事務所といえども、今やIT機器やシステム導入は避けて通れない。もちろんオンライン申請も、ITスキルがモノを言う。杉森氏が前職でSEとして培ったITスキルは事務所運営にも、事務所の特徴としても十二分に活きている。会計システムの開発などを経験してきた杉森氏は、「ITに強い行政書士」としても強みを発揮している。業務系システムにも精通しているので、社内のシステムにトラブルが起きたときは「情報システム部門代わり」に重宝されているようだ。
大阪時代に海事代理士と宅地建物取引士、3級ファイナンシャル・プランニング技能士の資格も取得しているが、今のところは仕事で使ったことはないという。
「結局、行政書士の国際業務というニッチな世界だけで、もう十分仕事をいただいているので」と、杉森氏は笑顔で答える。それでも今後、事務所の危機が訪れたときには、外国人向け不動産業務絡みで宅地建物取引士の資格を使うかもしれないという。
「資格は、取得しておいて無駄なことはまったくない」と、杉森氏は断言する。
「私は資格を取得してから、本当に長い間寝かせていました。人生は何が起こるかわからない。だからこそ資格は、気持ちが乗ったタイミングで取得したほうがよいでしょう。資格があれば、人生は変えられます」
[『TACNEWS』日本のプロフェッショナル|2025年4月 ]