日本のプロフェッショナル 日本の会計人|2022年6月号

田中 俊輔さん
Profile

田中 俊輔氏

リンクエイジ会計事務所 株式会社リンクエイジ
代表取締役 公認会計士 税理士 

田中 俊輔(たなか しゅんすけ)
1989年7月6日、北海道生まれ、横浜市育ち。2011年3月、専門学校卒業。同年11月、公認会計士論文式試験合格。2013年、アメリカ・コロラド州立大学ビジネスマネジメント専攻入学。2014年、産業能率大学通信教育課程、並びにコロラド州立大学を卒業。2015年1月、EY新日本有限責任監査法人入所。2017年6月、同法人退所、同時に株式会社リンクエイジを設立。1年間の会計事務所勤務を経て、2018年8月、リンクエイジ会計事務所を開設。
田中氏リンク集

メンバーは行く先々で出会った仲間たち。
「何をやるか」より、「人とのつながり」を大事に、楽しく仕事をしたい。

「中小企業支援に特化した会計事務所をめざす」というミッションを軸に展開するリンクエイジ会計事務所。開業支援、Webマーケティング、不動産売買・仲介、外装・内装工事まで業務のすそ野を広げ、開業5年目を迎えた今年、スタッフは16人、関与先は1年目の30社から約250社にまで成長した。通信制高校を出て18歳で公認会計士をめざし、大手監査法人勤務経験を経て独立し代表となった公認会計士・税理士の田中俊輔氏に、今に至るまでの歩みや人のつながりでできた組織の強さについてうかがった。

通信制高校で学び、21歳で会計士試験合格

 リンクエイジ会計事務所を率いる公認会計士・税理士の田中俊輔氏は北海道生まれ。3歳のとき父親の転勤で東京へ移り、以後、横浜市で育った。
「中学までは遊んでばかりで勉強もしなかったので、通信制高校に進学しました。授業は週に3日でお昼まで、課題もレポート提出ぐらい。時間に余裕があったこともあり、学業と並行して働き始めました」
 16歳で高校生と同時に社会人になった田中氏。その時期に両親が離婚し、母親とふたり暮らしになったため、経済面を考えての選択でもあった。
 通信系企業に入社し飛び込み営業や電話営業をしてみると、かなりの額を稼ぐことができた。年齢や正規・非正規に関係なく実力主義で評価される会社だったため、田中氏は入社間もなくアルバイトや新人を束ねるチームリーダーを任された。 「部下に営業のノウハウを教え、チームが目標を達成すればインセンティブがもらえる。成績が良ければ給料も上がる。それがとても楽しかったですね」 
 楽しく働いていたが、高校卒業を前に今後のキャリアを見据えて「そろそろ何かやらないといけないな」と考えるようになった田中氏。
「何か資格を取得しよう、やるなら一番難しい資格だ」
 そう心に決めた田中氏がピックアップしたのは、弁護士、公認会計士(以下、会計士)、一級建築士の3資格。
「調べたところ、弁護士や建築士はまず受験資格を得るまでに時間がかかるということがわかりました。対して、会計士なら学歴要件もないし、合格後に必要な職務経験も短い。当時は仕事内容や試験の難易度もよくわかっていませんでしたが、これが決め手になりました」
 一発奮起した田中氏は2009年4月、会計について学ぶため専門学校に入学。6月の日商簿記検定試験後のタイミングで、税理士受験組、会計士受験組、就職組の3コースに分かれる学校で、田中氏は会計士受験組の10人に混じって、夏休みからすべての時間を会計士の受験の勉強に注ぎ込んだ。
「6月の試験で会計士試験の前哨戦として日商簿記検定1級に挑戦していましたが、勉強時間が足らず不合格。でも会計士試験の勉強を始めたら、11月の試験では難なくクリアできました。会計士の勉強が身になっていると実感しましたね」
 その1ヵ月後、12月の会計士の短答式試験では不合格となったものの、翌年5月の試験に向けて追い込みをかけた。
 当時の田中氏の生活は、朝5時半起床、30分のランニングのあと1~2時間の勉強、9時に登校、18時まで学内で勉強、帰宅し夕食後また12時までひたすら勉強して就寝というリズム。この生活を毎日繰り返していた。脇目も振らず人とも会わず1日13時間、文字通り会計士受験にすべての時間を注ぎ込んでいた。そんな2年間の勉強漬けの専門学校生活を終えた田中氏は、合格後のキャリアを考え、専門学校での単位を引き継いで産業能率大学(以下、産能大)通信教育課程に編入した。

コロラド州立大学留学を経て監査法人へ

 その年の8月の論文式試験で合格の手応えを感じた田中氏は、11月の合格発表を待たずに父親の駐在先であるシンガポールに向かった。3ヵ月間、語学学習をしながらバカンスを楽しみ、帰国後は監査法人に就職するプランだったが、シンガポール滞在中に心境の変化があった。
「滞在先は外国人向けの学生寮で、中には決して裕福ではない国から来ている人や、母国でやっとの思いで銀行ローンを組み、ここでの滞在に人生をかけているという人もいました。会計士試験にも無事に合格し監査法人に就職することもできる状況ではありましたが、彼らと話すうちに、語学力をはじめ様々な面で自分の未熟さを痛感してしまって。父親に『もっと勉強してから就職したい』と頼み、アメリカの大学に留学することにしました」
 大学側との交渉の末、産能大で取得した単位を移して留学し、最終的にコロラド州立大学ビジネスマネジメント専攻の学位を取得。受験勉強と両立して通っていた産能大も卒業している。
 16歳から磨いてきた営業力とシンガポールでの経験、何より田中氏の行動力でもぎ取ったアメリカ留学。そんな最中でも一時帰国の際には、大手監査法人や個人事務所のインターンシップに参加し、帰国後のキャリアを考えていた。
「個人事務所のインターンシップ参加は、将来独立することを見越してのものでした。正直なところ監査はつまらなそうというイメージがありましたが、実際働いてみないとわからないだろうと。それなら、多くの案件を抱える大手監査法人に就職するのが一番だと考え、帰国後は、売上10兆円規模の大手企業の法定監査に携わらせてもらえることを条件に、EY新日本有限責任監査法人(以下、EY)に入所しました」
 当時の監査法人には、大手クライアントの担当になるとそれ以外のクライアントの案件には携われないという暗黙の了解があったという。しかしそこは田中氏。IPO案件の小規模なクライアントも担当させてもらえるよう交渉した。
「留学のときもそうでしたが、前例のないことでも、交渉次第で意外と道は拓けるものです。結果的に大手クライアントの法定監査とIPO案件の中堅企業の両方を担当できました。様々な経験をさせてもらい、仕事の幅広さやおもしろさを教えてくれたEYにはとても感謝しています」

会計士でも税理士でもない

 EYに在籍していたのは2年半だが、その間、田中氏は監査業務のかたわらWeb制作やプログラミングを勉強していた。
「今の時代、起業して会社を作れば会社のWebサイトを作りますし、お店を始めればお店のWebサイトを作りますよね。会計とITは関係なさそうでいて、中小企業支援という観点から見ると相性がいいのです。『すべてまとめてうちが面倒を見ます』というのをウリに立ち上げたWebコンサルティング会社が株式会社リンクエイジです」
 友人の会社のWebサイト制作を5万円で引き受けたのが中小企業支援のスタートだった。その後、Webコンサルティング会社の採算に目処が立ってくると「もう独立しても大丈夫そうだ」と田中氏は思い始めた。
「今すぐ監査法人を出たい、早く独立したいという思いが強くなり、上司に退所の話をしたのが入所した翌年の3月でした。『早過ぎるのでは』と上司に言われながらも、4月~6月の繁忙期の業務をこなして6月に退所しました。とはいえ会計士の登録に必要な修了考査は12月ですから、やめたときは会計士とも税理士とも名乗れない状態です。そんな状態で独立しようとするなんて無謀ですよね(笑)。
 ところがとてもラッキーなことに、以前にインターンシップに参加していた会計事務所のNo.2の方が独立することになり、『よかったら1年間一緒にやってみないか。必要なことはすべて教えてあげるし、自分のクライアントは持っていっていいから』と誘っていただいたのです」
 こうしてEY退社後、週の半分はその会計事務所で働き、残りの半分は自分の会社の運営に励む生活が1年間続いた。その1年で税務会計をマスターした田中氏は、修了考査と会計士登録、そして税理士登録を済ませ、2018年8月、リンクエイジ会計事務所を立ち上げた。

中小企業支援のためのオールインワン

田中氏にとって独立開業の目的は「中小企業支援」だが、もうひとつの目的に「自分で会社を経営したい」という夢の実現もあった。そして2つの目的を実現できるのが、会計士・税理士としての独立開業だった。
「高校が通信制の学校だったからか、学生時代の友人の経歴は建築系の仕事をしていたり、営業や不動産系で独立していたりと、様々でした。そんな友人たちから会社設立の支援を頼まれたのが、独立して最初の仕事です。何しろ知り合いで会計士は私しかいないので仲間うちで口コミが広がり、連鎖的に毎月3~5社ずつ顧問先が増えて、1年で約30社になりました。人材に関しても、私が気になった方をスカウトして連れてきたり、スタッフからの紹介でいいなと思った方を採用したり。社名は『連携・つながり』という意味の英単語『linkage』から命名したのですが、まさに人のつながりで成長してきた事務所だと思っています」
 現在、リンクエイジとして取り組んでいる事業は、会計の事業として、税務会計、資金調達、労務、開業支援・法人設立。不動産・建設の事業として、不動産売買・仲介、住居・テナント内装・外装工事。Web事業として、Webサイト制作、LP制作、Webマーケティング支援。その他には、児童発達支援・放課後等デイサービスと、かなり幅広い。税務会計や資金調達、開業支援以外は一般的な会計事務所では取り扱っていない業務ばかりだ。これも人のつながりを大切にしてきたリンクエイジならではの特徴だろう。
「起業するにあたって必要となることを次々に請け負っていたらこうなりました(笑)。会社を作り、資金調達支援をして、不動産仲介から内装工事までやって、Webサイトを作成して、そのまま会計事務所の顧問先になっていただく。それが現在のゴールデンコースです。
 今後、建築業に関しては建設業許可を取得する方向で考えていますが、どちらかというと内装デザインや設計、カラーリングがメインの『おしゃれな空間を演出する』点を強みにしたいです。このオフィスも、リンクエイジグループで工事しました。オフィス自体がショールーム化しているので、お客様が来社すると『うちもこんな風にしたい』と思っていただけて、仕事につながっていくわけです」
 起業に関わるサービスを一手に引き受けてくれるリンクエイジのような事務所は、顧客にとっても発注の手間が減るし、コストパフォーマンスも高くサービスを受けることができるため、メリットが大きい。ウィンウィンの関係が成り立っているのだ。

児童発達支援施設を開業

 税理士であることの魅力について、田中氏は次のように語る。
「中小企業は必ず税理士と契約します。つまり税理士の顧客は中小企業の経営者全員。顧問先になれば半永久的にとても良い関係を築けます。例えば一般企業の営業担当が、会社の代表とつながろうと思ったら、相当の努力がいります。対して会計事務所なら電話をかければその瞬間に代表者に直接つながり、『元気ですか、最近どうですか』と言えるような近い距離感で、何が足りていないかすべて聞き出すことができる。会計業務のことではなくても、税理士という肩書があることで、経営者のニーズを掴みやすくなるのです。そういう意味では、税理士以上に良い仕事はないと思いますね」
 現在、関与先の20%は不動産・建築関係というが、リンクエイジには約250社の関与先があるので「関わっていない業種はない」と言えるほど、すそ野が広がってきている。
「ほぼすべての業種を網羅できています。ないものを挙げるとしたら医療系ですね。今後顧問先にできれば、お客様が何かの病気になったときに最高のドクターを紹介してあげられるようになので、リンクエイジグループのネットワークだけで完結できる領域がさらに広がります」
 中小企業支援を軸に据えているリンクエイジの顧問先には、若手経営者や若手起業家が多い。そんな若手経営者をサポートするために、不動産業務、Web制作など、業務のすそ野を広げてきた。そんな中、これらとまったく違う系統の業務に、「児童発達支援」がある。リンクエイジは、2022年2月に児童発達支援施設「りんく川崎読売ランド前駅教室」を第1号として開所した。児童発達支援を手がける理由について、田中氏は次のように話している。
「子どもがすごく好きで。受験生時代に唯一やっていたアクティビティが、児童養護施設でのボランティアだったほどです。施設に月1回行って、親と一緒に過ごせなくなった子どもたちと遊んでいたので、何か子どもと関わりのある仕事をやりたいなとずっと思っていました。実は事務所のNo.2である金成も福祉系事業をやりたいと言っていたこともあり、子ども福祉系の仕事は彼に責任者を任せています。中小企業支援とはまったく関係ない領域ですが、今後は施設をさらに増やし、3店舗体制にしていく予定です」
 児童発達支援施設が足りず、子どもを預けたくても入れてもらえないという現状がある中で、「需要がある限り増やしていきたいです」と田中氏は意気込んでいる。

「何をやるか」より「誰とやるか」

 現在リンクエイジは総勢16名。そのうち会計士資格者が田中氏を含め2名在籍している。そのメンバーのほぼ全員が、10代の頃からのアルバイト先や職場で知り合った人たちだ。これがリンクエイジの大きな特徴となっている。
「16歳のときに海の家で一緒にアルバイトしていた友人が『簿記を勉強してるんだけど』と言って連絡をくれたり、シェアハウスに住んでいたときの同居人が来てくれたり…。もうひとりの会計士は監査法人時代に同じクライアントを担当していた仲間で、開業1年後に合流してきました。最近入ったメンバーには、私がよく行く渋谷のカラオケバーでアルバイトしていた大学生もいます(笑)。
 メンバーは行く先々で出会った仲間。しかも優秀でおもしろい人ばかりなので、どういう会社か、何をやるかよりも、その人たちとやっていく楽しみのほうが大きいですね」
 メンバーの採用も、まさに人のつながりでできているリンクエイジ。現在、社員はほぼ全員リファラル採用だという。そこで、具体的にどのような採用基準があるのか聞いてみた。
「毎月の試算表から決算書を作成してという年間の税務申告業務など、スキル面に関しては半年から1年あれば育つことがわかってきました。ですからスキルや経験は、あるに越したことはなないですが、特に問いません。それ以上に、素直できちんと話を聞けるか、目標を持って仕事ができるかを重視しています。自分の成長に責任を持てる人か、そして何より周囲との調和が取れる人かを見るようにしていますね。まだ16名の組織ですが、みんな本当に仲がいいので、その環境は守りたいと思っています」
 ただ今後、スタッフの人数が増えたときのことを考えると、ある程度、業務のマニュアル化や教育カリキュラムが必要になるかもしれないと、田中氏は考えている。
「でも頭を使わずマニュアル通りに仕事する人になるのは困りますね。自分で考えるのが大事だと思っているので、例えば『なぜこうしたの』と聞いたときに『そう教わったから』とか『マニュアルに書いてあったから』とか『前はそうやったので』と回答されると、私は怒ります。言われたこと・書いてあったことをきちんと理解した上で、なぜそれをやっているのかという目的まで理解してもらう。それは徹底しています。
 ただ人数が増えてくると、ある程度のマニュアル化も必要になるでしょうし、あとは中途採用の税理士資格者のように新しい風を運んでくれる方も必要です。責任者的立場のスタッフも増やしていかなくてはいけないので、そこが今後の課題ですね」  事務所内では、ほぼ全員が日商簿記検定など資格取得をめざして勉強をしているという。3級からステップアップして、上位級や税理士、社会保険労務士などの難関資格をめざしているメンバーもいる。メンバーの学習意欲が高いのは、若手が活躍できる風通しの良い事務所だからこそだろう。

人員を絞り中規模で成長を

 開業して5年目のリンクエイジ。3年目には、渋谷に事務所を移転した。そして来夏、田中氏はまたオフィスを移転したいと考えている。
「今、1チーム3~4人で約50社ずつ担当している島が4~5チームあるので、もうひとつ島を作り、30人位まで増やしたいと思っています。来夏頃、今借りているオフィスの更新のタイミングでもっと大きなところに移転したいですね。移転後は55人まで増やして、それ以上は大きくしません。会計事務所だけで30~40人規模、顧問先数で400社位。このあたりを最終目標として考えています。それ以上スタッフを増やすと、自分の経営手法や今の雰囲気が保てなくなりそうですし、自分が本当にサポートしたいと思う企業のみをお客様としたいので、顧問先数も増やしすぎないようにしたいと考えています。また、関連事業の不動産業やWeb制作も、会計事務所と並行してやっていくので、やはりこのくらいの規模で充分ですね」
 会計事務所の人員を絞りつつ、顧問先の満足度を満たす。そのために効率化を推進していて、入力作業などの事務作業は入社直後の研修を除き、すべてベトナムの提携会社に任せ、翌日には100万件の仕訳でも入力データができあがってくるような体制を作ったという。
「すごく効率的です。もう入力作業は社内でする時代じゃないと思っています。そうなるとスタッフは少なくとも何か税務に関われる、あるいはお客様対応ができることが必須になりますよね。結局、会計士や税理士も接客業なので、ビジネスパーソンとしての成長も専門的能力の成長も両方大事にしてほしいと思っているのです」
 そんなリンクエイジが最近始めたのは、顧客企業の「人材預かりサービス」だ。
「顧客企業で税務会計を担っている経理の人材を2ヵ月ほど預かり、その方が所属している会社の税務会計を中心に、他のクライアントの仕事にも携わりながら、自分の会社の会計税務がわかるように成長してもらいます。その方の人件費は顧客側に持ってもらいますが、研修費などは一切取らずに無料で成長をサポートするので、お客様にとって有益なサービスだと思いますし、私たちとしても、顧問先との絆を深めることができるので仕事がしやすくなります。顧客限定のサービスではありますが、とても良い成果が出ているので、今後も継続したいです」
 田中氏は、その延長線上で今後は会計税務系の教育事業も展開していきたいと考えている。

人とのつながりを大切に、成長あるのみ

 現在、田中氏が事務所のトップとして心を砕いている業務がある。それは「従業員一人ひとりのキャリアプランニング」だ。 「現時点の成長スピードを考えて1年後、3年後のキャリアプランをきちんと描きます。例えば3年後に転職ありきで入社している男性がいて、転職までにここまで成長しないといけないとか、税理士になると言って入ってきてなれないままの人がいるので、そういった人には『このままではダメだ』と発破をかけます。成長していく上で目標を持っていることはとても大事なので、それを達成させるために、従業員それぞれのキャリアに対して一生懸命になってしまいますね(笑)」
 これも、人とのつながりを大切にする田中氏らしい一面と言える。そんな田中氏に、多忙の中プライベートはどのように過ごしているのかを聞いてみた。
「何か予定があれば休みます。ただ、何もしないで家でごろごろして終わったということは、もう何年もないですね。何もすることがないときは仕事をしています。
 とはいっても自分の会社なので、週末にオフィスに来てインターネットで動画を観ながら仕事してもいいわけで、息抜きの方法はいくらでもあります。だから私には休みの概念がないのです。やればやるほど、自分が動けば動くほど、次に進んでいくのが手に取るようにわかったので、仕事も全然苦ではないですね」
 今後、会計事務所として新たに始めようと思っているのは、新チームのスタッフを増やすこと、来年夏予定のオフィス移転、そしてもうひとつ、新しい部署を立ち上げることだという。
「社内にお客様の窓口となる部署があるのですが、彼らをサポートする部署を立ち上げます。わかりやすく言うと、お客様担当につくアシスタントチームですね。フロントに立つ担当者には顧客とのやりとりの他に、印刷物作成や発送といった本人でなくてもできる業務があるので、それを請け負うスタッフを入れていきます。このサポート部署の立ち上げを『私がやります』と挙手してくれたのは、子育て中で時短勤務のスタッフでした。2022年はスタッフ一同総力を挙げて、地盤固めのために成長あるのみです」

これからは専門職の時代

 事務所の今後についても語ってくれた。
「あまり褒められたことではないのですが、受注した内装の物件に行くと、自分でドアを取り付けたり、建具をネジで締めたり、何でも自分でやってしまうクセがあるんです。中小企業支援でもそうですが、Web制作するのも好きだし、子どもたちも好きだし、何でも自分でやるのが好きで、結局やりたいことを全部やってしまっています(笑)。
 ただし新規事業をやるなら、ある程度スタッフに任せていかないといけないフェーズであることは間違いありません。スタッフのレベルも上がってきていますので、これからは他のスタッフに任せる仕事を増やし、自分のプレイヤー的割合をどんどん減らしていこうと思います」
 まだ30代。士業の世界では若手に分類される田中氏だが、資格取得をめざす人、キャリアアップをめざす人に向けて次のようにメッセージを送ってくれた。
「『あなたは何ができますか?』と言われたときに、例えば会計士として会計業務ができる、プログラミングの知識があってアプリが作れる、イラストレーターでデザインができるなど、『これができます』と明確に答えられる人はとても強いと思います。資格の有無に関わらず、“これ”というその人ならではの特長がある人は仕事を振る側としては頼りやすいですよね。『何でもできます!』という人よりも何かひとつでも得意なことを持っている人の方が強いと私は思います。
 どんな人にも人生の中で、子どもができたので家を建てたい、独立したので経営について聞きたい、病気になったので医療的なアドバイスが聞きたいなど、必ず“専門家の意見”が必要となるタイミングがあります。そういうときに『あの人に聞いてみよう』と自分のことを思い出してもらえるかどうか、それがすべてだと私は思います。この意味で、やはり資格はひとつ持っているだけで専門家としての肩書きを得られるので、独立する上でも就職する上でも有用ですね。最近ではフリーランスも増えていますし、何度も転職する人も多い。今は自分自身でキャリアを選び取っていく時代ですから、自分の専門分野を活かして、そこから広げていければなお良しですよね」
 18歳のときにめざした会計士の資格が田中氏の軸となり、そこから様々な人たちのつながりが生まれ、業務のすそ野が広がり、今の組織を構築している。誇れるものがひとつあればそれだけで強い。出会った人の縁を大切にすることこそ、道を拓く原動力になるということを田中氏が教えてくれた。


[『TACNEWS』日本の会計人|2022年6月号]

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