特集 資格で始めるクラウドビジネス
植松 隆史(うえまつ たかし)氏
社会保険労務士法人KiteRa 代表社員
株式会社KiteRa 代表取締役CEO
社会保険労務士
1976年生まれ、神奈川県横浜市出身。芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科卒。新卒でハウスメーカーに入社。2002年、設計開発会社に転職し、人事部門にて採用と人事労務に従事。2006年、IPOをめざすソフトウェア開発会社に転職。人事・経営企画に従事し、経営企画室長としてIPOのための内部統制整備をリード。2013年、社会保険労務士試験合格、社労士登録。ソフトウェア開発会社を退社し、2019年4月、社労士法人KiteRa、株式会社KiteRaを起業。2019年8月、クラウドサービス「KiteRa」ローンチ。
•KiteRa Webサイト▶https://kitera-cloud.jp
資格の世界は、新たな時代に突入した。士業が業務課題解決のためのクラウドサービスを手がけるスタートアップ企業が出現し始めているのだ。『TACNEWS』2021年1月号では弁護士発の「リーガルテック(法律・法務×テクノロジー)」のスタートアップ企業を紹介したが、今回は社会保険労務士発の「HRテック(人事・労務×テクノロジー)」を紹介したい。社会保険労務士法人KiteRa代表社員、株式会社KiteRa代表取締役CEOの社会保険労務士、植松隆史氏に、資格取得から起業の経緯、創業当初の奮闘など、「社会保険労務士発」のスタートアップについてうかがった。
3社で人事・経営企画に従事し、社会保険労務士資格を取得
──植松さんは2019年4月、起業と同時に社会保険労務士法人を設立されました。それまでのキャリアを教えてください。
植松 社会人になってから起業並びに社会保険労務士(以下、社労士)として開業するまで、3社の勤務経験があります。まず新卒で大手ハウスメーカーに入社し、図面設計、施工監理、営業、採用活動と様々な経験をしました。その中で、学生が会社を選ぶという人生の大切なフェーズに関わる人事・採用がおもしろいなと思ったのが、人事労務キャリアのスタートです。
4年後、本格的に人事労務に関わるために転職し、設計開発会社の人事部門で採用と人事労務に携わりました。次に、IPO(株式公開)に関わりたいと考えて、ソフトウェア開発会社に転職しました。IPOを成功させるためには労務管理体制の強化や整備も重要なポイントのため、挑戦したいと思ったのです。結果的には上場審査に入る直前に買収されてしまったのですが、IPOの準備を進めるプロセスで、経営企画室として内部統制とガバナンス、予実管理、組織作りと株式公開のための内部統制整備をリードしました。このときの経験が現在に大きく活きています。
──社労士資格を取得したのはいつ頃ですか。
植松 このソフトウェア開発会社に転職したあと、人事領域で資格を取得したいと考えて、2010年からTACの社労士講座に通学し、2013年に合格、同年に社労士登録しています。
社労士試験の勉強と仕事の両立はとても大変だったのですが、それでも取得しようと思ったのは、専門家として周囲に認められたいという願望があったからです。実は私は社労士資格を取得するまで、人事の仕事はしていましたが実際に社労士の方と関わった経験はなかったため、社労士がどのような仕事をするのか、想像がつかないまま受験していました。ですので、社労士資格を取得したからといって、独立開業をするというイメージはまったくなかったのです。
──社労士資格を取得してから、社内での評価や役割に変化はありましたか。
植松 法律的知識を身につけたことで、経営者側はもちろん、労働者側の権利や立場も意識しながら仕事ができるようになりました。結果として一緒に働く仲間である従業員からも信頼されるようになったことは大きな変化でした。
資格取得の過程で得た知識は、実際の実務にも大いに役立ちました。一番は法律に裏付けられた手続きや処理を、確信を持ってできるようになったことです。それまでは「グレーゾーンかな?」と疑問があったオペレーションも、きちんと正しい姿で整備できるようになりましたし、細かくチェックもできるようになりました。労働基準監督署から臨検のため監督官が来社したときも、社労士の名刺を渡すと信頼を持って接してもらえました。
こうしてソフトウェア開発会社の経営企画室で人事・経営企画に従事していく中で、テクノロジーが今後の経営において大きく影響してくるのを感じました。
勤務時代の非効率さをなくすために起業
──14年間勤めた3社目を退職し、起業された経緯をお聞かせください。
植松 やめる直前は経営企画室室長としてIPO準備の中心として動いていました。証券会社、監査法人、印刷会社、信託銀行などの窓口はすべて私が務めていたのです。結局、準備を進めていたIPOはM&Aになりましたが、M&Aがすぐに成立したのは、IPO準備のために進めていた会社のガバナンスなどの整備がきちんとなされていて、企業価値が上がっていたことの証だと捉えています。
M&Aで会社が買収されたとき、役割がひとつ終わって、私の中で区切りがついたと感じたことも事実です。実は上場準備として内部統制を進めていく中で、極めて非効率的なオペレーションがたくさんあり、それを何とかできないかと考えていました。就業規則や賃金規程をはじめとする社内規程の整備しかり、上場審査で内部統制を把握するための3点セット「業務記述書」「フローチャート」「RCM(リスクコントロールマトリックス。業務上想定されるリスクと、それに対応する統制活動を明確にするための表)」の作成しかり、情報が少ない中で手探り、かつ手作業で準備を進めていたからです。「同じような苦労をしている人が他にもいるのではないか」と思いましたね。一度にすべてを効率化するのは難しいので、どの部分をシステムによって効率化するべきか考えたときに、「規程類を体系化・効率化できるサービスがあれば、広く使われるのではないか」とひらめいたのです。起業の着眼点はそこでした。
──人事としての実務や上場準備の中で気づかれたのですね。
植松 そうですね。WordやExcelなどのドキュメント管理の煩雑さと非効率さ、無駄の多さは当時から感じていました。実は上場準備のかたわら、新規ビジネスとして規程類のシステム化については仮説検証レベルまで進めていました。そんなタイミングでM&Aになってしまったので、それなら自分で新規ビジネスとして立ち上げたいと思って飛び出したのです。確信はありませんでしたが、これは使われるサービスになるはずだという感触はありました。
こうして2019年4月に社労士法人KiteRaと株式会社KiteRaの創業に至ったのです。
── 社名でもありサービス名でもある「KiteRa」の意味を教えてください。
植松 「規程業務をテクノロジーで楽に」というコンセプトから、社名とサービス名がリンクするように「KiteRa(キテラ)」と命名しました。
── 創業期のエピソードを教えてください。
植松 創業メンバーは、私と前職で一緒だったプロジェクトマネージャーとエンジニアと新たに採用した社労士の4名で、最初の資本金は前職で一緒だった3名で出し合いました。スタートアップの世界に入ったとき、私にはまったく経営に関する知識がありませんでしたね。銀行に行けばすぐにお金を貸してもらえると思っていたのですが、そんなことはありませんでした。何とか日本政策金融公庫からお金を借りるところまでこぎ着けたのですが、プロダクトの開発費用に充てると数千万円があっという間になくなりました。エンジニアを雇いたくても創業間もない社員数名の会社には来てくれないため、すべて外注になるのですが、そうすると結構な金額の外注費用が毎月かかります。ものすごい勢いで資金がなくなっていくので、インターネットバンキングの振込画面を見るのが毎月つらかったですね。
そんな思いをしながらなんとかローンチ(公開)にこぎつけたのが、2019年8月です。
口コミで社労士事務所にサービスが広がる
──開発したクラウドサービスの内容を教えてください。
植松 就業規則などの社内規程を簡単に作成したり運用したりできるクラウドサービス「KiteRa」を開発しました。非効率的になりがちな規程特有の文書作成や管理業務を効率化して、Webサイト上の設問に答えるだけで就業規則や様々な社内規程を自動作成したり、規程特有の編集作業に最適なエディタ、稟議や監督署への届出に必要な新旧対照表や承認ワークフロー、従業員への公開と周知、法改正情報の配信と専門家によるサポートといったように、社内規程を作成するだけでなく、それに紐づいたすべての業務をワンストップでマネジメントできるクラウドサービスです。
──開発当初、どのような規程を作成し、管理できるようにしようと思ったのですか。
植松 まずはIPOをするために最低限必要だと思われる規程、つまり前職で私がIPOのために作り揃えた約40種類を整備しました。当初はまさにこれからIPOをするフェーズのスタートアップ企業と、規程がまだ未整備な中小企業が使えるようなクラウドサービスをイメージして進めていました。
ローンチして1ヵ月で1社、半年経ってもそれほど売れない状況だったのですが、2021年3月、「うちの社労士事務所の中で使いたい」という方が現れて、導入していただいたところ「これ、すごくいいよ」と高く評価してもらえました。そこから口コミで、社労士事務所への導入が進むようになりました。
これをきっかけに、私たちも「スタートアップ企業をターゲットにしていたけど、実はKiteRaは社労士と社労士事務所にとって、使いやすいプロダクトなのかもしれない」と思い始めたわけです。そこから問い合わせが一気に増えて、大手社労士事務所から「すごくいいから、うちで宣伝してあげるよ」とお誘いを受け、セミナーにも登壇させていただきました。そのときの反響がものすごく大きかったですね。
私自身が社労士事務所の勤務経験がなかったので、社労士事務所に声をかけていただくまで、社労士事務所サイドで規程作りや管理をするときのやり方や苦労がわからなかったのです。そこが盲点でしたね。
──もともとはスタートアップ企業向けに開発してきたクラウドサービスですから、社労士事務所が導入するとなると、使い方が違ってきませんか。
植松 使い方や求められる機能は違いますね。日々要望が上がってくる中でどちらを向いて開発しようかと考えたとき、2021年4月時点では社労士事務所の導入数が多かったので、社労士事務所向けに絞ろうと考え、事業会社への導入をストップしました。
そこからヒアリングをして、社労士と社労士事務所サイドが使いやすいような機能をプラスする方向で開発していきました。こうした経緯で、今でも事業会社向けの導入は行っていません。
社労士の規程業務を効率化
──社労士事務所向けへの切り替えで、どのような機能が加わりましたか。
植松 今のメイン機能である「顧問先企業の規程管理」という着眼点は、事業会社を対象にしていた当初はありませんでした。これは社労士事務所の使い方として非常に大事な視点ですので、ここをベースに機能を追加しました。
社労士事務所は何十社、何百社とある顧問先の規程管理を行っていますが、やり方としては、会社ごとにフォルダを作成して、その中に規程のWordファイルを入れ、ストレージサーバーで管理されていることが多いです。つまりA社のフォルダにはA社の規程すべてが入っていて、同様にB社、C社と、顧問先すべての規程を会社ごとのフォルダで管理するのが一般的です。
ただこのやり方では、A社の規程を調べようとした場合、Wordファイルを一つひとつ開いて見る必要があります。そして「どういう理由で、どのような改訂を、いつ誰が行ったのか」はそのWordファイルとは別にExcelファイルで管理して改訂履歴を追うようにしていることが多い。さらに新旧対照表については、また別のファイルで作られていたりする。こうした管理の仕方では、例えば就業規則のほかにも賃金規程、育児休業規程、人事考課規程など規程がいくつもある顧問先の場合、「規程そのもの」「改訂履歴」「新旧対照表」がどのように紐づいているのかをひと目で判断することは難しい状況でした。
事業会社の場合は自社の規程だけしか管理する必要がないので、そこまで煩雑にはなりません。しかし社労士の場合は顧問先が何社もあり、その会社ごとに社内規程がありますから、膨大な数のファイルを一つひとつ開けてみなければ改訂や履歴の確認ができないとなると、管理としては難しくなるわけです。さらに、大勢の社労士を抱えている事務所になると、それぞれの担当社労士の頭の中にしか規程に関する情報がインプットされていなかったりする。きちんと事務所の共有財産として、顧問先の規程類を蓄積していくしくみがない事務所が多いわけです。
KiteRaを使っていただくと、データベースとして規程を保持するので、「いつ、誰が、どういう理由で、どういう条文を作ったのか」をKiteRa上で拾い、今の自分の顧問先の規定事項に共有することが簡単にできます。これによって社労士の規程業務を圧倒的に効率化できたことは、ものすごく画期的だったと思います。
当初40種類だった規程も、社労士の方がよく使う人事まわりの規程を厚くして現在は60種類にまで増やしました。例えば就業規則ひとつを取っても、正社員用のほかにパートタイマー用や限定社員用の就業規則など、4種類を用意しています。労使間の約束事を決める労使協定書も作れるようになっていて、組織集などもダウンロードできるようになり、現在は全国47都道府県、のべ530の社労士事務所にご利用いただいています(2021年8月時点)。
国内には今、2万7,000の社労士事務所がありますが、のべ530というとまだ数%程度にしか普及していないことになりますので、顧客開拓の余地は大いにあります。アーリーアダプター(初期導入者)の事務所は一巡したと思うので、今後はボリュームゾーンに位置する社労士事務所に訴求していくことが経営課題です。
──現状、業界内で同じようなクラウドサービスを提供するところはありますか。
植松 競合他社はいくつかありますが、まだ規程類のクラウドサービス自体の認知度が低いので、むしろこれから増えてくる可能性がありますね。今はまだ敵・味方関係なく一緒になってマーケットを広げているという認識でいます。
──料金体系はどのようになっていますか。
植松 これまでは月額定額制で、ID数に応じてプランが分かれるしくみでしたが、2021年8月から大幅にリニューアルしたKiteRaのリリースと同時に料金体系を変更して「ID数プラス使える機能によって値段が変わるアラカルト方式」にしました。使う機能のぶんだけ支払えばいい料金プランなので、お客様にとってはカスタマイズできて選びやすい体系だと思います。
── 料金体系の改訂を含め、今後どのような新しい機能を拡充していく方向ですか。
植松 ぱっと思いつく限りでも200近くの規程があるので、少なくともそれくらいの数まで、作成できる種類を増やすことは可能です。ただ私たちはそこをめざすよりも、社労士事務所にとって規程を作る上での「価値ある機能」をさらに突き詰めていきたいと考えています。例えばAIを使って法律的なリスクや不備が無いかを判断するレビュー機能や、顧問先の規程の状況を事務所内でリアルタイムに把握できるようにするためのダッシュボード機能を作るといったことです。
もうひとつの方向性としては、創業当時のターゲットゾーンである事業会社にも改めてチャレンジしたいと思っていて、実は少しずつ動き出しています。事業会社は社労士事務所とは規模が違い、2万7,000どころではなく、全国に約300万社あるといわれているので、その領域に再チャレンジしていきたいですね。
トレンドの変化に応じた働き方に対応
──起業と同時に社労士法人を開業されましたが、どのような役割を担っていますか。
植松 煩わしい規程業務をなくすべくKiteRaを起業したので、プロダクト自体、「社労士が社労士のために作ったクラウドサービス」といえます。その裏付けとして、社労士法人があることに意味があると考えています。
現在、私以外に3名の社労士が在籍していて、KiteRaで提供している規程コンテンツのブラッシュアップや、セミナー講師としてマーケティング側の仕事もしています。社労士資格があるからできる仕事であると同時に、新しい働き方でもありますね。
将来的には社労士法人側で蓄積されたナレッジや事例の株式会社へのフィードバックも視野に、社労士法人とともにサービス向上を進めていきたいと考えています。
──今後はどのような方向をめざしていきますか。
植松 KiteRaは数万社の就業規則のデータを持っていますので、おそらく日本で一番多くの就業規則を保有していることになります。このデータから今のトレンドを探り、分析して新しい傾向や動向について、ユーザーの社労士事務所側に還元していくしくみを考えています。
社会のトレンドが変化すれば、それに応じて働き方も変わってきます。その際の企業側の対応も今後は頻繁に変わるでしょうし、多様化してくるでしょう。女性の活躍やLGBT、マイノリティへの対応については大企業では進んでいますが、今後は中小企業にも対応が広がってくるでしょう。そうした動きに先駆けてデータを分析し、トレンドに沿った規則類を社労士事務所に提供していきたい。そしてさらに事務所のほうから顧問先である中小企業に提案していただけたらと考えています。
── 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2020年来、テレワークを導入する企業が増えました。そうした動きに対応した規程の整備も急がれていますね。
植松 自宅で働く場合の電気代・通信費などの費用負担を考えるだけでも、場所が自宅なだけにどこまでが個人負担でどこからが会社負担なのかは線引きが難しいですね。また、テレワークは自宅だけでなくサテライトオフィスやカフェ、コワーキングスペース、あるいは車の中で行う方もいますので、幅広い働き方に対応した細かな規程がもっと必要になるでしょう。コロナ禍以前はこんなにテレワークが浸透するとは誰も考えていませんでしたので、これからも想像できないような働き方やそれにともなった規程は出てくるでしょう。
そうした新しい多様な働き方に合わせた新しい規程の提案も、KiteRaでやっていこうと考えています。例えばLGBTの方への対応規定集や条文集、あるいは最近は不妊治療をしながら働く方たちへの対応としてどのような規定が必要なのかといった条文ストック集を作ろうと考えています。どのような条文、どのような環境整備が必要かという提案を、私たちのほうから社労士の方々や社労士事務所に先読みして積極的に発信していきたいですね。
──社労士事務所向けの機能拡充と提案強化、また事業会社向けの再チャレンジに続く、さらに先についてはどのようにお考えですか。
植松 私たちのビジョンに「安心して働ける世界をつくる」というのがあります。規程というのはあくまでも文章に過ぎませんから、実際に現場に浸透し、守られて、それに基づいて企業経営がなされることで初めて意味があると思います。今後のひとつの方向性として規程通りに会社のしくみがきちんと回っているかどうかを司る、統制システムを作っていきたいと考えています。具体的には、職場権限規程の決裁基準に基づいてきちんと決裁がなされているかどうかをワークフロー側とデータが連携して、何かおかしな決済ルートで流れていたり、おかしな決済基準の決済が行われているようであればダッシュボード上にアラートが出るような「ガバナンスリスクコントロール」領域のサービスをめざしていきたいですね。
──規程そのものと、それを管理しているシステムを連携していくのですね。
植松 アメリカにはすでに、文書化されたルールを実際の現場で守るべき単位に分解して、それがきちんとオペレーションと紐づいているかをコントロールするしくみを持ったクラウドサービスがあります。日本はまだそのあたりの意識が低いのですが、今後は高まってくるでしょうから、海外から入ってくる前に選ばれる企業にならなければなりません。
──KiteRaの手応えを感じつつ先に進めそうですね。
植松 事業成長のスタートダッシュは、結果的によかったかなと思っています。ただこの成長曲線をさらに伸ばしていくためには、まだまだ今のリソースでは足りないし、もっといろいろな手を打っていかなければならないと感じています。
KiteRaを活用した開業も支援
──新時代の社労士像を体現されていますね。
植松 社労士資格を取得していなかったら、今のビジネスはまったく想像できませんでした。弁護士による契約書関連のAIレビューサービスのスタートアップ企業などは出てきていますが、社労士発のスタートアップや起業家はまだほとんどいません。社労士のひとつの働き方として、人事労務とITを掛け合わせて、社労士の知識を今までとは違う形で活かす働き方をもっと広められたらと考えています。KiteRaにいる3名の社労士もそこに魅力を感じて入ってきているので、新しい社労士の働く場としてKiteRaがひとつの選択肢になってくれればうれしいです。
──規程作成が自動化される時代、これから社労士になる方にはどのようなスキルが求められますか。
植松 社労士の本質的なサービスは、お客様の企業経営と事業成長に労務サイドから貢献できることだと思っています。会社の事業成長にどう関わっていくか、アドバイザリーやコンサルティング部分のサービスができる知識や経験が必要になってくるでしょう。やはり経営者や会社に寄り添って伴走できる社労士が必ず生き残っていくと思います。
── KiteRaを導入して「就業規則の管理サービス」をひとつの売りに、社労士として開業することは可能ですか。
植松 KiteRaを使って「会社の就業規則・各種規程の管理」を顧問先にオプションとして提供し、月額で管理委託料をいただいているという社労士事務所は今すでにあります。その内容としては、規程類の管理だけでなく、法改正や何かトラブルがあれば対応しますし、社会の変化にともない必要となる新たな規程があれば提案するというものです。
ですからKiteRaを導入して、それをひとつの売りとしての独立開業は「アリ」だと思います。これから独立開業しようという社労士向けの料金プランも用意していますので、独立開業をお考えの場合はぜひ検討していただけたらうれしいです。
──最後に、資格取得やキャリアアップをめざしている方にアドバイスをお願いします。
植松 資格を使って何を実現したいのか、受験期間中からその解像度を上げておくと、社労士としての生き方の幅が広がります。私のように起業することもできますし、社労士資格を持つことで今は多様な働き方ができるので、めざす社労士像を早い段階から意識していただくと、受験勉強の強いモチベーションになるでしょう。
企業に勤めている人事担当者の方にも社労士資格はおすすめです。自分の携わっている仕事がきちんと法律に基づいているかがわかりますし、知識の幅が広がり、やれることの幅も広がって、やりたいこと、やるべきことも増えるでしょう。そんな良い循環が生まれますので、ぜひ挑戦してほしいですね。
[『TACNEWS』 2021年11月号|特集]