人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第22回 株式会社 電通マネジメントサービス

Profile

青木 良成氏

株式会社 電通マネジメントサービス
コーポレート部長

新卒で株式会社 電通マネジメントサービスに入社。経理部門を経てグループ会社に出向し、経理業務に加え、総務・人事系業務にも従事。出向から戻ったのちは主に人事部門を中心に知見を深める。現在、自社の総務・人事・経理をまとめる部署であるコーポレート部長として活躍中。


グローバルな広告ビジネスを展開する電通。株式会社電通の他に、多種多様な約60のグループ会社を擁する巨大な組織だ。その経理・人事などの管理部門業務の受け皿となり、グループ全体の経営効率化と持続的な成長に貢献するために誕生したのが、株式会社 電通マネジメントサービスだ。AIなどによる自動化が進む中で、シェアードサービス、アウトソーシング業務は節目を迎えているという。一体どのような採用を行い、どのような人材を求めているのか。コーポレート部長の青木良成氏にうかがった。

公的資格保持率82%

──電通マネジメントサービスとは、どのような会社ですか。

青木 電通マネジメントサービス(以下、DMS)は、広告ビジネスをグローバルに展開する電通と電通グループ会社を対象に、シェアードサービス、アウトシーシングサービスを提供する会社です。わかりやすく言えば、各社から経理や人事などのバックオフィス業務を受託して、グループ全体のコスト削減や経営効率化を促すことで、電通グループの成長に貢献しています。
 電通とグループ会社の総務、人事、経理の管理部門を統一して業務サービスを提供する「経理と人事の専門家集団」という立ち位置であることから、社員の82%が、公認会計士、税理士、社会保険労務士、日商簿記検定1~3級といった国家資格・公的資格を保持しているのが大きな特徴です。
 シェアードサービスとしては、電通と国内電通グループ会社40数社の経理・人事業務を標準化して受託しており、その規模は延べ人数にすると電通の給与計算だけで8,000人分、国内のグループ会社社員の給与計算は約7,500人分になります。シェアードサービスの目的は、グループ会社の業務を集約して効率化することがメインとなりますが、国内には約60の電通グループ会社がある中で、まだDMSで取りこめていないグループ会社もありますので、そこを取り込んでいくことが今後の課題です。

──具体的にはどのような課題がありますか。

青木 グループ全体を集約するには、人事系と経理系のシステムの統一が必要です。現状では、グループ内でも経理系は同じシステムを使っている会社が多いのですが、人事系は各社がそれぞれのシステムを使用しているため、その一本化を進めていくことが課題です。そこで現在、親会社である株式会社電通グループが中心となって、人事系システムの統一化を進め、DMSに集約する方向で動いていますので、今後は人事系業務が増えてくると考えています。 

──資格保持率が82%とは非常に高い数字ですね。

青木 会社全体の資格保持率は82%ですが、実は経理部門に限って言うと、ほぼ100%の社員が何らかの会計に関する資格を持っています。ただ人事系部門の中には資格を取得していない社員もいますので、全体では82%となります。
 こうした高保持率を誇っている背景には、DMSのルーツが経理の会社だったことがあります。創業当初は社内で日商簿記検定の取得が推奨され、皆で資格を取っていました。そのため、後から入ってきた社員もそれにならい、取得する風土が生まれました。その結果、社内の教育研修制度を使ってまず日商簿記検定3級を取る人が増え、次第に他資格の取得も増えました。

高度な業務対応のため教育研修を整備

──DMSではどのような採用を行っていますか。

青木 2020年4月の新卒入社は14名で、新規事業の有無によって変動はあるものの、毎年新卒・中途ともに10人前後の採用を行っています。新卒採用では、長い間同じ会社で経験を積むことで、いわゆるスペシャリストになってもらうことをめざしています。一方中途採用では、外部の事業会社で得た経験とノウハウを、人事と経理の専門家として活かしてもらいたいと考えています。
 新卒の応募者は、職種として経理、人事を意識して入って来られる方がほとんどです。シェアードサービス自体を知らなくても、管理部門の仕事をイメージして「数字に強いから」という動機で入って来られますね。また、採用試験で最初に会うのが採用担当メンバーということもあり、採用に関するやりとりなどを行う中で、次第に人事の仕事に興味を持たれる方もいます。DMSで受託しているのは給与計算とそこから波及した福利厚生周りの業務がメインなので、基本的には数字を扱うことに強い方が入ってきてくれればマッチすると考えています。

──新卒の選考フローを教えていただけますか。

青木 エントリーシートを提出していただき、通過した方は説明会に参加していただきます。その後SPIやTAPOC(事務職適性検査)を行い、通過した方は、1次面接で非管理職のリクルーター、2次面接で管理職、3次面接で役員面接を受けて内定となります。

──DMSの「求める人物像」とはどのような人材ですか。

青木 会社ができた20年前は、シェアードサービスやアウトソーシングという単純作業を委託される会社でしたが、今はそうした業務に加え、より高度な判断や相談内容に応えることが多くなっています。「事務的に間違いなく答えを出す作業」から、「数字を読みこなし、間違いを探し、判断して応え、指摘する」といった、ワンランクアップしたクオリティが求められるようになってきたのです。
 さらに、電通とグループ会社がDMSに業務を委託することに伴い、そうした委託元の社内からは人事・経理の人材が少なくなっていきました。そのためDMSの社員が電通とグループ会社の人事・経理部門に出向するという流れが生まれ、現在は約30人の社員が出向しています。出向者は電通とグループ会社の経理部で経理業務を見て指導し、予実管理や経営層の資料作成を担当しています。まだDMSで受託していない高度な業務を担当し、そのノウハウをDMSに持ち帰ることで新しい仕事を取り込んでいます。こうした人材交流が始まったのは3~4年前で、その頃から、新しく入ってくる社員には出向があることを伝えています。

──高度な判断や相談といったコンサルティング業務には、どのような人材が求められますか。

青木 専門家ではない相手に話し、理解させ、納得させる力のある方、洞察力のある方、何を言いたいのかを理解して臨機応変に答えられ、相手の考えをキャッチアップできる能力のある方を求めるようになりました。相談業務や出向業務が徐々に増え、その場で矢面に立って対応しなければならないケースが増えていますし、今後さらに増えていくことが予想されます。ですからスペシャリストをめざす方も、コンサルティング業務に飛び込んでいただきたいと考えています。

──中途採用ではどのような人材を求めていますか。

青木 経理系では、事業会社の決算経験のある方や税務の経験者を採用していて、人事系では、給与計算経験者、社会保険手続きや労務手続きの経験者を採用して経験を活かしていただきます。
 ただ経理の場合は、先ほどお話ししたようにシェアードサービスの範囲を超えた出向もありうるので、中途採用の方の中でも、幅広くキャリアを積んで成長したいという方については、判断、予実管理、キャッシュフロー周りを経験していただきます。事業会社での経験にプラスして、DMSでそうした経験を積んでいただくことにより、リーダークラスに育てたいと考えているのです。そのために今、経験があってさらに広い世界で成長したい方を中途採用し、育成していくための教育研修により一層力を入れているところです。

求めるのはワンストップ型の人材

──内定式後のフォロー体制について教えていただけますか。

青木 内定者研修や懇親会を開くほか、2019年からは日商簿記検定3級取得のための教材を配付して入社準備をしていただいています。入社前は教材配付のみですが、入社後は全面的に資格取得をバックアップしています。

──4月の入社後の新入社員研修についてはいかがですか。

青木 全電通グループ新入社員研修を汐留の電通本社で行います。グループの新入社員全員が集い、電通の経営理念や社訓からビジネスマナー、ビジネスシンキング、プレゼンテーション、チームビルディングなどについて、約1週間の研修を受けていただきます。その後DMS社内での基礎的な研修を経て、4月下旬に各部に配属されてOJTがスタートします。
 入社後は、半年、1年とフォローアップ研修も行われ、その間には管理部門によるメンター面接も行われます。また、ここ3年ほどは、分野ごとに体系立てた専門的な研修を受講できるように、教育体系の見直しに力を入れています。

──社員の学べる体制が整えられているのですね。

青木 そうですね。学びたい社員にとってはとてもいい環境が整いつつあると言っていいでしょう。会社として「このように育ってほしい」という道標は明示しているので、社員が自律的に取り組んでくれるのを期待しつつ、会社として必要な人材には研修などでフォローしています。

──入社後、人事異動はどのように行われますか。

青木 新卒は入社して3年経つと、必ずどこか他部署への異動があります。その際は、経理から経理の別の部門へ異動になる可能性もありますし、経理から人事への異動もあります。これまでは人事は人事、経理なら経理を極めたいという専門特化型の人材が多かったので、異動を希望する人が少ない現状がありましたが、昨今は複合的な仕事のできる質の高い人材が求められるので、人材交流が広がっています。「人事のことも、経理のことも、ワンストップですべて応えられる」ことが求められていますので、そんな「ひとつ聞いたらすべて応えられる人材」、例えば「人事のできる税理士」のような人材が増えてくれたらうれしいですね。

充実した資格補助体制

──資格保持率82%のDMSでは、具体的にどのような資格を持った方が活躍しているのですか。

青木 公認会計士2名、税理士4名、社会保険労務士6名、税理士科目合格者が10名前後、日商簿記検定1級保持者もいます。活躍の場としては、例えば社会保険労務士であれば制度設計ができるので、経営の根幹に近い作業を担うなど、資格を活かした相談業務へと対応業務が広がります。公認会計士や税理士も、財務会計や税務などの相談を受けるので、有資格者が説明のために事業会社に入りサポートする機会が多くなりました。

──資格取得のためのフォローアップ制度はありますか。

青木 受験指導校への通学や通信講座に対する補助はもちろん、外部研修への参加であっても、修了証を提出してもらえれば受講費用の補助があります。研修補助はかなり広範にあるので、申請の数もかなり多く上がってきています。
 さらに日商簿記検定2級以上からは資格手当が毎月支給されます。そのため「せっかく3級を持っているなら、手当が出る2級までチャレンジしよう」と考える人が増えて、結果的に資格保持率が高くなったという面もありますね。また、まだ在籍者はいませんが、行政書士や司法書士も資格手当の対象です。当社では、例えば税理士の有資格者が人事部門にいるといったような場合にも、所属部署に関係なく資格手当が支給されます。資格を直接活かせる部門にいなくても資格手当がもらえる点も、多くの社員が資格取得をめざしている理由のひとつでしょう。こうした制度は、他の会社ではなかなかないと思うので、DMSの魅力のひとつだと捉えています。

──新卒採用において、学生時代に資格を取得している方については、どのように評価していますか。

青木 明確に有利だとは言いきれませんが、資格があれば目にとまりますね。「きちんと勉強してきたんだな」というひとつの指標として見ています。「日商簿記検定2級」「税理士科目合格」などと書いてあれば、どれだけ努力して勉強されたか想像できますので、「一度会ってみたいね」という話につながりやすいです。

多様な人材が働く多様な働き方の会社

──社内でユニークな制度や福利厚生があれば教えていただけますか。

青木 電通グループとしての制度になりますが、イベント系では、例年5月に家族も招待してテーマパークへ行けるという「電通ファミリーデー」があり、これは大変な人気です。働き方に関しては、毎月の休日の他にもう1日、部署全体でお休みを取る「電通インプットホリデー」を実施しています。また、2019年からはフレックスタイム制度の導入にも踏み切りました。
 当社は女性が8割の会社なので、産前・産後休暇や育児休暇も万全の体制ですし、今後は多様な人材が働く会社で多様な働き方が必要になってくるので、時間配分も含めていろいろな取捨選択ができるような環境を整えています。
 さらにもうひとつ、効率よく限られた時間で業務を進めるためにRPA(ロボットによる業務自動化)とAI化を推進しています。電通グループには、グループ全体のRPAやAIを管理導入する専門の事業会社がありますので、そこが中心となってRPAによる事務効率化や自動化を進めていて、すでにDMSだけでも10以上のRPAを活用しています。事務作業はRPAが得意とするとても導入しやすい業務なので積極的に推進したいのですが、グループ各社の業務フローがまだ統一されていない部分がある点が課題となっています。業務フローや運用が統一されれば、RPAとAIはもっと活用できるようになり、効率アップにつながるでしょう。現在、電通全社をあげてRPAとAI化を推し進めていますので、これが着地すれば大幅に運用が楽になり、効率化が加速すると思います。そこを見据えて、私たちは事務作業をRPAに置き換えて、電通とグループ会社に残っているコンサルティング的業務をDMSに集約し、将来的には電通グループの経理・人事全体をすべてDMSで統括することをめざしています。

──最後に、資格取得をめざして勉強中の方々にメッセージをお願いします。

青木 資格を取得することは大切なことですが、実はその資格を「活かすための能力」がさらに必要になります。それは「対人能力」であったり、「相手の希望を読み取って洞察し応える力」であったりします。そうした力を培うためには、1つの分野だけにとらわれずに幅広く勉強して、幅広い人と会って話すことが必要です。「専門性を高めるための資格」を取得することに加え、外側の鎧ともいえる、「活かすための能力」を身につけていただければ、どこの会社のどんな業務でも、力を発揮できるはずです。そこを意識しながら、めざす資格取得に向けて受験勉強に臨んでいただきたいと思います。

[『TACNEWS』 2020年6月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]

会社概要 

社名   株式会社 電通マネジメントサービス
設立   1992年6月15日
代表者  代表取締役社長 末次 明博
所在地  東京都港区浜松町2-2-12 JEI浜松町ビル     

事業内容

電通ジャパンネットワーク各社等からの受託業務(経理・人事)、ファクタリング業務

従業員数

356名(2020年4月1日現在)


*株式会社 電通マネジメントサービス様は2022年1月1日より、株式会社電通コーポレートワンに社名が変更となっております。このページでは、取材時の名称にて掲載しております。また、掲載内容は取材日時点の情報に基づいています。(取材日:2020年2月)

合わせて読みたい

おススメ記事

「TACNEWS」に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。