特集 資格で「複業」~ベンチャー人事と開業社労士のパラレルワーク
林 孝行(はやし たかゆき)氏
IT企業 人事・総務ユニット責任者
林戦略社会保険労務士事務所 代表
社会保険労務士
1982年1月生まれ、東京都出身。青山学院大学経営学部卒業。新卒で設立2年目のアパレルベンチャーに入社し、入社2年目からひとりバックオフィスとして12年間、企業成長に貢献。その間、組織は20名から180名強に成長。2018年、社会保険労務士試験に合格。同年、IPOをめざすITベンチャーに人事・労務リーダーとして転職。同社のIPOに貢献。現在は人事・総務ユニット責任者として経営陣と全社戦略に取り組む。2020年9月、林戦略社会保険労務士事務所を開業、他社人事労務相談対応にも奔走する。メンタルヘルス・マネジメント(R)検定試験Ⅱ種も取得。
「ふくぎょう」には3つの意味がある。「副業」は本業の他に職業を持つこと、「復業」は一時やめていた業務に戻ること、そして3つ目の「複業」は本業を複数持つことを指している。社会保険労務士の林孝行氏は、企業勤務と並行して自ら社労士事務所を開業する「複業社労士」。林氏の活躍にスポットを当て、林氏がパラレルワークを展開した経緯と背景、2つのビジネスのシナジー効果について探ってみたい。
たったひとりでバックオフィスを担当
──林さんは現在、IT企業に勤務しながらパラレルワークで社会保険労務士(以下、社労士)事務所を開業しています。資格取得は学生時代から意識していたのですか。
林 していませんでしたね。中学から高校にかけてずっと洋服店を経営したいと考えていたので、大学は経営学部に進みました。同じ学部には公認会計士をめざしている友人もいたのですが、自分自身は資格とは無縁だと思い込んでいて、意識したことは一切ありませんでした。学生時代は、とにかくアルバイトとスノーボードに明け暮れていましたね。
──就職活動でも、アパレル業界をめざしたのですか。
林 アパレル企業を中心に応募して、設立2年目のアパレルベンチャーに入り、店頭に立つ販売員としてキャリアをスタートしました。その会社は当初従業員数がわずか20名だったのですが、私がいる間にどんどん人が増えていきました。そんな中、小さな会社で人事・総務担当が誰もいなかったので、私に白羽の矢が立ったのです。
──販売員としての活躍が目にとまったわけですね。
林 2年間販売員を経験したのち、バックオフィス専任メンバーとして本社へ異動になり、2018年に退職するまでの12年間、たったひとりで人事・労務・総務と一部経理を担うことになりました。その間、従業員は180名超となり、人が10倍近く増える成長フェーズも経験したわけです。
そもそもバックオフィスに誰もいないということは、人事制度も教育制度も何もないということです。本社へ異動になったあとは、自分でパソコンを設定し、会社のWebサイトを作るところから始めました。そのあとは、備品を発注するといったような総務的作業から、給与計算、採用、評価制度作りと、会計周り以外のすべての人事・労務業務、総務業務をほぼひとりで担いました。
通勤時間を利用して勉強
──どのようなきっかけで社労士資格の取得を考えたのですか。
林 最初から明確に社労士資格を取ろうと思っていたわけではなくて、きっかけは2000年代後半、「ブラック企業」という言葉が世間で話題になり始めたことです。アパレル業界は体質的にブラック企業と呼ばれやすく、社員の労務に対する関心も高まっていたので、何か聞かれたときにきちんと答えられる知識がないといけないなと、必要に迫られたことが発端でした。
そこから労働基準法について学び始めて、ある程度わかってきたなという頃に、社労士という資格があることを知りました。年金など興味がわかない分野もあったのですが、雇用保険や健康保険など、人事・労務・総務の知識がパッケージ化されている社労士試験に合格すれば、社員の質問にも答えられるはずだと考えたのです。
──受験時代はどのような方法で勉強しましたか。
林 学校に通う時間がなかったので、TAC出版の市販テキストを購入して勉強し、ひたすら問題を解いていました。ただ、模擬試験は受けたのですが1回目は合否のボーダーラインにもまったく届かないような点数で、これは無理だなと思いました。2回目の模擬試験でも合格点には及ばず、合格する手応えをまったく感じられませんでしたね。
──社労士試験は試験範囲が広いので勉強も大変だったと思いますが、受験時代のエピソードを教えてください。
林 これを話すとびっくりされるのですが、勉強は、当時住んでいた鎌倉から、会社のある渋谷までの通勤電車の往復2時間、問題を解いていただけでした。それが平日の勉強スタイルです。加えて、2017年の1回目の本試験までは、土日どちらか1日、朝9時から夕方5時まで図書館で勉強しました。
今でも鮮明に覚えている、当時の記憶があります。1回目の本試験当日、まさにこれから試験を受けに行こうというときに、妻から妊娠を告げられたのです。「これはがんばらないと」と思いつつ、結果はあと1点足りずに不合格。一度は「もう諦めよう」と思いました。
翌2018年の2回目の試験の直前期は、ちょうど子どもが生まれたばかりだったので、育児に時間を割くようになっていましたし、産後の妻のサポートもしていました。しかも転職をしたばかりで、転職先のIT企業は上場準備の段階でかなり大変な状況でしたから、受験すること自体、どうしようかかなり迷いました。しかし前年あと1点不足で合格を逃したことが心残りで、「これで最後、もう1回だけチャレンジしよう!」という気持ちになりました。
ただそんな状況だったので、試験前に図書館に行くこともできず、往復の通勤時間だけが勉強時間になりました。我ながらこんな切迫した状況で、よく試験を受けたなと思います(笑)。1日働いて帰宅すると、夜はミルク&おむつ担当だったので、本当にノンストップでした。気がついたら朝6時で、「もう会社に行かなきゃ」という日もあって、通勤時間に勉強していてもボーッとしてしまって頭に入らず、何度も同じ問題を間違えたり……。それでも本試験だけは受けようと心に決めていました。
──そうして臨んだ2回目の本試験の手応えはいかがでしたか。
林 終わった瞬間、「多分これは受かったな」と思いました。ところが試験後の解答速報で答え合わせをして安心しようと思ったら、国民年金の選択問題で問題の読み違えを見つけてしまい、国民年金が2点しか取れていないとわかったのです。「これでは昨年と同じ結果になってしまう!」と自暴自棄になりかかったのですが、私と同じ間違いをしている受験生がかなりいたようで、2017年はなかった合格基準点の補正が2018年は適用されました。この補正に救われて合格したようなものです(笑)。
そして、転職先のIT企業の上場が終わったあと、合格通知を受け取りました。
──合格したときの感想はいかがでしたか。
林 何よりホッとしましたね。人事・労務の仕事は営業職などの仕事とは違って数値化できませんから、会社に貢献していても見えにくいのですが、合格によってそれまでやってきたことが「資格」という目に見える形になったことが、とにかくうれしかったです。
IT企業の人事・労務責任者として上場に貢献
──今のお話にもありましたが、2018年、奥様の妊娠・出産、社労士受験がある中でIT企業に転職されています。どのようなことがきっかけでしたか。
林 一番は「もっとチャレンジしてみたい」という思いがあったことです。新卒で小さい規模の会社に入って十数年もいると、社内では古株になります。自分のキャリアを考え始め、35歳という年齢になったとき、まだ会社が上場するような動きもなかったので、もっと違う分野にチャレンジしたくなったのです。
もちろん社長も私に全幅の信頼を置いてくれていたので、ずっと在籍していれば経営幹部という道も開けたでしょう。それはとてもありがたかったのですが、それよりも「このままでいいのか」という思いのほうが強かったですね。そこで今度はアパレルの真逆にあるIT系企業、かつ上場をめざしているところで、裁量ある仕事ができるようなマネージャークラスのポジションを軸に、転職先を探しました。
そうして選んだのが、現在勤務している定性データ解析SaaSとコンサルティングサービスを扱うITベンチャー企業です。2018年3月、IPOをめざしていたこの企業に人事・労務リーダーとして入社し、人事・労務・総務全般とIPO審査対応を行いました。審査中は監査法人や証券会社、東京証券取引所とのやりとりも経験して、どのようなポイントを重点的に見てくるのかがわかりましたね。入社してからの半年間で、上場までの最後の詰めをすべて経験させてもらえたのです。
そして同年10月に上場を果たし、今は広報や法務も含めた人事・総務ユニット責任者として、実務で手を動かしながら経営陣と全社戦略に取り組んでいます。現在、ユニットには4名のメンバーが在籍し、1名は情報システム専門、もう1名は広報専門、そして残りの2名で人事・総務の業務を分担しています。会社は30名規模になりました。
──幅広く業務を担っておられますが、役割は入社当初から変わってきていますか。
林 入社以来今もずっと、プレイングマネージャーとして動いていますね。人事・労務リーダーとして入社したものの、管掌業務がはっきり決まっていたわけではなく、総務的な仕事なども含めあれこれと携わっているうちにそれらの業務の責任者として部下を持つようになりました。今はその人たちを見つつ、自分でも実務を担っています。ですから、相変わらずプレイングマネージャーのまま、変わっていませんね。
──社労士資格を得たことで、仕事に向き合う上での変化はありましたか。
林 勤怠管理でも給与計算でも、自分の中で「社労士になったのだから間違えられない」という意識が根づいた気がします。従業員と労務について話すときも「社労士の林さんが言うのだから正しいでしょう」と言ってもらえるので、うれしさの反面、責任を感じるようになりました。そこはよかった点だと捉えています。
「現役の人事・総務責任者」を強みに開業
──ビジネスでもプライベートでも多忙を極める中で、2020年、社労士として開業されました。開業のきっかけはどのようなことでしたか。
林 私の場合、サイドビジネスの「副業」ではなく、パラレルワーク、いわゆる「複業」として、2つの仕事を並行してやっています。開業しようと思ったのは、新型コロナウイルス感染拡大の影響が大きかったですね。
コロナ禍になって、様々な会社で助成金申請や労務問題が頻発するようになりました。私も知人からいろいろ相談を受けたのですが、友人としてアドバイスはできても開業社労士でなければ実際の手続きはできません。相談を受けながら、「今の自分にできることで、他の人の助けになることがあればサポートしてあげたい」と思ったことが、開業の一番のきっかけです。もうひとつの理由は、もし社労士として開業すれば、実務家として動く中で新たな知見が身につくであろうということでした。それを会社に還元し、うまく循環するしくみができれば、大きなシナジー効果が生まれます。そこを期待して事務所を立ち上げました。
勤務先のCFOに開業の意向を伝えると、会社での実務に影響がなければOKという返事をもらえましたので、すでに2019年2月に勤務社労士として登録していましたが、2020年9月に開業社労士に登録を変更しました。
──開業に際してどのような準備をしましたか。
林 開業する2ヵ月ほど前にはお客様から就業規則の見直しの依頼をいただいていたので、動けるのは最短でも2ヵ月後になるという約束を交わしてから登録作業に入りました。ですから準備というよりも、約束を果たすために開業登録をスムーズに行うことを心がけました。
──就業規則に関して、自社のものは仕事として関わってきたと思います。一方で、社労士事務所ではたくさんの会社の就業規則を見ることになります。初めて他社のものを扱うことに不安はありませんでしたか。
林 不安はゼロではありませんでしたね。開業すれば、自分が経験したことのない領域の依頼をいただくこともあるだろうとは想定していました。でも、そうした場合でも調べたり周囲に相談したりすれば何かしら答えは出るし、それをこなすことで自分自身の知見のストックが増えて仕事がしやすくなっていくだろうと考えました。
──パラレルワークとして社労士事務所を開業されましたが、2つのビジネスはどのような時間配分で行っているのですか。
林 平日の日中は9割9分、勤務している会社の業務をメインに動き、社労士の仕事は平日の退社後の夜と土日に行っています。クライアントとの連絡には基本的にコミュニケーションツールSlackを使っているので、休憩時間や昼休みにスマートフォンをチェックして返信し、月1回のミーティングは会社の休憩時間を充てて、終わったらまた会社の仕事に戻るようにしています。会社はフレックス制なので、ある程度柔軟に動けるのは助かっています。
上場をめざすベンチャー企業が対象
──社労士としての業務内容をお聞かせください。
林 基本的なサービス内容は、各種社会保険手続き、給与計算、就業規則、規定作成・改訂、人事労務相談、人事制度、評価制度構築サポート、採用戦略構築サポート、助成金申請対応、HRtechツール導入サポート、労務監査などのラインナップになっています。私の強みは、現役の人事・労務担当者がサポートすることによって、より現場に沿った改善案が提案できることです。これまで小売業界とIT業界で、人事・労務の専任がいない、あるいはほぼいない状況で、数名から200名規模の組織の人事・労務を一手に引き受けてきたので、実際に手を動かして得た知見や経験をクライアントに提供できる自信があります。
現在、顧問契約で3社ほど受けていて、そのうち2社は手続き関係と給与計算なども受けています。
──給与計算は金融機関にデータを送信する日が定められており、遅れは許されません。平日にデータを送信する場合はどのように対応しているのですか。
林 勤務先も含めて、給与計算はとことん効率化しようと思えばかなりの工数が省略できると思っています。実際、勤務先の給与計算はほぼ自動化を実現しているので、クライアントにも応用して工数を軽減することで、平日でも対応できると考えています。
──開業してからの集客にはどのような方法を使っていますか。
林 企業内だけでなく、社労士としての集客手段も質疑応答も、今やSNSなどのネットワークを使うのが一番早いですね。最初に依頼がきた就業規則の見直しも、SNSからの依頼でした。意識してSNSを営業に利用しようとしたというよりは、以前東日本大震災のときに作ったアカウントがあったので、そこに「社労士事務所を始めました」と書き込むところからスタートしました。まずはSNSで情報発信してみて、そこから仕事を広げていけばお金もかかりません。仮に新たにターゲットにしたいクライアントゾーンができたら、そのときは別のアプローチを考えればいいだろうと思っています。
──林戦略社会保険労務士事務所は、上場企業の人事・労務担当者が構えている事務所だという点が強みとのことですが、ターゲットはどのようなクライアントゾーンになりますか。
林 事務所の強みとしては、私が今現在上場企業にいるということよりも、上場するまでのプロセスを見てきた知見のほうが大きいと考えています。上場までのプロセスで想定されることはひと通り経験していますので、「上場に向けて打てる手は打っておきたい」というニーズのあるクライアントとは、Win-Winの関係が構築できると思っています。逆に言えば、大企業の顧問先はありませんから、経験上、200名以上の規模は対象としていません。やはり上場をめざすベンチャー企業がターゲットになりますね。
──2020年9月から開業社労士としてスタートした手応えはいかがですか。
林 開業からまだ1年も経っていないので、正直まだプレッシャーを感じる部分はあります。社内で受けた相談であれば「確かこうだと思うけど、あとできちんと調べてみます」という対応でも問題ありませんが、クライアントは私個人で全責任を負うので、責任の大きさが違います。まだ走り出したばかりですが、社内と社外と、両輪がうまく回って回転数が上がってきたら、少しずつクライアントを増やすことも考えていきたいですね。
また時間の使い方という面では、勤務先の仕事がデフォルトで平日日中にあるので、そこに影響を与えない範囲でやっていきたいと考えています。事務所のクライアントを一気に増やしてしまうときっとバランスが崩れてしまうので、そこは先ほどお話しした効率化を図りつつ、1社1社丁寧に対応しながら、削れる時間をしっかりと見極め、余力ができたら、そこでまた1社増やすといったかたちで契約を増やしていきたいと考えています。
──IT企業の人事・総務ユニット責任者として全社戦略に取り組みつつ、開業社労士として他社の人事労務相談に乗る。パラレルワークによって、勤務先での仕事の取り組み方に変化はありましたか。
林 「このタスクはどれくらいでできるか」といった仕事上の効率化は以前よりもかなりシビアに見るようになりました。時間の見積りや計画の立て方は常にチェックしつつ、徹底的に工数を減らす工夫をしています。
ちなみに、ユニットのメンバーに社労士として開業したことを話したら、「林さん、会社の仕事がこんなに忙しいのに、そんなに働いて次は何するんですか」と言われてしまいました。私は相当忙しいと思われているようです(笑)。
開業社労士として働く上で企業内実務はマスト
──今後の働き方についてはどのようにお考えですか。
林 これからも上場企業の人事・総務責任者として、全社戦略に関わっていきます。ただ、責任者といっても役職にこだわりはないですし、自分の中では入社以来やっていることはあまり変わっていないと認識しています。今後もこれまでの延長線上でやっていきますし、さらなる将来、組織内の効率化が進んでしくみが完璧にでき上がり、私がいる必要性がなくなったら、人事・労務のスペシャリストを必要としている他の会社に動くかもしれません。
──開業社労士1本にするという選択はありますか。
林 企業の人事・労務担当者として自分で手を動かしていることに意味があると思っているので、それをやめて開業社労士1本でクライアントと相対すると、現場の手触り感が違ってきてしまう気がしています。人事・労務の第一線に携わっている今のバックグラウンドがあるからこそ答えられる質問、乗れる相談があります。ですから企業の人事・労務担当者として働き続けることはマストですね。
──開業社労士としてオファーやクライアント数が急増した場合は、どのように対応しますか。
林 顧問事務所として手続き業務や月1回の労務相談で法改正対応をする程度であれば、おそらくもっと手広くできると思います。けれどもコンサルティング案件が増えそうであれば、お断りするかもしれません。私としては件数を増やすよりも1社1社と深く関わって入り込んでいくことを優先したいからです。IPOをめざすのであれば、準備段階から実際に上場を果たすまで伴走していくスタンスでやりたいので、そうなると社数はそれほど増やせないと思っています。勤務先の仕事と並行していくためにも、手続き業務をやるだけのお客様をたくさん取っていくより、しっかりサポートしたり、相談に乗れる事務所をめざします。
──仕事をする上で、ネットワークはどのように広げていますか。
林 私と同じようにパラレルワークで開業している社労士は少ないですが、そうした中で2人ほど、同じように開業している社労士仲間がいます。あとは企業労務の集まりに参加しているので、困ったことや相談があれば、そこに集う他企業の人事担当者に相談します。こうした集まりは、FacebookやTwitter、Slackのワークスペース上にあるので、直接会わなくてもSNS上で誰かが質問すれば必ず誰かが答えてくれます。
まずは「やってみる」、そして「楽しむ」
──今後勉強してみたいと考えている資格などはありますか。
林 1つは、社内にMBA取得者がかなりいて活躍していますので、体系的に学ぶためにも、時間があれば大学院でMBAを取りたいという希望があります。もう1つは、業務効率化のためのデータサイエンスを学びたいと考えています。今いるIT企業の事業的にも、データサイエンティスト的なものの捉え方やアプローチ方法はとても参考になるので、私も今プログラミングを学んでいます。また、キャリアコンサルタントの資格にも魅力を感じています。
──社労士資格の活かし方としては、一般的にはまだ企業内社労士か、あるいは独立開業かのどちらか一方を選ぶ方が多く、企業にフルタイム勤務しながら開業している社労士は珍しいと思います。これからは林さんのような「複業」という働き方も、新たな選択肢に加えるべきとお考えですか。
林 そう思いますね。私がパラレルワークで開業もできると判断した理由のひとつに、申請の電子化があります。もし紙ベースの書類提出が必要だとしたら、平日の昼間の時間を割いて提出に行かなければなりませんし、届け先も複数あります。ましてや地方管轄であれば、それだけで勤務先の業務に支障が出てしまいますから、企業勤務と開業社労士を並行しようとは思わなかったでしょうね。でも今は手続きは電子申請ができるので、社労士有資格者が会社勤務などと並行して開業できる下地はすでにできていると思います。
──複業をスタートする際、奥様の反応はいかがでしたか。
林 「身体に気をつけて、できる範囲でがんばって」と言ってくれました。開業してからも、毎週土曜日は妻のフリータイムにして、朝から1日、私が子どもの面倒を見ることになっています。私自身、子どもと一緒に過ごす時間がとても楽しいので、土曜日は朝7時に子どもが目覚めると、一緒に朝ごはんを食べながら「今日はどこへ行く?」と相談して、スカイツリーに行ったり、電車を見に行ったりしています。
──人事・労務の仕事を担当している方にとって、社労士資格は有益でしょうか。
林 そう思います。私も最初は年金などの知識はいらないだろうと思っていたのですが、「毎月これだけの金額の年金保険料を払って、将来は一体いくら年金をもらえるのですか」という質問が従業員からありましたので、知っていれば必ず役に立つはずです。人事・労務畑のすべてを網羅的に勉強するには、やはり社労士の試験勉強が最も効率的です。その知識があれば、どんな相談を受けても答えられるので、その積み重ねが信頼につながっていきます。
──現在勤務している社労士有資格者の方が開業とのパラレルワークを検討しているとしたら、どのようなアドバイスをしますか。
林 とりあえずやってみることをおすすめします。社労士資格を取得する方は、もともと何かビジョンがあってめざしたと思います。取得したあと次の一歩を踏み出すには勇気がいると思いますが、そのときに必要なのは「やってみれば何とかなる」「まずはやってみる」、そして「楽しむ」というマインドです。迷ったら周りに聞けばいいし、今はインターネットで検索すれば何かしらのヒントは必ず出てきます。その気になればサポートはいくらでもあるとお伝えしたいですね。
──最後に、資格取得をめざして勉強中の方に向けてメッセージをお願いします。
林 社労士といえば、どうしても「手続き」のイメージが強いと思います。もちろんそうしたニーズはありますが、企業のジャッジをしなければならない仕事でもあると思います。やはり「人」に関わる職業ですから、企業内の「人」の部分を一緒に考えながら、答えのないフィールドに道筋をつけていく。それが社労士の仕事だと思っていて、そのためには理論武装も必要になってきます。理論と実践のフィールドを行ったり来たりしながら道筋をつけていけるところが社労士の最大のおもしろさとやりがいだと思います。ぜひ、合格をめざしてがんばってください。
[『TACNEWS』 2021年7月号|特集]