人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第33回 Chatwork株式会社
内田 良子氏(左)
Chatwork株式会社
ピープル&ブランド本部 副本部長
吉成 大祐氏(右)
Chatwork株式会社
ピープル&ブランド本部 人事部 マネージャー
Chatwork株式会社は2004年の設立以降、クラウド型ビジネスチャットツールである「Chatwork」を開発・運営し、中小企業を中心に31万7,000社(2021年5月末日時点)が導入する日本最大級のビジネスコミュニケーションサービスに成長させた。
「働くをもっと楽しく、創造的に」をミッションに掲げるChatworkでは、どのような人材が活躍し、どのような採用を行っているのか。ピープル&ブランド本部の内田良子氏と吉成大祐氏にうかがった。
中小企業をターゲットにしたビジネスチャットを開発
──Chatwork株式会社について教えてください。
内田 Chatworkはコーポレートミッション「働くをもっと楽しく、創造的に」の実現をめざして、ビジネスチャットツール「Chatwork」を開発し、歩んできました。「Chatwork」はSaaS型ビジネスコミュニケーションツールとして、相手と1対1でやり取りできるダイレクトチャットや、複数人で効率的に情報共有ができるグループチャット、仕事の見える化ができるタスク管理機能、Word、Excel、スプレッドシートなども簡単にテキストコミュニケーション上で共有できるファイル管理機能、オンライン会議ができるビデオ/音声通話機能「Chatwork Live」を主な機能としています。
ビジネスチャットを取り巻く環境は、新型コロナウイルス感染拡大によりテレワーク需要が拡大したことで、高成長マーケットになりました。現在の日本のビジネスチャット普及率は12.5%(当社依頼による第三者機関調べ、n=30,000)ほどですが、アメリカを含む先進国ではすでに約70%に上るため、今後そこに追いついていくために年間30%成長の市場になると予測されています。
組織的には、プロダクトを作り実装していくエンジニア組織であるプロダクト本部と、セールス、マーケティング、事業開発、カスタマーサクセスといった機能を担うビジネス本部の2つの大きな組織、そしてバックオフィス系のコーポレート本部と、広報や人事部門を司るピープル&ブランド本部で構成されます。
──計画している事業戦略を教えてください。
内田 ビジネスチャット業界におけるポジショニングは、他のビジネスチャットサービスがエンタープライズ企業(ITリテラシーの高い大企業)対象であるのに対して、当社はITリテラシーがそれほど高くない中小企業が対象です。事業戦略としては、中小企業マーケットにおける圧倒的シェアを確立することを今後3年でめざしていきます。それ以降の長期ビジョンとしてはビジネス版のスーパーアプリ化を計画していて、「Chatwork」をプラットフォーム化し、人、情報、金の周辺サービスを開発・提供することで、中小企業の経営インフラになっていきたいと考えています。この事業戦略に基づいて、組織戦略や人材戦略を展開しています。
求めるのは変化に柔軟に対応でき、正解へのプロセスを描ける人材
──具体的にはどのような人材戦略で採用を進めてきましたか。
内田 2020年はコロナ禍の影響でビジネスチャットの需要が増えたことにともない、大幅に従業員数を増やしました。また、コロナ禍以前から、2022年までに従業員数を300名まで増員することを想定していて、当初はほとんどがキャリア採用(中途採用)でしたが、今後は徐々に新卒の比率を上げていく方針です。
背景をご説明しますと、私が人事専任メンバー第1号として入社した2019年当時、組織はまだ90名規模でしたので、優先順位としては事業達成や機能開発を促進するためにキャリア採用で即戦力を補い、組織を固めていくことがとても重要でした。そして2020年からはコロナ禍の影響により事業戦略のかじ取りを大きく変えていくことになり、まず必要な人材としてセールス職の増員が急務となったので、キャリア採用で即戦力の人材を多く採用しました。次に必要となるのが質の担保で、そこをマネジメント人材や事業開発人材といったハイクラス層をキャリア採用で補い、強い組織を作ってきました。このように、2020年は事業戦略に則り、キャリア採用で人を増やしたのです。
とはいえ長期事業戦略であるスーパーアプリ化の実現に向け、今後はサービスラインも事業部門も増えていきますからそこに配置するマネージャーやチームリーダーといった責任者を確保しなければなりません。その際、すべてをキャリア採用で補うのは難しいので、自分たちで新卒をきちんと育て、重要ポジションを担える人材を増やしていこうという方針を追加しました。こうして2020年後半からオータムインターンシップを実施し、ビジネス本部の新卒採用がスタートしました。
一方プロダクト本部では先行して2019年夏から新卒採用をスタートしています。Scala(プログラミング言語)を使えるエンジニアはなかなか市場にいなく、キャリア採用の中でも難易度が高いので、新卒から育てていこうという方針で臨みました。
──新卒・キャリア採用に共通する「求める人物像」を教えてください。
吉成 変化が大きい業界なので、変化に柔軟に対応できる人材を求めています。加えて、そうした環境下でも正解にたどり着くプロセスをきちんと描ける人材が、共通して求める人物像です。「過去にこれをやっていた」という実績だけでなく、それを踏まえた上で今の環境と世の中をしっかりと自分で見極めて「この前提であればこういうアプローチをしたほうがいい」という提案をしてほしいのです。失敗する可能性ももちろんあると思いますが、いち早く取り組み、仮に失敗してもそこから学び改善を重ねることで、早く成功にたどり着けます。この繰り返しができる人材を新卒・中途ともに求めています。
新卒は次世代のリーダー候補
──2021年4月入社の新卒の人数や、入社式、新入社員研修について教えて下さい。
内田 ビジネス本部2名、プロダクト本部(エンジニア)4名の合計6名が入社しました。4月1日にオフィスに来ていただき、入社式だけはオフラインで実施しました。その様子は全社員にYouTubeで配信しています。社内共通のツールに関しては、ビジネス、エンジニアの両サイドとも、初日のオリエンテーションで研修を行いました。
その後の新入社員研修はすべてオンラインで、入社後1ヵ月間実施しました。まずは会社の事業を知るために、それぞれの本部で何をやっているのかをインプットしてもらい、そのあとは同期6名で企画立案してもらうワークを行っています。あるテーマに対して社内やインターネットで調べ、そこからインタビュー内容を企画立案して、実際に社内のメンバーにインタビューをしてもらうのですが、これには社内のメンバーを知ってもらいつつ、コミュニケーションをしっかり取ってもらうという目的もあります。最終的にはそこでインプットしたものを、テーマに沿ってアウトプットしてもらいます。人事部門の管掌で行うこのワークは、引き続き2021年12月末までに第1段階から第3段階に分けて実施していく長期的な企画です。
実務的には新入社員研修後、日々の業務を教える各部門のメンターについてもらいOJTをスタートします。
──2022年4月入社に向けての新卒採用の状況はいかがですか。
吉成 エンジニアサイド3~5名、ビジネスサイド3~5名、最大10名規模を想定しています。すでに内定を出している学生もいて、入社に向けてコミュニケーションしている段階です。ただし、他社を含めて就職活動が終わっていないのが現状なので、そこをすり合わせながら進めています。
──新卒採用の選考フローを教えてください。
吉成 大きく分けて2つのルートがあります。1つはインターンシップを通じた就業体験型ルートで、インターンシップまでに1回面接を挟みます。面接で当社にマッチした学生にインターンシップに参加してもらい、選考に進む場合は正式な面接を2~3回実施します。インターンシップに参加すると会社やそこで働いている人間についてよく理解できるので、その情報を踏まえて次の選考に進めるメリットがあります。
また、もちろんインターンシップに参加していない学生も受け付けていて、エントリー後、2~3回の面接を経て内定を出す流れになっています。
新卒は、次世代のリーダー候補や次世代の技術を牽引するリーダー候補なので、面接は人事担当者と管掌部門の役員が担い、最終面接では社長を含めた経営責任者に会っていただきます。
──2022年卒の内定者フォローはどのように実施されますか。
吉成 まだ計画中なので明確には申し上げられませんが、基本的には入社前に研修を課すことは考えていません。学生時代はまず学業を優先し卒業することが大前提なので、「学生時代にしかできないことをきちんとやってください」とメッセージングしています。
フォローとしては、10月に内定式に参加していただき、そこから4月に入社する準備を整えていく方向で、オンラインではありますが相談や内定者同志の親睦を深める交流会といった機会も提供する予定です。
内田 良子
新卒で金融機関に入社、営業や外国為替業務に従事。転職して小売・流通系で幅広く人事を経験。9,000名規模の流通系企業の人事企画では、ダイバーシティ推進チームを立ち上げチームリーダーを担当。2019年1月、Chatwork入社。人事専任メンバー第1号として人事部を立ち上げ人事部マネージャーとして採用から制度設計を担う。2020年3月、ピープル&ブランド本部副本部長に就任。
2021年キャリア採用は80~90名目標
──Webサイトを拝見するとキャリア採用はかなり幅広い職種で募集されていますね。
吉成 コロナ禍をきっかけに私たちの事業戦略がよりシャープに明確になったので、今が最も多くの職種を募集していると思います。我々がめざす世界観や社会的な提供価値を実現するための組織を作っていくのが今のキャリア採用なので、そこに対して採用を加速しているところです。
──2020年は年間何名のキャリア採用を行いましたか。また2021年の計画はいかがですか。
吉成 2020年は約60~70名採用し、社員数も170名まで増えました。2021年の計画では80~90名の採用を想定していますが、事業の進捗が前倒しになれば、もっと多く採用していく可能性があります。
──キャリア採用の場合、どのようなルートがありますか。
吉成 人材紹介やダイレクトリクルーティング、また採用サイトに直接応募してくる方もいます。エンジニアに関しては社員からのリファラル採用も多いですね。
──キャリア採用の選考ステップを教えてください。
吉成 ビジネス部門は基本的に2~3回の面接を実施します。プロダクト部門は面接の間に体験入社を実施している部署があります。基本的には面接・面談でお話しするのですが、特にプロダクト開発はチームへのフィット感やどのような人か、どのような仕事の進め方をするのかが色濃く出る部署なので、お互いに働くイメージを持つために体験入社を実施しています。
コロナ禍で拡充された支援制度
──福利厚生や人事制度でユニークなものがあれば教えてください。
内田 2020年4月7日に緊急事態宣言が発令された瞬間に、原則全社的にフルリモートに切り替わりました。エンジニアはそれまでも在宅で仕事をする機会があったので、住環境の中にもきちんと働く環境を整えられる人が大勢いました。一方、セールスは在宅で電話をかけたり仕事をしたりすることにあまり慣れておらず、住環境の中に作れる仕事場のクオリティも十人十色なので、どう環境を整えていったらいいのか、メンタルヘルスをどうしたらいいのか、そのあたりを中心に制度を考えていきました。
そこで作ったのが在宅ワーク環境整備の支援制度「一歩先の働き方支援制度」です。これは私たちのビジョンである「すべての人に、一歩先の働き方を」と同じネーミングで、住環境にもオフィスと同程度のクオリティで働く環境を整備できるように金銭的支援をする制度です。例えばパソコンのモニターやワークデスクなどの購入金額に対して上限5万円まで半額補助し、年間15万円まで支給するものです。毎年1月に更新され、働くための部屋の増設や引っ越し、リフォームでも費用補助することになりました。これには「住環境の中に働く環境を整えてパフォーマンスを最大限出してほしい」「働きやすさの先に働きがいをきちんと得てほしい」という会社からのメッセージが込められています。
──自宅で働いてもらうための環境整備の費用補助制度ができたわけですね。
内田 はい。この「一歩先の働き方支援制度」とともに非常時特別手当として、在宅勤務でかかる光熱費や通信費に対して毎月4,000円支給する金銭的支援も始めました。
また、既存メンバーや入社したての社員が他部門の人たちとランチする際に4,000円まで補助を出す食券制度の適用範囲をオンラインでの実施まで広げました。在宅勤務が続くことによるメンタルサポート面では、人事担当者との1on1の機会を増やしています。
コロナ禍で「Chatowork」の需要が増えて、自分たちの身を守ると同時に社会的貢献をきちんとしなければいけない、自分たちのプロダクトをきちんと研ぎ澄ませ、中小企業が在宅勤務できる環境に世の中を変えていかなければいけないという使命がありましたので、制度としてはいろいろと拡充してきました。
吉成 大祐
新卒でヤフー株式会社に入社。新規事業や広告関連の業務を担当したのち、入社5年目に人財採用部に異動し、新卒・中途採用を担当。また同領域の採用マネージャーに従事。2019年、PayPay株式会社立ち上げに携わり、人事・採用部門を立ち上げ、採用責任者となる。2020年3月、ファーストリテイリングに入社、グローバルIT採用を担当。2021年2月、Chatwork入社、ピープル&ブランド本部人事部マネージャー。
採用では保持資格よりスキルを優先
──新卒の応募者が学生時代に何らかの資格を取得している場合、どのように評価しますか。
内田 資格そのものに対する評価より、なぜ取ったのかなど、自己成長のための理由をお聞きしています。また、これまでの過去の経験の中では必ず何らかの選択をしているはずなので、資格に限らず大学の進学や就職活動に際して、どのように考えて選択し行動してきたかを重視します。
──社内で必須の資格はありますか。
吉成 特定の資格がなければできない仕事は特にありませんが、素養として必要な知識はたくさんあります。例えば当社のお客様は中小企業経営者が多いので、中小企業診断士や簿記の知識は、ビジネスサイドの仕事にプラスになると思います。
──社員が資格取得する際の支援制度はありますか。
内田 業務に必要な資格であれば部門で予算を組んで取得をサポートしますし、人事部でも業務やスキルに必要な資格があれば予算を取っています。
吉成 新卒入社の方にはITパスポートや日商簿記検定は取るようにお願いしています。あとはビジネス実務法務検定試験®や統計検定®なども基礎知識として入社後に必要なので、2022年入社の方には早いタイミングで取りましょうと話をする予定です。
新卒は次世代のリーダー候補として育成していきますので、知識的な部分は早めにインプットして、早くアウトプットに活かせるレベルになってほしいという期待値を持っています。
──キャリア採用の場合、情報処理系資格を要件にすることはありますか。
吉成 要件にすることは特段ありません。持っていればもちろん活かせるところはあると思いますが、資格を持っていることと業務ができることは別の話なので、実際のスキルのほうを重視しています。
──資格取得やキャリアアップをめざしている方にメッセージをお願いします。
内田 資格は、取得の動機と合格までのプロセスをきちんと定義して言語化することがとても大切です。しっかりと自分なりに言語化して行動に移してもらい、資格取得につなげることがものすごく大事だと思います。
吉成 資格は取って終わりではありません。資格取得で身につけたインプットをどうアウトプットできるかはその方次第です。そこを見据えて、どう活かしていきたいのか、どう貢献していきたいのかをしっかりと考えながら行動されると、とてもよい機会に恵まれると思います。がんばってください。
[『TACNEWS 』2021年8月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]
会社概要
社名 Chatwork株式会社
設立 2004年11月11日(創業 : 2000年7月15日)
代表者 代表取締役 CEO 山本正喜
本社所在地 大阪府大阪市北区梅田 2-6-20-5F
事業内容
Chatworkの開発運営、ソフトウェア販売(ESETセキュリティソフト)
従業員数
196名(2021年5月末日時点)