若手官僚インタビュー
藤川 司 (ふじかわ つかさ)さん
令和3年度 防衛省入省
大臣官房秘書課
Q.国家公務員や防衛省を志した理由を教えてください!
平和な日常を当たり前のものとして守り続けるために、安全保障というフィールドに身を置き、日本の平和と独立を支えていきたいと考えたのが大きな理由です。
安全保障政策の立案から実行まで担う唯一無二の官庁であるところに惹かれました。
Q. 安全保障に興味を抱いたきっかけは何ですか?
きっかけは大きく分けて2つあります。1つ目は、子供の頃に地元の歴史資料館で東京大空襲についての展示を見たことです。私の地元は東京の下町にあるのですが、東京大空襲の際、焼夷弾で木造家屋が燃え、行き場がなくなった方々が多数出るような、大きな被害を受けた地域でした。資料館を見学した際、戦争は一人の人間の力では全く対応できないもの、つまり、例えば防空壕に入ったり、空襲前に疎開したりするなどの受動的な対応はできるかもしれませんが、そもそも戦争の原因をなくしたり、被害を極小化することは、個人では不可能なものだと感じました。このような、一国民から見た、「圧倒的な災禍」としての戦争を防ぐことに漠然とした興味を抱きました。
2つ目は2014年のクリミア危機に興味を持ち、大学で旧共産圏の政治を学んだことです。かつてのソ連・東欧地域にはいわゆる非承認国家が多く、現在も戦争や紛争が絶えません。学習を進める中で、戦争は、個人にとって対処不可能な「圧倒的な災禍」という側面をもつだけではなく、国内政治や経済・文化・民族・歴史等、様々な問題の延長線上にあるものだと認識するに至り、戦争を制御して平和を築く手段としての安全保障に興味を持ちました。
Q. 防衛省に実際入ってみて気づいた魅力は何ですか?
自衛隊を直接のカウンターパートとして仕事ができる、というのが魅力のひとつだと感じました。他省庁でも関わる機会はあると思いますが、当然防衛省の中にいたほうが自衛隊の能力、方向性についてお互い認識を共有できるところが多くあるので、その共通認識をもとに具体的かつ現実的な議論ができます。働いてみて防衛省と自衛隊は一体の組織だと、より感じるようになりました。
Q.公務員以外に就活はしましたか?
民間就活では、国民の生活の基盤を広く支えるという動機からメガバンク、大手の鉄道会社などを受けていました。
Q. 今まで経験されたお仕事で、最も心に残っていることはなんですか?
北朝鮮が発射したミサイルへの対応に関する業務が最も心に残っています。ミサイルが発射された後、総理や官房長官、防衛大臣から会見の場でミサイルの詳細や、ミサイル発射に対する日本としてのメッセージを発信することがあるのですが、防衛省内ではそれに向けた分析を含め一分一秒を争う様々な業務が発生します。ミサイル発射への対応は、まさに国民の生命・財産に直結する仕事であり、もちろん緊張感もありますが、一連の対応が終わった後の安堵感や達成感は今も心に残っています。
Q. 他の省庁とは迷いませんでしたか?
正直あまり迷いませんでしたが、他省庁さんの説明会には数多く通わせていただきました。複数の省庁の説明会に行くにつれて、日本の安全と繁栄を維持し国民の生命と財産を守るという政府の責務を遂行するにあたっては多種多様なアプローチがあるということがわかり、非常に勉強になりました。
数多くの省庁が政策を立案・実行し、その積み重ねの上に日本の平和や繁栄があると思います。しかし、こうした繁栄も、平和があってこそです。この観点から、日本の存立にかかわる安全保障に職務として取り組みたいと思い、安全保障政策の立案から実行まで横串を通して見ることができる防衛省に決めました。
Q. 就職活動全体を通して大変だったことはありますか?
就職活動が本格化する時期にちょうど新型コロナウィルス感染症が拡大し始めたため、公務員試験が延期になったり、それまで対面でおこなわれていた就職活動や大学の試験がすべてオンラインになるなど予期せぬ変化が多く、その変化に適応することがまず大変でした。
通常であれば、就職活動や試験勉強のストレスはサークルや部活、プライベートの友人付き合いで紛らわす方も多いかと思いますが、そういった活動が新型コロナにより制限されることが多く、ストレスの解消方法を見つけられず精神的に少し疲弊しました。そこで、趣味のピアノや家にいる猫と遊ぶことで気持ちを紛らわせていました。趣味のピアノは今でも仕事の息抜きになっています。
Q. 仕事をする上で難しいと感じることは何ですか?
安全保障という分野がそもそも難解だということです。自分の経験上、小中高大を通して科目として勉強する機会はほとんどなく、大学で学ぶのも国際政治や国際法といった分野でした。そういった未知の領域において、自分のわかる範囲を少しずつ増やしながら仕事を前に進めていくことが、難しくもあり楽しいことでもあります。
Q. 入省してから成長したと感じることはありますか?
目の前の仕事1つ1つに取り組んだ結果、仕事をしていく上での基礎体力がついたと感じます。1年目は、仕事の内容・仕事の回し方・1年間のスケジュールなど分からないことだらけで、判断に迷った時には都度同僚や上司、調整相手に聞いたり、相談したりしながら仕事をしていました。2年目で部署異動をし、去年とは全く違う仕事をしていますが、1年目よりは早く順応できました。どんな環境でも人間はいつか慣れるものだと思いますが、仕事をしていく上での基礎体力、つまり政策知識・役所のお作法への理解・調整力・瞬発力・持久力などなど・・・はその慣れをより速くさせるように感じます。
Q. 政策に関する知識に乏しい状態で入省してもなんとかなりますか?
なんとかなります。仕事柄機密情報を多く扱うから、というのもありますが、自衛隊を持つ防衛省でしか得られない知見や知識がたくさんあるので、入ってから勉強をすることが非常に大事です。
もちろん、入省前に政策の勉強をすることは大きな助けになるかと思いますが、学生のうちにしか学ぶことのできない幅広い教養を身に着けることが、今振り返ると大事だったなと思います。正直遊んでばかりだったので、今からでも学生生活をやり直したいです(笑)
Q.国家公務員や防衛省の魅力を教えてください。
会社や家族、自分自身といった限られた集団の利益だけでなく、日本の国益を常に考えながら仕事ができるのが国家公務員の魅力だと感じています。社会で生起している事象を分析し、それを元によりよい国の在り方を考え、様々な政策手段を用いて明日の日本を形作る。これは国家公務員でないとできない仕事だと思います。そして中でも、防衛省が担う国家安全保障という分野は、あらゆる国民活動の基盤であり、価値観が相対化する現代においても、いまある当たり前の社会を能動的に守ることの意義は揺らぐことがありません。そして価値が揺らがない仕事を自分は誇りに思います。
Q.仕事をするうえで常に意識していることはありますか?
気持ちの部分で意識しているのは、できるだけ真摯でいることです。結局仕事はどこまでいっても人間関係なところがあります。時に非常に難しいことですが、職場の人間関係は一度のやり取りで終わるものではないので、相手に寄り添いながら調整することが重要だと思っています。
実務の部分で意識をしているのは、逆算と先読みです。スケジュールや進め方を検討する際、その仕事のゴールまでに必要なプロセスを考えたり、調整相手や上司との連絡・相談にあたり、「これを言ったら何を言われるからどう返すか」をある程度事前に予測して仕事をしています。当たり前のことかもしれませんが、これも時に非常に難しいことで、私もまだまだできていないことばかりです。
Q. 防衛省内の人間関係はどのような感じですか?
雑談好きな人も多いので、業務外での会話も絶えません。(先日は3月に行われたWBCの話題などで盛り上がっていました。)何気ない話でも、普段から会話をしていると、仕事上の相談もしやすくなることがあるので、人間関係を良くしながら仕事をすることは大事ですね。
Q. 「官僚=多忙」と言われがちですが、霞ヶ関の働き方の現状を教えてください。
最近では報道等で話題になることも多いですよね。確かに、国会対応などで深夜まで働くこともありますが、シフト制をとるなど、働く環境に配慮されていることが多いです。また防衛省は危機管理省庁でもあるので、日本の安全を脅かす事態が生起すれば、関連部署の職員はその対応に当たります。他方、そういった特性をもつ官庁だからこそ、年次有給休暇や夏季・年末年始休暇の取得に対する意識は高い人が多い気がします。また、近年は男性職員も育児休暇を取得することが一般的になりつつあり、自分の周りにも取得している人は多いです。
Q. 防衛省はどのような人が多い・どのような雰囲気の省だと思いますか?
日本の平和と独立を守る、という唯一無二の仕事に対して、あえて外には喧伝しないものの胸の内に熱い思いを秘めている人が多いと思います。
Q.防衛省は堅い人が多いイメージもありますが?
防衛省・自衛隊は実力組織の面と、行政組織の面があります。実力組織の面だけを見て、堅く上意下達な組織だと思われる方もいるかもしれませんが、我々防衛事務官は行政組織の一員として、答えのない世界で、日本のあり得べき防衛政策を形作るのことが仕事です。そのため、自分自身で何も考えたりすることなく、唯々諾々としているだけでは不十分でしょう。私自身、上司や関係者に対しフラットに相談できる環境が防衛省にはあると感じています。
Q.学生時代にやっておいて良かったことや、自分の原動力になっている経験はありますか?
明確に「これが良い」とお勧めできる経験がないのでなかなか難しいですが、あえて一般化していうと、自分の全く知らない世界に飛び込み、そこで人とかかわりをもつことだと思います。自分の話をすると、未経験の状態から大学の部活でレスリングを始めたことが非常に良い経験になりました。部活に入った当初は当然何もできませんでしたが、出会った方々に色々なことを教えていただきながら、最終的には主将として部内を調整する立場になりました。この経験は、今仕事をしているときの原動力になっています。
Q.藤川さんの実現したい社会はどんな社会ですか?
非常に難しい質問ですが、「平和で安定した社会のもとで国民のみなさん1人1人が自己実現のためにチャレンジできる社会」を実現したいです。国民のみなさんの生命や財産が脅かされることのない、当たり前の明日を迎えるために、自身の職責を全うしていきたいと思います。
Q. 若手官僚として裁量持って仕事ができますか?
できます。もちろん、政府としての意思決定過程を経て、責任をもって対外的に発表することが求められる政府見解を一人で作ることなどはできませんが、個別の案件によってはスケジュール・進め方・実現に至るまで、広い裁量を持って仕事をすることができます。
Q.試験勉強で大変だったことはありますか?
大変だったことのひとつはコロナへの対応です。私は春に法律区分で受験したのですが、試験が3か月程度伸びたことで、知識量のピークをどこに持っていくかの計算が狂いました。民法が苦手だったので、中々定着しない分野については、自分の頭を整理するために紙を作ったり、論述問題を多めにこなしたりしました。
基礎能力試験など、時間の制約が厳しいものに対しては、時間配分を念入りに考えていました。知識系が壊滅的にできなかった場合、数的処理に時間を要した場合などケース別に対応を考え、試験当日に慌てることがないようにしていました。
Q. 最後に、国家公務員をめざす受験生へメッセージをお願いします。
国家公務員になるためには、国家公務員試験への合格や官庁訪問など、様々なハードルがあります。決して平坦な道でないかと思いますが、目の前のことを1つ1つ積み上げ、自分の夢に向かって頑張ってください。日本のより良い明日のため、皆さんと一緒に働けることを楽しみにしています!