LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #54
見上 雄一朗(みかみ ゆういちろう)氏
アカテラス税理士事務所 代表 税理士
1986年生まれ、福島県出身。高校中退後フリーターから税理士資格取得をめざし、6年かけて合格を勝ち取る。中堅から大手まで税理士法人を渡り歩き、中小企業の記帳代行、スタートアップ支援、相続業務などを経験。その後、35歳のとき神奈川県川崎市で独立開業し、アカテラス税理士事務所を設立。クラウド会計ソフト『freee』を活用したサポートを行っている。
【見上氏の経歴】
2002年 16歳 地元の公立高校に入学するも、1年生のうちに中退。やりたいことが見つからず、仕事を転々とする。
2012年 26歳 コンビニエンスストア経営の研修をきっかけに税務に興味を持ち、税理士資格取得をめざす。
2019年 32歳 税理士試験に合格。中堅、大手の税理士法人に所属し、様々な実務に携わる。
2022年 35歳 組織に属すのではなく、独立して自分らしく働く道を選ぶ。川崎市で開業し、クラウド会計ソフト『freee』専門の税理士として活躍。経営者に寄り添う税理士として生き生きと働いている。
長期戦で挑んだ税理士試験。様々な仕事や事務所を渡り歩き、
独立開業でやっと見つけた「自分らしい」働き方。
資格取得後の道として、「独立開業」を選ぶ理由は様々だ。「自分の力を試したい、やりたいことがある、収入を増やしたい」といった思いだけでなく、「無理をしすぎない、自分に合った働き方をしたい」という思いから独立開業を選ぶ人もいる。今回登場するアカテラス税理士事務所 代表の見上雄一朗氏はまさに後者。組織という枠組みから解放されたことで自分らしい働き方を見つけたひとりだ。紆余曲折を経ながら資格を得て、自由に働く幸せを手に入れた道のりについて、お話をうかがった。
勉強嫌いだった学生時代。高校を中退しフリーターに
幼少期、いわゆる「ヤンチャ」な子どもだったという見上氏。何かに集中するのが苦手で、中学校では授業中に教科書を出すことすらしなかったという。
「高校には進学しましたが、ほどなくいじめを受け、学校生活に楽しさも見い出せなくて、1年生のうちに中退しました。飲食店やガソリンスタンドなどでアルバイトをして過ごしていたのですが、どれも長くは続かず、将来に対して漠然とした不安を抱いていました」
そんな見上氏に転機が訪れたのは26歳のときだった。様々な道を考える中でコンビニエンスストアのオーナーになりたいと思った見上氏。フランチャイズで開業するための経営研修を受ける中で税務に興味を持ったのがきっかけで、税理士の存在を知ったという。
「資格があれば、将来役に立ちそうだと感じましたね。結局オーナーになる話が立ち消えたこともあり、派遣社員として働きながらまずは受験資格を得るために日商簿記検定1級の合格をめざしました。税理士の他に、行政書士や中小企業診断士などの資格取得も考えて手を出してみたのですが続かず…。悩んだ結果、一番自分に合っている税理士1本に絞って勉強することを決意しました」
6年間にわたる受験生活。逃げ道を捨てて勉強に打ち込む
「当時は派遣社員の仕事をやめて実家に帰り、毎日8〜10時間自宅で勉強していました。税理士資格を取得するには5科目に合格する必要がありますが、私は着実に毎年1科目ずつ合格を重ねていきました。また税理士登録をするには2年以上の実務経験が必要なので、4科目目の受験のときは税理士事務所で働きながら勉強する選択をしました。確定申告など、勉強内容と実際の仕事内容がリンクするのがおもしろかったですね」
しかし、予想以上に仕事で疲れてしまい勉強に身が入らなかったため、一旦退職して勉強に専念することに。TACのWeb通信講座で初学者向けのコースを受講し、再度受験に向き合った。
「朝起きたら午前中は理論の暗記や復習、午後は18時頃まで計算問題に取り組みました。数年間にわたる受験生活ですから、モチベーションが下がってしまうことも当然ありました。そういったときは思い切って勉強から完全に離れていましたね。すると、だんだんと焦りが出てきてそのうちまた勉強するようになるんです。私の場合、他に打ち込めるものもなかったですし、受験をあきらめたらもう将来が閉ざされてしまうような恐怖心が常にありました。そうなると結局、受験に向き合わざるを得なくなります。趣味や興味を手放すことで、意識的に『別の可能性』という逃げ道を作らないようにしていました」
32歳で官報合格を果たすも税理士法人勤務で壁にぶつかる
かくして2019年、5科目すべての試験をクリアし、念願の官報合格。6年間にわたる受験生活に終止符を打った。
「合格したときは、心からほっとしました。『やっと終わった!』という気持ちでいっぱいでしたね。ただ、再び会計業界で働き始めたあとも、自分らしい働き方にたどり着くまでは紆余曲折があったんです」
実務経験を積むために、5科目目の相続税法受験後からは都内の税理士法人で働き始めていた見上氏。しかしその業務のレベルの高さに愕然としたという。
「その法人では、トップの非常に優秀な公認会計士のもと、コンサルティングに力を入れていました。そのため勉強してきたことだけでは到底太刀打ちできず…。在籍中に官報合格が判明したものの、実務をどう習得していいかわからない、聞いてみても理解できないという八方ふさがりの状態でした。結局まったくついていけず、4ヵ月ほどで退職してしまいました」
次に就職したのは、スタートアップ支援が中心の会計事務所。実地で学ぶスタイルの業務方針だったため、すぐに担当するクライアントを任され、基本的な税務処理や会計業務を一通り経験した。
「クラウド会計ソフト『freee』など、現在軸としているようなスキルを身につけることができ、税理士としての礎を築くことができました。実務経験を通して学ぶことが多くあったのですが、そのぶん仕事にのめりこみ過ぎてしまって…。ハードワークがたたり、身体的・心理的ストレスが原因で体調を崩してしまい、10ヵ月ほどで地元に帰ることになったのです。今思い出しても本当につらい時期で、もう税理士として働く道はあきらめようかとすら考えていたほどでした。
でも、税理士の仕事から一度離れ、地元でアルバイトをしながらゆっくり過ごしたことで、『やっぱり自分には税理士しかない』と思えるようになりました」
自分の適性を見つめ直しfreee専門税理士として独立開業
その後は大手税理士法人の福島事務所で法人業務の補助に携わった見上氏。しかし直属の上司とうまくいかず、数ヵ月でやめることになった。
「このとき、改めてこれまでの自分のキャリアを振り返り、『自分には組織の中で仕事をするのは向いていない』とわかったんです。私はたとえ上司であってもはっきり意見を言ってしまうような性格なので、上下関係が厳しい組織ではなかなか力を発揮できません。それならいっそ独立しよう、と思ったのが今に至る理由です」
このときまだ35歳。もしもうまくいかなくてもやり直しはきくからと思い切ったが、この決断は大正解だったと見上氏は振り返る。
「クラウド会計ソフトを提供するfreee株式会社は、税理士検索サイトも運営しています。認定アドバイザーになれば、freee対応会計事務所として顧客獲得支援を受けられるしくみです。私はここに着目し、freee専門税理士として開業することにしました。過去にスタートアップ支援でサービスを扱った経験があることと、若い世代の方を中心に導入されているサービスであるため私の得意とする顧客層とマッチする点が魅力でしたね」
検索サイト内には『税理士相談Q&A』というコーナーがある。そこでユーザーからの質問に丁寧にコメントを返していたことが運営側の目に留まり、顧客を紹介してもらうこともあったという。
「営業活動は一切行っていないのですが、freee経由で一定数のご紹介をいただけています。法人成りのご相談や、freeeの導入支援、関連する税務相談などを受けることが多いです。顧問契約のご依頼をいただくこともありますが、やみくもに引き受けるのではなく、相性を見極め『この人を応援したい!』と思える方とだけ顧問契約を結ぶようにしています。そのため、コミュニケーション上のトラブルはほとんどなく、お客様とお互い対等に尊重し合える関係を築くことができています。対人ストレスがなく、仕事のクオリティも高く保つことができる。こうした自由さが、独立開業における最大のメリットだと思います」
経営者の悩みに寄り添う税理士の仕事は決してなくならない
税理士資格を取得し、独立を果たしたことで自信を持って自分らしく働ける環境を手に入れた見上氏。これから資格取得をめざす方へのアドバイスをうかがった。
「AIの台頭で、税理士の仕事がなくなるのではないかと心配している方もいるかもしれませんが、それはないと断言します。もちろん技術の進歩で使うツールやサービスの提供方法は変わっていきます。でも、お客様が求めるのは『寄り添って、悩みを解決してもらえること』。このニーズは、今もこれからも変わらないと思うんです。また、経営者のそばで直接支援ができるのは、税理士だからこそ。非常にやりがいがあります。
税理士になるまでにはお金も時間もかかりますし、決して簡単な道ではありません。でも、がんばるだけの価値は十分あります。これまでお話しした通り、私は税理士資格を取ったことで人生が変わりました。税理士法人や会計事務所に勤務するもよし、私のように独立するもよし。本当に夢と可能性のある資格ですので、ぜひ最後まであきらめずにがんばってください」
[『TACNEWS』 2023年11月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]