LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #42
【桑田氏の経歴】
2011年 学生時代の起業経験を経て「社会に貢献できる仕事」を模索する中で税理士をめざすことに。
2013年 相続を専門とする大手税理士法人に就職し、着実に実務経験を積む。
2018年 同僚の誘いを受けて円満相続税理士法人に移籍。1年目に官報合格を果たし、代表社員税理士に就任。
2021年 SNSや執筆活動にも注力し積極的に情報発信を行いながら、相続専門の税理士として活躍中。
SNSを活用して“ナマの情報”を発信。
相続特化の税理士として、新たな時代を切り拓く。
近年では、ICT分野や版権ビジネス関連に特化した法律家や、年金問題や企業の労務管理に特化した社会保険労務士など、各士業が特定分野に特化する動きが生まれている。そんな時代の先駆けとして「相続特化」の税理士として活躍する、円満相続税理士法人 代表税理士の桑田悠子氏に、今に至るまでの道のりや、現在注力しているSNSでの活動についてうかがった。
高校時代に抱いたビジネスへの興味
真面目な家庭で育ち、バイオリン、書道、学習塾など、子ども時代から様々な習いごとをこなしていた桑田悠子氏。「そう聞くと一見優等生タイプだと思われるかもしれませんが、真逆だったと思います」と当時を振り返る。“やらされている”ということが好きではなく、たとえそれが正道でなくても自分が興味を抱けること、好きなことに突き進むタイプだった。
ファッションやメイクに興味を持ち始めた学生時代は、比較的服装や髪形の制約が少なく、人生経験として、魅力的なアルバイト先を探し、ファーストフード・ショップ、カラオケ店、キャンペーンガールやイベントコンパニオンなど、様々な仕事を経験した。そんな中、インターネットで化粧品の通販サイトを見ていたとき、高価な化粧品が通常の半値で売られているのが目に留まった。「『半値の店で仕入れて、通常価格より少し値を下げて売れば儲けを出せるのでは?』そんな発想から化粧品の通信販売を始めました。当時はまだスマートフォンもない時代で、いわゆるガラケーを使ってECサイト経由で運営していましたね。自分で調べて一から商売を始めるのは大変でしたが、総じて世の中のネットリテラシーが高くない時代だったので、競合も少なく、それなりに売ることができました」と桑田氏は語る。
学生時代に、桑田氏は税務署に開業届を出し、確定申告会場で税金の申告を行い、本格的に仕事として化粧品の通信販売ビジネスを開始した。「学費面は親に頼っていたので、お小遣いのぶんだけでも自分で稼ぎたいという意地がありました」と当時の心境を語る。
働く意義を考えた先にたどり着いた税理士への道
そんな風に順調に歩みを進めていった桑田氏だが、ひとつ心に引っ掛かっていることがあった。「通信販売の仕事は順調でしたが、この仕事が社会貢献につながっているのか、付加価値を生んでいるのか、と社会的な意義を見出せないでいました。人とのかかわりも少なく、人脈が広がるわけでもありませんから、このままでは自分が人として成長できず、空っぽな人間になってしまうのではないかと不安になったのです」と桑田氏は、その時の思いを振り返る。もっと社会に貢献できるような人の役に立つ仕事がしたい。そんな気持ちが心の中で芽吹いていた。
そんなある日、桑田氏が子どもの頃から慕い尊敬していた祖父が亡くなった。深い悲しみの中で難しい相続の手続きの数々に追われる家族の姿を見た桑田氏は、「もっと頼れる人が近くにいればいいのに」「同じように相続で困っている人がたくさんいるのでは」と考えるようになった。
黒のリクルートスーツを着てみんなと一緒に就職活動をして、卒業後は組織に属して働く…。そんな自分の姿は想像できなかった。そのため、就職活動は行わず、大学を卒業しても自身のビジネスを継続していた。しかし続けていた通信販売ビジネスも、この頃には、世の中のネットリテラシーが高まり、他社の競合も増えてきた。もう長くは続かないだろうと感じ始めていた。
将来の進路に迷った桑田氏は、一度立ち止まって自分の心を整理することにした。
「自分と向き合うことで、やりたいことの柱がふたつ浮かび上がってきました。ひとつは『会社の裏側の数字に強くなりたい』ということ。曲がりなりにも学生時代からビジネスをかじってきたので、もっと深くビジネスの真髄を知りたいという思いがありました。そしてもうひとつが『相続で困っている人の助けになりたい』ということ。祖父が亡くなったときに大変な思いをした経験が頭に残っていて、相続の専門家になったら、同じように相続で悩んでいる方の手助けができるだろうと思ったのです。また、以前から抱えていた『社会に貢献できる人の役に立つ仕事がしたい』という思いを叶えられるに違いないと考えました」
両方の柱にかかわることができる仕事を探した結果、桑田氏がたどり着いたのが税理士だった。「相続の専門家になって開業しよう」そんな思いですぐに受験指導校を探し始め、相続税法の科目では講師の評判を聞きつけTACへ通った。
大学を卒業して半年後、企業に就職した友人たちと会う機会があった。みんな会社で働くことがとても楽しそうだった。そんな友人たちの姿を見て、一度組織に所属してみるのもいいかもしれないと思い直した桑田氏は、税理士試験3科目の合格を果たした状態で、相続を得意とする大手税理士法人に就職した。
初めての実務に奮闘する中、勉強時間の確保は時間的にも体力的にも困難を極めた。「大手ならではの安定感で案件数も多く、相続だけではなく、全税目の税務について広く学ぶことができました。とても忙しかったですが、いろいろと甘えがあった私をたたき直してくれた事務所でしたね。ただ、もともと修行として2年間がんばろうと思い就職した事務所だったにもかかわらず、もう4年以上過ごしていたので、将来の独立のためや、プライベートの時間確保のため、退職することを決めました」と桑田氏は振り返る。そんなとき、同僚が立ち上げた相続専門の税理士法人から、創業間もない時期に誘いを受けた。税理士の資格を取得すれば役員となり、自分の営業成績で収入が決まる。将来は独立したいという思いのあった桑田氏は、ここでなら刺激的な仲間と一緒に独立できるはずだと、現在も所属する「円満相続税理士法人」に移籍した。
「前の事務所は大手だったので黙っていても仕事が山ほどありましたが、今は自分たちで仕事を取ってこなくてはいけません。仕事をしやすくするためには税理士という看板があったほうが絶対に良い。そう考え、残り1科目の合格に向けてスパートをかけました」
そんな桑田氏の勉強集中法のひとつはクラブミュージックのようなハイテンポの曲をかけることだという。
「ハイテンポな音楽をエンドレスリピートしていると、やがて音楽が聞こえなくなります。ゾーンに入った状態になり、高い集中力が得られるのです。個人差があるのでこの方法が合わない方もいると思いますが、何か自分ならではの集中できる環境作りの方法を探すことをおすすめします」
また、自習室では勉強に集中している人の隣にあえて座ったり、「あの人が席を立つまでは、絶対こちらも勉強を止めない」と自分の中でライバルを決めたり、理論の講義はiPodに音声データを取り込んで、移動時間も活用して効率よく勉強したり、公園を散歩しながら勉強内容を頭の中で反芻したりと、勉強の効率化やモチベーションを保つ工夫をしていたという。
そんな努力の甲斐もあって、入社1年目で最後の1科目に合格。即日に役員となり、相続専門の税理士として正式に働き始めた。
専門特化することで130点のパフォーマンスが出せる
「相続は生前対策が大切です。亡くなってからだとできることが限られてくるからです。残された方が悲しみの中でやるべきことに追われるよりも、生きているうちに自分の財産の行き先を決めておくことができれば、いざというときにとてもスムーズに手続きを進められます。例えば、財産がすべて現金なら納税は簡単ですが、不動産や会社の株式などが絡んでくると納税資金を確保する必要がありますし、そうした財産を取得するにも人によって減額の特例が使えたり、使えなかったりすることがあります。税金の対処と納税財源の確保まで決めて次世代に継承できればキレイに片づきますし、自分の築いてきた一家の財産を納得のいく方法で継承できて、継承する側にも喜ばれると思います」
相続に専門特化していることの強みについては、こうも語っている。「今、士業は専門特化していくべき時代だと思っています。どんな仕事もオールラウンドに引き受けてしまうと、すべてが60点くらいの対応になってしまう。それに対して、専門特化型なら知識や経験も含め、リソースをすべて得意分野に集約できるので効率が上がり、130点くらいのパフォーマンスを出すことができます。そうするとお客様からの評価も高くなりますし、信頼度が高まるので、同業からの紹介案件も多くなります。逆に、私たちはM&Aや企業顧問は一切やっていないので、そういった案件は専門の同業者にお繋ぎするようにしています。同じ医者でも外科医、内科医などがいるのと同じで、これからはそういった分業が税理士の中でも広まっていくと思います」
そんな桑田氏は、今後、会社を大きくしていくとともに、海外との2国間にわたる相続にも着手していきたいという。
「今後、富裕層は海外へ出ていく方が今まで以上に多くなると思っています。そういう方に向けた対応ができるようになりたいですね。資産額も大きくなりますし、私たちのバリューが出せると考えています」
若い人に働くことのおもしろさを伝えたい
現在、若い人たちに向けて税理士の仕事に興味を持ってもらいたいという思いから、SNSを通じた発信活動も行っている。中でもショート動画を投稿できるSNSサービスのTikTokでは1.2万フォロワーを超え(2022年3月時点)、公開されているコンテンツは一般層からも同業者からも評価が高い。そんな活動は出版社の目にもとまり、執筆依頼も数多く来ている。すでに共著『お金の神様に聞く 高橋さん家の100の悩み』(ペロンパワークス)で相続に関するセクションを担当。2022年夏には相続の手続きについての本を、冬には知識ゼロからできる相続対策についての本を出版予定だ。同時に講演の依頼も舞い込んできているという。
「私自身、高校生の頃から過去の偉人や有名人の著書を読むことや、経営者の話を聞くことを積極的にしてきました。知識を得たり考え方が変わったりと、人生の先輩たちから受けた影響は大きいです。“こんな大人もいるんだな”という参考として、SNSを通してひとつの働き方や生き方を若い方に伝えていければと思っています」
多忙ながらも、税理士資格を手に、「社会に貢献できるような人の役に立つ仕事がしたい」という思いを叶え、充実した毎日を歩む桑田氏。最後に、スキルアップをめざす人たちに向けてメッセージをいただいた。
「今の仕事をしていて一番良かったと思うことは、『嘘をつかない誠実な仕事ができている』ということです。人の役に立っていると心から実感できる、とてもやりがいがある仕事なので、若い人たちにもぜひ税理士をめざしていただきたいですね。いつか一緒に仕事ができることをとても楽しみにしています!」
[『TACNEWS』 2022年5月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]