プロが教える!第7回 不動産編 災害時に役立つ不動産知識~大阪北部地震の検証~
2018年6月18日に発生した大阪北部地震により、4名の方が死亡し、うち2名がブロック塀の倒壊の犠牲になってしまいました。
私が勤める大学が震源地の近くだったため、大学や周辺の建物に大きな被害が発生しました。しかしながら、私は宅地建物取引士を勉強していて本当によかったと思いました。なぜなら、法律や防災の知識を身につけていたので、あわてずに対処できたからです。
1971年に改正された建築基準法施行令では、ブロック塀の上限を3メートル以下と規定されました。1978年の宮城沖地震では、28名の死者のうち18名がブロック塀倒壊によるものでした。これを教訓に、1981年に、建築基準法が大改正され、2.2メートル以下に厳格化されたのです。同法では3年に1回の定期検査を義務づけていますが、被害が発生した小学校では塀についてはきちんと調べていなかったのです。
そこで、建築基準法のブロック塀に関する規定をまとめてみましょう。同法施行令第62条の8によると、①高さは原則として2.2メートル以下とすること。②一定の鉄筋を配置すること。③高さ1.2メートル超の場合は、控え壁を配置する等が規定されています。
同校のブロック塀は①の高さ制限違反、③の配置義務違反であることは一瞬で判明しました。また、鉄筋探査機(飛行機搭乗の際の金属探知機のようなもの)によるチェックで②の設置義務違反が判明しました。
なお、1981年以前に設置されたブロック塀(旧耐震基準)は現行の基準に適合していなくても既存不適格建築物となり法律違反ではないので、現在も街のいたるとことに危ないブロック塀が残っています。それ故、兵庫県南部地震(1995年)では倒壊が相次ぎ、福岡県西方沖地震(2005年)、熊本地震(2016年)では死者が出ています。熊本地震で震度7に見舞われた益城町の調査では、建築基準法に準拠した塀の倒壊率が0.0%だったのに対し、準拠していない塀の倒壊率は、76.1%でした。とにかく、法令遵守が重要ですね。私は、小学校より防災教育や民法等の法律を教えるべきであると考えています。
では、今回の事件の責任問題について考察しましょう。民法上の工作物責任に該当する可能性が高いのです。民法第717条によると、工作物(この場合はブロック塀)に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者(実際に使用している者、この場合は学校か)が損害賠償責任を負います。占有者が定期的に塀をチェックしていた場合等は所有者(この場合は市か)が責任を負います。
また、今回の地震で、隣地との境界に存在するブロック塀が倒壊した例があります。その場合、再築する必要がありますが、民法第223条では、費用を共同で出す(折半)ことを規定しています。ここで、宅建士試験の過去問題にチャレンジしましょう。
【宅建士 昭和38年】
甲は自己所有地の半分を乙に売却した。この場合における法律関係で、正しいものは、次のうちどれか。
1 甲は地盛りをしようとするときには、乙と共同してしなければならない。
2 甲と乙が境界線を設置した費用が1,000円であったとき
2 は、乙に500円負担させることができる。
3 甲は乙が2階建ての家を建てるのを拒むことができる。
4 甲と乙の境界地付近の自己所有地内に垣を作る場合
2 には、相手方の承諾を受けなければならない。
上記は、肢2が正解です。折半ですからね。1,000円というのが時代を感じさせますねぇ~。
私が住む神戸元町周辺の状況を100地点で調査した結果の一部が図表2です。
①の私のマンションの部屋(19階)では、ほとんど揺れませんでした。ただ、制振装置が2本入っているので20階まではほとんど揺れませんでしたが、1本しか入っていない21~25階は少し揺れ、全く入っていない26階以上は大きく揺れたらしいです。エレベーターは高層階用は止まりましたが、低層階用は止まりませんでした。また、④はほとんど揺れなかったそうです。②はTAC神戸校ですが、敷地が比較的強いのであまり揺れず、他方③及び⑤は倒壊するのではないかと思う程揺れたそうです。
約500名の方々へのアンケートを集計すると図表3になります。対象とした建物は、新耐震基準に基づくものです。地震被害は、土地と建物両方で決まるということです。
また、大学近くのアパートでは、壁や階段に被害が発生したものも少なくなく、設備や保険等が試験範囲となる賃貸不動産経営管理士試験の勉強も有用です。
鴨長明は著書『方丈記』の中で、「大地震ふりて…(中略)…すなはちは人みなあぢきなき事をのべて、いささか心の濁りもうすらぐと見えしかど、月日重なり、年経にし後は、ことばにかけて言い出づる人だになし」と記し、大地震があっても世間の人はすぐに忘れることを嘆いています。大阪北部地震はすでに風化しつつありますが、我々は、災害に関して、常に心しておくべきです。
[TACNEWS 2018年12月号|連載|プロが教える!]
相川 眞一 (あいかわ しんいち)
宅地建物取引士・マンション管理士・管理業務主任者。
大学1年時より資格の学校の講師を始め、TAC・大学・企業・官公庁等を合わせた講師生活は、今年で40周年を迎える(TACでは、宅建士まるかじり本科生を担当)。2016年4月に、大阪学院大学経済学部准教授に就任。専門は、不動産学・都市経済論。日本地方自治研究学会所属。不動産学の立場から、地方創生・防災・まちづくり・税制のあり方等を研究。2019年9月の同学会全国大会で、コーディネーターを務める。