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細川 直哉(ほそかわ なおや)氏
Profile

細川 直哉(ほそかわ なおや)氏

税理士法人リアドリ 代表社員
税理士 行政書士 中小企業診断士 CFP®

1977年生まれ、北海道河東郡音更町(おとふけちょう)出身。専修大学経営学部経営学科 卒業。明治大学グローバルビジネス研究科(MBA)修了。2016年、税理士登録。2015年、中小企業診断士登録。約5年間の会計系コンサルティング会社勤務を経て、2006年、現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券に転職。2012年には 三菱UFJ銀行に出向。2018年、独立開業し細川経営経理事務所を開設。2021年、法人化し税理士法人リアドリを設立。

コンセプトは創業支援。
複数資格取得で得た知識を使い、
創業者と中小企業を支援します。

 税理士、行政書士、中小企業診断士、CFP®と複数資格を保有する税理士法人リアドリ代表社員の細川直哉氏。細川氏はどのような経緯で複数の資格を取得してきたのか。また5~6年でのキャリアチェンジをどのように今日に活かしているのか。資格取得の経緯から勤務時代、独立開業の経緯と今後の方針までを詳しくうかがった。

将来は中小・零細企業をサポートする仕事に就きたい

 JR本八幡駅(千葉県市川市八幡)近くにある税理士法人リアドリの代表社員を務める細川直哉氏は、税理士だけでなく、行政書士、中小企業診断士、CFP®資格の保有に加え、MBA(経営学修士)を修了している。複数の資格を活かして活躍する細川氏が初めて資格取得を意識したのは、生まれ故郷である北海道河東郡音更町で過した子ども時代の経験にあった。

 「父は測量士でした。東京近郊の測量は住宅やビルがほとんどだと思いますが、北海道では土木工事の測量が多く、山の中を切り開いて作る高速道路やスキー場建設のための測量です。私も小さいころから父の手伝いをしており、道もない山を登って測量を手伝いました。父の仕事はどちらかといえば大手の下請的な仕事がほとんどで、生きていくために、受けざるを得ない力関係を垣間見ました。
 そのような経験から将来は中小・零細企業をサポートする仕事に就きたいと自然と考えるようになりました。父が自営業でしたので、家に税理士が来ることがあり、仕事内容も教えてもらいました。そのようなことから人に関わる仕事、数字に関わる仕事にあこがれました」

 小学校1年生から高校3年生までサッカーに打ち込んでいた細川氏が、あこがれと就きたい仕事が具体化された税理士資格への挑戦を始めたのは大学進学後のことだった。

 「進学した大学は第一志望ではなかったため、大学時代はきちんと勉強しなければいけないと思いました。入学当時、考えていた方向性は2つあり、1つは税理士への道、もう1つは海外での仕事です。ところが、英語はそれほど得意ではない一方で、簿記は結構すんなりでき、道は決りました。大学の簿記サークルに入って、大学1年生の6月に日商簿記検定試験3級、11月に2級を取得。アルバイトをして税理士受験に必要な費用を貯めました」

 こうして細川氏は大学2年生の9月からTAC税理士講座の2年本科生として税理士試験への挑戦を開始した。

 「税理士受験にかかる費用は自分で出すと決めており、大学1年生から2年生にかけてアルバイトをして学費を貯めました。大学2年生の9月にそれまで貯めた50~60万円を持ってTACに申し込みに行きました。TACには株主優待で受講料の割引があったので、TACの株式を取得して株主優待を受けて申し込みました。そのときに取得したTACの株式は今でも保有しています」

税理士に加え、中小企業診断士、CFP®を取得

 税理士受験を決めた細川氏は、大学3年生で簿記論、財務諸表論、消費税法を受験したが、残念ながら合格科目はなかった。大学4年生でも同じ3科目を受験し、簿記論、財務諸表論に合格。大学卒業後も受験に専念して、卒業1年目に受けた法人税法と消費税法は不合格だった。

 この不合格を受け、細川氏は会計系コンサルティング会社の株式会社AGSコンサルティングに就職して実務に就いた。ただし、1つの会社や同じ業種で働くと偏った知識と経験しかできないため、細川氏は5~6年ごとにキャリアチェンジを行い、現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券、三菱UFJ銀行でキャリアを積み重ねている。

 「AGSコンサルティング時代は税理士試験を受けましたが、ほとんど受験勉強はしないままの受験でした。仕事が楽しかったので、何か違う仕事のほうが自分に合っているのではないかという思いもあり、税理士試験は一時休止状態でした。
 再度税理士試験に目が向いたのは三菱UFJ銀行時代です。大学院への社費留学制度があり、平日夜と週末に明治大学グローバルビジネス研究科で学び、MBA(経営学修士)修了と税理士試験税法科目の免除が受けられるようになりました」

 大学院に通いながら細川氏は税法科目の免除を見越して、TACで消費税法の勉強を進め、修士1年目の2015年に無事合格し、翌2016年に税理士登録を果たしている。

 大学院で学び、税理士試験に改めて挑戦することに加え、細川氏は中小企業診断士試験の勉強も始めている。

 「その頃には税理士としての独立開業を考えていました。中小企業のサポートを考えたとき、税務だけでは難しい。いろいろな知識を身につけたいと考えたとき、中小企業診断士試験は学習内容が幅広く、自分が苦手なITも入っていました。知識を身につけるなら中小企業診断士試験の勉強がいい。中小企業診断士の資格で仕事をしようというよりも、知識習得のために勉強をして、その結果資格を取得しました。銀行での勤務と大学院に通いながら、修士2年目に入る3月頃から独学で学習を始め、その年に1発で合格しました」

 中小企業診断士の勉強には、証券会社時代にM&Aアドバイザー業務に携ったときに得た知識が大いに役立ったという。財務、組織論、法務面、コンサルティング業務にも携わっていたので、このときに身につけた知識が受験に直結したのである。

 中小企業診断士取得後、細川氏はCFP®も取得している。こちらは独立開業を見据えたものだった。中小企業診断士や税理士の試験、MBA(経営学修士)の勉強と重なっている内容も多く、すべて1発で合格したという。

5~6年ごとにキャリアチェンジ

 5~6年ごとにキャリアチェンジをしてきた細川氏だが、各勤務先ではどのような業務を担当してきたのだろうか。

 「税務だけではなくコンサルティング業務にも携わりたい、幅広い業務を経験したいと考えて入社したのがAGSコンサルティングです。税務の部署に配属され、社内で税務会計業務を行うだけでなく、クライアントに常駐して経理業務にも携わりました。幅広い業務を経験したかったので、あえて土日に出社し、出社している先輩社員に社内営業をしました。そのおかげで税務の部署にいながら、IPOやM&Aの業務を担当させてもらいました。特にIPO業務は楽しかったですね」

 大企業に対するコンサルティング業務をやりたいと考え、細川氏が次に転職したのが現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券の投資銀行本部だった。

 「大きい仕事がしたいな、という思いがあって転職しました。前職時代に証券会社から依頼を受けることも多かったので、発注する側になってみたいと考えました。超大型企業のM&Aや再生案件をずっと担当してきました。自宅のポストから購読している日本経済新聞を取るとき、一面に自分が関与している案件が載っていたときの充実感は忘れられないですね」

 充実した日々を送ってきた細川氏だが、当たり前に感じていた証券会社のハードワークにあるとき疑問を感じた。

 「毎日夜遅くまで仕事をして充実していましたが、ある日の夜中2時頃、ふと周囲を見渡すと8割ほどの人員が昼間と変わらず仕事に励んでいる。いつものことでしたが、これは普通のことではないと気づいたんです。自分自身の仕事に誇りを持っていましたが、一生涯続ける仕事にはできないなと思いました」

 その頃、細川氏の脳裏には銀行業務に携わるのもいいのでは、という思いがあった。

 「どこかで将来の独立開業を意識していたのかもしれません。そのころ、証券会社から銀行に人を派遣する制度ができ、自ら手を上げて三菱UFJ銀行に出向することになりました」

 銀行でもM&Aアドバイザリーセクションに所属し、中小企業の事業計画策定支援・M&Aアドバイスを担当した。また、銀行は残業に厳しく、証券会社時代に比べるとかなり時間に余裕ができたこともあり、税理士と中小企業診断士の試験勉強や大学院通学などに時間を使うことができた。

 「大学院に通いながら、 TACで消費税法の勉強をして、といったように初めて時間を有効に活用できている実感が持てました。早く帰宅した日にはジョギングをしようと以前から考えていましたが、証券会社時代には叶わず。でも、銀行勤務になって時間を有効的に使えるようになりジョギングを始めて、東京マラソンを完走しました」

 こうして細川氏は2016年1月に税理士登録を果たした。

40歳までに独立したい

 企業勤務を続けながら、頭の片隅には独立開業の思いがあった細川氏。実際に独立開業したのは2018年10月15日に前職を退職し、その翌日からになる。

 実は細川氏は独立開業にあたり、税理士以外の仕事も考えていたという。

 「BtoCのビジネス、例えば、ラーメン屋とか居酒屋とか、飲食関係をやりたいという思いがすごくありました。そこで今までのキャリアチェンジ同様に5年間税理士をやって、6年目以降に新しいビジネスを始めればいい。まず、5年間税理士としてがんばってみようと考えました。ただ、6年経ってもBtoCのビジネスはできそうにありません」

 5~6年でのキャリアチェンジは、今回はできそうにないようだ。さて、2018年というタイミングは、何か思うところがあったのだろうか。

 「40歳までに独立したいと思っていて、ちょうど40歳になる年が独立した2018年でした」

 実は細川氏の妻の細川ひろみ氏も税理士であり、現在は税理士法人リアドリに所属している。細川ひろみ氏は大学卒業後から税理士法人に勤務しており、出産を機に退職。その後も妊娠中、育児の傍ら税理士試験の勉強を続け、税理士資格を取得している。第3子出産後、再び税理士法人勤務をしていた。

 「私が銀行を辞めて独立しようと思う、と話をしたら『私も辞める』と言われ驚きました。うちは子どもが3人いてお金がかかるのに、2人ともやめたら収入はゼロ。まぁいいか、なんとかなるかなと2人で独立しました。厳密にいえば、最初は別々の事務所で始めましたが、徐々に私の仕事が増えてきたのにともない、ずっとサポートしてくれています。それは今でも変わりませんし、私のわがままについてきてくれて、とても感謝しています。
 実際のところ最初の勤務時代に少し税務をやっただけで、e-Taxはわからないし、申告書の書き方もわかりませんでした」

インターネット集客で創業支援

 細川氏は千葉県市川市の在住だが、事務所を開いたJR本八幡駅は自宅の最寄り駅というわけではない。なぜ本八幡駅での開業を決めたのだろうか。

 「自分が住んでいる地元・市川市でやりたいと考えました。まず、集客に関してはインターネットでの集客を考えていましたので、ネット集客をしている同業者数を集計して都内などと比較しました。そして、企業数と税理士数の割合、新規の開業者数などを調べたところ、本八幡駅が最適でした。電車の路線もJR総武線、都営新宿線、京成本線と3路線あり利便性が高いことも理由の1つです。都内はインターネット集客をしている同業が多いので、まったく考えませんでした」

 開業にあたり、細川氏はどのような事務所をイメージしていたのだろうか。

 「これは今も変わりませんが、創業支援をやりたいと考えていました。父の仕事を手伝って、中小企業のサポートがしたいとの思いを実現したかったんです。父がやっていた測量の会社は父と数名のスタッフがいるだけでした。それくらいの規模の会社をサポートしよう、創業というキーワードで集客をして、創業者をサポートしようと考えました」

 創業をキーワードにスタートした細川氏だが、最初の仕事は知り合いの税理士の資料作成のサポートと、船橋市在住で独立して会社を始める方のお手伝い。この会社の社長とは今でもつき合いがあるという。

 「実際に仕事を始めたのが2018年10月後半からですから、いわゆる初年度は約2ヵ月半で、売上は40万円程度でした。税理士が2人いてこの売上だと、非常に少ないですよね。でも2019年になるとそれなりに問い合わせが入るようになり、2期目の年間売上は1,000万円を超えました。独立して1年近くになると毎月の売上がコンスタントに100万円以上になりました。その年の夏頃には補助者を1名採用し、その社員は今も在籍しています」

 出足は苦しい面もあったが、細川氏の事務所はスムーズに立ち上ろうとしていた。そんな折の新型コロナウイルスの感染拡大。なにか影響はあったのだろうか。

 「実際のところまったく影響なく、売上的にはすごい勢いで増えていきました。コロナ禍の影響で融資のお手伝いも増えました。ただ、ベースとして増え続けていたのは創業支援、当初のコンセプト通りの業務内容です。コロナ禍でも起業する人は結構いましたね」

新卒採用と未経験者採用で育てる路線に

 順調なスタートを切り、コロナ禍をもくぐり抜けた細川氏は独立開業から3年が経った2021年10月に法人化し、税理士法人リアドリを設立した。社名であるリアドリは、「リアライズ・ドリーム(夢の実現)」の略語で、創業支援を謳う細川氏の事務所にふさわしい名前だ。

 コンセプトである創業支援が増え、事務所も法人化を果たした。細川氏は法人化に前後して業務範囲の拡大に手をつけ始めた。最初に取り組んだのが社会保険労務士との協業である。協業開始後から社労士事務所リアドリを併設して、創業支援に対して人事・労務や社会保険手続でサポートしている。しかし、こうした拡大路線はすべてうまくいったわけではない。

 「税理士の資格を持った経験者や、上場企業の経営企画部とコンサルティング会社での勤務経験のある中小企業診断士を採用しましたが、やめてしまいました。
 スキル重視の採用をしていた2021年から数年は人の出入りが多く、事務所が安定しない状況でした。そこで採用に関しては、新卒採用と未経験者採用に舵を切り、育てていく路線に切り換えたのです」

 スキル重視の経験者採用がうまくいかなかった一因として、細川氏の事務所経営方針、評価指針があった。

 「まず残業はほぼありません。月平均で5~10時間程度です。うちは1年単位の変形労働時間制を取っており、確定申告時期は労働時間を長めに設定し、夏季などは短めに設定しています。給与にはみなし残業30時間を含む設定ですが、30時間を超える人はいません。働く時間は濃密に仕事をしてほしいと考えていて、自分のペース、言い方を変えるとダラダラ働くのはNGです」

 こうした姿勢は決算申告の「45日ルール」にも表れており、3月決算であれば5月15日までにお客様へ決算報告も済ませているという。

 「この『45日ルール』を何割のお客様で実践しているか、いかに効率的にできているかが、昇給昇格や賞与査定に反映されます。例えば、お客様の資料の入力時間もきちんとカウントしており、仮に余分に時間がかかった場合は、担当者の資料のもらい方が悪いのか、入力に対する指示内容が不明確で時間がかかったのかを見極めます。資料をもらったら記帳担当者に渡して ”やっておいて” は禁止して、常に改善策を担当者と記帳担当者でコミュニケーションをとってもらっています」

 このように業務を効率的に進めることを前提に、業務の流れや所用時間を把握し評価にも反映しているのである。

 「スキル重視での採用時には、他の会計事務所経験者も採用しました。でも、事務所によってやり方が違います。うちでは効率を考えて、会社全体で進捗を把握し、クライアントにどのような資料をお願いし、いつまでに資料を出してもらうのかをコントロールしています。個人ごとで仕事を任せられ、月末ギリギリでも申告を行えばいいと考える実務経験者にはなじめない方もいたと思います。そうしたことから未経験や新卒にシフトしたわけです」

 リアドリでは2023年から新卒採用をスタートし、2024年、そして2025年と継続して採用を進めている。

 「クライアントとの対応は基本的に担当者と私とで行います。中小企業を支えていこうとすると、税務会計だけではどうしようもないんです。税務以外のこと、例えば、融資や補助金などにも全員が対応していくことがうちでは当たり前です。それだけ業務範囲が広いので、税務一筋というわけではないんです。そこも経験者の方にはなじみにくかったのかもしれませんね」

いい意味でビジネスライクに

 リアドリは現在総勢15名、うち税理士3名、社会保険労務士1名が在籍し、細川氏は税理士に加え中小企業診断士と行政書士、CFP®でもある。先ほど業務範囲の拡大にふれたが、人員の問題でスムーズに展開ができなかったという部分はどうなっているのだろうか。

 「相続は社内にノウハウが蓄積されていますので、現在は3名の税理士が分担して進めています。クライアントが企業買収する際のデューデリジェンスや補助金申請の一部の業務は外部の公認会計士や中小企業診断士に依頼しています。外部の方と連携することで、スタッフも勉強になるのでいい機会と考えています」

 人員が増えても、採用方針を転換しても創業支援をメインに行っていくことは変わらないという。

 「前職の関係でM&Aや事業再生に関連する業務も行っています。M&Aではクライアントの社長が体調を崩され、事業を引き継ぎたいというご依頼があり、相手先の選定から企業価値評価、交渉、クロージング手続きを含めすべて自社で行ったケースもあります。事業再生では事業再生計画の作成やバンクミーティングの対応、モニタリングなどを行っています。他の税理士の関与先の案件もありますね」

 インターネット集客を中心にしているリアドリの顧客数は約300件。業種による偏りもなく、あえていえばIT系とネット販売系が多いようだ。顧客数は基本的に月次の契約を結んでいるクライアントの数だが、必ずしも毎月クライアントに訪問するわけではないという。

 「基本的に月次のデータやり取りはメールやChatwork、クラウド会計などがメインです。ですからクライアントにお会いするのは年に数回程度で、うちが訪問することはなく、ご来社していただいています。お会いするのは日中ですので、飲みに行くこともありません。基本的にいい意味でビジネスライクにおつき合いしています。それだけにクライアントに満足いただける知識を自分の中に持たなければなりませんし、満足いただけるご提案をし、相談に乗れるだけの質を維持することは必須ですね。お互い貴重な時間を使うわけですから、天気やプロ野球の話をするのはもったいないと思います。1回1回の面談を大切にして月次決算の説明だけでない、その先にある付加価値を提供することを心がけています」

 クライアント数が増えていくと、それにともない紹介によるクライアントも増えていきそうなものだが、細川氏はあえてインターネットからの集客としている。

 「紹介は受けないようにしています。理由はうちはやり方や報酬体系などを明確にしているので、それを理解してもらった上でおつき合いしたいと考えているからです。紹介の場合、紹介者を立てなければならない場合もあります。それによりうちのやり方や報酬体系か崩れることを避けたいので、極力紹介は受けないようにしていますし、お断りするケースもあります」

ロールプレイングやプレゼンテーション中心の研修

 採用を新卒と未経験者にシフトしたリアドリだが、ともに社内での育成は不可欠。現在はどのような教育・研修を実施しているのだろうか。

 「私がすべてプログラムを作成して講師を行っています。かなりの時間と労力を使っていますがそれだけ重要と考えていて、他人には任せられないですね。研修は新人研修とシニア研修を実施しており、それぞれ週1回、2時間の研修を実施しています。それ以外に全社研修も行っています。新人研修は文字通り新人向けで、シニア研修は入社4~5年目以上の社員です。
 新人研修はTACの『総合計算問題集 基礎編』(『税理士受験シリーズ』TAC税理士講座 著 )を活用して、法人税、所得税、消費税を学んでもらいます。それだけでなく融資の研修ではお客様からどのような資料をもらう必要があるのか、銀行側の見方や事業計画の作成ポイントなどを学びます。私が銀行出身なので銀行員の感覚やポイントがわかるので、それを中心に説明します。月次報告や決算報告ではロールプレイングを行います。お客様役をすることで、聞く側の気持ちやどう説明されるといいのか理解できるんですよ。ほかには給与計算や社会保険手続き、許認可、補助金、M&A、生命保険などです。新人にしては範囲が広いですね。宿題もありますのでかなりハードです。あとは、会計事務所向けの生産性向上のためのグループウェアを活用しており、その中に新人向けの税務会計の研修プログラムが含まれています。基礎的な知識はそれを使い、月に2回決まった時間にみんなで学んでいます」

 座学が中心とはいえ、ロールプレイングを採り入れているのは、クライアントに対しての実践的な対応を学んでもらうためだろう。

 「シニア研修はロールプレイングやプレゼンテーションが中心の研修になります。例えば、月次報告の仕方、決算報告の仕方などのマニュアルは完備しており、それにのっとって各人が報告をします。でも、報告の場にはクライアントと担当しかいませんから、他の社員がどのような説明をしているのかは、みんな知らないんです。そこで月次や決算報告のロールプレイングをして共有をしています。ロールプレイングでの良かったこと、改善が必要なことをみんなで話し合うことで成長できるんですよ。また、今年初めて実施しますが、広めの会議室を借りてそこでプレゼン大会を計画しています。私たちの仕事はパソコンに向かっての仕事です。人の前に立って話すことはほとんどありませんので、その機会を作りたいと考えています。
 その他にも初回面談や融資対応、補助金対応、相続対応時のロールプレイングを行っています。私が相談相手になって意地の悪い質問や難解な質問などをすることで対応力を身につけてもらうんです。税法以外での相談や質問にも答えられる知識や能力を重視しています。それらが昇給や賞与に影響するのでみんな一生懸命勉強してくれます。また、20ページ以上の人事評価制度書も研修制度の中で説明し、理解してもらっています。何ができたら昇格できるのか、等級ごとの給与体系・水準なども明確に決めていますね。当社のやり方が一番正しいというわけではないですが、顧客から人事評価制度について相談されても自社内に存在しないとアドバイスもできないと思うんですよ。だから、人数が少ない割にはいろいろなルールを作っています」

 シニア研修では税法更新研修も実施している。税法の判断で白か黒かはわかりやすいが、解釈によってはグレーの部分が出てくる。そこの解釈が社員個々で違ってしまうと、仮に担当者が変わった際に事務所の方針が変わったと捉えられるおそれがある。そのためリアドリとしてのスタンス、解釈を共有しているのである。

資格取得で違うステージに立ち、違う視点を持つことができる

 一時期、人の問題があったとはいえ順調な推移を見せているリアドリの歩みを細川氏はどう見ているのだろうか。

 「集客や売上といった数字面はいいのですが、人の面、体制をどう作るかが大変ですね。集客については年間360件程度の問い合わせがあり、約100件を受注するペースです。不動産の譲渡や相続申告など1度のみのおつき合いもあるので、すべてがクライアントになるわけではありません。ただ、このペースで増えていくと人員的に対応が難しくなってしまうので、集客と採用教育のスピードとでどう整合性を取っていくのかが課題です。一時は新規の受け付けをとめていました」

 採用と教育が目下の課題だが、事務所としての新たな展開は何かあるのだろうか。

 「創業支援のノウハウが蓄積されてきたので、実は2024年は支店開設を計画していました。ちょっと今の状況では2024年の開設は難しそうですが、近いうちに埼玉県に支店を出す予定です。その次は神奈川県を想定しています。支店の立地はインターネット集客がやりやすい場所で考えています。そのため東京都内はまったく考えていません」

 人を育てながら、組織を拡大していくフェーズに入ったリアドリ。最後に細川氏から現在資格取得をめざしている読者にメッセージをいただいた。

 「最初の勤務先で、資格はありませんでしたが、会計事務所の日常業務はこなせました。でも、資格を取得すると違うステージに立ち、違う視点を持つことができます。例えば、今まで気づかなかった注意すべき点が見えてきますし、クライアントの見る目も変わります。税理士は努力すれば必ず取得できる資格だと思いますので、あきらめないでがんばってほしいと思います」


[『TACNEWS』日本のプロフェッショナル|2024年7月 ]

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