タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第50回テーマ 資格はなくても士業と同じ仕事はできる?
監 子 「見渡せばぁ 花も紅葉もなかりけりぃ 浦の苫屋の秋の夕暮れぇ」
税 太 監子先輩、いきなりどうしたんですか?
襟 糸 放っておくがよい税太君。恋愛をこよなく愛する監子君のことだ、どうせ百人一首合コンか何かの練習だろう。
監 子 何よその百人一首合コンって!どうやって盛り上がるのよ!しかも、この藤原定家の歌は新古今和歌集には入っていても百人一首には入っていません!
襟 糸 しまった!エリートとして実に不覚だった。和歌になると“わか”らなくなるのだ。
監 子 地味にダジャレをぶっこんでいるけど、ぜんぜんおもしろくないです!はい、税太君。私がこの和歌を通して伝えたかった気持ち、代弁してくれるかな?
税 太 僕も和歌はよく“わか”らないですが…。合コンの席に出てみたけど、春の桜や秋の紅葉になるようなイケメンは誰もいなくて途方に暮れたこの秋。その合コンは裏にある「とま屋」さんという居酒屋で行われた――。こんなところでしょうか?
監 子 税太君!あなたは誠実で優しい性格が取り柄なのに、私をからかったわね、きぃー!家庭を持つ立場としていつも私に良いアドバイスをくれる税太君に、どうしても伝えたいことがあってこの歌を引用したっていうのに!
税 太 はっ!それはスミマセン監子先輩!一体何を伝えようとしていたんですか?
監 子 その前に、税太君に質問。税理士になるために勉強をずっと続けているけど正直どうなの?
税 太 ぎくっ!正直に言うと、もう勉強をやめたいと感じることもあります。試験勉強がつらくなると、相続を学ぶ楽しさが損なわれてしまって…。
監 子 で、税太君は資格を取ったらどうしたいの?
税 太 えっと、田久巣所長や襟糸先輩のように税理士として相続の実務を極めていきたいと思っています。
監 子 でも本当にその仕事が好きなら、資格がなくても相続の仕事をとても有意義にこなすことができるはずよ。むしろ固定概念にとらわれない幅広い提案を思いつくことだってあるかも。合格できなくて「秋の夕暮れ」のようなわびしい気持ちになるくらいなら、資格を取る以外の道もあるって伝えたかったのよ。努力次第で「春の花」や「秋の紅葉」のように華々しく活躍する実務家にだってなれるわ。
税 太 なるほど…。でも監子さんは有資格者ですよね。なぜそんな考えになったのですか?
監 子 フフフ、それは「シカク」に頼らない女だからよ。恋愛において「視覚」に頼ると外見に惑わされてその人の本質が見えなくなるし、実務において「資格」にこだわりすぎると頭が凝り固まっちゃって、顧客のニーズが捉えられなくなっちゃう。恋愛や美の歌の達人・藤原定家も「シカク」にこだわっていないからこそ、読み手の想像力を掻き立てる歌を詠めたのだと思うわ。
襟 糸 それも一理あるが、私は資格に助けられてきた人間だから、苦労してでも勉強してよかったと思っているぞ。なによりお客様から信頼してもらえるし、有資格者にしかできない仕事にも携われる。
田久巣 なつかしい話題だなぁ…。実は私も、受験生時代は税太君と同じように勉強に苦手意識があったんだ。でも「資格を取って何をしたいのか」をもう一度考えて、やっぱり資格を取ろうとあきらめないで勉強を続けて今に至る。悩んでいるのだったら、税太君も資格をめざす理由を再確認してみてはどうだろうか?
税 太 資格をめざす理由…。何年も勉強していてすっかり「死角」になっていました。もう一度ちゃんと考えてみようと思います!
【今回のポイント】
資格試験に合格するためには、暗記法や答案の書き方などのテクニックも必要だ。これらには得意不得意があるため、苦戦する人もいるだろう。ただ実際は、資格がなくても、固定概念にとらわれず広い視野で仕事に取り組む優秀な人が会計事務所にはたくさんいる。一方で、資格という肩書があることで顧客の信用獲得や自信にもつながるし、法律で独占業務が定められていることも多く、資格が有用なのも事実だ。自分の得意不得意を見極めて努力の方向性を変えるも、目標に向かって努力し続けるも自分次第。試験勉強がつらくなったら、今一度「資格を取って何をしたいのか」を考えてみるといいだろう。きっと進むべき道が見えてくるはずだ。
[『TACNEWS』 2022年10月号|連載|タックスファンタスティック]
筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)
1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でSEとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人兼コンサルティング会社に入り、会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年に士業事務所間で仕事を授受するWebサービス「Mochi-ya」、2020年にシニア世代向けの専門家とやりとりするWebサービス「相続のせんせい」をリリース。主な著書『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版)、『「生前贈与」のやってはいけない』(2022年、青春出版)。
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