日本のプロフェッショナル 日本の会計人|2017年7月号
芦田 敏之氏
税理士法人 ネイチャー国際資産税
統括代表社員 税理士
芦田 敏之(あしだ としゆき)
1978年、神奈川県横浜市生まれ。会計事務所並びに大手税理士法人に勤務。2005年、税理士試験合格。2006年、税理士登録。2012年、税理士法人ネイチャー国際資産税を設立。
資産規模100億円超のクライアント、国内外100金融機関との取引。
国際資産税で有数の実績を誇るプロフェッショナル集団です。
2012年設立の税理士法人ネイチャー国際資産税は、6年目を迎える今年、総員30名弱、100名体制をめざして急成長中のプロフェッショナルファームだ。資産規模100億円超のクライアントも数多く、国内外の100を超える金融機関との取引を展開。国際資産税分野では有数の実績を誇っている。大手の税理士法人でもないのにいったいなぜ圧倒的なブランドと実績を手にできたのか。統括代表社員の芦田敏之氏はまだ38歳という若さだ。芦田氏の足跡を追いながら、急成長する税理士法人の業務内容や社風を探ってみた。
「税務×語学力」で国際資産税の最前線へ
生まれた時、実家は横浜市で事業を営んでおり200人ほどの従業員が働いていた。事業が傾き、物心ついた頃には東京都足立区へ。邸宅住まいの「ぼっちゃん」は下町の少年として育った。「それでも、その頃から経営者って好きでしたね」。税理士の芦田敏之氏は、明るい声でそう話す。
税理士法人ネイチャー国際資産税(以下、ネイチャー)。国際資産税専門のニッチな事務所として、今や国内外100以上の金融機関が信頼を寄せる。圧倒的なブランドとして他の追随を許さない、急成長中のプロフェッショナルファームだ。
大学は入りやすいところに入れればいいという「たまたま人生」。原風景に事業や経営が身近にあったせいか、ソフトバンクの孫正義氏やマイクロソフトのビルゲイツ氏が好きで、起業家や創業者の本ばかりを読んでいた。そんな学生時代に税理士という職業を知って「自分は『借入を起こして人生いちかばちか』と勝負する性格ではない。起業するよりはサポート役の税理士がいいんじゃないか」と考えた。
また、入学金や大学の学費を稼ぐためにアルバイトに精を出した。
「学業の合間をぬって昼夜働きました。こういうことを言うと周りに驚かれるのですが、意外と苦学生だったんですよ(笑)」
税理士が関わる税金は企業経営にも個人にもかかる。法人税40%の時代なら企業は利益全体の40%が税金で消えてしまうことになる。相続税になると税率は55%に跳ね上る。
「税率を考えると、企業経営のコンサルティングより相続税のコンサルティングのほうがすごい商売じゃないだろうか」との思いが税理士をめざす推進力になった。大学3年から税理士受験を始め、会計事務所を経て大手税理士法人に勤務する前に試験合格を果たし、芦田氏は税理士となった。
芦田氏は同時に「何でも続く」性分も持ち合わせていた。グローバルビジネスに思いを馳せて、社会人になる前から「これからは絶対に英語の時代がくる」と海外に4ヵ月ほどステイ。その経験から英会話学校に通うようになり、現在も「雨が降ろうが槍が降ろうが、年末年始だろうが、かかさず毎週」通っている。これが今日の会計人としての人生に必須のアイテムとなった。 「弊社は私をはじめスタッフの多くが英語でクライアントにきちんと対応できます。そのせいか、国際資産税の分野でかなり信用を得られるようになってきました」
勤務時代、外資系金融機関との付き合いが深まり、大手税理士法人では国際資産税部門で活躍。口コミによる紹介は外資系金融機関から国内のメガバンクにまで広がり、2012年の独立開業後も芦田氏のもとに集まってきた。「税務×語学力」は今でも業界的に重用されるスキルだ。
こうして国内には国際資産税に特化した税理士法人がほとんど存在しない中、国際資産税の案件は自然とネイチャーに集中し、資産規模100億円超のクライアントが名を連ね、100以上の国内外金融機関から依頼が絶え間なく舞い込むようになったのである。
「我々規模のファームで金融機関の本店と取引しているところはほとんどありません。この実績を築くことができたのは奇跡かもしれませんね」
「お金ではない」人生のプライオリティ
芦田氏の強みのひとつ、それはスピードだ。2012年に独立したのも「独立したほうが、もっとお客様により良いサービスが提供できるのではないか」と考えたからだった。若干高飛車に見えるが、実は芦田氏にはある思いがあった。
「クライアントは一本100万円のロマネコンティ1ダースを10ケースオーダーするような富裕層でした。そんな本当のお金持ちを見過ぎたのか、自分がめざすところはお金持ちじゃない、同じ土俵で戦うことはないんじゃないかと思うようになりました。それからですね。お金を貯めようとか、お金を残そうという概念がなくなったんです」
ネイチャー創業後のスイス出張の折り、スイスからフランス・パリに日帰りができると知った芦田氏は即行動に移した。限られたパリ滞在の中で、ここだけは見ておきたいと思いベルサイユ宮殿に行ったという。ベルサイユ宮殿の贅を尽くした内装や庭園を眺めていた時、「個人の富には限界があるなあ」と自然に言葉が漏れたそうだ。
「国家の富というのはすごいんだな、個人のマネー感覚ではとても想像できないものなんだなと感じました。
私が言いたいのは、私が個人でお金を貯めるにはどうしたらいいかという概念はもう持っていないということ。人生のプライオリティとしても、もうそれはありません。それよりいかに良いサービスを提供できるか。経営者となった今、働いている人にいかに良い環境を提供できるか、それが人生のプライオリティの高いところに位置するようになったのです」
その頃からビジネスへのアプローチも自身のパーソナリティも価値観も、すべてが変わった。
そして、先ほどの言葉を継ぐように「でもビジネスは大好きなんですよ。利益を上げるにはどうしたらいいか、真剣に考えるのが大好き」と言って、少年のような人なつこい笑顔を見せたのが印象的だった。
Create and maximize client value from the world
膨大なデータや資料を瞬時に読み込み分析するのが得意なAI。さらに学習もするAIに、士業の中には「将来的に仕事を奪われてしまうのでは」と危惧する人もいる。記帳代行や申告業務の人海戦術の時代は終わりを迎えるかもしれない。だとしても、国際資産税というニッチな分野で「新しいビジネスをスピーディーに展開する」仕事だったら、どうだろう。
「弊社の強みはスピード。新たなビジネスを発想してやろうとすると、それに伴って人員体制をすぐに変えることができる。しかも既存のサービスを提供しつつ、新しい展開に迅速に対応していけます。そして新しいサービスに芽がないとわかれば潔くやめます。いちいちこだわりません。なぜならビジネスはマーケットが決めるのであって、私たちが決めるものではないからです」
目まぐるしく変化するマーケットにノンストップで対応できるスピード感、ストイックに徹底した取捨選択。芦田氏はAIにもできない離れ業を演じる。
業務のメインである国際資産税。迅速に集められた国内外の最新の税務情報が日々アップロードされ、世界各国の拠点を活用しサポートすることで、グローバル企業が個々に持つ複雑な事情まで細かく対応する。国際資産税の相談件数は個人の富裕層中心に、業務のもっとも多くを占める。昨今増えている国際結婚で家族関係が複雑化していることが追い風になっていると、芦田氏は話す。
「例えば、Aさんはフランスで結婚、妹はドイツに留学していてドイツ人と結婚。となるとフランス・ドイツ・日本の3ヵ国にまたがった話になります。それを一つひとつ解決していくような作業。だから飛び道具なんてありません。財産の承継だけでなく、フランスでビジネスをやるとなったらフランスの税法や会社法にのっとった形でやっていく。フランスの税法はどうなっているのか、会社の担保はどうするか、フランスで利益が出たら本拠地である日本に還元するにはどうしたらいいか。一つひとつ調べてお客様に提案していきます」
こうした個人の案件は他の事務所がやろうと思ってもノウハウがないし、いざ案件が来たとしてもフランスやドイツにつてがない。プラス国内外での整合性を取るのに英語ができない。「我々にはそのすべてがある」と芦田氏は言う。国内は東京、大阪、名古屋、そしてシンガポール、ハワイにある世界各国の拠点と、信頼できるビジネスパートナーの前提となる英語力は大きな後ろ盾となる。
海外からのオファーがネイチャーに集まってくるもうひとつの理由は、「ビジネスパートナーにチャージしない」こともある。フランスの会計事務所がネイチャーに英語で日本の税法について質問してくると、その場で英語で答え、英語で資料を作成し送付している。それがすべて無料なのだ。
「お互い様だから無料です。親切だし、その積み重ねで、みなさんに弊社のファンになってもらえればいいんです。しかも今どんなスキームが日本で流行っているのか、聞きたいノウハウは100金融機関と取引のある弊社にしかありません。さらに言えば、資産規模20億円以上の資産家に対応できるところは限られています。
例えば『フランスの税制でこのケースはどうなりますか』と質問すると、一般的には大手では質問を受けた方が回答するのはNGです。フランスの税制なのでフランスの事務所に回答を求めなければなりません。そこでフランスに依頼するための料金がチャージされます。そして回答するフランスでも回答料金としてチャージがかかりますから、弊社が100万円で対応できる案件でも、300〜500万円にならざるを得ないんです」
芦田氏の攻めの戦略は、そんなリーズナブルな価格にも表れる。
「競合相手が300万円というプライスの時、弊社は100万円でできます。なぜなら弊社にとってはそれが適性プライスだからです。弊社のモットーは『Create and maximize client value from the world』。クライアントの価値をクリエイトして、マキシマイズして、そして世界中の選択肢からクライアントにとって最適な選択肢をお出しする。儲けようとするとクリエイトとマキシマイズが自分たちのバリュー、儲けばかりになってしまう。そうではなくて老舗メーカーのように、継続的に適正価格でやっているビジネスが長続きする。そういう会社が残る。それが我が社の概念です」
ノウハウ・情報をシェアリング
ネイチャーのクライアントは国内外でグローバルに活躍する個人の富裕層が中心。そのコンサルティングファームとして、多くの金融機関と取引を行い、専門知識を用いた様々な課題解決に取り組んでいる。業務の内訳は国内外の投資ストラクチャーコンサルティング、国内外の相続事業承継コンサルティング、国内外の組織再編コンサルティング、国内外のM&Aコンサルティングで扱っている案件の70〜80%は国際案件が占める。こうした多様なニーズに応えるため、資産税コンサルティングを柱とする税理士法人ネイチャー国際資産税とM&Aコンサルティングの株式会社ネイチャーFASを2本柱に、株式会社ネイチャーインターナショナルと3関連会社でグループを形成し、相互の協力によってサービスの最大化を図っている。
多様なノウハウと新鮮なアイデアがぎゅっと詰まっているネイチャーは、芦田氏がひとりで創業した会計事務所からスタートして以来、わずか4年で総勢15名に、6年目の今年、30名弱にまで成長した。組織が大きくなるとマネジメントが必要になる。芦田氏のノウハウやアイデアはどのように共有されているのだろう。
「実は私も途中まで『みんなに教えるのはいいけれど、ノウハウを持った彼らが独立したら同じ力を持つコンペチターになるんじゃないか』と考えていました。だから当初は私ひとりが実務を行い、メンバーは全員サポートでした。ですからビジネスのスピードは当然遅いんです。でも、ある時から全部シェアリングして教えるようになったんです。スピードアップしたのはその時から。理由は、もちろんビジネスのフェーズが進み金融機関との関係が『会社』対『会社』になってきたことがあります。今では『最初からうちしか選ばない』という自信の裏付けがあってこそ、知識のすべてをシェアリングできるんです。
でも何より、私がビジネスマンとして大人になってきたからなんです(笑)。知識を独り占めするより、働いている人とシェアしたほうが絶対楽しい。そして行き着いたのが、基本理念の『Treat as a family』でした」
「Treat as a family」の環境めざして
「Treat as a family」。家族のように大切にすること。家族を大切にするには家庭環境、会社でいえば福利厚生や待遇、社風になる。ネイチャーの福利厚生や各種制度は、語学学習補助、資格取得手当てにとどまらない。情報収集や社内コミュニケーションに活用するために内定者には全員iPadを支給する。スーツやシャツをオフィスでクリーニングに出せるクリーニング制度もある。オフィス内でリラックスして業務に集中できるように、社内にグリーンを配置し、海水魚が泳ぐ幅2m・水量500ℓの大型水槽が癒してくれるアクアガーデンも設けている。リラックスの場作りにも心を砕く。眠くなったら休めるシエスタ制度、週に一度平日の用事をこなせるゆったり出勤制度もある。
研修では、マナー研修、身だしなみ研修、税務研修、英語研修の他に、入社前から実務研修を受けられる「インテンシブ研修」、プロフェッショナルとして時間の使い方やクライアントに対する心構えを学ぶ「プロフェッショナル研修」と、細かくセグメントされた研修が用意されている。こうした研修は年間250時間、企業平均の6.3倍以上行っているだけでなく、教育研修費用についても平均の15倍以上をかけて行っている。
福利厚生制度には、永年勤続者報奨制度、引越支度金制度、スーツ購入費用補助制度、一人暮らし手当の他に、オフィスの一角に有名コーヒーチェーンのコーヒーや各種ドリンク、チョコやクッキー等のお菓子やアイスクリームを格安で用意するオフィスカフェ制度、スポーツジムを1回1,000円で利用できるスポーツクラブ手当、疲れた時や肌荒れが気になる時のために各種サプリメントを用意するサプリメント制度、ビタミンCを摂取して風邪などへの免疫力を高めるフルーツ支給制度、2ヵ月に一度季節のスイーツを社員で味わうスイーツ制度、勤務時間中に勉強時間を最大で毎日2時間確保できる勉強時間制度。3年に1度、2週間旅行にいける海外旅行応援制度と、変わり種が盛りだくさんのバリエーションだ。
「クライアントレベルも高く、ビジネス関係者レベルも高く、社内の働く環境クオリティも高ければ、社内の人間関係も良くなって知識のシェアリング文化、教えあう文化も根付きやすくなる。と言うわけで、これがあれば快適なんじゃないかと思い立つとすぐ実行します。私たちは社内の人間関係で悩んだことはまずないですね」
さらにネイチャーには、差別なく長所を伸ばし短所は他のメンバーが補う「長所主義」がある。
「私の長所は発想力があるところ。どんどん新しいサービスが生まれてくる。ですが細かいことは苦手なんです。そんな短所を補ってくれる細かい作業ができる社員が大勢いるのでビジネスとして成り立つ。うまく補完関係ができている。社内はハーモナイズしているのでお互い仲が良いんです」
ビジネスはこうあるべきだという堅い理論はネイチャーにはない。そんな堅い話より、働く人がいかに快適に過ごせるかを最優先する。
「どんどん制度ができて数えきれないほどになりました。ドリンクバーも山ほど種類があるし、十数万円するエスプレッソマシーンで有名コーヒーチェーンのコーヒーを1杯30円で飲める。そうすると満足度がすごく上がるんです。オフィスで働いていると季節感がなくなってしまうので、2ヵ月に一度スイーツを誰かが買いに行く。それを食べてお茶をすると季節を感じられて楽しい。3年に一度は2週間旅行をして会社を休んでもらう。その際には補助も出ます。ビジネスに関してちゃんと業務がまわるように割り振りしておけばいいだけで、親でも子どもでも事実婚でも、連れていく相手は誰でも良い。本人も楽しいし周囲もハッピーになって、人生のクオリティが高くなる。
そんな制度が山ほどあるけれど、すべてに生産性があるかないかと言えばたいしてないかもしれません。ただビジネスは、楽しくかつ厳しくなければダメだと思います」
無駄なストレスがないからお互いに思いやれる。この環境があるからビジネスに集中できて良い仕事ができる好循環が生み出されているのだろう。
厳しいビジネス社会で「フィールリラックス」
「長所主義」にあるように、ネイチャーでは年齢、性別、スクールキャリアで一切差別しない。「今あなたの実力はどこか」だけの完全な実力主義。だからこそ皆が尊重しあって働ける職場環境がある。新卒採用もするし、女性も男性と同様に切磋琢磨しあって活躍できる。
「その分、教育には大いに力を入れ1から10まですべて教えていく。教育は厳しくやって、ビジネスはビジネスでしっかりやってもらう。新卒者に関しては見た目まで厳しくチェックします」
社員がおしゃれ眼鏡をかけるのはNGだし、従業員の半数を占める女性に関しては、ビジネスの場で「かわいらしい女の子」である必要はないという。
「女性が『○○ちゃん』、あるいは『女の子』と呼ばれたら、ビジネスレベルとしては低く見られています。プロフェッショナルな女性と言われるようでなければなりません。だから、ネイルでデコルテしている子がいたりすればすぐ『履き違えるな』と指摘します。『そういうのはアフター5でいくらでも女子アピールしてくれ』と。ビジネスの場ではあくまでプロフェッショナルとしてお客様から信頼されるパートナーになれるかどうか。ダークなスーツで、装いもきりっとしたビジネスパーソンであるべきです」
ビジネス上の厳しい側面は、多様な福利厚生の「フィールリラックス」でほぐす。確定申告や大型プロジェクトが終わったら、自由に出勤・退勤時間を選べ、ささくれ立った心を癒す配慮をしている。就業時間中はお菓子を食べてもいいし、イヤホンをしながら仕事をしてもいい。メリハリをつけたネイチャーの雰囲気は、いつも「ワイワイ、ガヤガヤ」だ。
「ビジネスは厳しいから、その厳しい時間が終わったらリラックスして楽しんでもらう。イヤホンをしていると効率が落ちるのはわかっていますが、落ちるのは5%程度で30%は落ちない。5%のダウンならその人が健全に仕事できることのほうが大事」と、芦田氏は言い切る。
ここ数年の離職率はゼロ。それも環境の良さからだろう。アメリカの映画制作会社「Pixer」の仕事場を彷彿とさせる。
さて組織は、今のスピードで加速すると3年もすれば100人体制になる。
「マーケットが100金融機関にまで来ているわけだから、我々が増やすというよりマーケットに合わせていったら自然とその数になるだろうと言ったほうがいいですね」
すでにその人数になるのを見越して、組織の整備もすべて済んでいるという。
「すべてディビジョン制にして経営企画室も設置。グローイングする素地は全部作ってあります。通常は人事部といったバックオフィスを整えるのが遅れますが、今後伸びていくのに何が必要か検討した結果、人事だとわかったので、そこから2~3ヵ月で人事部を作りました。
我々は世界のトップレベルの企業を見ているので、トヨタやソニーのようなブルーチップカンパニー(一流企業)が取り入れなければいけない要素を当たり前のようにすべて取り入れているのです」
スピーディで柔軟。常にイノベーションが進化を促進する組織風土。ネイチャーではどのような人材を求めているのだろう。
「人に好かれる人。時間に遅れない。見た目もきれい。提出する書面がきれい。要は、好かれるにはどうしたらいいかを考えながらビジネスをやっていくと良いビジネスパーソンになれる。すべてそれですね。例えば、足を組んでタバコを吸いながらでは『この人は何なんだ』と思われますが、その態度を変えて誠実に一つひとつやっていくと、自然と『この人いいな』と信頼されるようになります。
会計業界をめざしている人にあえて言いたいのは、常に自分の利益の最大化をフェーズごとに考えてしまうような、器の小さい人間にならないで欲しいということ。働いていても、どうしたら自分のキャリアが最大限になるかばかりに腐心する。『この仕事は僕の仕事とは思えません』と上司に仕事の変更を迫る。そんな人と誰が付き合いたいと思いますか。それより上司が結果を出せるようなサポートをたくさんすれば、『これは良い人材だ』と、上司は良い仕事をたくさん回してくれるようになるんです」
多くの世界の富豪を見てお金が究極の目的ではないと感じた。その時から「働く社員の環境をどうするか」ばかりで頭がいっぱいになり、自身はこの何年間か365日のうち1日も休んだことがない。そんな芦田氏は「ビジネスは突き詰めると『信用』。その積み重ねばかりをやってきた」と振り返る。これまで飛ぶ鳥を落とす勢いのエピソードを披露してきた業界の若手牽引者は、その瞬間、38歳の普通の青年に戻っていた。
「私の実力なんかたいしたことないです。頭もそれほど良くないし、細かいことはできないし、見た目もハンサムじゃない。だけど良いところは、発想が豊かで最高に運がいいこと。そして、一つひとつ信用を積み重ねてきたことです」
舌切り雀の良いおじいさんは小さなつづらを選んで宝を、強欲なおばあさんは大きなつづらを選んで魑魅魍魎を引き当てた。戒めを込めた童話の世界が教えるように、どの世界にも短期的な利益を追う者はいる。芦田氏は戒めを伝え、読者にビジネスの真の目標を探らせようとしている。