人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第44回 株式会社日本M&Aセンター
中村 健太氏
人材ファースト統括部 人材戦略部 部長 兼コンプライアンス統括部
2005年、新卒一期生として株式会社日本M&Aセンターに入社。西日本エリアで15年間、M&Aコンサルタント職として80件以上の案件に関与。2020年4月、人材戦略部を立ち上げ、組織開発施策、社員育成施策を担当。体系立てた階層別研修制度を設計して、人材育成に注力する。
株式会社日本M&Aセンターは創業以来30年、これまでに7,000件超のM&A支援実績を積み上げ、中堅・中小企業のM&A仲介を通じて企業の存続と発展に貢献してきた。2021年には30周年を迎え、第2創業期として新たにM&A総合企業をめざし、様々な事業を展開している。M&Aには、そこで活躍するM&Aプレイヤーの経験や力量が大きく影響する。優秀な人材はどのようにして育てられるのか。2020年に人材戦略部を立ち上げた中村健太氏に、求める人材像や採用方針、人材育成のプログラムについてうかがった。
M&Aの総合企業へ
──最初に株式会社日本M&Aセンターについてご紹介ください。
中村 当社は1991年の創業以来、中堅・中小企業のM&A仲介を通じて企業の存続と発展に貢献してきました。M&Aには成約前後で必要となるプロセスがありますし、中堅・中小企業だけでなく上場企業から零細企業まで幅広く支援していますので、M&Aプロセスや企業規模を補完することで事業領域も広がってきました。
M&Aは大きく分けて「事業承継型のM&A」と「成長戦略型のM&A」の2種類があります。
前者に関しては、全日本企業の99.7%を占める中小企業において、2025年までに70歳を超える中小企業経営者のうち約半数の127万人が後継者未定となるという予測もありますので、ここ5〜10年でM&A仲介業務が極めて重要になってくるでしょう。実際、中堅・中小企業経営者の後継者問題のご相談対応が、私たちのメイン業務となっています。
また近年は、経営者の高齢化によるご相談以外の案件、つまり会社を成長させる目的で株式を持ってもらい、レバレッジを効かせた経営を実現していくM&Aも非常に増えてきています。これが2つ目の「成長戦略型のM&A」です。
他にも特定の業界においては、業界再編型といって、M&Aが当たり前の経営戦略になっているところもあります。
──M&A以外の分野を手がけることはありますか。
中村 当社は、M&Aを主軸とした様々なサービスを提供する世界で初めての「M&A総合企業」をめざしています。そのため、M&Aにおける買い手企業と売り手企業をマッチングさせる仲介事業の他にも、様々な事業を展開しています。例えば、M&A後の企業統合を円滑に行うためのPMI(Post Merger Integration)を支援したり、2019年からは、東京証券取引所が運営するプロ投資家向け市場「TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)」上場を支援したりもしています。
上場支援のアドバイザリー業務に関しては、地方創生の実現のため全国各地から上場企業を輩出する目標を掲げていて、2022年6月時点で計10社の上場を実現し、現在100社以上を支援しています。企業の成長ステージによっては、「今はM&Aで事業拡大を狙うよりも上場をめざしたほうがよい」というタイミングの企業もあるので、どのステージにおいても支援できるように、上場支援を設けました。上場も1つのレバレッジ戦略として提供できるように、成長支援の一環としてサポートしています。
──海外展開にも注力していますね。
中村 そうですね。2016年にシンガポールに事務所を開設して以来、海外展開にも注力しています。現在ではASEAN5ヵ国に拠点を持ち、日本からASEANに進出する海外M&Aを多く手掛けています。今後、日本の企業が生産性を向上させ、事業を存続していくためには、ASEANに限らず海外とつながらない選択肢はないと考えています。近い将来、M&Aを活用する場合に、東京・大阪・福岡だけでなく、例えばシンガポールも選択肢に加わる時代が到来するでしょう。人口が減少するマーケットの中で成長戦略を描くことは年々厳しくなっていますので、日本企業と海外をつないでいくことは必要なことだと思っています。
また、2021年の創立30周年を機に当社はホールディングカンパニーとなりました。さらに総合化・専門化を進めていくために、DXなど、大きなイノベーションを進めています。
新卒は1年かけてプレイヤーとして育成
──求める人物像について教えてください。
中村 新卒採用・中途採用に共通して言えるのは、企業理念である「M&A業務を通じて企業の存続と発展に貢献する」に共感できるかどうかです。何よりも私たちのお客様である企業経営者に対して、心からリスペクトを持って真摯に対応できるかを、非常に大切にしています。
新卒社員は、M&Aコンサルタントとして当社に入社し30件ほど経験すると、ある一定の経験を積んだゾーンに入ってきます。具体的に言うと30歳前後ですね。そこから自身のキャリアをどう展開していくかを考える中で、新規事業を立ち上げたり、イノベーションを起こしたりしています。
当社には自分の意思でキャリアを切り拓ける社内文化があるので、チャレンジできる若い時期から業界をしっかりと見渡せるように成長していってほしいです。そして将来、日本M&Aセンターと業界でイノベーションを起こす人材になってほしいと強く願っています。
またM&Aの仕事をするためには、コミュニケーション能力や交渉力といったビジネススキルから法務・財務・会計・労務といった専門知識まで、幅広い能力が必要です。社内には公認会計士(以下、会計士)や税理士、弁護士といった資格を持つ社員が多数在籍しているので、プロフェッショナルと一緒に仕事を進める調整力も求められます。こうした仲間とM&Aに取り組むことで、一流のビジネスパーソンに成長してほしいと考えています。
──2022年4月入社の新卒社員は何名でしょうか。あわせて2023年度の新卒採用についてもお聞かせください。
中村 2022年入社の新卒社員はコンサルタント職33名、スタッフ職10名、合計43名が入社しました。2023年は今まさに選考過程で、今年度より増える見通しです。
──新卒採用の選考ステップを教えてください。
中村 エントリー、説明会、書類選考、複数回面接という一般的な流れです。面接は人事部面接から始まり、複数回の選考過程で上長となる部長クラスにも面接してもらい、意見をフィードバックした上で最終の役員面接に至ります。面接は営業職とスタッフ職含めてバランスよく判断できるように工夫しています。
──内定後には、内定者フォローあるいは内定者研修などを実施していますか。
中村 20年以上前から、全員入社前に日商簿記検定2級を取得するよう推奨しています。私もTACで学んで2級を取得しました。M&Aプレイヤーとして仕事をするため、M&A仲介会社で働くためには、簿記を理解していることは必須ととらえています。これは中途入社も同様で、持っていなければ入社後に取得していただきます。車に乗って公道を走るためには運転免許が必要なように、当社で働く以上は最低限簿記2級の知識が必要ですから、取得にかかる費用は会社側でサポートしています。
そのほかにも、当社発行物を読んでもらったり、インターンシップに臨んでもらったりすることで、入社前に当社と業界についての理解を深めてもらえるよう配慮しています。
──新入社員研修について教えてください。
中村 4月の入社から2ヵ月間は人材戦略部で研修し、M&Aプレイヤーとしての基礎スキルを徹底的にインプットします。6月からはそれぞれ部署に配属になりますが、そこからも毎月集合研修を実施し、法務や税務会計スキル、営業スキルなどを1年間かけて身につけてもらいます。なお中途社員に関しては、1ヵ月間の入社研修を設定しています。
50名以上の有資格者が活躍する組織
──中途採用について、Webサイトには多くの募集職種が掲載されています。職種によっては会計士や税理士など、資格を限定した募集もありますね。
中村 中途採用に関しては、M&Aマーケットが成長しており、当社事業の規模も拡大していることから、ほとんどの職種で募集しています。
有資格者については、必要に応じて資格を指定した募集を行い、要件として求められる有資格者に限って選考を実施しています。その際の面接は「コーポレートアドバイザー統括部」という専門職部門のメンバーが担当します。
──コーポレートアドバイザー統括部は有資格者の部門なのですね。
中村 そうですね。有資格者が専門職として勤務し、専門知識を駆使してサポートする部門で、会計士や税理士が在籍しています。また案件管理統括部という、社内でM&A案件の審査をする部署でも会計士のメンバーが中心になって活躍しています。法務部には弁護士や司法書士もいて、全社で50名以上が活躍しています。最も多い有資格者は会計士で、次に税理士、弁護士と続き、中小企業診断士やU.S.CPAのホルダーもいます。
──有資格者は基本的にコーポレートアドバイザー統括部への配属となるのですか。
中村 そのケースが多いのですが、最近の傾向としてはM&Aコンサルタント職に応募する有資格者が増えています。M&Aコンサルタント職は資格を応募要件にはしていない職種なのですが、例えば会計士の知識をひとつの武器に、M&Aコンサルタントとして活躍する人材もいます。有資格者のM&Aコンサルタント職は確実に増えていますね。
──有資格者の場合、資格を継続するには各資格協会への登録費用や年会費がかかります。会社としてのサポートはありますか。
中村 各資格協会への登録費用、年会費、更新費用などは会社で負担しています。また会計士などの資格については、資格手当が年俸に含まれています。社会的に問題となっている黒字廃業を1社でも減らすため、専門知識を有しクオリティの高いサービスを提供できるポテンシャルを持つ有資格者も積極的に増やしていきたいと考えています。
きめ細やかな教育・研修体制で成長実感を
──人事制度でユニークな制度があればご紹介ください。
中村 「人材ファースト」をキーワードに人材採用・育成・キャリア開発に注力しようと私が立ち上げたのが「人材戦略部」です。一人ひとりが自己成長を実感しながらステップアップできるしくみが必要だと考えました。
当社はM&A仲介会社としてはかなりきめ細かく、かつ体系立てた育成体制が整備できていると自負しています。例えば入社3年未満の上位20%プレイヤーに対する月次選抜研修である「令和塾」。これは、社内で最も提案力のあるプレイヤーのコミュニティ(社内では「令和塾生」と呼ぶ)で、M&A仲介業界のすべてのムーブメントを作っていく場だと考えております。残念ながらその対象とならなかったプレイヤーには、「打倒令和塾」という研修を実施しており、成長のための場は広く提供しています。
また、4年目以降の中堅層プレイヤーのトップ30名(当社のトップ30名のプレイヤー)の月次選抜研修である「卓越塾」。これは、社内で最も成約をしている、まさにトッププレイヤーのコミュニティ(社内では「卓越塾生」と呼ぶ)です。互いに刺激し合って研鑽するだけではなく、業界の最高品質・最高の生産性を構築していく研究機関として位置付けています。
さらに、初めて部下を持ったグループリーダー層に対して2つ上のレイヤーである事業部長がマネジメントを指導する「グループリーダー会議」や、役員自らが指導者となり部長陣へ指導を行う「次世代合宿」など、レイヤーごとに必要な研修を体系化し、次のステップに向けて着実に歩めるようにあと押ししています。もちろん社員には長く働いてもらいたいので、現場での結果だけでなく、成長過程を見える化して、成長実感を持ってもらえるように配慮しています。
スタッフ職についても様々な体系的施策はあります。当社は専門的部署が多いので、全員に一律の研修を行うのは現実的ではありません。そこで外部研修機関に依頼して研修機会を設けたり、ビジネス・ブレークスルー大学のプログラムや経済界のビジネスプログラムに参加したりと、いろいろな外部研修のチャンスを作っています。
──福利厚生面で特徴的なものがあれば教えてください。
中村 M&Aではいろいろな知識や経験を持った人材がチームを組んで仕事をします。そのため、幅広く資格取得のサポートや人材育成の観点で福利厚生を設計していますね。
資格取得支援として、全額ではありませんが、規定に則って広く費用補助をしています。メインは会計士、税理士、不動産鑑定士、中小企業診断士、宅地建物取引士、簿記1級・2級などで、学習費用補助と祝金が設定されています。対象となる資格以外でも必要があれば部門ごとに柔軟に対応しています。例えばExcelなどMicrosoft認定資格の勉強も会社の補助がありますし、外部研修も受講できます。
M&Aコンサルタントとして入社後、5年以上勤務してから会計士資格を取得した同期もいます。彼は休職して1年間大学院に通い、会計士資格を取得し、その後働きながらU.S.CPAも取得。現在は管理系の要職についています。その他にも働きながら税理士を1年に1科目ずつ取って合格した社員もいます。
有資格者の活躍の場は無限に広がっている
──新卒採用で応募してきた学生が何か資格を持っていた場合はどのように判断していますか。
中村 応募時点で当社で推奨している簿記2級を持っていたとしても、そこで特に加点することはありません。ただ、すでに持っているのであれば、これからの時間を他のスキルアップに割ける人なのだと判断しますね。
学生時代に取り組む分野についても、理系文系は問いません。「体育会系の部活をがんばってきました」「ベンチャー起業しました」「海外留学していました」など、経験や分野も問いません。多様な人材を求めていますので、目標に向かってコツコツ努力し結果につなげたという経験さえあれば、どんな分野でも構いません。当社の中途社員も、前職が銀行、証券会社、商社、コンサルティング会社など様々なキャリアの人材がいますね。
──最後に、資格取得やキャリアアップをめざしている方々に向けてメッセージをお願いします。
中村 資格取得は、当社でも極めて重要な位置付けととらえて社員に取り組んでもらっています。取得することで得られる知識や体系的な学びはもちろん、定められたゴールに向けて計画を組み、達成に向けて自らをモニタリングしながらゴールにたどり着くプロセスは、ビジネスにおいても非常に大切です。資格取得によってその力を培い、社会に貢献していただけることを願っています。
そして当社は幅広い領域を視野に成長している会社です。例えば会計士資格を持った方なら、営業でもコーポレートアドバイザーでも上場支援でも、活躍の場は多分野に広がっています。興味を持たれた方は、ぜひご応募ください。
[『TACNEWS 』2022年9月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]
会社概要
社名 株式会社日本M&Aセンター
設立 1991年創業
代表者 代表取締役会長:分林保弘 代表取締役社長:三宅 卓
本社所在地 東京都千代田区丸の内一丁目8番2号 鉃鋼ビルディング 24階
事業内容
M&A仲介、PMI支援、企業評価の実施、上場支援、MBO支援、企業再生支援、コーポレートアドバイザリー、企業再編支援、資本政策・経営計画コンサルティング
従業員数
788名(2022年3月末時点)