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渡辺 貴之(わたなべ たかゆき)
Profile

渡辺 貴之(わたなべ たかゆき)氏

ネットワーク渡辺税理士法人 代表社員
公認会計士 税理士 行政書士

1982年生まれ、東京都出身。2005年、慶應義塾大学商学部卒業。同年11月、公認会計士試験合格。同年12月、有限責任監査法人トーマツ入所。法定監査、上場準備支援に3年半従事。退職後、カリフォルニア大学バークレー校経営学専攻に1年間留学。2011年、渡辺税務会計事務所(現:ネットワーク渡辺税理士法人)入所。2015年、税理士法人化にともない、社員税理士・副社長就任。2018年、代表社員に就任。

個からチームへ。一人ひとりをかけ算する全員参加型組織で、
医科・歯科のライフパートナーをめざします。

 公認会計士・税理士の渡辺貴之氏は、総勢45名のネットワーク渡辺税理士法人を率いる。創業者である父の事務所を継承し、「経営者のパートナーになりたい」と先代と同じ目線を持つ。それと同時に「人と人をかけ算することが大切」と新しい組織運営に闘志を燃やす。渡辺氏はなぜ公認会計士をめざし、事務所を継承したのか。継承後の新しい取り組みや教育制度についてもうかがった。

大学卒業一年目で公認会計士試験に合格

 「渡辺税務会計事務所は、私が生まれたころに父が作りました。2025年で45期目を迎えます」

 そう話し始めた渡辺貴之氏が公認会計士(以下、会計士)をめざしたのは、慶應義塾大学商学部2年生、バンド活動に励んでいたときだった。父から「会計士試験を受けないなら、学校はやめさせる」と言われたことがきっかけだった。この一言で火がつきTACの会計士講座「2年本科生」で受験勉強をスタート。3年目には模試の結果が全国90位まで上がり、「自分は会計士に向いている」と確信した。

 2005年11月、大学を卒業した年に会計士試験に合格。翌12月から有限責任監査法人トーマツ(以下、トーマツ)で会計士としての第一歩を踏み出した。

米国留学、経営コンサル会社を経て承継する事務所へ

 「会計士になるなら、一度は監査法人に勤めてみたい」

 そう考えた渡辺氏は、入所後法定監査、上場準備支援業務に従事し、会計士としてのキャリアを積んでいった。監査や上場支援をしていく中で次第に経営に興味を持つようになり、書籍を多読しセミナーに参加するようにもなった。

 トーマツ入所3年目、父から「事務所を継承するなら、一度まったく違うことをやってみたらどうか」と勧められた。

 「確かにそうだな」と思った渡辺氏は、経営について学ぶためアメリカ・カリフォルニア大学バークレー校経営学専攻に1年間留学。大学では経営と語学を学び、事業会社で起業について学びながら、税務会計面でサポートした。初めて経営を目の当たりにする貴重な体験の中で、いつしか「数字はおもしろいし大切だけど、実際に売上を伸ばすには会計だけでは足りない」と考えるようになっていた。

 帰国後、父の事務所で実務を始める前に、歯科の現場を知らないとダメだと考えた渡辺氏。約1ヵ月間、実際の歯科に歯科助手として勤務し、歯科の現場、歯科の経営に直に触れる経験をした。さらに半年間、コンサルティング会社でコンサルティングの実務をも学び、2011年、父の渡辺税務会計事務所(現:ネットワーク渡辺税理士法人)に入所した。

目の前にいるお客様をよろこばせたい

 渡辺税務会計事務所は、渡辺氏が入所した当時、すでに25名の組織になっていた。最初はつまずくことばかりだったという。顧問先に「チェックされて監査を受けると、警察の取り調べを受けているみたいだ」と言われ、解約されたこともあった。

 「監査しか経験なかったのだから、今考えれば妥当な話。トーマツのブランドで守られてきた会計士も一歩外に出れば、会計事務所の一税理士。『あなたは私に何ができるんですか』と問いただされて、それに応えられるかどうかが試されていました」

 「突然、若先生が入ってきて法人化」という環境の変化に馴染めず、事務所をあとにする職員もいた。代表と自分の意見がすべて一致していたわけではなかった。それでも早く仕事を覚えたくて、法人化までの5年間は、あえて難しい顧問先を担当させてもらった。

 「父と言い争いもしました。若かった……。今考えればもっと父の意見を素直に聞けばよかった。反省点は山ほどあります」と、当時の苦い思い出を振り返る。

 一方で「ひとつだけ、2人の意見が一致していていたこと」がある。それは「目の前にいるお客様をよろこばせたい」という思いだ。

 「目の前にいるお客様の売上を伸ばす。業績を上げる。節税対策を打つ。監査法人時代からやりたかったのはそこでした。それで会計士ではなく税理士になったんです」

 理念だけは2人とも揺るぎなかった。それは事務所の運営上、もっとも大切な点である。

個人から組織的動きへ組織改変

 一方、先代と渡辺氏で一番意見が相違したのは組織の運営方法だ。法人化するまで、事務所は案件獲得から顧問先担当、相談・フォローまですべて1人の職員が担当していた。

 「人一人ができることには限界がある。5年、10年先を見据えた組織運営を考えるべき。それには人と人をかけ算することが大切。組織にいる全員がかけ算に参加する。それが私の考えでした」

 個ではなく組織。1人ではなくチーム。組織的な動きへの取り組みは、渡辺氏が代表になった2018年からスタートした。

 「一人ひとりに責任を負わせる個人事業主の集まり。それはそれでひとつの組織の形です。でもその場合、担当者がやめてしまったら組織に残るものがゼロになってしまう。それでは組織も人も成長しません。

 入社するメンバーと『目の前にいるお客様をよろこばせたい』という理念を共有し、しっかりと社内共通のツールやマニュアルを構築し、きちんと教育体制を整えて、メンバーがやりがいを持って活躍できる組織にしていきたい。そこが私のこだわったところでした」

 税法が絡まり合い複雑化している時代。ひとつの税務だけに精通していても解決できない課題がほとんどだ。法人税、所得税、消費税、相続税、それぞれに強いスペシャリストが組織横断的に連携し、課題に立ち向かう。さらにAIを活用し様々な知見を得て、それを組織的に運用していく。

 「全員で組織を創り上げる。それがお客様に真の満足を与えることになります」と、渡辺氏は言い切る。そこには45名というメンバーを束ねるリーダーの風貌があった。

3ヵ年中期経営計画を策定

 2015年、事務所の法人化にともないネットワーク渡辺税理士法人の社員税理士、副社長に就任した渡辺氏は、2018年、代表社員に就任した。

 代表となってからコロナ禍を経て、2021〜2023年の3年間で中期経営計画を策定。本腰を入れて改革に取り組み、そこから本格的に自ら組織を率いるようになった。

 3ヵ年計画では、事務処理のしくみ作り、マニュアル化に大きく時間を割いた。その結果、それまで一人ひとりバラバラだった事務処理がマニュアル化、統一化され、新人が入ってきても研修によって業務の均質化ができるようになった。

 「組織化は30人以下ならいらない。でも50人以上になったら必要です。3ヵ年計画でメンバーに『こういう目的でやるんだ』と理念を共有し、最終的には評価までつなげることで腹落ち感を持ってもらえるようにしました」

 組織の基礎を作る3ヵ年が終わると、2024年からはそれを浸透させるために、更なる教育体制を推進。年単位で計画を立て、浸透したら次の計画をまた立てるという、組織的なアクションができるようになっていった。

 ちなみに2024年下期は、将来を見据えたAI導入、ITスキル習得が課題となった。

全体の約95%が医科・歯科クライアント

 ネットワーク渡辺税理士法人の大きな特徴として、創業以来、医科・歯科のクリニック経営に特化してきたことが挙げられる。現在、約400件のクライアントのうち医科・歯科の顧問先が全体の約95%を占め、そのうちの約70%を歯科が占めている。

 医科・歯科に特化した事務所を継承するにあたって、渡辺氏は必要な業界知識や情報を習得するために、入所直後から積極的に顧問先を回り、お客様とのパイプを太くすることで情報収集してきた。

 「業界がバラバラだと正しい決算書を作ることはできても、その会社の問題点や業界の課題について深堀りしにくい。私は歯科の決算書を見れば、すぐに問題点を洗い出し、解決の糸口を見つけてアドバイスできます。経営者のパートナーになるなら、特化する意味は大きいと思います」

 特化することで、顧問先からの紹介に継ぐ紹介で歯科のクライアントが広がっているのもメリットのひとつだ。

 「お客様にはどんどん売上を上げて、利益を伸ばしている歯科医がかなりいらっしゃいます。結局はドクターが一般企業同様の経営スキームが作れて、それを実行できれば伸びるんです」

 コロナ禍で定着したオンライン会議の活用で、それまで首都圏中心だった顧問先は全国へと広がっている。

 「さらに市場を広げ、全国のお客様に対してできるサービスを可能な限りやっていきたい」

 渡辺氏はさらに市場を拡大することに意欲を見せる。

理念を伝えるため代表自ら採用活動

 渡辺氏は、事業承継したときに絶対やるべきことのひとつに採用があると話す。 渡辺氏自身、入所3年目から新卒・中途採用に関わり、TACプロフェッションバンク(TPB)主催の合同就職説明会にも参加してきた。

 「人は『誰に採用されたか』というのがとても大きい。代表(父)に採用された人は、ずっと代表を見ているんです」

 自身が代表になってから採用に関わってきたのは「自分の理念をなるべく自分で伝えたいから」。人数が増えてきたため、現在は面接に関わらないが、広報活動を通して採用を後押ししている。

 「大切なのは素直さ。プラスいろいろな状況下で何事も楽もうとしている人。自分の趣味を楽しく語る人。人生を楽しもうとしている人が好きですね。
 私たちの仕事はフェイストゥフェイスでお客様と対峙します。お客様も楽しんで仕事している人、人生を楽しく過ごしている人と出会えるとうれしいんです」と求める人物像を話してくれた。

万全な教育研修体制

 現在総勢45名のネットワーク渡辺税理士法人には、税理士3名(うち会計士・税理士1名)、社会保険労務士2名、中小企業診断士1名、宅地建物取引士2名のほか、複数のFP資格取得者がそろっている。所内には税理士受験生も数名いるので、入所後に資格取得をめざすことも可能。合格すれば、金一封の報償金をもらえる。

 45名いる職員に理念を浸透させるための教育研修には、かなり注力している。毎月の研修だけでなく、毎週の朝礼で税務に限らず不動産知識など、必要な知識を習得する研修を実施。月例会議ではシステム研修、企業防衛のための保険研修、実際に顧問先で話すためのロールプレイング研修まで行っている。

 教育制度が充実している点は、事務所の大きな特徴のひとつだ。

 「会計事務所はお客様のところに行ってなんぼ。だから昼間はできる限り訪問します。ただし、所内に判断ができる人がいないと、問い合わせがあったときに決断できません。私以外の税理士2人のうち1人は担当を持たずに、事務所に来る案件や問い合わせにどう対応するか、メンバーの相談に乗りながら、一緒に提案書を作成しています。これも研修のひとつです」

 通常、税理士には顧問先担当として前線に出てもらいたいと考えるのが一般的。そこをあえて担当を持たせずに顧問先とスタッフの対応業務に充てている。こだわった教育体制の成果は、徐々に出ているそうだ。

 「月次訪問はただ毎月行くだけで終わるところも多いと思います。うれしいことに、うちのメンバーは『この不動産はどうするんですか』『相続対策のためにこんなことできませんか』と提案することができつつある。彼らの提案を、チーム全員で実現していく。それができる形になってきているんです」

 渡辺氏はうれしそうに目を輝かせる。

経営者一人ひとりと伴走する専門家集団

 2026年には渡辺氏が法人を承継して5年目を迎える。45名の組織の今後を、どのように思い描いているのだろうか。

 「会計事務所にはIT化による効率化で大量業務をこなして稼ぐやり方と、私たちのようなやり方の2つがあります。会長である父も私も、とにかくお客様の近くにいたい。一人ひとりのお客様に丁寧に伴走し、いろいろな提案をすることを大切にしたい。そして、事業の裏側にある家族構成、その方個人の人生、個人の財産までトータルに考えながら、いろいろな経営判断をサポートしていきたい。今後もそこはさらに強くやっていきたいと考えています。
 地道に苦労話や人生について『なるほど、そうですよね』とお聞きしていくと、必ず税金の話、経営の話が絡んできます。税務会計の部分だけを切り取ったサービスをゴリ押しするのではなく、大切なのは人生と事業をよりよい方向に持っていくことです」

めざすはトータルに課題解決できる「会社」

 本当の意味で医科・歯科の経営ライフパートナーになるために。軸をそこに据え、今後さらに教育体制をしっかり充実させ、自分たちの得てきた知見や情報のマニュアル化を進めると語る渡辺氏。

 「ともすれば資格を取得すると資格を活かした仕事だけになりがちです。しかし、税務会計はすべてに関わってくるので、お客様の財産形成、投資、不動産といったすべての悩みに寄り添わなければいけない。だからこそ今後も事業だけでなく個人の人生まで含めて相談に乗っていきたい。『会計事務所』ではなくトータルに課題解決できる『会社』になりたいんです」

 真に付加価値の高いソリューション会社になるために。お客様のニーズに従って広く事業展開していくことを標榜する渡辺氏は、2025年春から新たに資産保全サービスを立ち上げていく計画だ。

 「お客様の財産、個人資産も含めすべて見ていくために、まずはきちんと情報を整理する。そして『ここにお金が貯まったら投資したほうがいいですね』『この法人を使ってこういう節税対策ができますよ』『相続対策のためにこういうことをやりましょう』とアドバイスしていきたいです。歯科医師、医師はお金に対する不安や苦手意識が非常に強い方が多いので、そこをサポートしてさしあげると安心していただけるんです」

 後継者問題を含めたM&Aも視野に入れ、他士業とのアライアンスをさらに強化することにも注力していくという。

会計士だからこそ持つことができる発想軸

 5年後のビジョンはまだ明確ではない。でも、まだまだ先を見据えて前進あるのみ。45名の組織を60〜70名に増やし、売上高だけでなく一人当たりの生産性を上げていく。それが今後の課題だと渡辺氏は話す。

 「父から事業承継したときの売上高の倍以上にしていきたい。それが事業承継させていただいた恩返し。そして、自分にとってのひとつの成功だと思います」

 組織的展開と幅広いコンサルティング能力にさらに磨きをかけるには、会計士試験で培った知識の上に、今後さらに知識習得することが大切だと渡辺氏は強調する。

 「税理士試験では原価計算も監査論も学ばないので、監査論の網羅性や発想がありません。私は会計士だからこそ、いまだに監査論の発想軸が残っている。会計士試験の監査論と原価計算は、今の仕事についてから非常に役立っています。
 税理士法人を運営していて感じるのは、いずれ中小企業も監査法人でやってきた大企業と同じ道を辿っていくということ。その意味で、監査法人で勉強できたのは、とても大きな財産です」

 自身の経験から、会計士、税理士をめざす後進には次のようにアドバイスする。

 「私は会計士試験を2度受けましたが、二度と受けたくないと思うほど、きつい経験でした。ですから、とにかく早く受かることをおすすめします。何よりあれもこれも手を広げないこと。TACの講座だけを信じてやってみてください」


[『TACNEWS』日本のプロフェッショナル|2025年2月 ]

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