タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第26回テーマ 税理士が有名人から依頼を受けたら?
監 子 もしもし、税太君、今からWEB会議いいかしら?招待するわね。
税 太 あ、いいですよ。あ、URL来ました。ポチ。あ、監子さん、また背景の絵変えましたね?こ、これはひょっとして今をときめくJリーグ界のプリンス、大空選手ですか?
監 子 そう、イケメンだしファンなのよね。コロナの影響で試合になかなか行けないから、せめて気分だけでもと思って。あ、襟糸先輩が前回に続いて乱入してきたわ。
襟 糸 おい、乱入とはなんだ。しかも、ここまでのやりとり先月号、先々月号とほぼ一緒じゃないか!それにしても監子君、なんだそのセンスの悪い背景は。君の顔の横に違う顔がいて薄気味悪いぞ。
監 子 毎度毎度大きなお世話ね。大空さまは私の生きがいなのよ!
襟 糸 ん?待てよ、この男、いや、この方は僕のお客様だ。
監 子 えっ、そ、それは本当の話?ど、どんな相談を受けたの?
襟 糸 相談内容というのは顧客のプライベートな情報にあたるから、部外者の君に言うことは何もない。
監 子 私は田久巣会計事務所のれっきとしたメンバーよ!同じ事務所ならいいじゃない!
襟 糸 もし君がサッカーなぞに興味が全くない人種であれば百歩譲って教えてもいいだろう。しかし君はそのJリーガーにうつつを抜かしているわけだ。相談内容を話したらすぐに吹聴したり、SNSに書いてしまったりするリスクがあるはずだ!
税 太 襟糸先輩、大人げないですよ。監子さんだって単なるミーハーなだけではなく専門家のはしくれなんですから、守秘義務があるわけだし、教えてあげましょうよ。
監 子 ちょっと、「はしくれ」って何よ、もう、常識人の税太君まで私の悪口言うなんて。でもいいわ、逆に私は知らないほうがいいのかも。相談内容がディープだったりすると夢が壊れていやだし。あー、でもやっぱり知りたーい!
田久巣 なんだなんだ、君たち、WEB会議で雑談かい?それとも座談かい(会)?
監 子 あ、あのー、所長、そのお出来の微妙なダジャレを言いにわざわざこのオンライン会議室に入室してきたのですか?
田久巣 フフフ、実は最初からいたのだ、君たち全く気付いていなかっただろう。
監 子 え、そうだったんですか?名前も映像も何も出ていなかったのに!
田久巣 監子君、事務所内のグループウェアにこのURLを貼っただろう?だから私もアクセスできたのだ。それに君は名前をよく確認もせず入室を許可したから気づかなかった。そして私は名前も映像も消す設定ができたのだ。
監 子 あ、所長、もしかしてお叱りに来られましたよね。ご、ごめんなさい!
田久巣 士業たるもの、余計なクライアント情報は話すべきではないし詮索するべきではない。その意味では襟糸君が正しい。特にコロナ禍の今はテレワークで情報漏洩がしやすくなっているからね。ただし顧客の問題を解決するためによりよいアイデアを出したいという目的があるなら話は別だ。何かあるかね?
監 子 アイデアあります!それは私をこの案件に入れないこと、情報を共有しないことです。大空さまはとても好きですが、あまりにも強い感情が入ってしまって冷静でいられなくなるからです。
田久巣 グレート!そこまでわかっているなら今日のことは他のみんなには内緒にしよう。これが私の守秘義務だ。
【今回のポイント】
士業の仕事をしていると有名人から依頼を受けることもしばしばある。だが有名人だからといって格別他のクライアントと違う対応が必要かといえばそこまで変わらない。守秘義務はどんなお客様に対しても遵守すべきだからだ。しかし有名人の場合は、その顧客情報に関心を持つ人が非常に多いという点は考慮しないといけない。だからこそWEB会議で話す際も気を付けるべきだし、資料やデータのやりとりをするときも細心の注意を払うべきだ。確かに社内で共有するぶんには問題はないが、それが特に共有する必要性のない情報であれば、あえて共有しなくてもいいだろう。ルール上も、公認会計士はその情報が株式市場を左右する可能性があるから公認会計士法や倫理規則でより詳細に定められているし、税理士も税理士法で強く求められている。ITの設備やツールを強化し、クライアントの守秘義務を遵守できるよう、環境整備をすることが今後ますます重要になるだろう。
[『TACNEWS』 2020年10月号|連載|タックスファンタスティック]
筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)
1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員パートナー、株式会社レガシィ常務取締役。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人に入り、会計監査・内部統制監査・IPO準備監査に従事。また事業再生、M&A支援等のコンサルティング業務も行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ。現在は相続・事業承継対策コンサルティングを担当。また情報戦略本部長としてプラットフォームの構築も担当し、2019年7月「Mochi-ya」をリリース。 https://www.mochi-ya.ne.jp
主な著書:『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版、共著)