プロが教える!第5回 不動産編 家を借りるときに注意すること
シリーズでお伝えしてきた「トクする賃貸住宅の借り方・返し方」も今回が最終回。借り方ときたら、最後は「トクする返し方」。返す時に気になるのは「敷金」。今回は、1円でも多く取り戻したい「敷金」についてお話いたします。
◆賃貸住宅では「敷金」に関するトラブルが多発!
借りる時に当たり前のように払っている敷金。「敷金」は何のために払っているのでしょうか。実は、敷金とは、「入居時から退去するまでの期間、借り手(借主)が大家に預けておくお金 (賃料の1~3ヵ月分が相場)」です。大家は、家賃が滞納されたり、部屋が壊されたり汚されたりした場合に、その「預かっているお金(敷金)」から、滞納家賃や修繕・清掃費用(原状回復費)を差し引くことができます。そして、残った敷金は、借り手に返金されます。この流れ、何も問題ないですよね?しかし、実際は、「契約時と話が違う!」とか「高額な原状回復費を追加で請求された!!」などの敷金をめぐるトラブルが後を絶たないのが現状です。
◆「ガイドライン」って何?
敷金トラブルは、簡単に言ってしまえば、誰が何を負担するのか、という争いです。はっきりした法律がないためトラブルになりがちですが、国も何もしていないわけではありません。国土交通省は、このような敷金トラブルを未然に防止するために 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(以下、「ガイドライン」)を公表しています。この「ガイドライン」では、原状回復にかかる費用について、時間の経過による自然の劣化(経年変化)や普通の生活をしていれば生じる程度のキズや汚れ(通常損耗)は大家が負担、手入れが悪くて汚れがひどくなった場合(善管注意義務違反)、故意や不注意でキズを付けた場合(故意・過失)は借り手が負担しなければならないとしています。
ただし、「ガイドライン」は法律ではありませんから強制力はありません。ルールを守るも守らないも当事者次第…。しかし、敷金トラブルが裁判にまで発展した場合には、実際に「ガイドライン」の内容に沿った判決が出ることが多く、実務の上では法律と同様の効果を持ち始めています。
◆大家・借り手どっちの負担
では、「ガイドライン」では、大家・借り手のどちらが、どのような場合に原状回復費を負担することにしているのでしょうか。具体例をほんの少しだけ紹介いたします。
大家の負担とされるもの(原則) | 借り手の負担とされるもの(原則) |
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・クロス等の画びょう・ピンの穴 ・テレビや冷蔵庫の裏にできる電気ヤケ ・エアコン設置によるビス穴 ・ハウスクリーニング ・鍵の交換(破損・紛失のない場合)など |
・カーペットに飲み物などをこぼしたことによるシミ・カビ ・ペットによる柱のキズや臭い ・結露を放置したことによるカビ・シミ ・タバコのヤニ・臭いなど |
「ガイドライン」は国土交通省のホームページからダウンロードすることができますので、ぜひ参考にして下さい。
◆敷金の返還は退去後の話、だけど注意するのは契約時と入居時!
敷金をめぐるトラブルは、「退去後のトラブル」と考えがちですが、違います!契約時に「契約条件の開示を求めたか?(原状回復に関する特約の確認)」と、入居時に「物件の確認を徹底的に行ったか?(元からあったキズ・汚れのチェック)」の問題なんです!そして、「ガイドライン」が当事者の特約で変更できることが、当事者間の意識のズレを生み出しがちです。例えば、「ガイドライン」では「クリーニング代や鍵の交換は大家の負担」ですが、特約で「借り手の負担」としてしまうことも可能です(実際、大変多い…)。ただし、「ガイドライン」では、これらの特約を有効にするには、①費用が高過ぎない、②借り手がその特約を理解している、③借り手が契約書にサインをしていることが必要であるとしています。しかし、実際には、借り手は契約書の特約をしっかり理解しないままサインしていることが多く、それが敷金トラブルを発生させる大きな原因になっています。
そこで、気に入った物件があったら条件交渉(8月号に掲載)に合わせて、契約書を事前に確認させてもらい、原状回復や敷金の精算に関する特約がどうなっているか確認し、不明な点があれば、納得いくまで担当者に質問しましょう。クリーニング代や鍵の交換費用が借り手の負担とされていたら「契約条件」としてこれらを大家の負担に変更できないかを交渉をしてみるのもいいかもしれません。また、入居時の物件確認については、不動産会社の担当者が立ち会わず、物件の状況について所定の「確認書類」を借り手に渡して、最初からあるキズの箇所と程度を記入してもらって返送してもらうという扱いも増えてきています。このような場合には、とにかく気が付いた点をすべて記入するようにし、必ずスマホで写真も撮っておきましょう(ただし、あら探しにならない程度に!)。また、立ち会いがある場合でも双方で確認したキズ等については、必ずメモ(ほとんどの不動産会社は独自のチェック表を持っています)に残し、写真も撮っておくようにしましょう。
◆入居~退去までの間で注意すべきこと(実は1番大切なことは…)
借り手には「借りた部屋を善良なる管理者の注意を持って使用する」という義務があります(善管注意義務)。この義務を怠った結果、部屋や設備を汚したり壊したりすれば、借り手が原状回復義務を負うことになります。借りた部屋を「日頃からキチンと清掃し、設備はていねいに扱い、キレイに暮らしていく」ということが、実は敷金を1円でも多く取り戻すために1番重要であることを覚えておいて下さい。
3回にわたって「賃貸住宅のトクする借り方・返し方」と題してお話して参りましたが、いかがでしたでしょうか?少しでも皆さんの賃貸ライフの参考になれば幸いです。皆さんが少しでも納得できる条件で理想的な賃貸住宅に巡り会えることを願ってやみません。
[TACNEWS 2018年10月号|連載|プロが教える!]
中西 伸太郎(なかにし しんたろう)
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士・マンション管理士・管理業務主任者。
大学卒業後11年勤めていた大手自動車メーカーを退職し、宅地建物取引士・マンション管理士等の資格を取得。宅地建物取引士として宅建業に従事する一方で、宅地建物取引士やマンション管理士等の資格試験対策講師・宅建登録講習や宅建登録実務講習講師として、講義・教材制作に携わる。また、2017年から新しく開講したTAC賃貸不動産経営管理士講座では、不動産実務にも試験対策にも精通したエキスパートとして、イチからカリキュラムや教材を制作し、中心的存在として活躍中。
賃貸不動産経営管理士とは?
賃貸不動産経営管理士は、高度な専門知識と倫理観を持って業務にあたる賃貸住宅の管理に関する専門家です。
不動産管理の重要性が高まってきている現代社会に、今後いっそう必要とされる注目資格です!