特集 「弁理士×公認会計士」のダブルライセンスで歩む世界
安高 史朗(あたか しろう)
IPTech特許業務法人
代表弁理士 公認会計士
1983年6月生まれ、福岡県北九州市出身。2006年、東京大学理学部物理学科卒業。同年、特許庁審査第一部入庁。電機・通信分野の特許審査・調査。2008年、弁理士試験合格。2010年、株式会社野村総合研究所入社、NRIサイバーパテント株式会社出向。知財コンサルティング、特許動向調査に従事。2010年、応用情報技術者試験合格。2013年、公認会計士試験合格。2014年、ヤフー株式会社入社。知財戦略策定、著作権等知財法務に従事。2016年、安高特許会計事務所開業。2018年、法人化してIPTech特許業務法人となる。
特許庁、知的財産コンサルティング、企業知的財産部、特許事務所開業と、知的財産権分野で様々なキャリアを積んできた弁理士の安高史朗氏は、公認会計士の資格を持つダブルライセンサーでもある。「知財金融」の角度から知的財産の可能性を探るために公認会計士資格を取得したという安高氏だが、軸足はあくまで弁理士に置いている。安高氏が歩んできた知的財産の世界を紹介してもらいつつ、資格で描くキャリアの可能性についてうかがった。
新卒で特許庁審査部に入庁
──安高さんは特許庁で社会人としてのキャリアをスタートされました。国家公務員一種試験(現:国家公務員総合職試験。以下、国一試験)を受けた経緯をお聞かせください。
安高 中学・高校の頃は、数学と物理だけがずば抜けて得意だったので、将来は物理学研究者になりたいと思っていました。特に物理に関しては東大模試で全国1位の成績を収めたこともあって、「自分はものすごく物理ができるんだ」と思い込んで、東京大学理学部物理学科に進みました。そこは大学院進学を前提としていて、私の代も70名いる同級生のうち私ともう1名を除いた全員が大学院に進学しました。そして、半数はドクターコースに、さらにその半数は大学院に残って研究を続けています。このような物理学のハイパーエリートが大勢集う場所にいて、私は自分が決して物理学のハイパーエリートではないのだと気づいたのです。そこで研究の道ではなく、ビジネスの道を選択することにしました。
──研究者からビジネスパーソンへと、進路変更したのですね。
安高 はい。ですが、実は自分の進路を就職へと軌道修正したのは大学4年になってからでしたので、すでに一般的な就職活動の時期は逃していました。これからの進路を考えあぐねていたときに、友人から「明日、国一試験の申し込みなんだ。俺は受けるけど、安高も受けない?」と誘われたのです。「それもいいかな」と、流れで受験することを決めたのですが、国一試験は大学院入試の勉強に非常に近い内容だったので、もともと大学院入試の勉強をしていた私は無事合格することができました。
当時、特別に知的財産(知財)に興味があったり特許について勉強したりということはありませんでしたが、進路を決める際には、理系のバックグラウンドを活かしながらビジネスに関わりたいという観点から、発明や技術とも結びつきが深い知財分野がおもしろいのではないかと考えました。加えて当時の小泉純一郎内閣は「知的財産立国宣言」を表明していて知財業界が盛り上がっていたこともあって、特許庁に入ろうと決めました。
──特許庁には4年間在籍されていますが、どのような仕事を経験されましたか。
安高 審査官補として入庁し、審査業務に携わりました。審査官は出願された発明に対して特許性があるかどうかを審査するのですが、特許性審査の一番の基本は、発明として新規性や進歩性があるかどうかを判断することにあります。出願内容をふまえて先行技術調査をして、近い文献があるかないか、ある場合にはそれと同じではないか、それに基づきそれらの組み合わせでその発明が思いつくようなものでないかといった観点で、新規性や進歩性を判断します。
実務的には、出願された書類を読み込み、過去に出願された特許を調査して、出された発明と比較検討し、「このような理由で新規性、進歩性がありません」という拒絶理由通知という文書を起案し作成して、出願人に送ります。そして出願人からそれに対する反論の意見書が出れば、それを踏まえてもう一度審査を実施し、結論を出して送り返すという、完全なデスクワークかつ個人ワークです。
もちろん最初は特許調査の仕方と進歩性などの判断の仕方について指導審査官から指導を受け、承認を得て進めましたが、審査官の仕事は基本的にグループワークではなく個人でやる仕事です。特定の技術分野についての最低限の知識は必要になりますが、その勉強を含め、当時の最先端の技術が審査できるので、それを読み、理解しながら調べていくのは、新たな知見がどんどん入ってくるおもしろさがありました。加えて、自分で特許の可否を決定する権限が与えられている、やりがいと責任がある仕事でした。
特許庁で弁理士資格を取得
──弁理士資格を取得したのは特許庁時代ですか。
安高 そうです。審査の仕事は件数目標を設定し、それをめざして進めていくので、自分のペースで仕事ができますし、業務時間はある程度自分でコントロールできます。仕事としてのわかりやすさもあるので好きな人にとってはとてもよい職場ですが、一方で、デスクワークが得意でない人にとっては苦しい職場ともいえます。ワーク・ライフ・バランスを大切にできるよい職場だったのですが、残念ながら私は後者でしたね。弁理士資格を取得しようと思ったのも転職を考えてのことでした。せっかく特許庁でのキャリアを築けたので、ここでの経験を活かして次の仕事を探し、知財を軸として自分のキャリアを築いていきたいと考えたのです。そのためにも知財の最高峰資格である弁理士資格を持っていれば、わかりやすく自分の知見の証明ができると思い、退職する前に取得しようと考えました。
──受験時代について教えてください。
安高 お話ししたように特許庁では自分のペースで仕事ができたので、退勤後に受験指導校へ通学して勉強しました。勉強時間も含め、自分の時間を確保しやすい職場だったので、そこは恵まれていました。おかげで1年間で無事合格できました。
──特許庁での実務によって弁理士受験に有利な点はありましたか。
安高 弁理士試験は、特許庁において審判または審査を5年間経験していると試験科目が免除になる制度があります。私は入庁3年目に受験したので免除制度の恩恵は受けられませんでしたが、特許庁にはこの制度を利用して弁理士資格を取得する人が多いですね。
こうして2008年に弁理士試験に合格し、2010年に株式会社野村総合研究所(以下、NRI)に転職しました。正確には関連会社のNRIサイバーパテント株式会社に入社したのですが、本社採用からのNRIサイバーパテント出向になっています。
知財コンサルタント時代に公認会計士資格を取得
──当時の転職理由をお聞かせください。
安高 審査官の仕事は基本的に書面ベースで特許の可否を判断するので、出願に対して積極的なアドバイスやコンサルティングなどをすることはできません。基本は発明を否定するスタンスなので、もっと出願人や知財のプレイヤーに対してわかりやすく喜ばれる仕事がしたいと思うようになり、転職を考えるようになりました。そこから知財コンサルティングの観点で探したのですが、業界的にあまり多くの転職先がない中で、NRIサイバーパテントは、NRI本体で経営コンサルティングの仕事を経験してきた人が出向して作った、知財に特化したコンサルティングをやっている会社である点が非常によいと判断しました。
──思い描いていた仕事はできましたか。
安高 非常に勉強になった4年間でとても楽しかったですね。知財の専門性はもちろん特許庁で身につけましたが、今日のビジネスの基礎的スキルは、すべてこの4年間の経験で培われたものです。
公認会計士(以下、会計士)試験へのチャレンジを始めたのも、NRIサイバーパテントに転職した2010年のタイミングでした。
──会計士資格を取ろうと思ったのは業務上の必要性からですか。
安高 知財を軸にコンサルティングをするとはいえ、やはり仕事の中で財務・会計・数字の専門知識を持っている必要があるだろうと感じたのです。自分にはその知識がないという明らかな課題感がありましたので、転職が決まったタイミングで日商簿記検定3級、2級と勉強しました。簿記は会計まわりの知識をわかりやすく体系的に取得できる非常によい資格だと思いますね。2級まで取って、かなりの知識が身についたと感じましたし、簿記の勉強が楽しく、役にも立ったので、最後に何か集大成として勉強しておきたいと考えて入社後から会計士資格をめざしました。
また、今後の自分のキャリアパスを考えたとき、何かしらわかりやすい特徴があったほうがいいと思ったのももうひとつの理由でした。「弁理士」と「特許庁キャリア」だけでも充分わかりやすい特徴ですが、もっと尖ったほうがいいだろうと考えたのです。ダブルライセンスにはいろいろな組み合わせがありますが、弁理士×弁護士、弁理士×税理士、弁理士×中小企業診断士といった組み合わせに比べ、弁理士×会計士は圧倒的にレアで、ほとんど見受けられませんでした。そこで、自分の特徴をより強く打ち出すためにも会計士資格を取ろうと思ったのです。
──差別化のための会計士受験だったのですね。
安高 そうですね。もちろん、弁理士と会計士のダブルライセンスに狙いをつけたのは、知財業界の課題感も関係しています。「知財金融」という言葉はかなり昔からあって、知的財産権というものをどのように会計的に評価して金融システムに乗せて流動化させるか、あるいはそこから知財の売買に結びつけていくかという事業テーマは、以前からの課題のひとつであり、そこは真に対応できる専門人材がいないと言われ続けてきました。知財を扱う人間には会計はわからないし、会計を扱う人間には知財はわからないというわけです。この弁理士×会計士の重なる領域こそ、これから注目を浴びるのではないかという仮説が自分の中にあったので、その事業テーマに対応できる非常にわかりやすい特徴を持った専門人材になりたいと考えたのです。
──とはいえ、新しい仕事と並行しての会計士受験は大変ではありませんでしたか。
安高 合格まではトータルで2年半かかっています。当初は、一般的な初学者向けのカリキュラムを1年間受講して試験に臨むというスケジュールを考えていました。ところが、入門期まではついていけたのですが、入門期が終わったら一気に講義数が増え内容も難しくなりました。ちょうど同時期にコンサルティングの仕事も忙しくなり、まったく講義に出られなくなったため、一時期中断して半年間は勉強しませんでした。年度末を超えると一旦楽になることがわかったので、スケジュールを組み直して4月から再び1年間のスケジュールで猛勉強を始め、2013年5月に短答式試験を突破し、8月に論文式試験も突破して合格を手にすることができました。
IT系スタートアップベンチャー支援で独立開業
──NRIサイバーパテントに4年間勤務したあと、今度はヤフー株式会社に転職されましたね。
安高 はい。NRIサイバーパテントではコンサルティングの仕事や様々な案件を経験できて、非常によい勉強になりました。ただ当時の私は、コンサルティングという外部の立場の限界点を感じるようになっていて、中に入り込んで仕事をしたいという気持ちが抑え切れなくなっていました。「一般企業の知財部で仕事したら、きっとおもしろいだろうな」という思いで、2014年にヤフー株式会社に転職しました。
ヤフーでは知財部で知財戦略策定と著作権などの知財法務に関わり、2年弱という短い間でしたが、企業知財部での貴重な経験ができましたし、企業の知財部を経験しているのとしていないのとでは、知財業務の全体像の把握レベルが違うように感じました。
──そして2016年、安高特許会計事務所を立ち上げました。独立開業に至る背景には、どのようなことがありましたか。
安高 いつか自分で仕事をしたいという思いは以前から持っていましたが、当時は次の道を模索しながら転職活動もしていました。そして最終的には「自分でやってもいいかな」と結論づけて、独立に踏み切りました。特許事務所勤務経験のない人による特許事務所の開業はかなりレアで、不安はありましたが、「何とかなる」という思いと「自分で仕事をしたい」というシンプルな思いが不安を上回りましたね。
──開業当初はどのようにクライアントを開拓したのですか。
安高 FacebookやTwitterなどSNSに「独立しました」と書き込んだら、いろいろな方が案件を紹介してくれて、紹介から仕事が広がっていきました。今でもほぼ紹介で継続的に依頼が来ています。特に弁護士や税理士といった士業の方からの紹介が多いのが特徴で、ご自分のクライアントから特許の依頼や知財コンサルティングの相談があると、私に紹介してくれます。
ただし、クライアント「ゼロ」、特許事務所勤務経験「ゼロ」での独立は、あまりおすすめできません(笑)。きちんとクライアントを確保してから独立することをおすすめしますね。
──どのようなビジョンを持って独立開業されましたか。
安高 ひとつが、今も継続しているIT系スタートアップベンチャー(以下、ITスタートアップ)への注力という切口です。このニッチな領域に注力したのは、何かしら自分の強みとなる「色」を出す必要があると思ったからでした。色のひとつが、前職のヤフーで培ったIT系の強みと、その頃から絡みのあったスタートアップ企業です。まだ若くてフットワークも軽く、インターネット文化にも馴染んでいる自分なら、年齢的にもターゲットに刺さると思いました。また、感度の高い方から受けた「今、スタートアップが熱いよ」というアドバイスにも背中を押されましたね。
今でこそスタートアップの知財は注目されている分野ですが、当時おそらくITスタートアップへの特化は誰もやっていなかったと思います。ITスタートアップ分野が必ず盛り上がると言われていたので、私の領域として掲げて取り組んだ結果、楽しくやりがいもあり、今後も成長する分野であると確信し、今も継続しています。
そしてもうひとつのビジョンは、会計士資格を取得した理由のひとつである弁理士×会計士のダブルライセンス領域への注力です。事務所名も「特許会計事務所」とネーミングしたのですが、結果的にこれは仮説が外れてしまいました。
──仮説が外れた、とはどのようなことでしょうか。
安高 弁理士と会計士が連携して活躍できる分野というと、知財の価値評価がその中心になると思います。ただし「知財の価値評価=金銭的な価値評価」と捉えるのは大きな誤りで、知財の価値評価には数値化できない定性的な評価も入りますし、むしろ定性的評価だけで足りる場面や、定性的評価のほうが重要な場面が多数あります。それでも特許権の売買や現物出資や相続や移転価格税制が絡む際には、知的財産権をお金の尺度で評価しなければならない場面もあります。そうなると知的財産権としての内容よりも会計や税務の視点が重要になるので、そこに弁理士と会計士の連携が必要になります。
ただ、この知財の金銭的価値評価では、合理的で納得のいく数値を出すのはとても困難です。私自身、看板を掲げていくつかの仕事に関わっていくうちに、この分野の難しさがわかりました。知財の金銭的価値を客観的合理的に決める手段というのは、何十年も前から課題として言われ続けていたところでいまだに変化がないわけですから、おそらく根本的に難しいのでしょう。こうした流れで、ITスタートアップの柱一本でやっていくことにしました。
高品質な知財マネジメントサービスを強みに法人化
──2018年、安高特許会計事務所はIPTech特許業務法人(以下、IPTech)に組織変更しました。法人化に至った経緯をお聞かせください。
安高 いくつか理由がありますが、わかりやすい理由は、個人事業主よりも法人のほうが税務上のメリットが大きいことです。もう1つの理由は、個人事務所だとどうしても私個人に組織が紐づいてしまいますが、IPTechというブランドで法人化することによって、「安高史朗」という人格と「IPTech」というブランドを切り離そうと考えたことです。立ち上げ時は個人事業主のほうが便利ですが、一定以上大きくなると組織としてのブランドにしたほうが絶対にやりやすいし、IPTechというブランドを育てていくほうが将来的な成長には望ましいと考えたのです。
特許法人にすると、無限連帯責任を負う代表が2名以上必要になりますが、そこは副所長兼COOになってくれた湯浅竜が一緒にリスクを共有してくれたので、法人化を実現できました。現在は総勢30名で弁理士は10名ほどの組織になっています。
──法人化以後の方向性もこれまでと変わらずITスタートアップの知財戦略がメインですか。
安高 クライアントのほとんどがITスタートアップであることは大きな特徴ですね。また特許出願だけでなく、これまでの経験を活かした特許の動向調査やコンサルティング系の業務を行っているのも特徴です。
IPTechの強みは、私が元ヤフー知財部、副代表の湯浅が元ドワンゴ知財部マネージャー、特許技術本部長の佐竹が元コロプラ知財部と、経営陣がIT系企業知財部のキャリアを持っていることです。
多くの場合、大企業が特許事務所に依頼をする際はその内容が明確で具体的なので、それをミスなくスピード感を持って実行することが求められます。一方、スタートアップ企業は「何をやればいいのかわからないけれど、課題感だけはある」という状況です。知財に課題感は持っているけれども、社内に知財を専門にする人材を迎える余裕がなく、外部に依頼するしかないというケースがほとんどですから、外部で相談を受ける専門家のスタンスとしては、スタートアップ企業の課題を踏まえた上で、やるべきことを具体的に提案しながら進めていくことが必要になります。
そうしたマインドセットを持っている人材が少ない中で、私たちのように経営層が元IT企業の知財部にいた人間、知財部のマネージャークラスを経験した人間であれば、会社の知財部として何をやるべきかがきちんとわかります。この「IT分野で高品質な知財マネジメントサービスを提供できる集団」である点がIPTechの最大の強みで、そこがITスタートアップ市場に刺さり、毎年増収増益を重ねられているのだと思います。
──ITスタートアップに対して、会計士資格は活かせているのでしょうか。
安高 本業は間違いなく弁理士ですが、弁理士×会計士のダブルライセンスは自分のブランディングにはなっていると思います。何よりITスタートアップの経営者と会話する中で、経営視点の会話に対応できるのは会計士の知見があるからで、そこはひとつ刺さる部分になっていると思います。「知財だけしかわかりません」という専門家ではなく、会社経営全般含めてわかっている人間として、経営者から会社の話をどんどん引き出し、そこから知財の課題を見出すことも必要なので、会計士のスキルは一応役に立っているといえますね。
資格があるから描けるビジョン
──今後についてはどのようなビジョンをお持ちですか。
安高 「IT系」という専門性は軸として持ち続けていくつもりです。「スタートアップ」の定義に関しては、ベンチャー企業だけでなく大企業の新規事業という切口もありますね。また開業当初まだ上場していなかったクライアントがIPOを経て、上場後に大きくなってもおつき合いしているケースがあるので、クライアントの規模はどんどん拡大しています。それでも基本的にITスタートアップに関わっていきたいというマインドは変わっていないので、知財面で支えながら一緒に成長していきたいと考えています。
──具体的にはどの程度の規模感をめざしているのですか。
安高 当面の目標として50名体制まで拡大していこうと思っています。ITスタートアップというターゲットゾーンを外すつもりはないので、それ以上大きくするつもりは今のところありません。そこまで拡大したあと、どこをめざしていくかはそれからの課題になります。50名規模がこの業種において組織としてまとまりやすく、質も担保できるちょうどいいサイズだと思っています。
あとは、個人的にITスタートアップとの関わりが単純に楽しいので、この分野での実績をどう積んでいくか、どのような支援の仕方があるのかを模索していきたいですね。海外展開というのもひとつ視野に入れていて、海外のクライアント、海外事務所との連携といったところも、いずれは考えていけたらと思っています。
──弁理士の仕事のやりがいやおもしろさを感じるのはどのような部分ですか。
安高 特許を取得できたときがわかりやすく一番うれしいと言えますが、知財は性質上、特許を取得したことによって新しい事業が生み出せる、あるいは事業がすぐにうまくいくというものではありませんし、取得して終わりということもあります。そこが知財の難しいところでもありますが、特許を取得したことでクライアントの評価額が上がったり、会社のバリュエーションがうまくいったり、事業連携がうまくいったりしたときは、やりがいを感じますね。
──最後に弁理士や会計士、その他資格をめざして勉強している方々に向けてメッセージをお願いします。
安高 弁理士に関して言えば、知財業界には弁理士資格を持たずに働いている人もたくさんいます。でも知財業界で専門性を持って働いていく上で、自分のポジションを選んだり自分の強みを発揮したりするためには、必ずあったほうがいい資格です。
また弁理士に限らず、資格受験生には、やりたいことに対して必要に迫られて始める方と、まだ目的が不透明なまま勉強している方の両方がいると思います。やりたいことが明確になっていないのに資格の勉強をするのはいかがなものかという意見もあると思いますが、私は全然「あり」だと思います。資格ごとに築けるキャリア、描けるキャリアが様々なので、どんな資格も必ず自分にとってプラスにすることができるし、どこかの時期に一度がんばりきって資格を取得することは、非常に価値のあることだと思います。ぜひがんばって合格をめざしてください。
[『TACNEWS』 2021年7月号|特集]