令和元年度 不動産鑑定士試験
1位合格者インタビュー
ライフステージや環境が変わっても
働き続けられるのが不動産鑑定士の強み
令和元年度不動産鑑定士試験において、TAC不動産鑑定士講座から1位合格者が誕生しました。現在、鑑定会社に勤務されている樋口麻央さんです。樋口さんは受験勉強を始めてから1年2ヶ月という短期間で、2位以下に大きく差をつけてストレート合格を果たしました。そんな樋口さんに、不動産鑑定士をめざした経緯や、受験勉強中に工夫したこと、今後のキャリアプランについてお話を伺いました。
(※当記事は2020年2月に取材しました)
令和元年度不動産鑑定士試験 1位合格者
■樋口 麻央(ひぐち まお)さん
1990年兵庫県生まれ。東京大学教養学部総合社会科学科卒業後、総合建設会社で3年間勤務。結婚を機に教育関連の団体に転職、2年間勤務したのち退職。2018年5月より不動産鑑定士試験の学習を始め、令和元年度不動産鑑定士試験において1位合格を果たす。現在は大和不動産鑑定株式会社に勤務。
ゼネコン出身で建物好き
専門知識を持って仕事がしたいと受験を決意
──不動産鑑定士試験をめざしたきっかけを教えてください
樋口 大学卒業後は総合建設会社(ゼネコン)で現場事務を担当していました。建設現場で発生する契約書の作成や書類の整備、会計などが主な仕事です。プロジェクトごとに手がける工事が異なるのが楽しく、モノづくりを土台から支えられることが嬉しかったです。
新卒から3年ほどゼネコンに勤めたのですが、結婚を機に退職しました。仕事は好きでしたが、全国転勤があるため家庭と両立するのは難しいと感じました。その後は教育系団体の事務の仕事に転職しました。そこで、これから先の自分のキャリアを考えてみたのですが、「これだ」と胸を張れるものがないことに気づいてしまいました。
長く仕事を続けていくために、手に職をつけたい。せっかくなら、大きい企業に所属しても、独立して一人になっても働くことのできる資格を手に入れよう、と決意しました。弁護士や会計士も検討しましたが、不動産鑑定士(以下、鑑定士)が一番興味を持って働けそうだと感じました。現場が好きで建物にも興味があり、ゼネコンでの経験も活かすことができるかもしれないと思ったからです。また、鑑定士ならばオフィスと現場とでバランスよく仕事ができるのも魅力的でした。
──受験勉強をするに当たって、TACを選択された理由は何ですか?
樋口 鑑定士試験について自分なりに調べてみたところ、まず、難易度が高いことはわかりました。そこで市販のテキストをチェックしてみたのですが、過去問題集くらいしか置いておらず、独学で勉強するのは難しいと感じました。
受験を決意した当時は20代半ば。キャリアを積んで一人前になるまでもある程度の時間が必要ですから、受験勉強に長い時間はかけられません。短期間で合格するためには、受験指導校の力を借りた方が効率的だと思いました。
情報を集めていくうちに、鑑定士試験合格者の大半がTACの受講生だと知り、説明会に参加しました。さらに、ホームページで公開されていた体験講義を視聴するととてもわかりやすかったので、これなら続けられそうだと感じてTACに決めました。フルタイムの仕事は辞め、週3回鑑定会社でアルバイトをしながらTACに通い始めました。
TACのカリキュラムは「よそ見」不要
きちんと理解してから大量に暗記する
──TACに入ってみて、どんな点が良かったかお聞かせください
樋口 TACのカリキュラム通りに覚えて答案が書けるようになれば、必ず合格できるようになっている点です。教材類も、配布されたものに取り組んでいけば、他社の参考書を買ったりなどの「よそ見」をしなくていいのが助かりました。
また、民法など大学の授業でも扱うようなテーマは、インターネットで調べると解説が出てくることが多かったです。しかし、試験本番でも比重の大きい鑑定理論などの科目を詳しく学べるのはTACくらいしかありませんでした。講義に出ると「この疑問は、今、ここでしか解決できない」といい意味でプレッシャーになり、集中することができました。
──得意科目・不得意科目はありましたか?
樋口 得意科目は鑑定理論です。得点配分が大きく、論文もあるのでもっとも時間をかけました。総学習時間の4割は鑑定理論に割いたと思います。
不得意科目は会計学でした。つかみどころがなく、学習を進めても本当に理解できているのか、なかなか確信が持てませんでした。
──受験勉強で苦労したのはどんな点ですか? どのように解決したかも教えてください。
樋口 体験講義の段階で覚悟はしていたのですが、実際に勉強を始めてみて、難しさと覚える量の多さに圧倒されました。論文試験なので表面的な暗記では対応できません。そこで、基本講義の期間はあまり暗記に時間を割かず、「きちんと理解すること」を目標にしました。
応用期以降は、答案練習(以下、答練)のスケジュールに合わせて暗記をし続けました。テキスト、答練、授業で配布されるレジュメなどの複数の教材の情報を各科目一つに集約し、それのみを繰り返していました。直前期はアウトプット(答案構成)の練習にも時間を使いましたが、多くの問題を解くというよりは、答練や総まとめテキストの問題を繰り返しました。
──おすすめの勉強法があればぜひ教えてください。
樋口 質問はしないともったいないです。私は講義のたびに行っていたのですが、質問する人が少なくて内心不思議に思っていました。わかっているなら必要ないですが、「何がわからないかすらわからない」という人こそ行くべきです。科目数が多く、一つひとつの難易度も高いので、そのままにしているとあっという間に置いて行かれます。私も最初は難しすぎて講義後は呆然とするくらいだったのですが、テキストを読んでわからなかったことを確認し、用語を調べ、それでも腑に落ちないことは講師に尋ねる、ということを繰り返して、「しっくりくる」感覚を少しずつ掴んでいきました。
答練は毎回、真剣勝負で受けました。「テキストを見ないで書く」と決めて、ほぼ全部の回に出席したと思います。TACの答練は追い込みすぎず中だるみもしない、絶妙なスケジュール設定です。最初は範囲を区切って出題されるので、それに合わせて暗記をしていくと最後に全範囲を網羅できるようになっています。インプットのペースメーカーとして非常に優れていると思います。最初は思うように書けなくて落ち込むと思いますが、毎回本番だと思って大切に受けて欲しいです。
鑑定会社でのアルバイトで働く姿をイメージ
気分転換には散歩がおすすめ
──受験勉強中、モチベーションはどのように維持されていましたか?
樋口 直前期に入るまで続けていた鑑定会社でのアルバイトがいい刺激になりました。受験勉強中、
「そういえばこのテーマについては、エクセルで作業したことがあるな」とか「ここがこの前使った資料とリンクしている」など実務と結びつけて理解できてよかったです。
アルバイト先の事務所は2人の鑑定士が所属しており、働きぶりを間近で見ることもできました。「複数案件を抱えていて、日々何かしら締め切りがあるんだな」「大変そうだしコツコツした書類仕事も多いけれど、私もそういうことをやってきたから結構向いてそうだな」など、自分の働くイメージが具体化できました。
休みの日は夫と出かけたり、一緒に散歩したりなど、気分転換を心がけていました。特に散歩はスッキリしましたね。勉強のことを忘れて歩くのは心にも体にもいいと思います。直前期には一人でもちょくちょく散歩に出ていました。
知識のない人にもわかりやすい説明を
何年もかけて力をつけていきたい
──どんな鑑定士として活躍したいと考えていますか?
樋口 不動産の経済価値を判定・評価し、依頼人にわかりやすく伝えるまでが鑑定士の仕事です。実際に働いてみて、この「わかりやすく伝える」ことの難しさをひしひしと感じています。上司のように、明朗で、知識のない人にも腑に落ちる説明ができるようになりたいといつも思っています。
そのためには、知識はもちろんのこと、経験やコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力など幅広い力をつけていきたいです。どれだけやれば一人前になれるんだろうか、と気が遠くなりますが、一朝一夕ではできない、一生続ける価値のある仕事だと思います。
私の夫は企業で働く建築士なのですが、今後は独立したり、海外で働いたりする可能性があります。そんな時も、不動産鑑定士の資格があれば場所を問わずに仕事ができるので安心です。資格を強みに、ライフステージや環境が変わっても仕事を続けてキャリアを築いていきたいです。
──これから鑑定士をめざす人にアドバイスや応援メッセージをお願いします。
樋口 鑑定士に登録している人の男女比は9:1で、女性が圧倒的に少ないのが現状です。しかし、重いものを持つから男性でないと働けない、といったことは一切ありません。性別を問わずにできる業務内容なので、女性がもっと働いている方が自然だと思います。実際に、私の職場でも女性鑑定士は活躍していますし、家庭の都合で退職しても状況が変わって復職した人もいます。「男性の多い環境だから」と尻込みせず、女性の受験生が増えていくことを私も願っています。
鑑定士は学生の方にもおすすめしたい資格だと思います。不動産鑑定士の知識があれば、鑑定会社やデベロッパーはもちろん、不動産会社、信託銀行、会計事務所などいろいろな業界にアピールができ、将来の選択肢が広がるはずです。特に鑑定士は、全国でも約8,000人程度しかいない希少価値の高い資格なので、学生時代に取っておくと周囲と差をつけられることは間違いないと思います。年齢、学歴、国籍、実務経験等に関係なく受験できる試験なので、もっと注目が集まるといいですね。
──本日は貴重なお話をありがとうございました
[2020年2月|特集]