日本のプロフェッショナル 日本の社会保険労務士|2023年3月号
安 紗弥香(やす さやか)氏
リテールクリエイト社会保険労務士法人 代表社員
こんくり株式会社 代表取締役
特定社会保険労務士 コンビニ社労士®
1979年5月9日、愛媛県松山市生まれ。上智大学文学部卒業。学生時代から約5年間ディズニーストアで勤務し、コンビニエンスストアチェーン本部(am/pm、ファミリーマート)に転職。通算7年の勤務の間に4,000名を超える社員研修、加盟店オーナー研修に携わる。2010年、社会保険労務士試験合格。2012年3月、社会保険労務士登録。翌年5月、経営・人事コンサルティング Office38を設立し独立開業。2014年9月、社会保険労務士法人プレミアパートナーズを副代表として設立。2017年5月、 経営・人事コンサルティングOffice38をこんくり株式会社として法人化。2022年3月、リテールクリエイト社会保険労務士法人を設立し、コンビニエンスストア・小売業特化の社労士法人として活動を開始。一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会 研究会員(2022年度スーパーバイザー学校 労務管理担当講師)。
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「コンビニ社労士®︎」として、コンビニ・小売業界から、
日本を元気にしていきます。
社会保険労務士業界において、トータルサポートやワンストップサービスを売りにする総合型の事務所がある一方で、就業規則や助成金、給与計算といった専門特化型の戦略を採る事務所も多い。そんな中、コンビニエンスストアと小売業に特化した「コンビニ社労士®︎」として活躍しているのが、リテールクリエイト社会保険労務士法人代表の安紗弥香氏だ。独自の路線でブランディングを行う安氏に、バックボーンとなる経験や資格取得までの経緯、現在の仕事内容から今後に向けた取り組みまでうかがった。
ディズニーでのダブルワークを経験した学生時代
「コンビニ社労士®︎」を名乗り、コンビニエンスストア(以下、コンビニ)・小売業界に特化した社会保険労務士(以下、社労士)として活躍している女性がいる。リテールクリエイト社会保険労務士法人の代表社員・こんくり株式会社の代表取締役の安紗弥香氏だ。「コンビニ社労士®︎」は安氏が社労士資格取得後に自ら名乗り始めた名称で、2018年5月には商標登録も済ませている。安氏はなぜコンビニ・小売業界に特化した社労士になったのだろうか。その歩みから振り返ってみたい。
愛媛県松山市で生まれた安氏は、高校卒業まで地元で育った。高校時代の夢は「声優になること」。「声がキレイだね」と褒められる機会が多かったため、自然と声を使う仕事をしてみたいと考えるようになった。進路相談で「大学を卒業したら上京して声優をめざしたい」と教師に話したところ、「それなら大学から東京に行きなさい」とアドバイスをもらった安氏。その助言通り、都内にキャンパスを構える上智大学文学部に進学した。
「もちろん、声優の専門学校に入ることも考えました。ただ、年間の学費が200万円程かかり大学の学費より高額なため、経済的に厳しくて断念しました」
大学に進んだ安氏は、学業の傍ら様々なアルバイトにも精を出していた。そんな安氏には、ある憧れの職場があった。
「いつか東京ディズニーランドで働いてみたいという思いがありました。ただ、求人はあっても応募条件がなかなか厳しくて。どうしようかと思っていたところ、大学4年のときにディズニーストアのキャスト募集チラシを見つけたのです。条件も満たしていたため思い切って応募したところ、採用していただけました」
こうして安氏はディズニーストアで働き始めるのだが、程なく東京ディズニーシーのオープニングキャスト募集もあり、土日・祝日の勤務希望で応募したところ見事採用された。こうして大学に通う傍ら、平日はディズニーストア、週末は東京ディズニーシーで働く生活が始まったのである。
「実はその頃はちょうど就職活動の時期でした。何社か応募もしてはみたのですが、しっくりくる企業が見つからず、そのままディズニーでのダブルワークを続けていました」
安氏がディズニーの2つの職場で担当していたのは、どちらも販売の仕事だった。しかし、その内容は似て非なるものだったという。
「ディズニーストアでは『ショッピングエンターテインメント』といって、お客様に“買い物そのものを楽しんでもらう”ことが重視されていました。一方、東京ディズニーシーで重視されていたのは『エンターテインメントショッピング』という、お客様に“エンターテインメントのひとつとして買い物をしてもらう”ことでした。私は、お客様に買い物を楽しんでもらうことや、売上を作るために商品陳列や導線を考えることが好きだったので、ディズニーストアの仕事のほうが肌に合っていましたね。働き始めて1年半程経った頃、東京ディズニーシーでの仕事はやめて、ディズニーストア1本に絞りました」
コンビニへの興味からコンビニチェーン本部へ転職
小売業のおもしろさに目覚めた安氏をコンビニ業界へと導いたのは、ディズニーストアで働き始めて3年目のときの上司、大手コンビニチェーン本部に勤務経験がある人物だった。
「あるとき、その上司から『あのケーキ店を見てきてごらん』と言われて、見に行きました。一体何を見ればいいのかもわからずに戻ってきた私に、その上司は『ケーキ店は生ものを扱っているから、在庫を長く持てない。だから、その日の天気や気温、近くで行われるイベントなどいろいろな情報を集めてそれをもとに適切な発注量を決めたり、販売戦略を立てたりしていく。私たちの業態よりもシビアに情報を捉えているんだ』と教えてくれました。コンビニもケーキ店と同様のスタンスで情報収集をしていて、それを発注に活かして商品を販売し、売上と利益を作っていくという話も聞いて、俄然コンビニの仕事に興味が湧いてきました」
その頃にはディズニーストアの契約社員としてキャストの管理・育成・研修なども一部任されるまでになっていた安氏。しかしコンビニ業界に転職するため、約5年勤務したディズニーストアを退職。コンビニチェーン本部への転職活動を始めた。
「大手コンビニチェーンの採用試験を受けましたが、一次面接で不採用。どうしようかと思っていたときにエーエム・ピーエム・ジャパン(am/pm本部)の募集を見つけたので応募したところ、無事に採用されました」
コンビニチェーン本部に転職した安氏が配属されたのは、コンビニオーナーや社員の教育研修を担当する部署だった。
「コンビニ業界は未経験でしたが、『ディズニーストア出身』という経験を高く買ってくれての配属だったようです。でも業界未経験で右も左もわからない状態。そのため、昼間は本部の近くにある研修店舗で働いてコンビニ業界のイロハを学び、夕方に本社に戻ってから研修の業務や他のトレーナーの研修準備などを手伝いました」
しかし、安氏が研修の現場に立つのはそこからさらに1年半ほどあとになる。なんと入社2ヵ月で、新業態の開発を行う部署へと異動になったのだ。
安氏は、この部署で実験的な店舗開発に携わった。ガソリンスタンド併設型の店舗や、レンタルDVDショップの要素を取り入れた店舗――。アメリカで、ガソリンスタンドに併設する形でスタートしたam/pmならではの発想だ。本部としての最終目標は「フランチャイズ化」。そのため、開発店舗では実際に店頭に立ち、業務オペレーションの検証も行った。しかしながらこの取り組みが実を結ぶことはなく、安氏は元の部署に戻ることに。その頃にはam/pmがファミリーマートに吸収合併される話が水面下で進行していた。
労働法を教えるために社労士資格を取得
元の部署に戻った安氏が次に担当することになったのは、コンビニオーナーの研修だ。コンビニオーナーに対して、労働基準法などの労働法や、労災保険などの知識を教えることになったのだ。
「本来であれば上長や先輩が講師を担当する内容なのですが、吸収合併を前にした希望退職や配置転換などで上の人たちがいなくなってしまって、残されたのは私と、同い年の同僚だけだったのです。その同僚に『法律の研修はやりたくない』と先に言われてしまったので、私がやるしかなくなりました」
そんな状況下で、「とりあえず勉強をしなければ」と調べていく中で出会ったのが社労士資格だった。
「必要な知識を体系的に学ぶには、資格の勉強が効率的だと思いました。また、試験合格を目標にすることで、学習のモチベーションにもつながると考えたのです」
こうして、研修講師の役割を果たすため、専門知識を身につけるという目的で社労士試験の勉強を始めた安氏。勉強を始めて程なく、勤務先のam/pmはファミリーマートに吸収合併された。2010年3月1日付での出来事だ。
「転籍したからには、今度はファミリーマートの店舗オペレーションを学ぶ必要がありますし、研修の流れも覚え直しになります。そこに社労士試験の勉強が重なっていましたので、なかなかハードでしたね」
多忙な中、見事その年の社労士試験で合格を果たした安氏。その後は学んだ知識を活かしながら、店長候補の研修講師を続けていた。
「店長研修は、研修を受けるメンバーは変わっても、教える内容は毎回ほとんど変わることがありません。そこで『資格も取得できたことだし、そろそろ何か違う仕事をしてみたい』と思って、人事労政グループへの異動希望を出しました。上司もかけ合ってくれたのですが、異動先は人材開発グループ。単に研修相手がコンビニオーナーから社員に変わるだけでした」
コンビニでの仕事に活かすことだけを考えて社労士試験の勉強をしていた安氏。独立開業をすることなどまったく考えていなかったというが、社労士資格を取得したあと、Twitterやブログ、社労士試験関連のオーディオメディアなど「外部への発信」を始めたことで、一気に会社の外の人たちとのつながりが増えた。
「そこで知り合った人たちから『いつ独立するの?』と聞かれて。それで初めて、独立開業の道を意識するようになりました。社内で資格を活かす道を考えていましたが、希望していた人事労政グループへの異動も叶いそうになく…。それなら勇気を出して独立しようと心に決めました」
コンビニ社労士®︎として独立開業
独立開業を視野に入れ、開業後のビジョンを考えるようになった安氏。頭に浮かんだのは、研修を受けたあとでも現場で困っているオーナーは多いという課題だった。
「コンビニは比較的システマチックな運営体制なので、勤怠管理や給与計算はデジタル化されていてパソコン上で簡単に行えるようになっています。一方、就業規則や36協定などへの理解や対応は不十分なのではと思っていました。研修でこういう話題になると、皆さんそろって難しそうな顔をしていましたから。
合格後、ブログなどで発信していきながら自分の強みは何かを考えたところ、やはり『コンビニ業界での経験』だと行きつきました。であれば、この自分の強みと社労士資格を掛け合わせて、現場で困っているオーナーのサポートをしたいと考えたのです」
2012年末に独立開業の決意を固め、翌年1月末に会社に退社の意思を伝えた安氏。2012年3月に社労士登録し、翌年5月、「経営・人事コンサルティング Office38」を設立した。
「『コンビニから日本を元気に!』というスローガンのもと、経営・人事関連の執筆活動や研修、コンサルティングなど、これまでの経験を活かせそうな業務をメインで行いました。社労士業務未経験だったため、開業前にはいろいろな先輩社労士の勉強会に参加しましたね」
その後、ブログをきっかけにつながった先輩社労士から頼まれて、4ヵ月ほどその先輩の事務所に通い社労士業務の基礎を学んだ。その間も安氏は着々とOffice38の集客の仕掛けを動かしていった。
「社労士業務とは直接関係ない内容ですが、開業当日に『口ぐせ発見セミナー』というコミュニケーションに関するセミナーを開催しました。定員30名で参加費は2,000円だったのですが、見事満席になりまして。初回は“ご祝儀”効果もあったと思いますが、独立開業の初日から6万円の売上を得られました。
集客に関しては、ブログやFacebookを活用しました。社労士業務で最初にいただいた案件はブログで知り合った方の紹介で、就業規則の改訂でしたね」
開業してしばらくはコンビニオーナーとの接点を得にくかったという。しかしブログでの発信を続けることで、インターネット検索経由で問い合わせが入ったり、コンビニの会計を専門に見ている会社やコンビニオーナーから紹介を受けたりというように、次第に顧客が増えていった。
副代表として社労士法人を設立
コンビニチェーンから社労士として独立開業――。独自路線を走っていることもプラスに働き、順調な滑り出しだったように見えた安氏だったが、実はある悩みを抱えていた。
「顧問先も少しずつ増えてはいましたが、社労士としては今ひとつ。セミナーを開いても、そこから集客につなげられなくて悩んでいました。そんなときに『一緒にやらない?』と、社労士の長澤香織さんから声を掛けられました。当時、社労士業界で有名なブロガーだった長澤さんと私が手を組んだら結構おもしろいかもと思い、『ぜひ』と回答しました。長澤さんが代表で私は副代表として、2014年9月に社会保険労務士法人プレミアパートナーズを立ち上げました」
このとき安氏は、改めて社労士業務に向き合ってみようと考えていた。
「プレミアパートナーズでは、コンビニオーナーを中心に顧客開拓しつつ、他にもいろいろな業種の方をご紹介いただき、1年間で20件以上の顧問契約を取れました。開拓したお客様の手続業務を自分で行うこともありましたが、少しずつスタッフも増えてきたので、手続業務に関してはスタッフに任せるケースが多かったです。私自身は営業活動などお客様との接点になる部分をメインで担当していましたね」
社労士業務はプレミアパートナーズで行い、もともとOffice38で個人事業として請け負っていた執筆活動や研修、コンサルティング業務を2017年に法人化し、こんくり株式会社を設立した。経験を積み、社労士としてパワーアップした安氏。社労士業務ではコンビニオーナーや小売業などが次々に顧問先に加わり、同時に個人で行っている執筆や研修業務も順調に推移していった。
「長澤さんと一緒に仕事をする中で、社労士としての姿勢や、会社経営のイロハを学びました。そうして次第に、めざしたい社労士法人像が自分の中に芽生え始め、そろそろ独り立ちしたいと考えるようになったのです。その希望を長澤さんに話したところ快諾してくださって。しかもありがたいことに、私が開拓した顧問先は新しい法人に引き継いで構わないと言ってくださいました。お言葉に甘え、ご希望をうかがった上でOKをいただけた顧問先は、私の法人で担当することになりました」
一緒に立ち上げた社労士法人から離れ、新たに別の社労士法人を立ち上げる。安氏はこの決断を受け入れてくれた長澤氏に感謝しかないと話している。
こうして安氏は2022年3月にリテールクリエイト社会保険労務士法人を設立し、コンビニ・小売業特化の社労士として改めてスタートを切った。
社労士の枠にとらわれないサポートを
2013年5月に独立開業した安氏。開業社労士としてのキャリアもだいぶ長くなってきた。
「現在の顧問先は50件弱で、うち3分の1がコンビニや小売業です。コンビニ・小売業に特化しているといっても、他業種の知識や動向も幅広く頭に入れておく必要がありますので、できるだけ幅広い業種のお客様とおつき合いするようにしています。
スタッフは私を含めて6名です。社労士・社労士試験合格者が5名、そのうち1名は行政書士資格も持っています。もう1名は有資格者ではありませんが、事業会社の人事労務経験が15年以上あり実務経験が豊富です」
リテールクリエイトの特長としては、コンビニ・小売業に特化していることに加え、社労士の枠にとらわれないサポートを行えることが挙げられる。社労士の守備範囲は、労働保険や社会保険の手続き、給与計算、助成金といった領域でのサポートと捉えられがちだ。しかしリテールクリエイトでは、必要な専門家の紹介、セールス部分の「売上をどう上げるか」といった悩み、新しいビジネスモデルや商品・サービスの相談にも対応している。さらに、併設のこんくり株式会社で、人事・労務や人材開発に関するセミナー・研修の企画、運営、執筆業務を行っていることや、「MANA-formation®︎」という情報発信型オンラインコミュニティの管理・運営を行っていることも、事務所の特長であり強みと言えるだろう。
この情報発信型オンラインコミュニティの運営は、近年注力している業務のひとつなのだという。
「オンラインコミュニティでは、専門家チームを編成して、チームメンバー各人が毎月1回記事を書きます。それを社労士法人のお客様やオンラインコミュニティの有料会員の方に向けて情報発信するという運営形態です。顧問契約というのはお客様と“1対1”の関係で、自分の時間を切り売りする労働集約型のサービスですが、オンラインコミュニティは“1対多”の関係性で、同じ労力でもより多くの人に情報を届けられるのが特長です」
先行投資として採用し、じっくり育てる
社労士業務だけでなく幅広い活躍を見せる安氏。2023年の1月に試験合格者を1名採用しているが、どのような方針で採用しているのだろうか。
「仕事が増えるのに合わせてというよりも、どちらかというと仕事が増える前に採用しています。実務スキルを身につけて、ひとりで顧客対応ができるようになるまでは、どうしても2年近くかかります。ですから先行投資として人を採用してじっくり育てていく。その中でその人の得意分野を伸ばしつつ、包括的な実務経験も積んでもらえるようにしています。
リテールクリエイトには、多方向からいろいろな要望や連絡が来ます。その幅の広さは事業会社で15年の経験がある人でも戸惑うくらいです。ですからそれに耐えうるメンタリティ、ガッツある人が望ましいですね」
ただし、オープンな採用活動は一切行っておらず、すべて紹介経由での採用だという。また、採用にあたっては安氏ひとりで判断するのではなく、メンバーにも会ってもらった上で、採否の判断をしているそうだ。
「こういう仕事があるからやりなさいという『仕事に人をつける』やり方ではなく、その人にどんな仕事を任せたいかという『人に仕事をつける』やり方で考えています。私が雇われる立場なら、やりたくない仕事はやっぱりやりたくないですから(笑)。私自身にも強みがあるように、メンバーそれぞれにも強みがあります。どんな形で社労士資格を活かしていきたいのか、どんな仕事ならモチベーションが上がるのか――。メンバーには希望をヒアリングした上で、適切な仕事を頼んでいます。それぞれの強みを活かしながら、みんなで成長していきたいですね」
コンサルティングを行っている顧問先から、手続業務をプラスで依頼されるケースも増えているという。そのため、これらの対応ができる人材を育てていく必要があると安氏は考えている。基本の社労士業務ができてこそ、社労士の枠にとらわれないプラスアルファの強みを活かせるということだ。
「2023年は人を育てつつ、売上も増やしたいですね。これまで営業活動や外部との折衝は私が担当してきましたが、営業担当を2名体制にしてお客様を増やしていきたいです。やはりメンバーみんなのお給料を上げたいですし、私の役員報酬もできれば上げたいですから。最終的にはやりがいも大事だし、お金も大事だと思います。一人ひとり大事だと考える要素は違いますが、きちんと仕事の対価として十分な賃金を支払える体制にしていきたいですね。もちろんスタッフの数や顧問先の数ではなく、一番大事なのは仕事のクオリティだと思っていますので、スタッフの育成も引き続き注力していきます」
資格をどう使いたいのか
世間では、AIに取って代わられる職業のひとつとして社労士が挙げられることも多い。特に手続業務についてはそのように捉えられがちだ。
「それも私にとっては『どうぞ、どうぞ』という感じで。そもそもAIを動かすのは人間なので、1から0まですべてをAIが代替することは難しいと思います。AIを動かす人は、業務について、ある程度の知識を持っていなければいけないでしょう。
AIによって作業自体の労力が軽減されるのはいいことですし、空いた時間をコンサルティング業務などに充てられるようになるのなら、大歓迎でしかありません」
AI時代になっても社労士の仕事はなくならないだろう。そう社労士業界の展望を考える安氏だが、資格取得のメリットについてはどのように考えているのだろうか。
「やはり国家資格の力は強くて、資格を持っているだけでその人を信頼する要素になります。また、資格は自分の肩書きになりますが、逆にその肩書きに縛られない生き方もできます。もし失敗したら肩書き通りの仕事に戻ればいい。そう思えたら、チャレンジできる幅が広がりますよね」
最後に、社労士をはじめとする資格試験に向けて勉強している読者にアドバイスをいただいた。
「資格は取得して終わりではなく、取得してからがスタートです。社労士には独占業務がありますから、それを頼りに独立を考える方も多いと思います。でも自分の中にキラリと光る強みがあるからこそ『あなたに頼みたい』と言ってもらえるのだと思います。ですから、資格をどう活かしたいか、自分の強みは何かを、資格を使う前によく考えておくことが大事です。そしてこれから出会うであろう見込み客や将来のお客様候補に対して、社労士の資格を使って自分は何ができるのかをイメージすると、勉強のモチベーションも上がると思います。もし資格の活かし方の方向性や、自分のどんなところが強みになっているのかがわからないという場合は、ぜひ周りの人に聞いてみてください。きっと自分の姿を客観的に捉えることができると思います。
私はコンビニ業界経験者という強みを活かして、コンビニ業界から日本を元気にしたいという気持ちで独立開業しました。その思いは今も変わりません。業界をもっと元気にしていくための仕事に、これからも積極的に取り組んでいきたいと思います。皆さんもぜひがんばってください」
[『TACNEWS』日本の社会保険労務士|2023年3月号]