タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第52回テーマ 得意を究めるべきか?不得意を克服するべきか?

監 子 「秋来ぬとぉ 松吹く風も知らせけりぃ かならず萩の上葉ならねどぉ」


税 太 監子先輩、いきなりどうしたんですか? ってあれ、そういえば前回も全く同じ和歌で始まったような…。もしや作者の怠慢?


襟 糸 放っておくがよい税太君。きっと作者の得意分野が文学なのだろう。あとこうやって我々登場人物が作者に対してツッコミをするというメタフィクションの常套手段を用いることで、読者がおもしろがってくれるに違いないとおめでたい勘違いをしているのだろう。


監 子 あのぉ、おふたりともそこまで作者の悪口を言わなくても…。本業で多忙な中、締切に迫られながら原稿を書いているのかも。得意な文学の知識を披露することで、日々のストレスを発散しているのかもしれないし、もう少し優しくてあげては? そもそも私は作者に乗せられているわけではなく、意図があってこの和歌を2回連続で引用しているのよ。


税 太 むむ、自分が作ったキャラクターに慰めてもらうとは…。おっと、現実とフィクションの境目がわからなくなってきました!えーっと、頭を切り替えます。監子さん、前回と同じ和歌を引用したのはどういう意図なんですか?


監 子 私は昔から本を読むのが好きで、学生の頃の得意科目は国語だったの。自慢じゃないけど、「このときの作者の気持ちを述べよ」みたいな「いや知らんがな!」とツッコミたくなるようなテストの設問も、さっきみたいに直感的にわかっちゃうのよね。苦手な人が多い古文や和歌も一回読めば意味が理解できたわ。それで大学受験では満点をめざして一生懸命勉強したんだけど、一方で苦手科目の数学はあまり勉強しなかった。その結果、国語は完璧にはならなかったし、数学はボロボロで大学受験に失敗して浪人したの。このままじゃダメだと思って、浪人時代には数学の勉強に一番力を入れたわ。それで何とか大学に進学できたってわけ。ちなみに最初の和歌は、今まで私が一発で意味をつかめなかった唯一の和歌なの。引用したのは「得意科目を究めようと思って失敗した」っていうこのエピソードを印象的に伝えるためよ。


襟 糸 フフフ。つまり受験勉強においては得意科目を究めるより不得意科目を克服するのを優先したほうがいいという、受験生に向けた教訓かい? そんなの当たり前ではないか?


監 子 ええその通り、当たり前です。不得意科目でも、せめてみんなが得点できるような問題は解けないと合格できないですから。私が伝えたいのは「実務においては逆だった」ということです。


襟 糸 どういうことだい? 例えば、監子君に数学的なスキルを求めてくるクライアントもいるだろう? 不得意のままでは困るのでは?


監 子 苦手な数学の分野は、得意な襟糸先輩や税太君にお願いすればいいじゃないですか。でも得意分野がなかったら、クライアントがわざわざ私を選んで依頼する理由がなくなっちゃうでしょう?だから今の私はもともと得意な国語力をさらに磨いて、文章添削コンサルティングとしてクライアントへバリューを提供しているんです。有価証券報告書ひとつとっても文章力って大事ですからね。


税 太 「得意や強みを磨くことが大事」ってわかる気がします。僕は税理士試験に合格できていないですが、その状態だからこそ、「目標を実現しようという志を持つクライアントの気持ちに寄り添った提案ができる」ことを強みにできていると思います。


監 子 良いこと言うわね!最初の和歌の意味は「荻の上葉に吹く風だけが秋を知らせるとは限らない。松風が教えてくれることだってあるだろう」って意味だけど、「顧客を満足させるのは、税務知識豊富な税理士の襟糸先輩だけとは限らない。税理士受験生の税太君だからこそ提供できる価値もあるんだよ」ってところね。


【今回のポイント】

受験勉強において得意科目があることは有利に働くものの、不得意科目をなくすことで合格に近づくというのも真実である。一方ビジネスにおいては、ドラッカーを始めとする経営学者が説いているように、得意分野を究めて強みを作ることが重要だ。もちろん仕事において、不得意な分野を努力せず放置するのは怠慢であり、研修に参加するなど自己研鑽することも大事だ。しかし時間は有限。「得意な人に頼む」というのも有効な手段だ。人口減少で一人ひとりの特性がより尊重されるようになった今の時代、得意分野を究めて強みを作ることが一層重要になるだろう。


[『TACNEWS』 2022年12月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でSEとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人兼コンサルティング会社に入り、会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年に士業事務所間で仕事を授受するWebサービス「Mochi-ya」、2020年にシニア世代向けの専門家とやりとりするWebサービス「相続のせんせい」をリリース。主な著書『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版)、『「生前贈与」のやってはいけない』(2022年、青春出版)。
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