日本のプロフェッショナル 日本の税理士|2018年3月号
実島 誠氏
トリプルグッド税理士法人
代表理事 税理士 行政書士
実島 誠(みしま まこと)
1964年生まれ、大阪府出身。大学卒業後、会計事務所に2年半、監査法人の税務部門で7年の勤務を経て、1997年10月、独立開業。2011年4月、税理士法人化。Great Place to Work® Institute Japanの調査分析による「働きがいのある会社」ランキング第1位(2014年)、2012年より6年連続でベストカンパニーに選出。2014年、一般社団法人会計事務所甲子園が開催する第1回会計事務所甲子園で日本一になる。顧問先約1,600社ほぼすべてにクラウド会計を導入している。
「売り手よし、買い手よし、世間よし」で中堅・中小企業にワンストップサービスを提供し、クラウド会計活用で次代の税理士法人像を描きます。
AI、IoTの発展による影響を受けやすい業界として会計業界が挙げられることが多い。記帳代行や申告書作成という収益の大黒柱がなくなったらどうするのか。わかっていても、時代の流れに即応して柔軟に動ける事務所はそう多くはない。そんな中、大阪にあるトリプルグッド税理士法人の代表・実島誠氏は、こうした時代の潮流を察知し、先陣を切ってクラウド会計に取り組み、クライアント1,600社すべてにクラウド会計を導入している。未来社会の会計事務所をしなやかに実現しようとしている実島氏に、その歩みと今後の方向性について語っていただいた。
中小企業の経営のアドバイザーになりたい!
実島誠氏が税理士をめざそうと思ったのは、大学時代にたまたま簿記を習ったことがきっかけだ。
「実家が建設会社を経営していたので、高校生の時は現場でアルバイトをしていました。その時、汚れた作業服でラッシュアワーの通勤電車に乗って帰宅したことがありました。そこから、『スーツを着る仕事に就くんだ』と強く思ったのが、ホワイトカラーをめざしたきっかけです。
その後、大学3年から急に勉強にめざめ、簿記の勉強をするようになって、日商簿記2級まで取得した時に、勧められたのが税理士でした」
どんな仕事をするかより、とにかくホワイトカラーになりたい。それも税理士をめざした理由のひとつだった。大学卒業の翌年に簿記論と財務諸表論に合格し、個人の会計事務所に就職。新卒未経験で実務の第一歩を踏み出した。2年半勤務したあと、サンワ・等松青木監査法人(現:有限責任監査法人トーマツ)の税務部門に入り、国内税務に従事しながら実務と受験を両立させ、32歳で税理士登録。ちょうど独立をしようという頃だった。
独立開業を考えるようになった理由について、実島氏は次のように振り返る。
「税務は基本的にアウトソーシングで記帳代行と税務申告書作成を請け負う仕事です。でも、それだけでは中小企業の経営は良くなりません。私は経営のアドバイザー業務をやりたかったんです。中小企業の資金繰り対策、どうしたら企業体質を強くできるのか、どうやったら儲かるのか。そういうことをきちんと助言しなければいけないと感じていました。ところが当時、業界では誰もそんなことに目が向いていませんでした」
20数年前のこと。記帳して申告書をまとめて決算書を作る。それを当たり前のようになりわいにしていた時代に、経営のアドバイザーになろうとする税理士は少数派だったのだろう。
「中小企業の経営アドバイザーになるなら独立開業するしかない」と、実島氏は自分の信念を貫くため、1997年10月、独立開業に踏み切った。
売り手よし、買い手よし、世間よし
「記帳と申告だけやっていても中小企業経営をサポートできないという切迫した思いがあったのは、当時も経営に苦しむ中小企業がたくさんあったからです。中小企業の経営者と接する唯一のアドバイザーが私たち税理士。金融機関よりも、同業の経営者よりも、経営コンサルタントよりも厚い信頼を寄せられていて、数字をすべて見せてもらえる。業績をよく知っていて、給与から預金からすべて相談してもらえる我々税理士が、アドバイザーとして応えるべきだ。そんな思いから事務所名は『株式会社戦略財務/実島誠税理士事務所』としました」
10月に大阪・天満橋にオフィスを借りて独立開業。机と電話が入ったのは、11月の終わりだった。
当時は「財務のアドバイスを自分でやる」という思いにあふれる、完全なプレイヤー発想だった。こうして志高く発進し、最初に手がけたのは異業種交流会立ち上げである。
「橋下徹弁護士(当時)や司法書士、行政書士、弁理士、不動産鑑定士など、士業を集めて、起業家のための異業種交流会を立ち上げ、代表に就きました。この時に出会った専門家の紹介や人脈でじわじわとクライアントが増えてきて、そこから広がったのがスタートです」
あくまで「じわじわ」なので、開業してもしばらくの間はクライアントが増えなかった。開業後5年間は赤字の連続。社員も5名ほどで人の入れ替わりも激しかった。
転機となったのは、「クレド」と出会ったことだった。クレドはラテン語で「信条」を意味する言葉で、アメリカの高級ホテルチェーンのザ・リッツ・カールトン等が採用していることで知られていた。奇しくもザ・リッツ・カールトン大阪は実島氏が独立開業した年にオープンしていた。
「ザ・リッツ・カールトンのクレドはとても有名だったので、講演を聞き、当時の支配人の方が書かれた本も読みました。それまでは『専門家なのでこういうサービスをしたい、こういう知識を得たい、自分が何かをしたい』という発想しかありませんでした。クレドを学んで、税理士であっても自分は会社の経営者であること、社員とその家族、クライアントとその会社の従業員、そしてその家族、こうした利害関係者の幸せと満足をどうすれば築き上げることができるのかを考えなければならない…ということに初めて気づいたのです。
それまでは『税理士だから税金の申告書を作り、相談に乗って税金のアドバイスをしていくことが私たちの仕事です』と答えていたのですが、決してそうではないとわかりました。中小企業の経営者は私たちに税金の申告書を作ってもらいたいわけではないんです。本当にしてほしいのは、会社が発展、繁栄して、ずっと継続して従業員と家族が豊かに幸せになることを実現してもらいたいのです」
専門家から経営者へと意識が変わるとともに、「中小企業の100年経営で日本を元気にする」というミッションが生まれた。これは現在もトリプルグッド税理士法人(以下、トリプルグッド)のクレドの重要なミッションになっている。
クレドを導入したのは約15年前、社員がまだ10名ほどの時代だ。半年かけて作ったクレドには、社員を一流のプロにしたい、クライアントに幸せになってもらいたいという思いを込めた。現在のトリプルグッドのクレドは27項目に及ぶ。「中小企業の100年経営で日本を元気にする」、「1,000社の中小企業の黒字化を、経営支援により実現します」というミッションを、朝礼でグループ全員が唱和し、日々再確認することによって、社員一人ひとりに意識づけをする。社員はカードや小冊子に記されたクレドを携帯し、何かの選択を迫られた時は常にそれに基づいて行動することになっている。最初は冷ややかだった社員も、朝礼や勉強会などで繰り返し説明しつづけると、無意識に身近な日常をクレドに照らし合わせるようになった。自分の立場ばかりで物事をはかっていた社員が、次第に会社やクライアントに視野を広げるようになったのである。
「会社がつぶれる原因は、やはり帳簿です。きちんと会計を見ないでどんぶり勘定で仕事をするから、過剰に投資したり、経費をかけ過ぎたり、身の丈に合わないことをしてつぶれてしまう。私たちが税理士の立場で月々の帳簿を見て、アドバイスをして、赤字にならないよう水際で防いであげれば、会社はつぶれないんです。それが、私が仕事をする上での使命だと感じました」
クレドのミッションが達成されることで「会社、従業員、お客様(社会)の三者が喜ぶ」=「三方よし」が達成される。まさに「売り手よし、買い手よし、世間よし」。2011年4月の税理士法人化を契機に、社名も「三方よし」を英訳して「トリプルグッド」に変更した。
時代を先取りしたIT活用
トリプルグッド成長の秘訣のひとつに、インターネットの活用がある。実は実島氏が開業した当初、Webサイトを持っている会社や会計事務所はまだ少数派であった。そんな時代に先駆けてWebサイトを作って集客したのである。
「当時はまだインターネットで会計事務所を探す人などいなかったし、eコマースも発達していませんでした。開業したのがちょうどネット通販ポータルができた年なので、まだまだインターネットでサービスを探すなんて発想がありません。
その頃、私は行政書士登録をしていましたので、会社設立をWebサイトで謳ったのです。今ではまったく当たり前のやり方ですが、この時期にそんなアプローチをしているところはありませんでした。まず『会社設立書類を作ります』というサービスでWebサイトで集客をして、会社設立書類を作りつつ、依頼者に『税理士はどうしますか?』と聞くと、ほぼ100%『税理士もお願いします』と言われました。そこで、設立書類作成を経て税務のクライアントになっていただけたのです」
こうしたワンストップサービスによってネットユーザーを集めだした実島氏は、税務サービスの売り込みもどんどん行っていった。当時の税理士の集客は、知り合いや個人的な信頼関係の中での紹介でつながっていた時代である。そんな時代に、インターネット活用によって顧客を増やしていく方法を編み出したのである。
最先端のIT活用は集客だけでなく、もはやトリプルグッドの大動脈にまでなっている。今日のトリプルグッドでは基本的に記帳代行を行わない。顧客がクラウド会計ソフトを利用して会計データを入力する。それについて、税法に照らし適正な会計処理がなされているかをレビューし、それを元に資金計画・節税対策・経営計画といった経営に対するアドバイスに時間を割いているのである。
「ここ2年ほど社員数を大きく増加させなくても、新規で受注した仕事をこなせています。クラウド会計で完全自動化による効率化が図られているからです。当社は、マネーフォワードのMFクラウド会計を主に使用しています。クラウド会計ソフトは、インターネット上の預金データを毎日自動的に読みとり、自動的に仕訳します。給与計算ソフトや請求管理ソフトとも連動して、自動的に仕訳もできます。電子マネーやネットショップ等の情報なども自動的に仕訳します。そんな時代なので、設定さえすれば作業の95%は自動化できる。もう記帳作業など必要ありません。弊社でもクライアント1,600社がすでに自動化されています。
私は、マネーフォワードのMFクラウド会計による会計の完全自動化を税理士業界に広めたいと考えています。自動化することで生みだされた時間を経営のアドバイスに割くことができます。記帳でお金をいただくより、クライアントには経営を良くするアドバイスのほうが有益です。
昔の職人的な仕事ではなくなり、『会計のアウトソーシングをして月額5万円の顧問料』の世界は、もうすでになくなりつつあるんです」
さらにトリプルグッドでは、ほとんどのクライアントにチャットツールを導入してもらい、すべてのやりとりをオンラインでつなぐ情報化も進めている。
「一日中デスクに座って仕事をしている社長は、中小企業にはほとんどいません。建設業なら現場、美容室なら髪を切っているし、飲食であればフロアや調理場、営業なら現場を回っています。今、スマートフォンが普及して便利に使えるので、会計事務所とチャットツールでつながれば、ものすごく親近感を持ってクライアントとやり取りできるんです。チャットツールはクライアントは気がついた時にすぐにその場で質問ができるし、『こんな書類が来たんだけど』、『じゃあ、すぐ写真を送ってください』と気軽にスマートフォンでやりとりできます。クライアントと相対するのは担当者ひとりではなくマネージャーやアシスタントも参加していますので、すぐに質問に回答できていない場合にはフォローできますし、仮に間違って回答した時も、すぐに訂正することが可能なんです。これは画期的な仕組みですよ。クライアントとの距離感がほとんどなくなるんですから。昔ながらの会計事務所とは仕事風景もまったく違う、そういう時代です」
成長の秘訣には、現在1,600社あるクライアントのうち、介護、飲食、美容、建設、不動産分野で特化チームを作っていることも挙げられるだろう。同じ業種を深堀りすることで、より専門性を高めた経営のアドバイスにつなげることができるという。
「当社では、資金繰り、資金調達、節税、記帳といったお金の分野、戦略、マーケティング、Webサイト、営業等の売上の分野、採用、育成、評価、労働基準法等の人の分野の3つに分けてアドバイスを行っています。
その中で、お金に関することは普遍性が高いので、介護、建設業、美容などすべての業種でそれほど変わりません。一方、売上の分野においては、介護で業績を伸ばす方法と建設業で伸ばす方法はまったく違います。人の分野でも、例えば美容という業態は技術がいるのでほとんどが正社員である一方、介護系のヘルパーのような仕事は主婦の非正規社員が非常に多い業態です。美容系が平均年齢20代に対して介護系は40代と、セグメントもまったく違います。仕事内容も違うし、評価ポイントも違うので、同じやり方が適用できないと言っていいでしょう。こうした特殊な業種は、業種ごとに深堀りするために専門特化チームを作りました」
特に一般社団法人は税務が難しく、営利と非営利、コミュニティビジネスとソーシャルマーケティングといったように活用方法も分かれている。そのため、一般社団法人の専門特化チームへのニーズはトリプルグッドでもかなり高いという。
士業のグループ内連携によるワンストップサービス
中小企業の100年経営に応えるために仕事をする。そこをめざしていくうちに、「税務会計、財務コンサルティングだけでは限界がある」と実島氏は考えるようになった。そこで、税務会計、財務コンサルティングだけでなく、幅広い士業とのIT支援、マーケティング支援、クライアントのWebサイト構築、広告運用にも力を入れてきた。加えて、マネジメントも含めて早めに手を打つことが先手必勝と、税理士の他、MBA、中小企業診断士、行政書士、社会保険労務士、ファイナンシャル・プランナー、ITコーディネーターなど専門家のサポート体制を整え、事務所内連携によるワンストップサービスを展開している。これがトリプルグッドのサービス拡充の大きな特徴のひとつと言っていい。
実島氏は、業務提携ではなくグループ内連携にこだわる理由を次のように話している。
「実は独立したての時に、私が代表となって士業を集めたグループを作りました。その際に、日本におけるマーケティング研究の第一人者である石井淳蔵先生にお会いする機会がありました。『士業のグループがブランドになるためにはどうしたらいいでしょう』とお聞きしたら、先生は『それはブランドにはなりえない』とおっしゃいました。『グループと言っても、そのグループの中に○○税理士事務所、○○弁護士事務所と、それぞれ別々の主体が動いているのがクライアントにわかる。だからひとつのブランドにはなりえない』と言われたのです。
私はすごく納得して、同じブランドでやるならきちんとワンストップでやっていることをわかってもらわなければならない。そのためには他士業にも同じグループ内、同じ考えの下でやっていただかないとダメだと考えたのです。それが15年前で、現在の姿になったきっかけとなっています」
総勢150名の大型組織となったトリプルグッドグループ内に、税理士法人を始め、社会保険労務士法人、行政書士法人、司法書士事務所、法律事務所、コンサルティング・マーケティング会社がそろっている背景には、こうした経緯がある。
「働きがいのある会社」ランキングで1位獲得
トリプルグッドのもうひとつの大きな特徴は、従業員満足度にかなり自信を持っている点にある。その実績は全国的にも認められ、Great Place to Work® Institute Japanの調査分析による「働きがいのある会社」ランキングでは従業員25~99人部門で2014年に1位を受賞するという快挙を遂げた。その年の別部門には、グーグルと日本マイクロソフトが1位を受賞している。また、ベストカンパニー選出は、2012年以来今日まで6年連続となっている。この結果の裏には、働きがいアップのための会議が開かれ、仕事がやりにくい点や変えて欲しい点を自由に発言でき、匿名で投稿もできる風土がある。コンプライアンスに問題を感じたら、上司を通さず直接連携するグループ法人の弁護士に意見を届けることもできる。透明性、公平性のための仕組みが徹底されているのである。
人事評価においても360度評価を導入して、自分の部下や後輩、上司、同僚と360度、7名から評価される仕組みになっている。
「うちの会社で良いところがあるとすれば、それは裏表がないこと。ねじれておかしくなっているところが一切ありません。非常にオープンでクリアな組織。そこが大きな特徴ですね」
その他にも、従業員満足度を上げるためのラインナップは枚挙にいとまがない。例えば、税理士試験を受けたい社員のサポートはふたつ。ひとつは最大10日間、試験直前に取れる試験休暇。もうひとつは、細分化された勤務形態の活用だ。トリプルグッドは勤務形態を非常に細かくセグメントしている。フルタイムで残業ありの総合職、17〜18時と決めた時間にスパッと退社できて残業ゼロの一般職、曜日と時間を決めて週何日でも勤務できるフレックス。こうした多様な勤務形態を本人の意思で自由に選択できる。今年最後の1科目の受験だから時短勤務にする、2年間一般職で受験優先にしたあとにフルタイムの総合職になる。どんな働き方も、自分の都合で実に自由に変えることができるのである。
もちろん、働くママも大勢活躍している。子育て中は時短勤務、小学校入学と同時に一般職になって18時ぴったりに退社、その後は総合職で仕事のステップアップをめざすといったように、女性のライフステージに合わせて自由に活躍の場を広げることができる。職種も、窓口担当、記帳書類作成、審査と税務相談のみの担当の3つに分かれ、能力チェックだけで自由に行き来できる。半年に一度の人事評価で、どのような働き方をしたいかを確認しつつ、選択をすることができるのである。そんな会社なら働きたいと思う人は多いはず。「働きがいのある会社」1位に選ばれ、ベストカンパニーに選出され続ける理由もまさにそこにある。
自動化による業態転換を普及させたい
AI、IoTが世界を席巻する時代はすぐそこまできている。記帳・申告から経営コンサルティングへ。会計業界が業態変換を迫られている時代だからこそ、今後はさらにクラウド会計を普及させたいと、実島氏は主張する。
「自動化で記帳・申告書作成がなくなる。旧来この仕事で食べていた会計事務所としては、自分たちの飯の種がなくなるわけですから嫌ですよね。しかし、このままの状態で続けようとしたら、この業界自体がダメになってしまう。機械でできてしまうような仕事は自動化して、その数字を基にクライアントの経営を良くするためのアドバイスに時間を費やすように、業界が変わらないといけないと思うのです。
だからこそ、クラウド会計やチャットツールを使ったシステムを業界に普及させたいんです。当社ではクラウド会計とチャットツールを100%レベルでクライアントに導入していますが、業界全体の普及率を上げたいんです。それが、結果的にクライアントのクラウド会計使用のリテラシー向上につながるし、何よりクライアントの追加負担は月額数千円程度しかかからない。これはもう、ぜひすべての企業にやっていただきたい。私は、その際の指導や支援が税理士の役割だと思っています」
クラウド会計によって、トリプルグッドでは作業が軽減され、20時には事務所を完全に閉められるようになった。確定申告期などの繁忙期に土日出勤もない。しかも、一人当たりの売上高が上がり、社員に還元ができて、利益も出ている。「会計事務所にとっても、職員にとっても、クライアントにとっても、まさに良いことづくめ」と、実島氏はうれしさを隠さない。
その一方で世間では、AIによって税理士の仕事がなくなる懸念を伝えるメディアが大変増えている。
「なくならないですよ、税理士は。今、税理士が中小企業からもらっている顧問料は年間40、50万円から。アルバイトを雇うより安いし、役に立つサービスをすればいくらでもニーズはあります。ただ、帳面をつけるだけだと、自動化によって『税理士は何もやっていない、価値提供できていない』と言われて仕事はなくなります。
だからこそ、私は記帳を自動化して早くからアドバイザーの仕事に軸足を移してきました。昔はそろばんや電卓が早いと重用されていたのが今まったく意味がなくなっているように、ずっと記帳と申告だけをやっていたのでは、これも意味をなさなくなってしまいます。税金の申告もいずれは自動化されるでしょう。そうなれば、従来のままでは仕事がなくなってしまいます。クラウド会計などを知らなければ、若手の税理士であってもこの業界でやっていけなくなる。だからこそ、今知ってほしいし、教えてあげたいんです。
税理士の受験生も、税務・会計は入口ですから、その知識を使って帳面や財務状況を見て経営のアドバイスに活かせれば、未来は明るいはずです。
私は新卒で就職する際、金融機関、証券会社、保険会社と並んで会計業界が選択肢としてあってほしいと思っています。会計業界は今受験生も減っていますが、食えなくなるどころか、むしろ賃金相場はものすごい勢いで上がってきています。収益も上がり、すごく良い仕事で、中小企業の経営アドバイザーになれる。若くとも中小企業の経営者から数字を全部見せてもらえて、相談してもらえる。すばらしく夢のある、楽しい、やりがいのある仕事ではないですか。それが、身近な中小企業のアドバイザーである税理士の姿なのです」
受験生にはアドバイザーをめざして、会計業界に入ってきてもらいたい。実島氏は心からそう願っている。