LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #18
内藤 香織(ないとう かおり)氏
行政書士法人シグマ
行政書士
1976年8月生まれ。埼玉県出身。東洋大学短期大学部 観光学科卒業後、東京モード学園に入学してメイクアップなどを学ぶ。卒業後は化粧品会社、ウェディングプロデュース会社で働いたのち、工業系の製造会社で派遣社員として勤務。一念発起して行政書士の勉強を開始し、2016年に合格を果たす。2017年、行政書士法人シグマに入所。現在、旅行業登録業務のほか、古物商許可業務などを担当する。
【内藤氏の経歴】
2013年 37歳 12月、一念発起して、行政書士の資格取得をめざして勉強を開始する。
2016年 39歳 1月、行政書士試験に合格。自分で決めたことをやり切り、自信を得る。
2017年 40歳 6月、行政書士法人シグマに入所。実務経験は初めてだったが、着実に仕事を覚えた。
2018年 41歳 7月、行政書士登録。現在、旅行業登録業務のほか、古物商許可業務などを担当。
就職氷河期に就職し、派遣社員も経験。
一念発起で、行政書士資格に挑戦した。
人とのつながりを大切に、
仕事に奮闘中。
行政書士法人シグマに勤務し、旅行業登録業務などを扱う行政書士として活躍する内藤香織氏。就職氷河期に化粧品会社に就職し、ウェディングプロデュース会社への転職を経て、派遣社員として働いた経験を持つ。そして30代半ば過ぎ、意を決して挑戦したのが、行政書士の資格だった。
いつも笑顔を絶やさず、行政書士の仕事に対してひたむきに取り組む内藤氏に、これまでのキャリアや資格取得をめざした経緯、仕事の魅力をうかがった。
このままでいいの?転職の強みにしようと、資格取得を決意
仕事に対する価値観は人それぞれだが、内藤氏は人を大事にし、人とのつながりをとても大切にしている。その考え方は、人生の岐路に立った時も判断基準となっていた。
「短期大学の卒業を控え、いよいよ社会に出ていこうかという1997年頃、世の中は就職氷河期を迎えていました。興味のある仕事には就けそうになく、それならば専門的なスキルを身につけ、就職に備えようと考えました。そこで、好きだったメイクアップを勉強するために、卒業後は専門学校へ進学することに。昔から演劇に興味があり、高校時代は部活動などで舞台に立っていたことから、メイクによって人が変わったり、きれいになっていったりすることに魅力を感じていたのです。そのお手伝いを、自分の仕事にできたらなと思っていました」
専門学校で3年間学び、卒業後は希望していた化粧品会社に就職することができた。入社してからは、接客や販売を担う自社の美容部員に向けて、メイクの仕方をレクチャーする「美容インストラクター」として活躍する。
「月に一度、任されていた関東地区にある数ヵ所の会場を訪問し、主に自分より年上の美容部員の皆さんにメイクについて説明したり、テクニックを実演したりしていました。仕事に慣れると、定期的にお会いする皆さんとも親しくなり、楽しかったですね」
その後、会場でメイクのレクチャーをするだけでなく、美容に関するイベント企画にも取り組むようになり、その方面におもしろさを感じたという。そこで2006年、ウェディングプロデュース会社に転職する。「結婚式のプランを新郎新婦のおふたりに寄り添って作り上げていけたら、という思いがありました」。人を大切にする内藤氏らしい選択だったものの、希望の職種に就けなかったことや仕事の忙しさも相まって、数ヵ月で退職してしまう。
それから間もなく、派遣社員として、工業系の製造会社で営業事務の職に就く。働きぶりや人柄が認められ、結果としては同じ会社で10年近く働いたが、当初はそこまで長く働こうとは考えていなかった。
「営業事務の仕事は、書類作成など今の仕事の下地にもなっていて学ぶことは多かったのですが、やはり雇用の不安定さは心配でした。いずれは転職して、正社員となる道を模索していましたが、2008年にはリーマン・ショック、2011年には東日本大震災が起こります。転職活動をするには動きにくい時期が続きましたが、このままでは年齢的に仕事を探しにくくなってしまう。そんなジレンマがありました」
2013年12月、内藤氏は資格の取得を決意する。「漠然と仕事を探すよりは、資格を取得して、それを強みに転職しようと考えたのです」。とはいえ、どんな資格がよいのだろうか。思い浮かんだのは、短大時代の授業で学び、おもしろいと感じた「法律」だった。そんなことを考え始めた矢先、ちょっとした偶然が起きる。
「道を歩いているときたまたま受け取ったTACの販促用ポケットティッシュに、行政書士のことが書いてあったのです。調べてみると、法律系の資格であり、取得すると許認可等の業務ができることを知りました。興味がわいたので、どんなことを勉強するのかと思いテキストを開いて設問を読んでみたのですが、5つある選択肢がすべて同じことを言っているように見えて、まったく違いがわかりませんでしたね。この試験に本気で取り組むには誰かに教わらなくてはならないなと覚悟を決め、一念発起の思いで、TAC横浜校に通うことにしたのです」
講師や受験仲間と励まし合ってつかんだ合格、転職活動では意外な縁から、採用が決まった
こうして、内藤氏の挑戦が始まった。法律の知識がまったくなかった初学者の内藤氏は、必死の思いで講義についていく。行政書士試験には大きく分けて、法令科目と一般知識科目がある。彼女はまず、法令科目の学習に集中した。苦労したのは、試験で得点の配分が高く、学習の核でもある「行政法」だ。
「ボリュームが多い行政法は、とても重要な科目です。学習の際、行政法の考え方について、本質の部分をきちんと理解するように努めました。例えば、講義後やテキストを読んだあと、理解したことを紙に書き出して確認します。そして、間違えたところはなぜそう解答してしまったか分析し、理解し、納得することを心がけていました。初歩的なところでは、紛らわしい法律用語があるので、正確に覚えるように気をつけていましたね」
1年ほど学習した2014年11月、試験に臨む。だが、この時は残念な結果に終わる。法令科目はもとより、あまり手が回っていなかった一般知識科目でもつまずいてしまったのだ。当時のことで内藤氏が最も印象に残っているのは、いつも教わっている行政書士講座の女性講師との会話だった。
「1月の合格発表のあと先生に呼び出されて、持参した私の本試験での答案をもとに分析が始まりました。それを終えて先生がおっしゃってくれたのは、『これなら大丈夫。内藤さんは今年、きっと受かるからがんばろう』という言葉でした。ダメでももう1年挑戦するつもりでいましたが、その言葉を聞いて気持ちが晴れ、さらに決意が固まりました。その先生は日頃から面倒見がよく、私も信頼を寄せていました。出会えてよかったなと思っています」
力強い応援に背中を押され、学習にも力が入っていく。繰り返すことで理解は深まり、成績も伸びていった。勉強の合間などには女性講師と話をし、知り合った受験仲間とも励まし合いながら、合格をめざした。そうして2015年11月、再び試験に臨む。
「試験後しばらくは、怖くて自己採点ができませんでした。気持ちを奮い立たせて先生と一緒に採点してみると、合格ライン上にはいるようでした。しかし、発表の日まで安心はできません。不安な気持ちで迎えた合格発表の日。仕事の合間に試験実施団体のウェブサイトで確認しました。受験番号を見つけてまず思ったのは、『2年間、自分はよくやったな』ということでした。自分で決めたことをやり切れて、自信になりました。私だってがんばればできるんだ――そう思えた出来事でした」
試験に合格すると、いよいよ次のステップである転職活動に本腰を入れる。行政書士の資格を活かせる仕事として、法務書類の作成の際などに強みを発揮できるだろうと考え、企業の法務部などを候補に活動を開始した。
そんな折、行政書士法人が20社近く参加する就職セミナーがあることを友人が知らせてくれた。結論からいえば、内藤氏はこれに参加し、現在の勤務先である、行政書士法人シグマの所員らと知り合う。実は、シグマは以前から気に留めていた事務所だった。行政書士のキャリア構築などについてまとめた書籍の著作者として、その存在を知っていたからだ。
「合格後、立ち寄った書店で偶然目に留まり手にしたその本は、行政書士の幅広い業務内容やキャリア構築に関してだけでなく、行政書士としての心構えについても書かれていました。実際に行政書士になるかは別として、転職活動を進めていくにあたり、自身を見つめ直すヒントを得た気がして、とても感銘を受けました。だから当時、転職活動の一環というよりも、愛読していたあの本を書いたのはどんな人たちか知りたいな、という気持ちでセミナーに参加したのです」
「就職セミナーの当日は、全体の説明が終わると、シグマの個別ブースを訪問しました。話をすると所員の皆さんは気さくで、私もいいなと思いました。所長も『興味があれば、履歴書と職務経歴書を送ってください』とおっしゃってくれて。自分には難しいだろうなという気持ちもありましたが、行動を起こさずして後悔したくない、と応募したのです。面接がひと通り終わると、なんとその場で採用を伝えられ、とても驚きました!いったん帰宅しましたが、その日中にはお世話になる旨を連絡したことを覚えています」
こうして2017年、内藤氏は行政書士としてキャリアをスタートさせた。
チームの一員として、自分の力を尽くす 許認可が下り、一緒に喜び合えるのがうれしい
「入所した当初、実務は初めてでしたので、所長の指示に従って書類作成をしたり、お客様とのやりとりのフォローに回ったりして、ひとつずつ仕事を覚えていきました。当然ながら試験勉強とは違って、見たことのない書類、わからないしくみに出くわし、慌てたこともあります。でも、そうして叱咤激励されながら取り組んできたことが、今ではいい思い出です」
そんな話をして場を和ませる内藤氏だが、現在はシグマの主力業務のひとつ、旅行業登録業務で確かな手腕を発揮している。本人は「勉強と同じで、できるようになってくるとおもしろいものです。今も勉強中の身ですが、お客様ごとに異なる課題の解決に向けて、日々奔走しています」と目を輝かせる。
行政書士は許認可に必要な書類を作成するプロフェッショナルだが、そのためには顧客に必要書類を揃えてもらうなど、相手との協力関係は欠かせない。場合によっては、許認可が下りるまでの数ヵ月間、顧客と密に連絡を取り合う。
人とのつながりの中で仕事をする。それは、自分に向いた仕事だと内藤氏は感じている。
「旅行業の登録に際しては、審査に先立ち、観光庁で申請前のヒアリングが行われます。ヒアリングには、私たち行政書士とお客様である申請業者が一緒に観光庁に訪問します。担当官を相手に、業務内容などを説明するのはお客様ですが、何を聞かれるか不安になられることも少なくありません。そこで私は、聞かれやすい項目を事前にアドバイスするだけでなく、『がんばっていきましょう』と声を掛け、励ましながら接しています。一体感といいますか、チームの一員として力を尽くせることが私は好きなのでしょうね。晴れて登録が下りると、『本当によかったですね』とお客様と喜び合えることがうれしいです」
内藤氏が行政書士となって、2年半が経つ。この仕事の魅力は「出会った人たちをつないでいけること」だと力強く語る。内藤氏はこれからもその職務を、相手に寄り添いながら、全うしていくに違いない。
「正直、今の仕事で手いっぱいですが、ゆくゆくは他の仕事も覚えてほしいと所長にも言われています。難易度が高い、運輸業の許認可などにも挑戦したいです。4人の行政書士が力を合わせる小規模な事務所ですので、自分ができることを増やし、事務所に貢献できるようになれるといいですね。そして時間に余裕ができたら、簿記を学びたい。決算書が読めるようになれば、お客様へ提案できることが増えますから。少しずつ仕事の幅を広げていきたいなと思っています」
[TACNEWS 2020年2月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]