SDGs(持続可能な開発目標)への取り組み方
2022.7.13中小企業支援に役立つテーマでコラムを掲載します。今回も、前回に引き続きSDGsがテーマです。
SDGsが目指すのは、経済成長、社会問題の解決、環境保全がバランス良く達成された持続可能な世界であり、国や企業、市民社会も含め、全ての関係者がSDGsの推進を通じて様々な形で連携・協力していくことが必要です。今回は、SDGs実現のために国や企業がどのような取り組みをしているのか、さらに企業がSDGsに取り組む際の手法についても、説明していきます。
日本政府の取り組みは?
日本政府は、2016年、総理を本部長、全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」を設置 し、国内実施と国際協力の両面で取り組む体制を整えました。そして、このSDGs推進本部では2017年から毎年、 SDGs実施指針に基づき、政府の施策のうちの重点項目を整理した「SDGsアクションプラン」を策定しています。また、SDGs達成に資する優れた取組を行う企業・団体等を「ジャパンSDGsアワード」を通じて表彰しています。
外務省では、2017年にSDGsの認知度向上のため、「Pen-Pineapple-Apple-Pen(PPAP)」のヒットで世界的に知られる日本のエンターテナー、ピコ太郎さんによるSDGsをアピールする動画を公開するなど、 SDGsを積極的に発信しています。また、ホームページ「Japan SDGs Action Platform」に載せている本年の「SDGsアクションプラン2022」の基本的な考え方において、 新型コロナ拡大によりジェンダー間の格差や子どもの貧困率など、既存の課題が一層浮き彫りになったことへの対応を行うことを述べています。そして、2050年のカーボンニュートラル宣言を受けて、気候変動は人類共通の待ったなしの課題であり、日本の総力を挙げて取り組んでいく必要があると明言しています。*1
このカーボンニュートラルを実現するため、経済産業省を中心としてグリーン成長戦略が策定されました。グリーン成長戦略とは、経済成長と環境適合をうまく循環させるための産業政策であり、このグリーン成長戦略に沿って、洋上風力発電事業など「実行計画」14分野が設定されました。
そのうえで、民間企業のイノベーション創出に対する投資などをバックアップすることを目的に、14分野に掲げられた課題の解決に資する取組であることを申請の要件とする補助金枠を新設しました。ものづくり補助金において、2022年2月16日に開始された第10次公募から登場した「グリーン枠」、事業再構築補助金において2022年3月28日に開始された第6回公募での「グリーン成長枠」などがその例です。例えば、高い技術力を有する国内自動車部品メーカーが、風力発電用の風車メーカーと協働することなどがこれらの新設枠の対象となります。
国連では、169個のターゲットの下に232の指標を定めていますが、この指標はグローバルな視点から提示されているもので、必ずしも日本の国レベルや自治体レベルにおけるSDGsの取組で使いやすいものにはなっていません。そのため、SDGsに取り組む多くの自治体による利用を想定して、内閣府は日本の国情を反映した国レベル、自治体レベルでの指標として「地方創生SDGsローカル指標」を2019年に定めました。例えば、国連の定めた指標「1.4.1 基礎的サービスにアクセスできる世帯に住んでいる人口の割合」に対して、ローカル指標ではより具体的に「1.4.1上水道普及率(上水道給水人口/総人口)」と定めています。
どのくらいの企業がSDGsに取り組んでいるの?
帝国データバンクが行った「SDGsに関する企業の2021年意識調査」によりますと「積極的に取り組んでいる」と回答した企業は39.7%であり、半数以上は「取り組みなし」という結果でした。企業規模によって取り組み状況は異なり、大企業では55.1%が取り組んでいますが中小企業では36.6%にとどまっています*2。SDGsに取り組む中小企業がまだ少ない今だからこそ、皆さんの企業が取り組めば、他社との差別化を図ることも可能と言えます。
企業にとってのメリットは何?
企業がSDGsに取り組めば、一般の方たちが企業に対してもっているイメージやブランドを向上させることも可能です。また、自社の評価が高まり、自社の取り組みに社会的意義を感じるようになると、社員のモチベーションも向上しやすくなります。さらに、最近では学生のSDGsに対する意識が高まっていることから、新卒社員の採用にも有利に働きます。そして、ESGを重視する投資家からSDGsを用いた評価が高まれば、資金調達においても有利になります。
また、前回もお伝えしましたように、サプライチェーン全体でSDGsに取り組む必要があるという考え方が浸透してきたため、中小企業にとっては、SDGsへ取り組むことにより、大企業のサプライチェーンの一部を担う可能性が高まります。
SDGsの観点から自社の強みや市場のニーズを点検しなおすことにより、必要な新規事業が見えてくるかもしれません。また、自社だけで行うのが難しい新規事業でも「目標17:パートナーシップで目標を達成しよう」に基づき、他社や自治体と連携することで、壁を乗り越えられる可能性もあります。さらに、前述したように、SDGsに関連した各種補助金枠も新設されており、SDGsに関連する新規事業に取り組むことによって、これら補助金を利用することも可能になります。
取り組みはどのように?
ここからは、SDGsへの取り組みを実際に行う際の具体的な流れについて説明します。SDGsへの取り組みも、PDCAサイクル(※1)を繰り返すことにより、行うとよいでしょう。
ただ、SDGsの知識は人により差が大きいために、計画段階の前に準備を十分に行う必要があります。
0. Preparation (準備)
SDGsへの取り組みは、個人で行うよりも経営者・管理者も巻き込んだチームで行うことにより実効性が上がるため、SDGs実施プロジェクトチームを立ち上げることをお勧めします。そして、チーム内でSDGsについての情報収集に力を入れ、必要な知識をあらかじめ身につけておく必要があります。
1. Plan(計画)
外務省の公式サイトには、SDGsに取り組んでいる企業の成功事例が複数掲載されています。まずは他社の事例を参考にし、自社の事業で行えること、または自社のオフィス内で日常的にできることを見つけ、具体的で実現可能な計画をチーム内で作成します。計画では、施策ごとに数値目標を設定し、効果を見える化できるようにすれば、なおよいでしょう。
2. Do(実行)
計画ができれば、その計画を実施していきます。社内においては、SDGsへの取り組みが、企業や社員にとって実際に有益であることを示していくことが重要です。そのうえで、すぐにできることから始め、3年から5年の中期でできることは、スケジュールを立てて、スケジュールに従って順に施策を行っていきます。企業としてSDGsの取り組みを成功に導くためには、社員の理解や協力が必要不可欠ですので、SDGsに取り組む理由とともに、具体的な活動内容を社員全員に周知しましょう。
3. Check(評価)
実行した内容について、定期的に測定や評価を行い、結果を社内外に報告・発表します。社外に発表する際は、投資家や消費者へアピールすることも必要なのですが、宣伝効果だけを期待してSDGsに取り組むと活動が表面的なものになってしまう恐れがあります。そして、実態が伴っていない取り組みは「SDGsウォッシュ(※2)」などと呼ばれ、かえって自社の評判を下げてしまうことにもなりえますので注意しましょう。
4. Action(改善)
社内からの意見を収集しながら取り組み施策の改善を重ねて、計画を作成しなおします。社員への浸透が不足していた場合は、具体的な活動内容を社員全員に周知しましょう。また、社員にSDGsの内容を周知するには、教育も必要になります。具体的には、社員が簡単にSDGsについて学べる資料を用意し、また定期的に研修を実施することで、社員のSDGsに対する理解が深まるようにしましょう。
※1 PDCAサイクル: Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)を繰り返すことによって、生産管理や品質管理などの管理業務を継続的に改善していく手法のこと
※2 SDGsウォッシュ:SDGsに取り組んでいるように見せかけること
企業にできることは?
各企業がSDGsに絡んで何ができるかということの例を、数例ですが挙げてみます。
「目標3:すべての人に健康と福祉を」は、あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進することを目指しています。企業がこのために行える取り組みとしては、社員の健康管理を経営に取り入れることです。具体的には、労働環境の改善やカウンセラーによる面談などが挙げられます。社員が健康であれば、生き生きと働け、パフォーマンスの向上も期待できます。
「目標7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに」は、世界中のすべての人が使いやすくクリーンなエネルギーを利用できるようにするための目標です。新規事業として、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを利用した発電を行うことを開始したところもあります。また、全ての社用車をガソリン車から排気ガスゼロの電気自動車に変えることも一つの案です。
このように、自社でできることから順に始めていくことが大切です。
おわりに
SDGs実現のために国や企業がどのような取り組みをしているか、また具体的な取り組み方法はどのようにするかについて説明してきました。
SDGsは企業がビジネスを進めるうえで、必要不可欠な考え方になっています。自社の状況を考慮して適切な目標を設定し、できることからでよいので社会のためそして自社のためになる取り組みを開始しましょう。また、SDGsは国や政府、企業だけが意識すべき目標ではなく、私たち一人ひとりにも密接に関わっている問題ですので、皆さんがご自分の活動、生活の中で浸透させていくことも重要になります。今日から、買い物にはマイバックを持参する、使っていないときにはパソコンの電源を切ることを習慣にしてみませんか。
参考文献
*1. 外務省. ホームページ “Japan SDGs Action Platform”.
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/index.html ,(参照 2022-04-18)
*2. 帝国データバンク. “SDGsに関する企業の2021年意識調査”.
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p210706.html ,(参照 2022-04-18)
(一般社団法人東京都中小企業診断士協会 城南支部所属)
企業経営コンサルタント
石田 克己(いしだ かつみ)
※当コラムの内容は、執筆者個人の見解であり、TAC株式会社としての意見・方針等を示すものではありません。