人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第78回 株式会社伊藤園

吉田 啓太(よしだ けいた)氏
人事部 採用課長
2004年4月、株式会社伊藤園に新卒で入社。以来11年間、地域密着型営業(ルートセールス)を担当。その後、副支店長として、支店の新規開拓と売上管理・統括を9年間担当。2024年5月、人事部採用課長。新卒採用、中途採用、障がい者採用、専門職採用派遣社員採用と、幅広い採用に関わっている。
「伊藤園大学」と「伊藤園大学院」の
2つの自己啓発援助制度で、
社員の夢や目標の実現に向けて支援しています。
創業60周年を迎えた総合飲料メーカー、株式会社伊藤園の経営の基本は「お客様第一主義」。転じて伊藤園が次に大切にしているのは「すべての社員を大切にすること」。その精神は社内に脈々と受け継がれている。人を大切にする伊藤園では、どのような人材観を持って人を育てているのだろう。人事部採用課長の吉田啓太氏に、「伊藤園らしい」人の育て方を伺った。
「お客様第一主義」を掲げる総合飲料メーカー
──伊藤園といえば、大谷翔平選手を起用した広告の「お~いお茶」が有名です。最初に会社としての伊藤園を教えてください。
吉田 伊藤園は1964年に原点となる会社を創業し、1966年に伊藤園の前身となる「フロンティア製茶株式会社」を設立し、茶葉(リーフ)製品の製造販売を始めました。1972年に業界初の真空パッケージ入りのリーフ製品を販売し、その後も世界初の無糖茶飲料「缶入りウーロン茶」、世界初の緑茶飲料「缶入り煎茶」を発売するなど、次々と世界初、日本初の製品を開発し、世に送り出しています。
現在は、このドリンク製品とリーフ製品の製造販売を軸に、総合飲料メーカーとして拠点を展開し、全国各地で地域密着型営業を行っています。
伊藤園は創業以来、グループ全体で「お客様第一主義」を経営理念に掲げてきました。「世界のティーカンパニー」をめざして、世界各国の方々の健康に資する豊かな生活を提案し、「健康創造企業」として取組んでいきます。
新卒採用が約9割と新卒がメイン
──伊藤園の採用方針について教えていただけますか。
吉田 伊藤園では新卒、中途、障がい者の3つの採用を行っています。中心となる新卒採用と中途採用の現在の比率は、新卒採用が9割と新卒がメインとなっております。
──2025年4月入社の新卒社員は何名ですか。
吉田 2025年4月入社の新卒は83名でした。2026年は100~150名の新卒を採用する予定です。中途採用は毎年数名程度を計画しています。
──新卒採用メインの伊藤園では、どのような人材を求めていますか。
吉田 伊藤園では経営理念「お客様第一主義」を掲げています。社員は、それを実践するために「STILL NOW(=今でもなお、お客様は何を不満に思っているかの精神)」という問題意識をもって行動しています。
この行動理念に則って、求める人物像の一番目に上がってくるのが「自律的に考え成長できる人財」です。2番目に「お客様の立場に立って対応でき、かつ課題解決能力のある人財」、3番目に「環境変化をチャンスと捉えてどんどんチャレンジし新しい価値を生み出せる人財」。この3点を挙げています。
──新卒採用の選考フローを教えてください。
吉田 エントリーシート通過後にWEBテストを実施し集団面接、そのあとの対面での面接を複数回実施して内定という流れです。
──内定者へのフォローについて教えてください。
吉田 昨年は内定を出したあとオンラインで面談を実施し、そのあとは懇親会を開いています。10月1日の内定式後は、12月に研究職、営業職、事務職、生産職の全内定者に、2日間の体験研修を各拠点で受けてもらいます。
──インターンシップは行っていますか。
吉田 伊藤園ではオープンカンパニーとして、昨年は半日間のインターンシップを設けました。オンライン会社説明会と同時に、実際に働いている営業職、事務職の先輩社員に出演してもらいます。伊藤園のキャリア支援制度の社内公募制度で営業職から事務職、その逆といったように職種転換した社員を中心に参加してもらうのが特徴です。一日の働き方やディスカッションを見ていただいたあと、参加者からの質問を受けます。
実際の就労体験は行いませんが、オープンカンパニーを通して伊藤園の社風やその仕事内容をより深く知っていただけると考えています。

中途採用では専門人材の募集も実施
──中途採用に関しては年間数名程度というお話ですが、中途採用について教えてください。
吉田 弁護士や公認会計士、SEといった専門職を中心に定常的に必要な人材として募集を行っています。
入社後3年間の教育を重視
──新入社員研修について教えてください。
吉田 4月1日の入社式後、5日間の全体研修を行います。その後、研究職・生産職は静岡工場で実際の製品開発・製造工程の研修、営業職・事務職は都内で実務研修に入ります。営業職は実務と並行して準中型の運転免許講習も実施します。営業職、事務職は3日間ずつ各部門を巡る研修も実施します。研修先にはグループ会社の伊藤園フードサービスが運営を行う「茶寮 伊藤園」での販売研修も行います。
そして5月、6月は先輩社員の隣で仕事を教わりながら、都合3ヵ月間の試用期間を経て、7月1日に正社員として本配属になります。
──新入社員研修のあと、同期が一堂に会する集合研修はありますか。
吉田 伊藤園では、新入社員から3年目までの教育にかなり注力しています。7月の配属後も1年目教育、2年目教育、3年目教育、5年目教育として、年に1回、同期が集まる集合研修を行っています。その後は職位別教育、資格別教育、職種別教育など様々な教育を用意しています。
「伊藤園大学」、「伊藤園大学院」、2つの自己啓発援助制度
──社内教育制度の中で、伊藤園らしい制度があれば教えてください。
吉田 伊藤園が最も大切にしているのは「人」です。この考えに基づいて、人財教育には特に力を入れています。その中で最も伊藤園らしい制度が自己啓発援助制度で、社員の自己啓発のため1989年に「伊藤園大学」、2009年には「伊藤園大学院」という教育制度を開設しました。
自分で本当に勉強したい、成長したいという社員が学びたいコンテンツを選び、1年間知識習得をめざして課題やカリキュラムに取り組みます。「伊藤園大学」では営業、財務、マーケティング、組織、グローバルといった内容を、「伊藤園大学院」では経営的立場でのアウトプットや実践部分に比重を置いた内容を学べます。
あくまで自己啓発なので、年2回のスクーリングと卒業論文を提出し、合格した方が卒業になります。 どちらも年1回の募集で、完全立候補式です。自分が学びたいときに何度でも参加できるので、毎年参加する社員もいます。

厚生労働省認定の「伊藤園ティーテイスター社内検定」
──社内制度にはどのようなものがありますか。
吉田 年に1回実施している社内公募制度があります。年4回の研修と面接のクリアで希望の部署に応募できるチャンスがもらえる制度です。伊藤園の場合、営業職から事務職、またその逆への職種転換が可能です。職種を転換することでいろいろなスキルや経験を身につけ、仕事の幅が広がり、成長できるチャンスが広がると考えています。最近は、社内公募制度に応募する人がかなり増えました。
加えて「お茶の伊藤園」ならではの制度として「伊藤園ティーテイスター社内検定」という制度も運営しています。2017年には、厚生労働省から「伊藤園ティーテイスター社内検定」として認定されました。
これは社員がお茶に関する高い知識を有し、社内外にお茶の啓蒙活動をするために1994年に始まりました。年1回、希望者が受験する社内資格制度で、学科、検茶、口述試験を通して、お茶の歴史や文化からおいしいお茶のいれ方まで、幅広く知識と技能が習得できます。
合格できれば各地方の公民館や学校でお茶のいれ方セミナーの実践やお茶の歴史を説明したりや、伊藤園が制定した10月1日「日本茶の日」に、店頭に立ってお客様と交流できる地域密着型の食育活動に参加することができます。
この検定は3級、2級、1級が設定されていて、3級が緑茶全般、2級が紅茶、ウーロン茶、1級が茶道の知識と技能習得で合格に至ります。3級は昨年実績ですと社員5226人中1972人が合格と大勢取得していますが、1級は合格者19名しかいない、かなりの難関試験です。その分、1級合格者は社内外で講師として広く活躍しています。
──福利厚生面でユニークな制度があれば教えてください。
吉田 人を大切にする伊藤園では、ワークライフバランスもとても大切にしています。福利厚生面もかなり充実していて、保養所が軽井沢、八ヶ岳、箱根、京都と全国4ヵ所にあり、社員同士、あるいは家族とともに格安で利用できます。保養所は研修等での利用はせず、純粋に社員の慰労に充てているのは、珍しいと思います。
そのほか野球観戦チケットやアミューズメント施設割引券だけでなく、伊藤園で働くすべての社員と家族が豊かに暮らせるように、ライフイベントを支援する制度も整っています。

海外展開に合わせた人材を育成
──グローバル展開を標榜する伊藤園の、海外での事業展開を教えてください。
吉田 伊藤園は「世界のティーカンパニー」を、長期ビジョンにしています。2024年には、ドイツに現地法人を設立しました。現在40以上の国と地域で「お~いお茶」を販売していますが、2040年には100の国と地域に増やしたいと考えています。そこで現地の研修を含め、人材育成に励み、長期ビジョンに向けて優秀な人材を輩出するのが、人事部採用課の役目だと考えています。
日本で普通に飲んでいる無糖のお茶も、食習慣のまったく違う海外ではまだまだ浸透していません。海外では日本の無糖のお茶と違って、甘いお茶や紅茶が主流です。そのような環境の海外で、どうアプローチすれば日本の無糖のお茶を飲んでいただけるのか。それは、単純に物流面、商流面だけの話ではありません。「健康創造企業」の伊藤園として、海外で健康志向が増加傾向にあることを踏まえ、今後も心身に貢献するお茶を海外でも浸透させていきたいと考えています。
──海外で活躍できる人材はどのように育成していますか。
吉田 海外研修制度を設け、海外人材の育成に注力しています。海外赴任には、1年間この研修を受け、TOEIC® L&R TEST650点以上で面接を通った人が選ばれます。実際に海外の現地法人に1年間渡航し、帰国後に国際部門で勉強してから、数年後に海外に行く社員も出ています。
海外赴任を希望する社員は年々増えています。入社面接でも、伊藤園に入社後、数年したら海外赴任したいという方が大勢います。皆さん、大学時代に留学した経験があったり、あるいはTOEIC® L&R TESTもしっかり勉強していて、英語が堪能な方が多いです。
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*L&R means LISTENING AND READING.

業務に準じ資格取得支援制度を用意
──伊藤園にはユニークで手厚い人材育成環境がありますが、その他の資格取得を支援する制度はありますか。
吉田 国家資格の中で、業務に関連する資格には資格取得支援制度を用意しています。あくまで合格が条件になりますが、MOS(マイクロ オフィス スペシャリスト)のような実務に近い資格も対象になっています。弁護士や公認会計士であれば、資格手当から各会の年会費も会社で負担しています。
──新卒採用において、応募する学生が資格欄に日商簿記2級やTOEIC® L&R TESTの点数を載せていた場合、どのように判断されますか。
吉田 合否に直接影響はしませんが、面接の際に「どのような理由で学生時代に取得したのか」、「伊藤園でどのようにその資格を活かすのか」をお聞きしています。
──社内には、どのような資格を持っている人材が多いのですか。
吉田 食育が伊藤園のめざすところなので、製品開発のコンセプトに「自然・健康・安全、良いデザイン、おいしい」を掲げています。健康創造企業として、中でも「健康」は最重要視しています。
この観点から生まれたのが「1日分の野菜」という栄養強化製品です。この製品は野菜不足を補うことが目的なのですが、そもそも栄養不足であるかどうかはきちんと栄養学を学んだ管理栄養士などの有資格者でなければ判断できません。食品メーカーですので管理栄養士の資格を持った方はある程度の人数はおります。
──最後にキャリアアップや資格取得をめざす読者に向けてメッセージをお願いします。
吉田 伊藤園には、グループ会社も含め、日本だけでなくグローバルに働くチャンスが広くあります。弁護士や公認会計士などの国家資格をお持ちの方、そして伊藤園の製品がお好きな方、一緒に世界のティーカンパニーめざしてがんばってくださる方をお待ちしています。
[『TACNEWS』人事担当者に聞く「今、欲しい人財」|2025年7月 ]

会社概要
社名 株式会社伊藤園
設立 1966(昭和41)年 8月22日
代表者 代表取締役社長 執行役員 本庄大介
本社所在地 東京都渋谷区本町3-47-10
事業内容
総合飲料メーカー
従業員数
連結 7,967名 単独 5,163名(2025年4月30日現在)
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