人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第75回 SWCC株式会社

樋木 雄介(ひのき ゆうすけ)氏
人事部 採用・人財開発グループ
グループ長
2004年に入社。以来、約20年間の電力機器メーカー・電力会社を主担当とするエネルギー・インフラ事業の営業としての活躍を経て、2024年4月、人事部に異動、グループ長として採用と教育全般を統括。人的資本経営の実現に向けた教育計画・採用方針の立案を担う。
「ひとが輝く組織風土」の実現に向けた改革を推進。
それぞれの社員が個性を発揮し、働きがいのある
職場を作り、企業価値を共に高めてほしい。
1936年に電線・ケーブルメーカーとして誕生した昭和電線ホールディングス株式会社は、2023年4月、社名をSWCC(エス ダブリュー シー シー)株式会社に変更した。「電気や通信があたりまえにあり、安心して生活を続けられる環境づくり」に貢献するSWCCでは、どのような人材観で採用・人材育成を行っているのか。人事部採用・人財開発グループ長の樋木雄介氏に詳しく伺った。
社会インフラを支える2つのセグメント
──最初にSWCCという会社をご紹介いただけますか。
樋木 SWCCは1936年の創業以来、電線・ケーブルを中心に発電所から家庭までをつなぐ多彩な製品を製造・販売し、建設・電力・通信分野を含む幅広いインフラ製品を通して人々の生活を支える企業であることをめざしてきました。現在では、エネルギー・インフラ事業、通信・コンポーネンツ事業の2セグメントで事業を展開しています。
主力製品である66kV以上の特別高圧電力ケーブル、154kV以上の超高圧電力ケーブルを電力会社向けの地中送電線路や変電所および民間プラント向け、再エネ向けなどに製造しています。また、そのケーブルにつながる電力接続部品「SICONEX® (サイコネックス)」は変電市場で国内トップシェアを誇っています。さらに自動車、FA、医療、AI、ロボットなどの成長分野で、コア技術を活かした独創的な製品を展開しています。
基盤事業2セグメントをより強化・深化させるだけではなく、さらに成長するために、コア技術を中心として新しい事業領域に挑戦し、創造力とスピード感を持って企業価値を高めていきたいと考えています。
「迅速」・「情熱」・「考動」で価値創造を実現
──SWCCの人材採用方針について教えてください。
樋木 2023年度までは新卒採用に軸足を置いていました。しかし、時代の流れによる労働人口の減少やデジタル技術の進化に伴う採用方法の多角化などから学生が内定を複数社保有し、売手市場の採用難の状況がさらに進んでいます。そのなかで即戦力が求められています。そこで2024年度より、即戦力となるキャリア採用の比率を上げました。社内公募制度の拡充やリファラル採用の強化やウェルカムバック採用(アルムナイ採用)の導入も含め、キャリア採用を増やしていくことが、企業成長に不可欠であると考え、採用方針を策定し施策を展開してきました。
──新卒、キャリア採用に共通する「求める人材像」とはどのようなものですか。
樋木 SWCCには「迅速」・「情熱」・「考動」で価値創造を実現する、というSWCCウェイ (行動基準)があります。それをもとにした求める人材像は「自己を高め、改革を実行できる人」です。具体的には「斬新な発想力があり、意見を発信できる人」「果敢に挑戦し、最後までやり遂げる人」「自分の仕事に誇りと責任をもち、専門性を追求できる人」「自ら考え、行動し、結果を出せる人」「情熱をもって仕事ができる人」「チームプレイを大事にする人」です。そのような人材とともに新しいテーマに挑戦して、新しいあたりまえを創り出していきたいと考えています。

年4回、新入社員フォロー研修を実施
──2025年4月に入社する新卒は何名ですか。
樋木 技術系10名、事務系5名、総数15名です。メーカーですので、専門的な知識を身につけている理系学生の比率が高くなっています。採用人数を絞り、しっかりと適性を見極めて採用しています。
──2025年入社の内定者に対しては、どのようなフォローをしてきましたか。
樋木 10月1日の内定式前と当日に懇親会、1月にオンラインでワークショップ、3月に入社前勉強会など、2ヵ月に1回のペースで内定者のコミュニケーションを図っています。学生生活を最後まで充実させて4月の入社を迎えてほしいので、内定式に社会人の基本マナー教材(通信教育)の配付のみとし、過度に負担を強いる課題は出していません。
──2025年4月の入社式はどのように実施されますか。
樋木 今年からグループ会社を含め、グループ全体の合同入社式を本社近隣のホテルで開催し、役員も含めた懇親会も開催する予定です。そのあとは、各社毎に新入社員研修を実施する予定です。
──2025年の新入社員研修の内容と期間について教えてください。
樋木 4月から始まって6月の配属までの約2ヵ月間を予定しています。最初の1ヵ月間は社会人の基礎から始まり、各部門の紹介を行います。2ヵ月目に入ると仙台事業所をはじめ各事業所・工場を回り、モノづくりの現場で実習をしていただきます。前半座学、後半実習のイメージですね。
その後、事務系社員は本社・支店などで、技術系社員は各事業所・工場へ配属となり、先輩など関係社員との人脈を形成するとともに、実務に就きながら、オンボーディングしています。
──新入社員研修の後、同期が集まる研修はありますか。
樋木 そのあとは、年4回の新入社員フォロー研修を実施します。加えて新入社員には2年目の先輩がメンターとして1年間伴走するメンター制度を導入しています。気軽に相談ができるよう、メンターは直属の部門の先輩ではないように配慮をしています。部門が異なる先輩なので気兼ねなく仕事の相談ができるだけでなく、フォロー研修の内容や仕事以外の社会人生活などもアドバイスしてもらえます。
1年目は自分がメンティーとしてフォローされ、2年目は自分がメンターとしてフォローする立場に変わり、3年目は、「3年目研修」という形で、自ら課題を設定し、3年目で社会人として一人前になり、卒業するイメージです。
──手厚い新入社員フォロー研修ですね。
樋木 この新人フォロー研修の制度を導入する前年度までは少数ながら退職者がでていましたが、2021年に本制度を導入してから、新卒入社は1人も辞めていません。。
3年目以降は階層別に主任昇格アセスメント研修、管理職昇格アセスメント研修などを設定し、主任以上になってくると次世代経営者を育成するサクセッションプランという選抜型教育が設定されます。また、技術系従業員に対し、金属・有機材料・電気の基礎知識や他部門の技術知識といった専門知識学習の開催など、様々な研修体系を準備しています。

インターンシップでミスマッチを防止
──新卒の選考プロセスを教えてください。
樋木 事務系総合職と技術系総合職の2つに職種が分かれています。総合職には、エリア総合職といってエリア(勤務地)を選べるしくみも導入しています。
選考プロセスは、基本的には面接3回、最終面接前に適性検査の流れです。ただし、夏と冬のインターンシップに参加した方は、1次面接を省略し、優先的に進めます。インターンシップへ参加いただくことで、選考のファストパス的な特典を付与するしくみを取り入れています。
──インターンシップ参加者は相性や適性を見極められる点が大きなメリットですね。
樋木 企業側もそうですが、学生側も「雰囲気がわかってよかった」、「来てみたらイメージ通りだった」という意見が多くあります。やはり、現場でモノづくりを見ると非常に伝わりやすい。社員がどういう人たちなのか、どのような先輩がどのような熱意を持って働いているのかを生で見てもらえるので、双方にとってミスマッチを防ぐ意味で、インターンシップは非常に重要だと捉えています。社会インフラを支えながら、未来社会を創造し、「新しいことに常に挑戦している会社だとわかった」といううれしい言葉もいただいています。
キャリア採用は年間40~50名を計画
──キャリア採用の採用計画を教えてください。
樋木 2024年度に中期経営計画の折り返し地点として、計画の見直しをおこないました。それに基づいて採用計画数を改めて設定しています。成長事業部門を中心に優先順位をつけて、募集しています。
──キャリア採用の選考プロセスはどのような流れですか。
樋木 求人サイトなどを通じてエントリーをしていただきます。まず書類選考をし、通過すると人事部門の課長級やリーダークラスと配属部門の課長級が実務に対するスキルの確認をする1次面接を実施します。その後、筆記試験、適性検査を経て役員・部長級の最終面接に進む流れです。
面接の1回目はオンラインで、最終面接は対面で実施します。もちろん遠隔地の場合は最終面接もオンライン面接での対応は可能です。
キャリア採用は入社初日に規則やルール、給料、社内制度の説明をして、2日目からは部署へ配属になります。配属先の部署では受入教育をする機会を設けて、しっかりと指導・教育を受けられる体制にしています。今後はキャリア採用が増えていくことから、半期に1度キャリア採用の方を対象にキャリア採用フォロー研修を開催することで、オンボーディングすることを検討しています。
──キャリア採用全体では年間で何名の採用になりますか。
樋木 総合職が約40〜50名です。工場の技能職の採用は50名ほどになりますので、年間約100名のキャリア採用を実施しています。
当社は、フラットでオープンな組織風土です。キャリア採用で入社しても、すぐ馴染め、違和感なくとけこめる環境です。新卒採用との垣根の少ない風通しのよさがあると思います。
キャリアプランを自分で選ぶキャリアオーナーシップ
──人事制度にSWCCらしい制度があればご紹介ください。
樋木 「ひとが輝く組織風土」の実現に向けた改革のひとつとして、一人ひとりの働き方改革を推進しているので、それぞれのライフプランに合ったエリアを選べるエリア総合職は、当社らしい人事制度です。求職者や社員からの評判もよく、エリア総合職を選ぶ方も一定数います。
ジョブチャレンジ制度はフリーエージェント形式で、自分のスキルを活かして「自分はこの部門にチャレンジしたい」と自ら「手挙げ」して異動を申し出る制度です。
一度退職された方に戻ってきてもらうウェルカムバック採用も導入しています。退社者が再び当社での勤務を希望した場合、他社で新しく培ったスキル、知識と経験を持って戻ってくることで、組織風土を理解した社員が、さらに能力を発揮し、活躍してもらえる制度です。 社内公募制度は、社内イントラにある社内公募の専用ページで社内の求人情報をオープンに応募しています。先ほどのジョブチャレンジ制度は自身が起点の異動希望の発信ですが、こちらは求人部門発信の公募に応募する制度です。
──社員自身が選択できる制度が多いのですね。
樋木 働き方改革で自身のライフプランに合った働き方を選び、自身のキャリアプランを自ら選んでいくことが、これからの企業と社員の関係性において重要だと考えています。そのためには自身のキャリアを自身で考える、「キャリアオーナーシップ」が必要であり、それは社員の「キャリア自律」を実現するための第一歩です。
今までの日本企業は労働組合、年功序列、終身雇用が三種の神器と言われるメンバーシップ型雇用が慣行でした。異動に際して、会社側から一方的に辞令がでて、それに従わざるを得ない形でした。その代わりに会社が社員の雇用を守る時代でした。これからは、多様性のある社員の一人ひとりの働き方や価値観を受入れ、エンゲージメントを高めて、潜在能力を最大限発揮していただく形に変えていく必要があります。自分で「やりたい仕事」を選び、能動的に働き、自らのスキルを磨いていける社員に、幅広い可能性を提供していきます。「働き方」+「やりがい」を重視したしくみを構築し、社員一人ひとりのキャリアアップとエンゲージメントと働き方改革を実現し、「働きがい」を上げていきたいと考えています。

離職率の低い非常に安定して働きやすい会社
──SWCCではどのような福利厚生を用意していますか。
樋木 当社はコアタイムが10〜15時のフレックスタイム制を採用しています。コアタイム期間内に就業することを条件に、就業時間を柔軟に選べます。私も子どもを学校に送ると定時の8時半の就業開始時間に間に合わないので、9時半出社にして、その分終業時間を遅らせています。仕事と育児の両立においても、フレックスタイム制は、私も活用しています。
テレワークも充実していて、コロナ禍は100%でしたが、現在は50%を上限に利用可能となっています。対面の会議や面接がない場合はテレワークを積極的に利用しています。
──子育て支援ではどのような制度がありますか。
樋木 子育て支援には産休・育休、時短勤務を設けています。お子さんが小学校4年生になるまで定時勤務時間より、前後の1時間または計2時間の始業・終業時間を変更して時短勤務が選択できます。その他、法令に則った福利厚生もきちんと整備されています。残業時間は部門により異なりますが、残業時間管理をしっかりと行っており、個人に過度な負担がかからないように産業医とも連携しながら対応するしくみを導入しています。本社においては、残業時間(20時間以内/月)が比較的に少ない部署が多いと思います。
実は、当社は離職率1%台(SWCC個社)という非常に安定して働きやすい会社です。その理由のひとつに、主力製品は生活インフラを支えるための製品群で、JIS規格や電力用品規格で定められたものを製造しているということがあげられます。納入先も電力会社を代表に固定客がほとんどですので、「皆さんのあたりまえの生活が損なわれてはいけない」、そのためにある製品群となり、製品サイクル寿命が長期的で安定しています。事故時などのイレギュラーな対応を除けば、通常時の業務は安定しているので働きやすいということです。
多様な資格に取得奨励制度
──資格取得をめざす社員をサポートする制度があれば教えてください。
樋木 資格取得奨励金制度を用意して、業務を行う上で役に立つ資格の取得を奨励し、従業員の質の向上を図るため、「取得に必要な事務手続きの支援」「資格取得にかかる費用援助」「取得時の報奨金」および「公的機関登録者への月額手当」といった制度を設けています。
また、電気主任技術者や消防設備士などには、毎月給与に反映される資格手当を用意しています。ただし、あくまで実務に活かされている場合のみの資格手当となります。例えば、工場で危険物取扱者を取得すれば手当は支給されますが、本社勤務では危険作業がないので支払われません。
──どれくらいの資格が対象になっていますか。
樋木 多様な資格が対象になっており、業務で求められる資格は、環境によって変わりますので、その状況に応じて見直しをしています。電気工事系が最も多く、消防系、安全衛生系などが中心です。IT系ではITパスポートやITストラテジスト、管理事務系では弁理士、弁護士、公認会計士、税理士、ビジネス実務法務検定🄬、日商簿記検定、ビジネス・キャリア検定🄬などが取得時の報奨金の対象です。
──大学院、社会人ドクター制度とはどのような制度ですか。
樋木 当社では、業務上の必要性がある社員に対し、会社が認めた場合に博士課程取得を推進しています。大学院への入学金や授業料については会社が負担します。さらに、授業時間については勤務時間扱いとし、取得に向けての勉学の支援をしています。また、電気学会をはじめ、様々な分野の学会に所属して、団体のメンバーとして新たな規格制定やルールづくりにも携わるエンジニアが社内にも大勢いますし、その業務の中で社会人ドクターをめざす方もいます。
直近では新しい取り組みとして、新規事業創出を目的として、事業構想大学院大学に10人ほどの将来有望な若手社員を送り出しています。
──最後に資格取得やキャリアアップをめざす読者に向けてメッセージをお願いします。
樋木 これからは変化に柔軟に対応していくことが大切だと思います。働くひとの個性を尊重する多様性のある社会に向かっていくと思います。その中でジョブ型雇用などの導入が各社で進み、個人のスキルを活かし就職する時代になっていきます。自分のやりたい仕事がある程度定まった段階で、資格を取得して自分の強みにする。それにより会社から必要とされるポジションに選ばれる存在となり、かつ自分が挑戦したいポジションを選ぶ存在になります。必ず資格は自分の自信となり、武器・財産になってくれます。これからは自分のスキル・能力を証明するものとして、資格がより一層重要な時代になってくるでしょう。めざす資格を取得して、将来活躍されることを期待しています。
[『TACNEWS』人事担当者に聞く「今、欲しい人財」|2025年4月 ]

愛知工場のCVタワー
会社概要
社名 SWCC株式会社
設立 1936年5月26日
代表者 代表取締役(CEO 社長執行役員) 小又哲夫
本社所在地 神奈川県川崎市川崎区日進町1-14 JMFビル川崎01
事業内容
電線・ケーブル、電力機器部品、巻線、光ファイバケーブル、情報機器用ローラ、免震・制振材、防振ゴム等の製造販売
従業員数
約1,500名(2024年6月25日現在)
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