特集
日経ウーマン元編集長から学ぶ これからの女性の働き方&生き方
あなたもきっと充実した人生にできる!
麓 幸子氏
麓 幸子(ふもとさちこ)氏
1984年筑波大学卒業。同年日経BP社入社。1988年日経ウーマンの創刊メンバーとなる。2006年日経ウーマン編集長、2012年ビズライフ局長に就任。日経ウーマン、日経ヘルスなど3媒体の発行人となる。2014年日経BPヒット総合研究所長・執行役員に就任。2015年日経BP総合研究所副所長を経て2016年より現職。2014年法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。内閣府、林野庁、経団連・21世紀政策研究所研究委員などを歴任。筑波大学非常勤講師。一男一女の母。
2017年1月9日(祝・月)に、TAC新宿校で「未来の自分発見プロジェクト」が開催されました。ビジネス知識や最新情報が聴ける合計16セミナーの中でも、特に多くの方が参加され大盛況だったのは、日経ウーマン元編集長、麓幸子さんのセミナー「これからの女性の働き方&生き方~あなたもきっと充実した人生にできる!~」。女性が活躍するべき今の社会で、女性がどのように働いて生きていくべきか、具体的にわかりやすく語られたこのセミナーを抄録という形でご紹介します。
今、女性にとっては大きなチャンス!
私はこれまで、たくさんの女性の方に取材をしてきました。その取材を通して得た知識や経験を元に女性のキャリアについてお話しすることもできますが、50歳で大学院に入り、キャリアデザイン論の研究もしましたので、それを裏付ける理論も修得しています。さらに32年間仕事を続けながら2人の子どもを育てた経験もございます。今回は、この3つの立場から、女性のキャリアについてお話しさせていただきます。
2016年は女性にとっては、エポック・メイキングな年でした。女性に活躍してほしいと、4月に女性活躍推進法が施行されました。これは日本には今までになかった素晴らしいことで、女性の活躍が国や企業、地域の成長戦略だと安倍総理が言い、法律も作ったのです。意識の高いやる気のある女性たちにとっては大きなチャンスだと思います。こういう追い風の時に女性がそのチャンスをきちんと活かして、ぜひ充実した人生にしていただきたいのです。
女性の活躍は成長戦略の中枢に置かれていて、専業主婦の方、働いている方、お仕事を休まれている方、すべての人に活躍してほしいというのが政府の方針です。政府は女性活躍を推進する企業には、という「えるぼし」マークを付与して政府が応援し優遇するという仕組みを作りました。このマークによって、例えば学生がどの企業に就職しようかなというときに、女性が活躍できる企業かどうかがわかるようにしています。ブラック企業ではなくホワイト企業に対して、この「えるぼし」で応援をしているのです。
政府は、応援するだけでなく企業が優遇される仕組みも作りました。そのひとつが公共調達、すなわち国の事業の入札に関する取り組みです。国の事業をどの企業に任せるかを入札で決めますが、その入札の時にこのマークがある企業にはポイントを高く付与して、受注しやすくなる仕組みも作りました。その規模は総額5兆円です(内閣府推定)。2014年までは10億円規模だったものを女性活躍推進を加速するために5兆円の規模にまで拡げました。政府は、いろいろなメリットがあるから女性活躍を推進したほうがいいと推奨し、企業に対して様々な仕組みを作って、女性が活躍する企業に優秀な人材や仕事が集まるようにしています。
1986年に男女雇用機会均等法が施行されて30年経った今、女性が本格的に活躍できる時代になってきているのです。
女性の活躍が必要な理由
では、なぜ女性の活躍が必要なのでしょうか。それには、働き手の量的な理由があります。
1960年の人口は15歳の層が一番多かった時代で、いわゆる団塊世代と言われる層です。それが2010年になると団塊世代の方が65歳になって少子高齢化が進みました。私たちの将来、2060年は80代の女性が一番多い年齢階級になると言われています。
15歳から64歳までを「生産年齢人口」と言いますが、2010年の生産年齢人口を100とすると2060年には54.1にまで半減するという推計が出ています。もし「うちの会社は男だけを採用すればいい」、「うちの地域は男だけが活躍すればいい」という考えだと、組織は人材のポートフォリオが組めなくなってしまうので、女性の力が必要だと政府が言っているのです。私たち女性のことを政府は、「眠れる資源」と言っています。政府からすると高い力、意識を有しながら活躍させることができなかった女性に、どんどん活躍してほしいというのが女性活躍推進法の量的な背景になります。
しかし、働き手が足りないという量的なことだけが理由ではありません。これまでの日本は、企業や地域の意思決定層には、50歳以上の日本人の男性しかいませんでした。そういうモノカルチャーなところからは新しい価値が生まれにくく、多様な人たちの意見をくみ取るような組織にしなければ、イノベーションは生まれにくいと言われています。それまで組織の中枢にいなかった私たち女性が、どんどん中枢に入っていくことが、イノベーションを生み出し、様々な価値を生み出すと経済産業省が企業経営におけるダイバーシティのメリットのひとつとして位置づけています。つまり女性活躍によって質的な変化も求めているのです。この量と質の向上のために政府は女性活躍推進法を作り、女性に活躍してほしいと言っているのです。
先ほども言いましたが、これまでこんなことはなかった、今が大きなチャンスです。ですから、女性にはきちんと時代背景を認識していただいて、自分の力で自分の人生を切り拓いていただきたいのです。
ハッピーキャリアを積むには
女性は、30歳、40歳までに何とか花を咲かせなくてはいけないと考えて短期決戦にしがちですが、もっと長い目で見てください。具体的には、74歳の自分を思い描いて、そこから逆算して自分の人生を組み立ててほしいのです。なぜ74歳か。社会保障制度も変わり、好むと好まざるとに関わらず、これからは働き続けるということが前提となる社会になっていくでしょう。今、女性の健康寿命が74歳と言われています。健康寿命とは、健康上問題がない状態で日常生活が送れる、人の助けを借りなくても健康に暮らせる期間のことです。私の会社は定年が60歳ですが、希望すれば65歳まで働けます。でも、定年の60歳、65歳と会社年齢で考えるのではなくて、私は74歳まで社会に貢献しようと、これから先20年の人生を組み立てました。みなさんにもぜひ74歳まで貢献しようという心意気で、ご自分の人生を組み立ててほしいのです。
私は、ある70代の女性の方にお会いしました。ご主人とふたりで会社を起業されましたが、ご主人が亡くなって、その会社を売却したので働かなくても暮らせるようになったそうです。その方は旅行やレジャーをして暮らしていましたが、ある時それをやめました。そういう人生がつまらないというのがその方の結論でした。緊張感がなくて面白くない、遊ぶだけじゃつまらないとその方は言うのです。緊張感や適度なプレッシャーは必要なんですね。
また、社会貢献の実感がなくて、社会の役に立ちたい、人のためになりたいという要望が満たされないとおっしゃったんです。その後、その方は自分と同じシニア層を対象としたブティックを始めました。その方との出会いは私にとっては大きな学びとなりました。遊んで暮らせればいい、仕事って大変だとかストレスはいやだとかそういうことではなくて、一番重要なのは、社会に貢献しているということと自分が成長しているという実感なんだなと思いました。
新しい自分になってほしい
私は23歳で結婚して、26歳で長男を、29歳で長女を出産したのですが、そこで転機がきました。長女を出産後に、『日経ウーマン』の編集部から企画出版部門に異動になったのです。記者をやりたいと記者一本でやってきた自分が、クライアントからお金をいただいて印刷物を作るというまったく新しい仕事をすることになり、その内示が出たとき、実は号泣しました。記者でなくなることが嫌だったんですね。でも後になってからすごくいい経験だったと思いました。なぜなら、企画出版部門に異動したことで初めてお金を稼ぐ仕組みがわかったのです。クライアントにいいものを提供する。その社数が増えれば売上が上がる。そしてご提供したものが気に入っていただければ連続して受注できる。原価を工夫して下げれば利益率が上がるという基本のことが、「ビジネスってこうやって成り立っているんだ」ということが遅ればせながら29歳で初めてわかりました。
ここで言いたいことは、女性はとかく自分の気に入ったところにいたがる、自分が居心地のいい場所にいたがることが多いのかなと思うのですが、それでは成長にならないんですね。居心地がいいということは、プレッシャーも感じていない、緊張感もないということです。女性活躍の時代なのですから、新しいところへぜひ行ってください。優秀な方のところには、「昇進してみませんか」、「異動しませんか」というオファーが絶対に来ているはずです。それを拒んだりしていませんか。それは、すごくもったいないことです。私が泣いてまで嫌がった部署に行って何がわかったかというと、違う環境に行くと新しい自分に出会えるということです。ビジネスって面白いんだ、数字やお金のことも私は苦手じゃなかったんだということがわかって、私は新しい自分に会えたんですね。だから居心地のいい場所にいる方は、新しい自分に出会えない。想定内の「私ってこんなもんでしょう」という自分にしか会えないのです。それはもったいないことです。みなさんにはいろいろな可能性がありますから、新しい場所にどんどん出てください。私が取材したある会社の女性役員の方も同じことをおっしゃっていました。「居心地がいいっていうのは、そこを出るサインだよ」と。
私のもうひとつの転機は50歳のとき。編集長として実績を上げ、50歳の時に発行人になった頃、学び直しをしたいと思って、法政大学大学院に入りました。一生社会に貢献し続けたいと考えていたので、自分に足りないものは何かと考えたときに、体系的な学びが足りないと気づいたのです。取材をいっぱいしている、自分の経験があるというだけではなくて、女性の方々を幸せにするキャリアデザインの理論を学びたくて、大学院で学び直すことにしました。
大学・大学院合同の入学式にも行きましたが、周りは自分の子どもより若い人たちです。祝辞では、「あなたたちの前には素晴らしい、可能性のある道が広がっている、希望が満ちあふれている」などのスピーチをいただいたんですが、私はそれを自分事としてとらえました。年齢って関係ないですよね。私は74歳まで現役でいると決めましたから、自分がもう一度学びの機会を得たことで新鮮な気持ちになれて、ここで第二の人生が始まったと思いました。
「出世」と「学び直し」があなたを豊かに
先ほども言いましたが、今、追い風が吹いています。こんなに社会全体が女性を活躍させたいと思っている時代に生きているのですから、そのチャンスを活かさないと損だと思います。ですから、会社にお勤めの女性はできるだけ高い役職に就いていただきたい、出世していただきたい。キャリアには、配置転換という横の異動と、昇進という縦の異動がありますが、どちらの異動もみなさんの人生を大きく切り拓くので、そういう機会があればどんどん受けてください。
「管理職なんて、私には向いてないわ」という方、ご安心ください。「ポストが人をつくる」の言葉通り、得られる情報や出会える人が違ったり、必要なスキルや経験を獲得できたりと管理職になればその通りになっていきます。
2014年に日経ウーマンオンラインで女性に調査したときに、と聞くと、が「管理職になりたいですか」「はい」約29%、「いいえ」が約45%でした。女性は管理職になりたがらないという方が多いのです。しかし、管理職の女性たちに聞くと約70%が「管理職をやり続けたい」という答えでした。その数字は2015年には約80%になりました。つまり管理職の女性の方々は、その職務に対して醍醐味を感じて満足しているのです。もう平社員に戻りたくないのです。ですから、そういうチャンスがあれば、ぜひ受けてくださいというのが「出世のススメ」です。
次に、「学び直しのススメ」です。学校で学んだ知識、または仕事で培ったスキルで74歳まで社会に貢献できるかというとちょっと厳しいですね。ドックイヤーと言われるようにIT技術の進化のスピードがどんどん速くなっていき、社会も変わっていきますから、適切な時に大人の学び直しはとても必要だと思っています。私は52歳で修士を取得し、昨年は「社会福祉士」という国家資格を取得しました。やはり体系的に学ばなくてはいけないと実感しました。自己流の勉強では身につかない理論や知識、情報があり、そういうものが必要なのです。キャリアデザイン学の修士と社会福祉士資格、そのツールで74歳まで社会に貢献したいと思っています。学び直しに関心がある方は、ぜひ行動していただきたいなと思います。
家庭と会社で重要なのは「交渉」
学び直しは、ある程度時間を要しますので、仕事が子どもが…という方には、「枠外しのススメ」をご紹介します。私には夫がいる、子どもがいる、介護しなくてはいけない、時間がないという方、女性だけが家事・育児をするものだと、夫に頼めないものだと、自分でも思っていませんか。
この固定観念を変えない限り、家事・育児・介護のすべてを自分ひとりで背負ってしまっていては、女性は活躍なんてできません。ですから私たち女性は、上手にそういうタスクを夫に渡すということが必要です。自分ひとりで家事・育児をする、夫に迷惑をかけないということは美談ではないんです。私が取材した専門家は小さい時の親子関係がとっても大事だとおっしゃっていました。
「私、お母さんだから全部やるから、夫のあなたは仕事して」なんてしてしまうと、お父さんと子どもの関係性が深まらないので、それではいけないというのです。もし、子どもがいて家事・育児を自分が全部するという女性は、ご主人の家事・育児をするチャンスを奪っていることになり、家族の幸せのためによくないのでやめていただきたいなと思います。
では、どうするか。ぜひ交渉をしてください。女性に足りないのは交渉です。時間がないというのであれば、周りに交渉をしてその時間を自分で作ってください。まずは、夫や協力をしていただける家族の方に、「私は学び直しをしたいので、週一回でもいいからあなたが子どもを保育園に迎えに行ってくれませんか」とか、「土曜日だけでも子どもの面倒をみてくれませんか。みてくれたら私はうれしいです」、というような交渉をしてご自分の自由な時間を確保してください。
そして、上手にコミュニケーションをしてください。例えば、私が料理をして料理が済んだ後は食器を洗わなくてはいけない、でも疲れているという時に、「私が料理作ったんだから、あなたが食器を洗ってよ」と夫に言うと、夫は「おれだって忙しいんだ」となってぎくしゃくしてしまうかもしれませんね。主語を「I(私)」にしてメッセージを伝えるアサーションコミュニケーションで「あなたが食器を洗ってくれると私はうれしいし、助かるわ」と伝える。愛情をこめて、スマートにコミュニケーションをとっていろいろなことを夫とシェアして、自分の時間を作り、その時間でぜひ学び直しをしてください。これが家庭における「交渉のススメ」です。
もうひとつは会社における「交渉のススメ」です。上司に対しての交渉も大事です。「こんな仕事がしたい」、「何歳で課長になりたい」というキャリアパスを描いて、それを上司に伝えてください。男性上司は固定観念で物事を見る傾向が強いので、女性の幸せは結婚をして子どもを産むこと、女性は子どもを産んだら仕事に身が入らないもの、と勝手に思い込む方が多いのです。みなさんが持っているパッション、情熱を上司に打ち明けてください。女性は幸せが降ってくると思っていませんか。白馬に乗った王子様が現れてくれると思っていません か。交渉しないとダメなんです。自分の力でキャリアの扉を開いたり、交渉したりして人生を変えることがとても貴重ではないかなと私は思います。上司でなくても人それぞれに支援してくれる人がいると思います。これまで一緒に働いて信頼関係を得られた上司の方、先輩、そういう方にあなたの支援者、メンターになってもらいましょう。そういう方々に「私は今年、こんなことをしたいんです。将来こういう仕事をしたいと思っている」というお話をぜひしてください。
「失敗」を恐れず学びの糧に
誰もが人生で失敗をしたくない、逆境やピンチは起きてほしくないと思いますよね。でも私はそういう考え方だと縮こまってしまうのでよくないと思います。
私は女性のロールモデルになる方々、会社の役員や自分で起業した方々に取材をして分かったことは、みんな失敗していました。成功している人はチャンスがいっぱいあってラッキーなことしか起こらないだろうと思いがちですが、実はみんな失敗しているんですね。でも、失敗をしたときの心構えが違っていたのです。人間関係構築に失敗して信頼していた部下が辞めてしまったとか、売り上げが下がったとかいろいろありますが、凡人は失敗したら環境のせいにします。上司が悪い、会社が悪い、社会が悪いとそれで終わりにします。でも成功する方はもっと客観的です。環境ではなく「私、いったい何が悪かったんだろう」と自分を分析して、課題を見える化して解決しようとする。失敗を失敗で終わらせないで、学びの糧にして、そこからきちんと学んで人生を変えているのです。
慶應義塾大学教授の高橋俊介さんにキャリアデザインに関する取材をしたのですが、高橋さんはこう言っていました。「成功する人は失敗しない人ではない。失敗することから成功することを学ぶ人、失敗したことから学んで自分を変えることができる人がいいんだ」と、その時どのように思うかでその人の人生が大きく変わると言うのです。ですからあえてみなさんに「失敗のススメ」をします。「これできるかな」、「チャレンジして大丈夫かな」と躊躇しているだけでは、人生は豊かになりません。リスクを気にせず飛び込んでください。「失敗してもいい」と思うほうが楽じゃないですか。失敗から学べばいいと思えるかどうかなんですね。これが「失敗のススメ」です。
自分次第で周りが変わる
最後に、「好解釈のススメ」。解釈の仕方を変えてくださいということです。実は、幸せなキャリアを積んでいる方は、みんなラッキーなわけでなく、解釈の仕方が上手なのです。例えば、先ほどの失敗をどう解釈するかという話。失敗も成長の糧、学びの場と解釈して、貪欲にそこから学ぼうとする人が成功し、人生を充実させることができます。
これは人間関係でもそうです。例えば人間関係をどう解釈するかは、その人の心持ちで違います。みなさんの周りは、いい人ばかりではなく苦手な方もいますよね。例えば、あなたの上司が数字にとても強く、厳しい人だとします。でも、仕事ができて出世が早い人です。その上司に対して「どうしてこんなに数字に細かいのよ、いやだな」と思うのか。「鍛えてもらうぞ、学ばせてもらうぞ」と思うのか。後者で考えれば「頑張るぞ」ってなりますよね。どう解釈するかはその人次第なんです。「あぁ、いやだわ」と思っているのは、その事象や人物がそうさせるのではなく、自分の考え方の癖だと大学院で教わりました。自分の考え方、認知を変えるだけで同じ現状、同じ環境でも自分がチアアップできるかストレスフルになるかは、自分次第だということを私は学びました。学び直しをするといろいろなことが学べます。「なぜこんなこと言うの」と言ってもその人は変わりません。変えられるのは自分だけなのです。解釈を変えて「いやな上司だ、数字に厳しいな」と思うのではなくて、「鍛えてもらうぞ」と思う。すべては自分が起点なのです。ですから、充実した人生かどうかは、環境ではなくて個人個人が環境をどう変えていくか、周りに対してどう交渉していくかによって変わっていくのです。
無実の罪で拘留された村木厚子さんに、「どうやってその日々を、心を折れずにいて過ごされていたんですか」と伺うと、「一日一生」と考えて過ごしていたとお話くださいました。「一日一生」というのは、酒井雄哉(ゆうさい)先生という天台宗の大阿闍梨、高僧のお言葉で、「一日を一生と思って丁寧に丁寧に生きる」ということです。明日があるかどうかなんてわからない、何が起こるかなんてわからないこの世の中。でも確実な今をきちんと受け止めて、今できることをこつこつ丁寧にするということですが、村木さんは収監中に酒井先生の本『一日一生』(朝日新書)を読んで、「独房にいる状態だけど、本も読める、ラジオも聴ける、家族にも会える」と、できることに着目したのです。できないことに着目してしまうと、その極限状態では気が狂いそうになったのではないかと私は思います。できることに着目して自分が与えられた環境に感謝しながら、きちんと生き切ったことによって、当然、無実の罪も晴れて、厚生労働省の事務次官としても活躍されました。これもひとつの好解釈ではないかと思います。
最後に、私が大学で学んだプランド・ハップンスタンス理論をお伝えします。これは、高名なキャリア学の学者クランボルツの理論です。キャリアというのは、偶然の連続の中で形成される。目標を立てて実行することも重要なのですが、予期せぬ行動があなたのキャリアの機会を作る。つまり、セミナーに参加して講師と会うことも偶然なのです。積極的に行動することで偶然を自ら作り出しているのです。そしてチャンスというのは、待っていてもダメで、自ら行動した人のところにやってきます。「チャンス来ないかな」と何もせず待っているだけでは来ないんですね。積極的に行動して、リアルな場所に身を置いて、生の言葉を聞いてください。そういう方のところにチャンスはやってきます。チャンスをつかむのは「自分の主体性」によるものなのです。ぜひそのチャンスを活かしていただいて、幸せなキャリア、充実した人生を送っていただき、そして一生を通じてこの社会のために、何か貢献していただきたいと思います。