人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第35回 株式会社SHIFT
上岡 隆氏(写真奥)
人材戦略統轄部 事業人事部
部長
三上 剛史氏 (写真前列右)
人材戦略統轄部 事業人事部
リクルーティンググループ グループ長補佐
佐藤 智子氏 (写真前列左)
人材戦略統轄部 事業人事部
リクルーティンググループ
日本国内のIT産業の市場規模は15.5兆円。うち、ソフトウェアの品質保証・テスト市場は約1/3の5兆円を占めるといわれているが、株式会社SHIFTは、この分野を専門にしている企業である。一般的にソフトウェア開発者や開発知見を持った人しかできないと考えられがちなこの業務に、SHIFTはIT業界未経験者を登用している。独自の採用活動や人材育成のしくみ、資格の捉え方について、採用担当の上岡隆氏、三上剛史氏、佐藤智子氏にうかがった。
品質保証・テスト事業の専門企業
──株式会社SHIFTについて教えてください。
佐藤 SHIFTは、ソフトウェアの品質保証・テスト事業を専門としている会社です。完全なBtoBサービスの企業ですから、ゲームメーカーやWebサイト、ECサイトを運営する会社などのBtoCサービスの企業と違って、一般にはあまり知られていないと思います。
品質保証・テストはITソフトウェア開発をする際に必ず必要で、品質の高いソフトウェアを開発する上で重視すべき工程です。市場規模でも、国内のIT産業市場15.5兆円のうち、ソフトウェアの品質保証・テスト市場は約1/3を占める5兆円といわれています(ソフトウェア開発データ白書2018〜2019より)。
しかしこの品質保証・テスト業務は、いまだに多くの開発会社で開発エンジニア自身が作業工程の一部として行っているケースがほとんどです。当然ながらそれでは検証の精度は上がりませんし、自身が開発したシステムを自らでテストするということでは、その業務へのモチベーションも担保できません。にもかかわらず、現在、これらの業務がアウトソースされている割合はわずか1%といわれています。さらに、これらの業務を専業としている企業は、国内には当社のほか数えるほどしかありません。
そのような中、当社は2005年に創業して以降、従業員数はグループ会社を含め総勢6,500名規模(2021年5月時点)に成長しました。現在、新卒から中途まで、年間1,000名を超える規模の人材採用を行っている中で、IT業界未経験者の採用にも積極的に取り組んでおり、第二新卒といわれる方々もIT業界でのキャリアのスタートとして多く入社してくださっています。
未経験の第二新卒採用を重視
──第二新卒の中でもIT業界未経験者の採用を行っているのですね。
三上 はい。それまでの業界や職種を問わず、当社で活躍できる、IT業界未経験の第二新卒採用に注力しています。営業、銀行員、サービス業、飲食、アパレル、公務員など、様々なバックグラウンドを持つ人材が第一線で活躍しています。
──キャリア(中途)採用と第二新卒採用では違いがありますか。
三上 キャリア採用は、それまでのIT業界の仕事で得られたスキルや経験を活かしていただく採用です。一方、第二新卒採用は、新しくIT領域にチャレンジしていただく方を対象としたポテンシャル重視の採用ですので、ITの知識や業界経験は必ずしも必要ではありません。IT業界は未経験であっても、例えば会計システムを利用したことがある経理経験者のように、当社が品質保証を行う対象のソフトウェアをユーザーとして利用した経験のある方は、そのシステムの品質保証・テスト業務にこれまでの経験を活かすことができますので、「過去に経験してきた業務」×「IT」の掛け合わせで活躍することが可能です。
──第二新卒の募集に際してどのような要件を提示していますか。
三上 学歴・職歴問わず、SHIFTの事業領域に興味を持ち、ビジョンや企業理念に共感してくださる方を募集しています。もちろん志望の意思や動機をうかがった上で選考を進めますが、最初に門を叩いていただく際は条件を絞らずに、前職や国籍に関わらず応募できる、かなり間口を広げた選考を実施しています。人材紹介会社、インターネット求人媒体、リファラル採用、自社Webサイトなど、様々な応募の窓口を用意しています。
第二新卒は1ヵ月に10〜20名、年間100名以上が入社しています。毎月入社可能なので、前職を退職するタイミングを考慮して入社日を決め、きちんと前職での引き継ぎを済ませてから入社いただいています。
上岡 隆 氏
IT系企業でのSE職を経て、2012年、株式会社SHIFT入社。エンジニア、マネージャー、部門長を経て、2018年、人事領域にキャリアチェンジ。事業を理解している人事担当者として、中途採用、人材戦略の責任者を務める。
素養を見極める「CAT検定」
──第二新卒はポテンシャル重視の採用ということですが、ソフトウェアテストへの適性はどのように見極めるのですか。
上岡 当社ではアルバイトを含めIT業界未経験者を多く採用する中で、「CAT検定」というソフトウェアテストの素養の有無を判断する独自の試験を開発し、入社時の検定試験として導入しています。これによってIT業界未経験者の業務に対する素養の有無を見極めた上で、正社員として活躍するために必要となるコミュニケーション力や質問力を面接やワークショップで見ていきます。
CAT検定は入社試験の一部として全社員が受けていて、受験者総数は約6万2,000人(2021年7月末現在)にのぼります。それまでの経験を問わずに活躍できる背景には、このCAT検定の存在があります。
──選考はどのようなプロセスで進みますか。
佐藤 新型コロナウイルス感染拡大の影響から、現在は完全オンラインで選考が完結します。書類選考ののち、Webで実施している会社説明選考会に参加していただき、会社概要や入社後研修の概要、今後のキャリアについて説明します。説明が終わりましたら、CAT検定を含む社内検定試験をその場で受けていただき、1〜2日後の検定結果によって1次選考通過となります。通過者は次に人事面接を受けていただき、面接を通過すると最終的な内定となります。
会社説明選考会は、平日は毎日、土曜日も月2回開催していて、面接も1日で3〜4枠を設けて毎日実施していますので、予定が合えば説明会の参加から1週間以内に面接までが終わり、最短、応募から約2週間で内定に至ります。
──かなりスピーディな選考プロセスですね。
上岡 選考ステップを効率化して、選考される側にもきちんと選択肢を渡すことにこだわっていますので、応募から内定までのリードタイム削減をかなり重視しています。実は、第二新卒採用はこれでも若干選考プロセスが多いほうです。キャリア採用の場合は面接1回、そこから3日以内には結果をお伝えしています。
三上 剛史 氏
人材派遣会社での勤務経験を経て、2017年10月、株式会社SHIFT入社。人事部、社長室付を経て、2020年7月より現在の人材戦略統轄部 事業人事部 リクルーティンググループでIT未経験の第二新卒採用に携わる。
「スキルアップ」×「営業力」×「評価制度」=トップガン教育
──第二新卒者の入社後研修はどのようなものを準備していますか。
三上 未経験であっても安心して最初の業務に取り組めるように意識したカリキュラムを用意しています。PCを使って業務をする基礎的部分から始め、IT業界の知識、用語、SHIFTで最初に取り組む業務について座学で伝えるのはもちろん、ケーススタディを使ってしっかりと実務形式で学んでいただく15日間の研修です。
また当社には、IT企業を対象に、ソフトウェア品質を高めるためにはどうすべきかを講義する教育専門機関の部署があります。そこでは「ヒンシツ大学」というサービス名の研修プログラムを組み立てているのですが、これを入社後研修にも使っています。応募者から「入社するまでに何を勉強しておけばいいですか」「取得しておいたほうがいい資格はありますか」「どの資格があれば活躍できますか」といった質問をよくいただきますが、「何もしなくても大丈夫です!」と言い切れるほど手厚い研修プログラムになっています。
──15日間の入社後研修を終えると各部署に配属されるのですか。
三上 はい。当社の第二新卒者は未経験からのスタートが前提なので、配属を受け入れる現場側の体制も整っています。配属後の研修については人事部門が関わるのではなく、部署ごとに向き合う事業部人事に任せます。HRBP(Human Resource Business Partner:経営者や事業責任者のビジネスパートナーとして、人と組織の両面から事業成長をサポートする役割)という言葉もよく耳にするようになりましたが、配属された人材をどう成長させていくか、事業部人事が事業部と一緒になって取り組んでいきます。
上岡 入社前にはCAT検定があり、入社時には入社後研修とヒンシツ大学の研修プログラムを受け、配属後には「トップガン教育」という従業員の育成カリキュラムも用意されています。トップガン教育は、スキルアップやキャリアアップを希望する社員を対象にした教育システムで、カリキュラム受講後に検定試験に合格すれば、それに連動して給与が上昇するしくみになっています。
当初はある特定の階層に属する社員だけを対象に始めたトップガン教育ですが、さらなる高みをめざす上位の階層の社員を対象とした教育としても、カリキュラムを拡充し続けています。
「スキルアップ」と「評価・報酬」を掛け合わせた教育システムですので、給与だけでなく自身の市場価値向上を肌で感じることができるのが大きな特徴です。意欲の高い高付加価値人材を継続的に生み出すことができるカリキュラムになっているので、社員と会社の双方にとってwin-winのシステムです。
──トップガン教育には誰でもチャレンジできるのでしょうか。
三上 はい。IT業界未経験での入社から半年後にトップガン教育にチャレンジして検定試験に合格したメンバーもいます。
自分で挙手すれば参加できる、つまりやる気さえあれば誰でもキャリアアップに直結する勉強のサポートが受けられる環境が用意されているということです。入社時の手厚い研修と併せて活用することで、その先のキャリアアップを実現してほしいと考えています。
佐藤 当社では、ヒンシツ大学のシステムを利用してオンラインで社員が自分の空き時間に勉強できる体制を用意しています。これを活用してトップガン教育に合格すれば、「合格できた」という結果だけではなく、がんばったぶんだけ評価されて給与にも直結するという2つの明確なモチベーションにつながります。このような制度はなかなかないと思います。
上岡 入社時点のCAT検定は、会社側にとっては見極めになりますが、応募者にとっても「未経験だけどやっていけるだろうか」と不安を感じている部分に、「検定に受かっているから大丈夫。安心して入社してください」とお墨付きをもらえる安心材料になります。そこから入社後もさらに給与を上げていけるトップガン教育のようなしくみがあるのが、SHIFTの強みのひとつです。
佐藤 智子 氏
2016年より株式会社SHIFTに派遣社員として勤務、全拠点のアルバイト採用に従事。正社員となり、2020年より人材戦略統轄部 事業人事部 リクルーティンググループでIT未経験の第二新卒採用に携わる。
資格取得によるスキルアップを支援
──第二新卒採用で求める人物像を教えてください。
三上 どのような職種でも、行動指針である「SHIFTのクレド」を大切にした評価制度になっているので、仕事に臨む上でどのように行動していくか、このクレドにしっかりと共感していただける方に入社していただきたいと考えています。クレドの内容をお伝えすると、当社では「何かにチャレンジしたい」「もっと稼ぎたい」「もっと難しい仕事がしたい」、そういった前向きで成長したい意志を持った方を求めています。
──資格についてはどのようにお考えでしょうか。
三上 社員が持っている能力はきちんと活用できるよう、しくみを整えています。当社の人事システムには「ヒトログ」という全社員のデータベースがあって、そこにTOEIC®L&R TESTのスコアや簿記検定をはじめ、個人のスキルや資格の有無が登録されているのです。実際、このデータベースを参照して、スキルを活かせるプロジェクトや部署に配属を行っていますし、ときには有識者に対して社内で知恵や助けを求めるといった社内コミュニケーションのためにも利用されています。
──資格取得の際のフォロー制度や会社的なバックアップはありますか。
三上 ヒンシツ大学の中でITに関わる実践的な学びの場はありますし、有志による社内勉強会も頻繁に行われています。また実質的なスキルアップ応援制度でいえば、資格取得にかかった受験費用を負担したり、60種類以上の資格を対象に合格時の報奨金を支給したりしています。
上岡 情報処理系のAWS認定資格やビジネス系資格、簿記検定、公認会計士、税理士、社会保険労務士も対象資格の一部です。基本的に業務に必須の資格はそれほどありませんが、可能性の幅が広がるという意味で、資格取得を支援しています。
佐藤 「合格」という結果を見るのではなく、取得によって社内でより高いレベルの仕事を得られるなど、活躍の幅を広げるための武器になるのが資格だと捉えています。その努力を支援するために、受験料や報奨金を支給して、いろいろなことにチャレンジできる環境を作っています。
──資格取得やスキルアップをめざして勉強中の方にメッセージをお願いします。
上岡 お伝えしたいことは2つあります。1つは、自己投資が大事だということです。私自身、新卒時代にはTACで情報処理資格を取得しましたし、入社3〜5年目には力をつけたいという思いで、たくさんの本を読んだり、英語の勉強をしたりしました。必要だと感じたタイミングで勉強することは大事だと思いますし、初めは頭だけでわかっていたことが、キャリアを通じて少しずつ身についてくるのを後になって実感できます。
もう1つは、今、「何でもやらせる」総合職的な採用から、「あなたにはこの仕事をやってもらいたい」というジョブ型の採用に変わりつつあるということです。そうなると、採用側としては資格などで「自分はこれができる」という分野をきちんと作り上げている人は評価しやすいのです。その点でも、資格試験の受験経験は活用できるので、ぜひそこを意識してキャリア形成していただきたいと思います。
佐藤 当社は毎年1.5倍ずつ売上高が急成長しているので、日々新しい事業やチャンスに溢れています。その中でトップガン教育のような成長できる機会がたくさん用意されているのが特徴です。資格を取得してキャリアアップしていきたいと考えている方ならきっと強い意志をお持ちだと思うので、当社に入っていただいたあと、社内検定などにも合格してキャリアアップできるはずです。努力の結果が給与アップにも反映される制度があるSHIFTで、ぜひ活躍していただきたいと思います。
三上 やってみたらすんなりできる勉強もあれば、思ったよりわかりづらい勉強もあると思います。ですからまずは可能性を自分で閉ざさずに、やりたいと思うことにはどんどんチャレンジしてみてください。CAT検定は、当社で行う業務の適性を測る検定ですが、自覚していなかった自分の得意分野に気づけるチャンスがあるという意味で、資格の勉強も同じだと思います。「ムダになるかもしれない」といったことはひとまず考えずに、まずは資格を取るための勉強に取り組んでみてください。自分でも知らなかった自分の強みが見つかるかもしれません。がんばってください。
[『TACNEWS 』2021年10月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]
会社概要
社名 株式会社SHIFT
設立 2005年9月
代表者 代表取締役社長 丹下 大
本社所在地 東京都港区麻布台2-4-5 メソニック39MTビル
事業内容
ソフトウェアの品質保証、テスト事業
従業員数
グループ会社を含め総勢6,500名規模(2021年5月時点)