人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第1回 株式会社ベネフィット・ワン

Profile

門野 靖弘氏

株式会社ベネフィット・ワン
執行役員 人事部長

新卒で人材総合サービスの株式会社パソナに入社。7年間、営業部門に所属した後、6年間、営業企画部門でアライアンスやM&Aを担当。その後、パソナグループ内部監査室長として内部監査に従事。2010年7月、子会社である株式会社ベネフィット・ワンの法務コンプライアンス統轄室長、2014年2月から人事部長に着任。現在に至る。

株式会社ベネフィット・ワンは、1996年、人材総合サービスを展開するパソナグループの社内ベンチャー第1号として設立された。福利厚生事業でシェアトップを誇り、国内13拠点、会員数約743万人。創立23年目の現在、業界・規模を問わず8,572団体がサービスを利用。旅行、レジャー、グルメ、ショッピング、育児、介護、スポーツ、学習、健康など、140万以上のサービスコンテンツを提供している。新たなビジネスモデルを携えてスタートしたベネフィット・ワンのビジネススキームとは。またその人材戦略とは。執行役員 人事部長の門野靖弘氏にお話をうかがった。

ユーザー課金型のサービスマッチング

──株式会社ベネフィット・ワンはどのような事業を展開しているのでしょうか。

門野 ベネフィット・ワンは「サービスの流通創造」をビジョンとしています。例えば、話題の映画を観る、友達と食事に行く、家族で旅行に行く、そんな様々な場面で使う当たり前の「サービス」の情報をすべて集約して、誰もが自分自身にとって最適なサービスを比較検討した上で適正な価格で選び、安心安全に買うことができる。そんなプラットフォームを創ろうとしています。

──具体的なサービス内容をご説明いただけますか。

門野 ベネフィット・ワンは、サービスを提供するお店と消費者を結びつけるサービスマッチングを行っております。例えば、グルメサイトや旅行予約サイトなど、世の中にはサービスと消費者を結びつけるビジネスがたくさんあります。大きな仕組みとしては私たちも同じですが、彼らはサービスを提供する企業やお店から広告費や手数料を得て収益をあげています。一方「サービスの流通創造」を実現するために当社が選んだのは、会員制定額サービスの「サブスクリプション型」。そこがビジネスモデルとして大きな相違点になっています。
 多くのグルメサイトや旅行予約サイトにとっての「お客様」は、消費者にサービスを提供している「企業」や「お店」です。しかし当社は消費者が適正に情報を得て自分自身にとって良いサービスを比較検討した上で選べる状態にしたかったので、そうした広告収入型、手数料型だとやりたいことができないと考えました。ではどこからお金をもらうのか――会員である消費者からお金をもらおう――ということで定額課金制サブスクリプションモデルの事業を立ち上げたのです。

──消費者から直接お金をいただくのは難しくはなかったのでしょうか。

門野 大変難しかったです。そこで考えたのが、個人との間に企業に入ってもらい、当社のプラットフォーム「ベネフィット・ステーション」のパッケージサービスを福利厚生として利用していただくことでした。福利厚生施設を利用する企業に費用を負担していただき、従業員がそれを利用する。一方のサービス提供者側である企業やお店側からはお金をいただかない代わりに、安くて良いサービスを提供していただきます。大手企業の加入が決まれば、数千人、数万人単位で会員が増えるため、サービスを提供する側も、より良いサービスを安く提供してくれます。この好循環により、会員数もサービスメニュー数も増えていきました。

──大枠で捉えると福利厚生のアウトソーシングになるわけですね。

門野 私たちのやりたいのはあくまで「ユーザー課金型の流通サービスマッチング」、究極は「サービスの流通創造」です。福利厚生サービスは社会的必要性や意義もあり、ひとつの提供方法として行っているものになります。
 就職活動をする学生たちは、初見で当社に福利厚生のアウトソーシング業というイメージを持つようですが、実はそこがゴールではありません。仕事をする上では、長期的な目標を持つことと、日々の業務に一生懸命取り組めることの両方が大切だと考えています。当社の「サービスの流通創造」というビジョンの実現をめざし、日々の業務に邁進してくれる人材を求めていますので、ミスマッチが起こらないよう、ビジョンも仕事内容もしっかり伝えるようにしています。

情報集積したビッグデータを分析し企業に提案

──御社の展開の中で、特にアピールしたいポイントは何ですか。

門野 企業の人事に福利厚生サービスを提案していくうち、また新たな事業が生み出されていきました。報奨をポイントで付与したり、健康診断、保健指導、メンタルヘルス、給与計算、出張精算、小口精算、教育、金融と、BtoBのいろいろなサービスへと広がっていったのです。
 さらに、これらのBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業をワンストップにすることで、情報集積したビッグデータを分析し、企業に提供すれば、組織の分析やタレントマネジメントに活かすことや、経営効率アップにつなげることができます。あるいは、これまでは情報提供して終わりだったサービスも、データを組み合わせることによって活用していくことができます。例えば健康診断の結果を経年で管理した結果、成人病のリスクが高くなってきたことが分かれば「あなたの家の近くのスポーツクラブに福利厚生で利用できる施設があります。そこで運動しませんか?」と提案することもできます。今後、蓄積したデータを統合・分析していくことで、やりたいことは果てしなく出てくると思います。

「いい人しか採らない」採用で来春新卒30名の採用を予定

──採用についてお聞きします。御社の「求める人物像」とはどのようなものですか。

門野 当社はこの10数年間、ずっと「いい人しか採らない」採用をしてきました。この「いい人」とは、簡単な言葉で表すと「素直さ」と「前向きさ」です。「素直さ」は、組織としても個人としても良いサービスを創造し、成長・進化していくには重要な資質です。完璧な人間はいないので自分の欠点を認めて変えられる。それが素直さであって成長につながります。「前向きさ」は、ベネフィット・ワンのめざす新しい事業に挑戦していく気持ちにとても大事な資質です。当社は世の中にないものを生みだしていきたいと思っていますので、いろいろな情報を素直に受けとめて、それを前向きな力でアイデアに活かしていけることが肝要です。
 もうひとつは4つのP。すなわちPURE、PASSION、POWER、POSITIVE。これがベネフィット・ワンのプロ意識の礎となっています。常にプロ意識を持って、強い使命感と責任感で臨むこと。何事にも誇りをもって挑戦し続ける人材を求めています。

──今春の新卒採用はいかがでしたか。

門野 当社は入社してから学んでもらうことが多いので、新卒採用をメインに行っています。システムエンジニアやWebスキルを持った専門職は外部からの中途採用が多くなりますが、営業系の社員は社内で育てるのが主流です。また当社は2007年、愛媛県松山市に松山オペレーションセンターを開設しており、約600人、つまり総員の3分の2が松山勤務でお客様の声を聞く業務に就いています。ですので新卒採用は全国転勤のある総合職と松山エリアで採用する専任職のふた通りになります。総合職の2018年新卒は例年の3分の1に絞って13名、松山では11名採用しました。
 組織に若い人材が入ると良い効果を生むので、来年の採用は30名に増やしたいと考えています。

──今年、採用を絞った理由を教えてください。

門野 2016年から社内で取組み始めた働き方改革を大きく推進していることが背景にあります。日本の労働人口減少をかんがみれば、労働集約型で業績を上げていくのは現実的に難しいので、人を増やすのではなく、生産性を上げる方向で考え、採用も絞りました。
 当社独自の働き方改革を「NEO WORKS」と名付け、社員が自分の仕事を定型業務と非定型業務に分けて、約75%にあたる定型業務を外部に委託する仕組み作りに取り組んでいます。残りの25%の非定型業務はマネジメント、クリエイティブ業務、企画業務などが該当し、そこに注力することで生産性の高い仕事をめざします。定型業務を棚卸しして、マニュアル化、必要に応じて映像化して、外部に任せる準備を進めることによって会員数や売上が増えても、従業員を大幅に増やすことなく対応できると考えています。
 外部の人材は退職者をネットワーク化して、当社の業務に携わってもらっています。加えて当社には743万人もの会員がいるので、例えば飲食店の開拓など、担っていただける役割もあると考えています。

──NEO WORKSに取り組む効果は既に出ていますか。

門野 社員数は昨年より1割減っていますが売上は320億円まで増えました。またNEO WORKSを始めてから、時間外労働時間は月15時間までという目標を掲げているのですが、2016年は17.0時間だったのが2017年には16.4時間と、0.6時間減りました。まだ15時間には届いていないので引き続き取り組んでいきたいところです。有給取得率も2017年は8割に上がっています。このような結果から、NEO WORKSを進めることで効率化が進んできていると確信しています。
 NEO WORKSが本格稼動するのは3~5年後。現在の会員数は743万人ですが、オリンピックイヤーには約4倍の3,000万人をめざしています。会員数がその数字になっても社員数を増やさずにすむように、NEO WORKSで一定の組織の形ができていればいいですね。

23歳でドイツ支社長、最高の成長機会をつくる人事制度

──斬新な働き方改革を推進している御社では、人事制度に何か特別なものがありますか。

門野 当社がベンチャー制度に後押しされて生まれたことを踏まえ、若手からベテランまでを対象に、事業提案コンテストにエントリーし最後の役員プレゼンテーションで認めてもらえれば事業化できる起業制度ができました。
 またジュニアボード制度といって、社歴3~4年目から40代中盤までの社員の中から選抜された社員が、社長と一緒に企業文化や価値観レベルをいかに上げていくかをテーマに、月1回会議を開いて議論しています。1年間の任期で毎年10人が入れ替わる制度で、経営感覚や組織がどのようなものかを学んでいきます。これまでは各部署の責任者が選んでいましたが、最近では自発的に挙手してくる若手が出てきて嬉しさを感じています。
 他にも、オープンポジション制度といって、新しいポジションや空席を社内公募で挙手した者から選ぶ制度があります。当社では2012年から海外展開を始めましたが、赴任しているのはほぼすべてこの制度で挙手した社員です。中でも一番特異な例がドイツ支社で、23歳の男性社員が入社1年目の11月に赴任しゼロベースから立ち上げました。学生時代にWeb系ビジネスの経験があったとはいえ、23歳で単身ドイツに渡るのはすごいことです。決して話題性で選んだのではなく、彼の提案が一番成功率が高いと判断して選ばれた、公平な選考の結果です。当時ドイツではデュッセルドルフに日本企業の出先機関が最も多く、そこなら安全に立ち上げられると言われていました。しかし彼は「せっかく海外で勝負するのなら、グローバル企業やドイツの内資企業が集中するミュンヘンで受け入れられてこそ、グローバル展開なんじゃないですか」と新入社員ながら挑戦的な発言をし、今、ミュンヘンで責任者として孤軍奮闘しています。きっと国内にいた時よりはるかに成長が速いでしょう。役割を与えるのが最大の成長の機会、最高の教育研修なのかなと感じます。
 その他、自己申告で仕事の達成感や業務量、興味を持っている分野、勉強していること、異動希望などを人事に直接話せる機会を設け、それぞれのタレントマネジメントにつなげて適材適所の配置になるように配慮もしています。

仕事も遊びも勉強も、すべてインセンティブ・ポイントで

──自社の福利厚生についてはいかがですか。

門野 報奨ポイントプログラム「インセンティブ・ポイント」サービスを2006年に開始しており、現在流通ポイント額100億円のビジネスにまで成長しました。もちろん当社でも導入しており、会社に対する貢献度や業績のほか、そのプロセスや係わり度合いに対してもインセンティブとしてポイントを付与しています。また、自分がもらったポイントを自分をサポートしてくれた人たちにメッセージと共に送ることもできます。レコグニションにもとても役立っていて、チームプレイを重んじる組織風土の下地になっています。
 会員に提供しているベネフィット・ステーションにある約140万コンテンツのあらゆるサービスも優待価格で利用できますし、カフェテリアプラン制度(選択型福利厚生)では年間最大30万ポイントが付与され、ベネフィット・ステーションの各種サービスや住宅費補助、確定拠出年金制度への加入等に自由に利用することができます。

──教育研修にはどのようなものがありますか。

門野 パソナグループ全体の階層別研修や新人リーダー研修、新入社員研修をベースに社員が自由に受講できる講座を外部の研修機関と組んで、常時125種類以上の講座を用意しています。ロジカルシンキング、経営数字、データ分析等いろいろな研修を従業員が自由に受け、社員の3分の1が利用しています。また、自立自走する人材への成長とプロジェクト管理を学べる研修も実施しています。

──資格取得についてはどのようにお考えでしょうか。

門野 当社は事業としていろいろな資格が必要になる分野もありますから、社内的に資格取得を推奨しています。総合旅行業務取扱管理者試験や宅地建物取引士試験のように業務で必要になるものから、日商簿記検定、税理士、FP(ファイナンシャル・プランナー)といった、知識習得のために推奨している資格もあります。FPは営業部では取得を強く推奨しています。
 民間資格では、ヘルスケア事業を行っていることもあり、日本健康マスター検定も推奨しています。事業に直結している福利厚生管理士については、年1回講師を呼んで土日の2日間で研修を実施し、最終試験まで受験できるよう資格取得を後押ししています。また、当社は副業を許可していますので、中小企業診断士の資格を取得して就業時間外に中小企業支援をしている社員もいます。
 当社では、インセンティブ・ポイント制度のポイントを資格取得費用への交換に利用することも可能です。難易度が高い国家資格等に合格すれば12万円分、中級レベルの資格は3万6,000円分、民間の資格等は1万円分のポイントが付与され、会社推奨資格の取得補助に当てることができます。このような形で資格とインセンティブ・ポイント制度をからめていて、TACで取得できる資格もかなりの数を推奨しています。

──最後に『TACNEWS』の読者にメッセージをお願いします。

門野 皆さんは何らかの必要性を感じて資格取得をめざしていることと思います。仕事をしながらも土日や夜、仕事のあとに時間を作って勉強されていると思いますが、その目標設定はとても良いことだと思います。ただ最後は資格を取って何をしたいか、そこが一番大事だと思いますので、自分がどのようなキャリアを描いていこうか、将来を見据え、資格取得に向けてがんばってください。

[『TACNEWS』 2018年9月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]

会社概要

社名 株式会社ベネフィット・ワン
設立 1996年3月15日
代表者 代表取締役社長 白石徳生
所在地 東京都千代田区大手町二丁目6番2号 JOB HUB SQUARE 9階

事業内容

福利厚生事業、インセンティブ事業、
CRM(Customer Relationship Management)事業、
パーソナル事業、BTM(Business Travel Management)事業、
旅行事業、ヘルスケア事業、コストダウン事業

従業員数

単体 743名/連結 980名(2018年4月1日現在)

URL: https://www.benefit-one.co.jp

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