人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第66回 株式会社クリーク·アンド·リバー社
久保寺 健太(くぼでら けんた)氏
人事グループ 人事部長
大学卒業後の2000年4月、株式会社クリーク·アンド·リバー社入社。営業職でのエージェント業務を経て、2019年に人事部に異動。部長職として着任し、部署全体の管理監督から総合職の新卒採用、中途採用全般を担っている。
クリーク·アンド·リバー社は、
多様なプロフェッショナルの叡知を融合し、
新たなマーケットを積極的に創造していきます。
1990年に創業した当時、クリーク·アンド·リバー社はたった7名の映画監督とTVディレクターだけだった。そこから「プロフェッショナルの生涯価値の向上」をめざして、各分野でコアとなるプロフェッショナルの拡大に努めてきた。現在、ネットワークするプロフェッショナルは18分野、約39万人まで広がっている。クリーク·アンド·リバー社では、どのような人材を採用し、どのように育てているのだろうか。人事グループ人事部長の久保寺健太氏に、採用方針や育成計画、人材観、福利厚生などについて伺った。
プロフェッショナルの生涯価値の向上をめざす
──最初にクリーク·アンド·リバー社をご紹介いただけますか。
久保寺 クリーク·アンド·リバー社(以下、C&R社)は、プロフェッショナルの能力を最大限に引き出して、多様な活躍をプロデュースする「プロフェッショナルのためのエージェンシー」です。1990年の設立以来、業界のパイオニアとして「プロフェッショナルの生涯価値の向上」と「クライアントの価値創造への貢献」を標榜してきました。そのネットワークは、TV・映画、ゲーム、Web、広告・出版、作家、舞台芸術、建築、アスリート、ライフサイエンス、AI/DX、CXOにまで広がり、C&Rグループ全体では、医療、IT、会計、法曹、ファッション、食、アグリカルチャーも合わせて18分野、約39万人超まで拡大しています。
私たちが「プロフェッショナル」と呼ぶのは、「世界中で活躍できる職種」、「機械では代わることができない職種」、「知的財産が蓄積される職種」に限っています。そのプロフェッショナルが集結する18分野のネットワークとノウハウこそ、C&Rグループの最大の強みです。分野や国境の枠を超えて、プロフェッショナルの叡知を融合し、これまでにない自由な発想で変化の著しい世界に新たな価値を創造しています。
──貴社の「プロフェッショナル」の能力を最大限に引き出すスタンスは、「プロフェッション創造企業」をめざすTACにとって大変共感できる部分です。プロフェッショナルの活躍分野が18分野に広がったのはすばらしいですね。
久保寺 私が入社した2000年当時は、映像事業部とゲーム事業部、マルチメディア事業部、広告・出版部の4事業部と医療分野のグループ会社が1社しかありませんでした。映像事業部は番組制作のプロフェッショナルだけだったので、対応できるのはテレビ局や制作会社しかありませんでした。また当時はガラケーしかない時代ですので、ゲームといえば家庭用ゲーム機向けを作る人しかいません。それが今ではスマホゲームを作るチーム、家庭用ゲーム機を作るチーム、その他VRであったり新しいメディアがどんどん生まれています。
10年ほど前からはYouTubeや動画配信サイトといった新たなメディアが出てきて、爆発的人気を博しています。このように可能性はこの先もどんどん広がっていくので、今、目の前にマーケットニーズがなかったとしても、何年か後に新たなマーケットが生まれ、可能性が大きく広がると思います。そのためにC&R社は、多様なプロフェッショナルが活躍できる新たなマーケットを積極的に作り、広げていきたいと考えています。
──多様なプロフェッショナルが活躍できる場を広げていくために、C&R社ではこの先どのような展開を考えていますか。
久保寺 C&R社では請負や派遣事業を手掛けていますが、プロフェッショナルが仕事を受けて、新たなソリューションを生み出していける場を提供することも大切にしています。そこでまた新たなプロフェッショナル同士が掛け合わさり、新たな周辺サービスを増やしていく。つまり1つの分野のプロフェッショナルの知見や経験だけでなく、様々な分野のプロフェッショナルが有機的に組み合わさることで、新たな付加価値や社会課題解決につながるとも考えています。世の中を変えていける。そこが今C&R社が向かっているところです。
そのひとつが、建築事業部とVRを手がけるXR事業部の共同による建築分野のVR展示への取り組み、超建築VR・VR住宅展示場「XR EXPO🄬」です。例えば、一級建築士が大手建築会社を辞めてフリーランスになったとき、C&R社がVRプラットフォームを提供して住宅のVR展示で活躍できる場を提供します。実際に住宅展示場でVR技術を使えば、建築士と見学者がメタバース上で会話することが可能ですし、ボタンひとつで壁紙や床の色を変えたり、見学者の希望に合わせて内装を変えることができます。
このようにC&R社は、プロフェッショナルを極めたさらにその先に、知見を持って新たなソリューションや新たな企画ができないかを模索し、それと並行して現在手がける18分野から50分野へと拡大していくことをめざしています。
──新規事業や新規分野を次々と生み出して、プロフェッショナルの活躍の場を広げているのですね。
久保寺 そうですね。M&A、グループ会社化で新規事業が始まることがある一方で、ゼロから立ち上がる会社が半数を占めているのが弊社の特徴です。ゼロから始まる会社には、社員が「これをやりたい」と役員にプレゼンし、ボトムアップから立ち上がるケースもあります。事業計画を綿密に策定し、1つの部署として立ち上げ、徐々に大きくなってグループ会社設立となるのです。
最近できたボトムアップ企業の一例が、アグリテック(農業分野のテクノロジー)と異業種のプロフェッショナルのアイデアを融合した新しい農業ビジネスを展開するコネクトアラウンドです。コネクトアラウンドはアグリカルチャー事業だけでなく、障がい者の方など誰もが野菜を作れるようなユニバーサルワークフローを導入した水耕栽培施設を立ち上げて、ダイバーシティ事業として6次農業施設を始めています。これは、長年勤めていた農業学科卒の社員が、農業をやりたくて事業計画書を策定し、グループ会社設立にこぎ着けました。
このようにC&R社は、ボトムアップで「次はこんなことをやりたい」、「次はこういう人材を使って、こんな事業を立ち上げたい」という提案を次々実現できる風土があります。そこがC&R社の最大の魅力であり、強みのひとつだと思っています。
プロフェッショナルのキャリア支援を行う総合職
──C&R社の人員構成と職種について教えてください。
久保寺 C&R社は総勢約1,100人、うち総合職を含めた管理グループ約400人、クリエイターを含む専門職約700人で構成され、総合職(エージェント職)と専門職の採用を行っています。
総合職は映像、ゲーム、Web、広告・出版、作家、AI/DX、建築などの分野のプロフェッショナルを様々な形でサポートしています。具体的には、アシスタントディレクターやディレクター、2D/3DCGデザイナー、Webデザイナー、小説家、AIエンジニア、データサイエンティスト、建築士、研究支援者などの方々に対し、転職・就職支援や請負プロジェクトのご紹介、知的財産を活用したビジネスのご提案、教育機会の提供などを行っています。プロフェッショナル一人ひとりに合わせたサポートで才能を最大限に発揮できる環境を提供し、同時にクライアントの価値創造に貢献することが総合職のミッションです。
専門職は、映像専門職(制作職、技術職、CM職など)、ゲーム専門職(ゲーム、CG映像、3DCG、2D全般、プランナー、企画職、映像開発、コンポジッター、2Dデザイナー)、デジタル専門職(Webディレクター/アカウントプロデューサー)の3つの分野でプロフェッショナルを募集しています。
この2つの職種のうち、今回はプロフェッショナルのキャリア支援を行う総合職についてお話ししたいと思います。
──総合職と専門職がある中で、今回は総合職についてのお話ですね。
久保寺 そうですね。よく「C&R社は人材派遣会社ですか」、「人材紹介会社ですか」と聞かれますが、プロフェッショナルが活躍する雇用形態は本当に様々です。ですから私たちは雇用形態にこだわらずに、自分の好きな仕事だけを切れ目なく続けたければ派遣契約で切れ目なく仕事をご紹介し、どこかの制作会社に所属しないで作品契約だけで仕事をしたいとういことであれば、クライアントとの間に立って制作を請負い、プロデュースしています。この業務を行うのが総合職です。
──C&R社に応募する学生は、どのようなことをやりたい方が多いのですか。
久保寺 新卒の応募者には「人材派遣をやりたい」、「人材紹介をしたい」と、人材にまつわるビジネスを希望して応募される方が多いですね。しかし、C&R社の総合職はそこだけに限らずに幅広いプロフェッショナルのキャリア支援を行っています。そしてプロフェッショナルとともに多くのクライアント企業の課題解決をしている点を理解していただきたいと思います。また、C&R社ではプロフェッショナルのリソースやこれまで関わってきたクライアントのリソースを活かして、自分で新たなマーケットを切り拓いて仕事を生み出したり、既存の分野を組み合わせて次々と新規事業を生み出しています。そこに興味を持って応募してくる学生の方も多いですね。
総合職に求めるのは「人が好きなこと」
──採用活動についてお聞きします。2024年4月入社の新卒は何名でしたか。
久保寺 2024年4月はC&Rグループ全体で361名の新卒社員が入社しました。そのうち総合職は37名、残り324名がグループ会社を含めた専門職になります。専門職採用は雇用形態が様々で、本人の希望によって、正社員だけでなく有期雇用社員も含まれています。
2025年4月も総合職は同規模の採用を予定しています。
──新卒社員に対して、内定後はどのようなフォローを行っていますか。
久保寺 課題などは特にありませんが、懇親会を開いたり、採用チームが内定者と頻繁にコミュニケーションを取るよう心がけています。基本的には「学生生活を楽しんで、きちんと終えて、4月から来てくださいね」というスタンスです。
──C&R社の総合職として「求める人物像」とはどのような人材ですか。
久保寺 新卒、中途の両方に共通して言えるのは、大前提にある企業理念への共感です。その上で新卒採用に関しては、まず映像、ゲームのエージェント業務を経験していただきます。エージェント業務なので、自分が作品を作ったり、作った作品に対して評価される仕事ではありません。黒子に徹する仕事なので、必須になるのは「人が好きなこと」、「人に興味があること」です。「プロフェッショナルの方々がこういうところに仕事が決まったら喜ぶだろう。それが自分にとってもうれしい」と思える人材を求めています。
総合職では、新卒採用だけでなく中途採用も行っていて、年間40~50名が入社しています。中途だからといって人材系業種経験者に限りません。これまでの経験がC&R社のリソースと絡み合ったとき、新しいビジネス展開が生まれるのであれば、業種・職種は特に問いません。中途採用では、期初に立てた事業計画に沿っての採用と、部署の必要性に応じて採用するケースの両方があります。
──2024年4月の新入社員研修はどのように実施されましたか。
久保寺 総合職は4月1日の入社式後、4~5月の2ヵ月間、集合研修を実施しました。そこで最初に行ったのが、企業理念の共有と数多いグループ会社の説明です。座学でそれぞれの部署の説明を聞いて理解してもらうことを第一目的に、ビジネスマナー、Excel研修、新規事業立案のグループワークとその発表などを行いました。その後6~8月の3ヵ月間を仮配属期間として、9月から本配属になります。
──仮配属の3ヵ月間は見極め期間という認識ですね。
久保寺 一応見極め期間になっていますが、仮配属から本配属に行くケースがほとんどで、よほどのことがない限り部署変更はありません。まずは仮配属の上で、本配属1~2年を経験してもらいます。
専門性強化支援制度で年間10万円まで補助
──新入社員研修以後は、どのような研修を実施されますか。
久保寺 入社1年目は、隔月で2時間の1年目研修を実施しています。仮配属が決まったあとに先輩が一人ずつインストラクターとしてつきますが、このインストラクターにも隔月で研修を実施しています。その後は年に1回の2年目研修、3年目研修と、3年目まで人事管轄で新人研修を手厚く実施しています。
──3年目以降は各部署でのOJTや研修になるのですか。
久保寺 その後は各部署での研修とレイヤー別の職位者研修が始まります。課長職にあたるセクションマネージャーになると、部下の勤怠管理や目標の評価が業務として発生してくるので、勤怠管理の徹底の仕方、1on1ミーティングのやり方、してはいけない評価の傾向などをレクチャー形式で実施します。
──研修制度、教育制度でC&R社ならではのものがあればご紹介ください。
久保寺 全グループを通してコンプライアンス研修やハラスメント研修は実施しているのですが、部署がマーケットごとに棲み分けされているので、どの部署でどのような研修が必要なのか、管理部門側で把握し難い面があります。その対応策として実施しているのが、専門性強化支援制度です。この制度は資格や分野が決まっているのではなく、本人が必要性を感じ、かつ上長が認めれば、自己負担半額、最大10万円までの補助が適用される制度です。例えば、英会話スクールへの通学など、自分の配属部署以外の勉強をしてみたいという希望でも、認められれば年間10万円まで会社が負担します。また1回2万円のセミナーに参加したい人には都度1万円、年間上限10万円まで支給が可能です。あるいは現在の業務に簿記が必要で、上長の許可があれば同様の補助が受けられます。
この制度を活用する社員は年間30~40名ほどいて、多いのは英会話とキャリアコンサルタント資格での利用です。ちなみ私もこの制度を利用して、キャリアコンサルタントを取得しました。キャリアコンサルタントのように継続学習が必須の国家資格の場合は、継続学習も対象になっています。
──福利厚生制度や社内制度でユニークなものがあればご紹介ください。
久保寺 選択制の確定拠出年金制度や持ち株制度といった、ひと通りの制度は整っています。制度の中で最もユニークなのは、1ヵ月に1回開かれる「グッドジョブラウンジ」でしょう。C&R社本社にはグループ会社含めて約1000人が毎日出社をしていて、誰でも食事や休憩、打ち合わせができるコミュニケーションスペースがあります。そのスペースで月に1回無料でお酒が飲める企画が「グッドジョブラウンジ」です。第1回目はお酒1杯無料、第2回目からはお酒2杯まで無料になって、仕事帰りの社員に気軽に立ち寄ってもらいます。総務部主催なので、総務部長がハイボールを作ってくれたり(笑)、ときには会長や社長もふらっと立ち寄ったりします。グループ会社同士の交流は、マネジメントレベルはあっても実務者レベルではなかなかありません。普段接点のないゲーム部署と建築部署の人間が組織横断的にコミュニケーションを取れたりと、大変よい試みだと思っています。
資格を取得してプロフェッショナルを極めてほしい
──C&R社では必須の資格や社員に推奨している資格はありますか。
久保寺 この資格がなければできないという仕事も推奨している資格も特にはありません。新卒採用で簿記などの資格がある場合は参考にはしますが、採否に反映されるわけではありません。資格取得をめざす社員は、先の専門性強化支援制度を活用して、業務で必要となる資格を取得する方がほとんどです。
──最後に資格取得やキャリアアップをめざす方に向けてメッセージをお願いします。
久保寺 C&R社は新しい分野をどんどん広げていくと同時に、これまでのリソースを活用して新規事業を立ち上げていきます。自らの目標をめざして資格を取得された方が、当社のリソースをうまく利用して新規事業を立ち上げたいという希望があれば、当社は喜んで多様な展開の組み合わせを提供したいと思います。まずは資格を取得してプロフェッショナルを極めることをめざしてがんばってください。
[『TACNEWS』人事担当者に聞く「今、欲しい人財」|2024年7月 ]
▲本社の受付
会社概要
社名 株式会社クリーク·アンド·リバー社
設立 1990年3月20日
代表者 代表取締役会長(CEO) 井川幸広
代表取締役社長(COO) 黒崎 淳
本社所在地 東京都港区新橋四丁目1番1号 新虎通りCORE
事業内容
ライツマネジメント事業(知的財産の企画開発・流通)、プロデュース事業(開発・請負)、エージェンシー事業(派遣・紹介)
従業員数
単体:1,120名、連結:2,326名<2024年2月現在>
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