日本のプロフェッショナル 日本の司法書士|2022年3月号

Profile

近藤 誠 氏

司法書士法人アコード
代表社員 司法書士

近藤 誠(こんどう まこと)
1968年生まれ、東京都出身。1992年3月、明治大学法学部法律学科卒業。2004年3月、一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務コース修士課程修了、修士号取得(経営法)。1992年4月、セイコー電子工業株式会社(現:セイコーインスツル株式会社)入社(法務部勤務)。1995年5月、司法書士試験に専念すべく同社を退職。1996年10月、司法書士試験合格。1997年4月、司法書士登録、開業。2003年9月、東京都国立市へ事務所移転。2005年度~2006年度、法務省司法書士試験委員を担当。2017年4月、司法書士法人アコードに法人化。

司法書士になって、人生が自由になりました。

 20年を超える豊富な経験と知識を活かし、年数百件を超える相続相談に対応する司法書士法人アコード。司法書士として長いキャリアを歩む代表の近藤誠氏によると「司法書士業務は時代の変遷とともに変化してきている」という。近藤氏自身も、司法書士としての軸を持ちつつも、小説家、YouTuber、大学院の学生…と、時代の風に乗ってその姿を変化させてきた。「今の司法書士は多士済済。それぞれやりたい方向で活躍していておもしろい」と話す近藤氏に、司法書士の魅力について大いに語っていただいた。

人生で初めて本気を出したのは士業をめざしたときだった

 東京都国立市生まれ。地元国立市で司法書士法人アコードの代表を務める司法書士の近藤誠氏は、小説『新米司法書士・はるかの事件ファイル』(自由国民社)で話題になった小説家であり、今はチャンネル登録1万人を超える司法書士YouTuberでもある。そんな近藤氏が司法書士を志したのは社会人になってからだった。
「中学・高校で何かに一生懸命取り組んだ記憶はないし、将来の夢も特にありませんでした。大学は早稲田大学と明治大学の文系学部を全部受験して、早稲田は全滅、明治は全勝。特に考えもなく、明治大学で一番偏差値が高かった法学部に入りました。入学後も当時ブームだったスキーにのめり込んで、勉強はまったくしないし、目標もないので大学は遊びに行く場所という認識でしたね。だから『大学時代に資格を取る』なんて、まさかまさかという感じで(笑)。卒業単位を取得するので精一杯という学生でした」

 就職活動の時期になっても「これをやりたい」という思いは湧き上がらなかった。大学の成績も振るわなかったが、それでも当時は売り手市場だったので、セイコー電子工業(現:セイコーインスツル)から内定をもらい、就職活動は即終了。入社後、配属になったのが法務部だった。
「契約書を作ったり、契約交渉に立ち合ったり、当時話題になったPL法(製造物責任法)訴訟を担当したり。法務部の仕事はすごくおもしろかったですね。仕事の中で士業の方と接する機会が増えて、専門性が高く、自信を持って仕事をしている姿がものすごくカッコよく見えて、自分も士業というプロフェッショナルとして働きたいと思ったのです。生まれて初めて何かを『真剣にやろう』と思った瞬間でしたね」

 弁護士か司法書士か、どちらをめざすかで迷っていた近藤氏だが、ある先輩から「弁護士は戦争の中に入っていく戦争産業で、司法書士は争いにならないようにする平和産業だ」と聞いたのを思い出した。「自分の性分は司法書士が合っているだろう」「何か問題が起きたときに気軽に声をかけてもらえるホームロイヤーになりたい」そんな思いが、司法書士を選ぶ決め手になった。

 こうして司法書士をめざすため、3年間務めた会社を退職。1年間だけという約束で実家に置いてもらい、司法書士試験の受験準備に専念することにした。

 母校である明治大学は当時、資格試験受験者のために自習室を開放していた。近藤氏は退職した翌日からこの自習室に通い、朝8時から夜10時まで、真剣に勉強に取り組んだ。無料の自習室で、先に合格した知人から譲り受けたテキストを使い、答練(答案練習)は受験指導校を頼った。

 自習室はほぼ毎日来る人ばかりなので、自ずと座る席が決まってくる。あの人は司法試験、この人は税理士、この人は司法書士と、受ける試験までわかるようになった。
「でも受験仲間は作りませんでした。タバコを吸いながら、細かな知識を披露し合っているグループには絶対入りたくない、と。重箱の隅をつつくようなトリビア大会をしても、『木を見て森を見ず』で試験対策としてはあまり意味がありません。私は1分、1秒でも席を離れる時間が惜しかった。お昼ご飯も近場でカロリーメイトを買ってきて、勉強しながらかじる。こんなに勉強中心の生活を送ったのは、人生で初めてでした」

 多肢択一式問題には絶対の自信があったが、最後まで記述式問題に苦手意識を持ったまま本試験に臨むことになった近藤氏。終わったあとも記述式に関しては完璧にできたとは思えなかったので、本試験後も自習室に通い、知識が抜け落ちることがないよう勉強を継続した。

 そんな努力の甲斐あって、一発合格を果たした近藤氏は、翌1997年、司法書士登録と同時に知人の司法書士と合同事務所を開設し、士業としての第一歩を踏み出した。

司法書士の魅力を伝えるためにYouTubeチャンネルを開設

 勤務経験のないまま司法書士としてスタートした近藤氏は、知人に一から指導を受けながら実務を学んでいった。

 当時の司法書士の営業といえば、金融機関を回り、信頼関係を構築するのが唯一の方法だった。近藤氏が開業した当時、司法書士は法律上、法人化できないし、広告も打ってはいけないような時代だった。
「司法書士が顧客獲得のためにできる方法は、電話帳で調べるか、金融機関で紹介してもらうか。その二択しかありませんでした。今では少なくなりましたが、その頃は金融機関に行けば担保設定や不動産売買といった決済業務があって、金融機関の指定する司法書士にその依頼が届くしくみだったのです。電話帳では他の事務所と差がつかないので、とにかく金融機関からお客様を紹介してもらえるようにパイプを太くするしかありませんでした」

 「この23年間で司法書士の仕事は大きく変わった」と近藤氏は指摘するが、近藤氏自身の仕事に大きな変化をもたらしたのは、『新米司法書士・はるかの事件ファイル』の執筆・出版だったという。
「小説を出版して注目されるようになると、周囲に『“はるかちゃん”の先生』という見られ方をするようになりました。本を出すと人生が変わるとよく聞きますが、私にとってこの本の出版は新しいチャレンジであり、司法書士人生の中でとても大きな節目になりました」

 ちなみにこの本のイラストを担当している赤坂アカ氏は、今では大ヒット漫画『かぐや様は告らせたい』を描いた売れっ子漫画家である。赤坂氏のイラストと女子大生司法書士が主人公というインパクトのある設定の相乗効果は、大きな収穫をもたらした。

 小説を出版したあと、近藤氏は次なる新しい取り組みとしてYouTubeチャンネルを開設し、事務所内で近藤氏が資格や仕事について語る動画を定期的に発信し始めた。2022年1月現在、チャンネル登録者数は1万人を突破し、今では「はるかちゃん」よりも「YouTubeの先生」と言われることのほうが多いという。

 チャンネルを開設して一番反響があったのは採用面だったと近藤氏は語る。
「YouTubeを始める前は、仕事量が増え人材を欲しているにもかかわらず、まったく採用ができない時期がずっと続いていました。それが、YouTubeを始めた途端、動画で私や事務所の様子を見た方からの応募が増えました。普通は司法書士試験が終わると事務所間で合格者の争奪戦が始まるのですが、毎年コンスタントに『ここで働きたいです』と合格者のほうから来てくれるようになったのです。代表がどんな人物か、事務所がどんな雰囲気かがYouTubeを通じてわかるので、マッチングがうまくいき、採用がスムーズにいく確率がぐんと高まるのです」

 そもそも、小説やYouTubeという司法書士には珍しい取り組みを、なぜ始めようと思ったのだろうか。
「今、IT化・AI化によって司法書士は将来性がないと、マイナスイメージを持っている受験生や同業者が非常に多いのです。でも、私は23年間司法書士をやってきて、おもしろくて魅力的な仕事だと思っているので、それを受験生や仲間である同業者に伝えたくて、小説やYouTubeを始めました」

 YouTubeで登録者を増やすコツを聞くと、「とにかくたくさんコツコツ動画をアップすること」らしい。
「始めたのは2017年。YouTubeを始めたと言ったら、同業者に『正気か?』と笑われました。でも、2020年からのコロナ禍によるオンライン化の流れに乗って、一気にビジネスの用途で使う士業が増えてきましたね。ただ、司法書士も大勢参入していますが、続いている人はなかなかいません。

 ですからコツはとにかく続けることです。また、編集や画質にこだわったとしても内容が薄ければ見てもらえません。だから動画の内容をきちんと考えてコンテンツ力を高め、ターゲットとする層に興味を持ってもらえるようにしています」

 現在は、活躍中の司法書士に近藤氏がインタビューする動画を、ヒット映画のタイトルをオマージュした『シン・司法書士』というタイトルで発信している。とにかく司法書士の仕事のおもしろさや魅力を伝えたい。近藤氏はその思いで、次々と新しいチャレンジを繰り出している。


▲著書は『新米司法書士・はるかの事件ファイル』(自由国民社)の他に、『会社を経営するならこの1冊(共著)』(自由国民社)、『不動産登記を見る・読むならこの1冊』(自由国民社)、『バーテンダー司法書士楓の事件ノート』(自由国民社)、『離婚調停・遺産分割調停の実務―書類作成による当事者支援』(民事法研究会)。

相続にフォーカスを当てる

 1997年に開業した個人事務所は、2017年4月に司法書士法人アコードに組織変更した。現在は総勢15名、うち司法書士7名と有資格者が多い中規模司法書士法人に成長している。業務内容は、不動産売買、担保設定業務などの不動産登記業務が半分、残りの半分を家族信託、遺言、生前贈与等の終活サポートなどの相続業務が占めている。この中で、現在、伸びているのも伸ばしたいのも相続周辺の業務だと近藤氏は話す。
「相続業務の中には、会社をうまく後継者に引き継ぐ事業承継のしくみ作りなども含まれています。不動産売買などではすでに決まったものが最後の最後に司法書士に持ち込まれ、それを正確に手続きするのが仕事ですが、相続の仕事は司法書士が一番川上に立てます。つまり、お客様から直接依頼を受け、自分たちの工夫と経験で提案して、それがお客様のニーズに合っていれば依頼を受けられる。当然報酬も一番川上に立っている人が一番多くもらえます。自分たちがプロデュースする立場で、その中で不動産絡みであれば不動産業者に、融資があれば金融機関に、そして他士業に頼むなど、私たちが“発注する側”になれるのです」

 事務所のスタッフや縁のある士業仲間にも仕事が回ることで、売上が上がり、幸せになってもらえる。そうなることが何よりもうれしいと近藤氏は続ける。
「セミナーやYouTubeで直接私の情報発信を見て、うちにお願いしたいと来てくれた人のニーズをきちんと汲み上げる。そして自分たちだけでは解決できない案件はプロジェクトチームを作り、協働してお客様に一番良い提案をすることをめざします。私はそういうことに喜びを感じるタイプなので、司法書士の仕事はとてもやりがいがあるし、個々の能力を発揮できるおもしろい仕事だと思っています」

法人化により取引先からの評価が変わった

 以前は相続における司法書士の仕事といえば、相続が発生したあと、住居の不動産名義変更登記をすることだった。しかし、今は相続が始まる前に、争いを防ぎ円滑に承継できるように生前対策を行うことも司法書士の仕事になり、業務の裾野もかなり広がってきている。
「人口統計上、相続案件が当分続くのは明らかです。しかも、自宅以外に不動産資産を持っていたり、高齢化による認知症リスクを抱えていたりする人も多くなっているので私たち司法書士が登記や後見業務などでといった得意分野でお手伝いできることは増えているし、今後も増え続けると思います。数年前には聞いたこともなかった家族信託が普及したように、日々いろいろなことができるようになっているので、私たちも一つひとつ提供できるサービスを増やしながら、必要に応じてお客様へ提案できるよう考えています」

 次の新しいチャレンジの1つとして今準備を進めているのが「家系図作成」のサービスだ。
「戸籍を取って家系図を作るのは、司法書士が一番得意とする分野。これをお客様が喜ぶような使い方をしていこうと思っています。実は家系図は江戸時代末期まで遡れるのです。みなさん直近6人くらいまでは知っていても、江戸時代まで遡って約30人もいるすべての直系家族を調べることはできないでしょう。それを調べて、家族の歴史がわかる1冊の本にする。これを「家系図ラボ」というWebサイトでサービス展開していきたいと考えています。戸籍は150年という保存期限があり、古いものから消えてしまうので、とにかく早くやったほうがいい。思いがけないところにいる先祖や思いもよらない出身地の人が絶対に1人はいます。これも相続の仕事の一環だと思っています」

 独創的なサービス展開を次々に考えるのは、事務所の相続案件が、これまで金融機関や不動産業者、知り合いからの「紹介」で100%を占めていたことに危機感を持ったことがきっかけだった。「紹介されるのをただ待っている受け身の状態は嫌だ」と、自分たちで直接依頼を受けられるように、2020年から自社マーケティングに取り組み始めたのだ。Webサイトを作り、広告を仕掛け、自社セミナーを地元で開催し、集客してその後の相談会につなげる。その結果、2020年は紹介よりもマーケティングベースの売上のほうが上回った。

 マーケティングベースの売上が増えたもう1つの理由に、2017年の法人化がある。法人化したことで、取引先が自分たちに向ける視線がガラッと変わったと、近藤氏は話す。
「個人事務所のときとまったく同じ場所、同じスタッフなのに、“法人”として、より組織体が安定した存在として見られるようになったように思います。実際、コロナ禍で個人事務所の仕事が減っていると言われる中で、私たちは最高益を出しています。

 例えば個人事務所では所長がコロナに感染したら、翌日の決済はできなくなる可能性があります。法人であれば、コロナだけでなく例えば私が交通事故に遭ったとしても、事務所にいる他の司法書士が私に代わって対応できる。そうした意味で安心感をお客様に与えることができるのです。お客様も当然リスクヘッジは考えないといけませんから、やはりある程度の規模感があって、量にも対応できる法人が選ばれるのです。

 以前『法人として規模が大きくなってくると、見える景色が変わってくるよ』と、先輩に言われたことがあります。個人では頼まれなかったボリュームのある仕事が持ち込まれることもありますので、そうした意味で、法人化のメリットは非常に大きいですね」

 働いているスタッフにとっても、一個人事務所のスタッフという不安定な立場より、法人のスタッフとして福利厚生や社会保険が充実しているほうが安心して働ける。運営コストはかかるが、メリットのほうがはるかに大きいと近藤氏は考えている。

社会人10年目、節目の大学院通学

 1992年に社会人となった近藤氏は、社会人10年目の節目に、何か1つ新しいことをやろうと決めていた。留学するか、転職するか、新しい資格を取るか…。自分なりにいろいろな選択肢を考え検討した結果、大学院に進学することにした。
「当時一橋大学に専門職大学院という、社会人の再教育のための大学院ができました。当時世間ではデジタル化が始まりつつある時期でしたが司法書士の世界はまだ紙ベースで、千枚通しで穴を開け、こよりで綴じて製本して書類を作っているようなアナログな業界だったのです。でも、いずれはデジタル化の流れがこの業界にも押し寄せるだろうと考え、大学院に入学したのが開業6年目のときでした」

 入学してみると、同期10名の半分以上が自分と同い年。社会に出て10年経つと、職場でも「大学院の授業があるから」と、定時に「先に帰るね」と言えるようなポジションになり、「もっと専門性を深めたい」という意識が芽生えてくる。自分と同じくそんな人たちが集まっているようだった。
「同級生で当時1人だけ上場企業の部長がいて、あだ名は“部長”。彼がリーダーでした。彼は今は上場企業の役員になっています。他の人も役員、執行役員クラスに出世している人ばかりです。意欲ある人ばかりだったので、ものすごく良い勉強になりました」

 今でもその時の同級生とつき合いがあるという近藤氏。大学院で勉強したことや修士論文が直接的に仕事に役立つことはあまりないけれど、ここで培った人脈は役立っていると近藤氏は心から思っているという。

司法書士は「人と人をつなぐ仕事」

 採用に関して、近藤氏はどのような人材を求めているのだろうか。
「学歴や職歴、資格もとても重要なのですが、それよりも私は事務所の雰囲気に合うかどうかを最も重視しています。事務所の雰囲気やスタッフを見てもらい、うちで働きたいと思ってくれるかどうかが一番大事です。司法書士の仕事はチームプレー。皆で分担しながら進めていく仕事なので、1人でも和を乱す人がいるとみんなが困る。ですから上手にチームに溶け込める人かどうか、そこを面接では見極めています」

 事務所内の組織は、直接依頼の相続案件チーム、不動産決済・銀行担保設定チーム、信託銀行から頼まれた大量の相続案件と法人手続きチームと、3つのチームに分かれている。それぞれ司法書士2名ずつが上に立ち、スタッフがそれを支える。商業登記は仕事の1~2割で事業承継、組織再編、M&A、会社分割など大型案件を専門スタッフが担っている。

 近藤氏自身は、どこのチームにも所属せず、小説を書いたり、YouTubeやSNSで情報発信したり、新しい仕事の種を蒔くことが仕事だ。
「私だけにしかできないことをやっていこうと思っています。事務所名を『アコード』にしたのも『調和』という意味を込めたから。私個人にではなく、事務所に仕事が来るようにしたかったのです。私の名前が冠にあると、私が担当しないと寂しがるお客様もいるし、クレームのもとになる。今では私が一度も会ったことのない顧客も大勢います。そんなふうに組織として信頼を得て、組織として受任しているほうが、スタッフもやりがいあると思っています」

 司法書士をめざした決め手は、争いを防ぐ平和産業であることだった。実際にキャリアを積み重ねてきた今も、司法書士は最高に自分に向いている仕事だと思っていると近藤氏は断言する。
「司法書士は、ありとあらゆる困りごとや悩みごとをお客様から頼まれるのです。その中には、まったく司法書士には関係ないようなものもいっぱいあります。それらを他の士業に頼んだり、一緒にチームを組んでやっていったり…、そんな「人と人をつなぐ」仕事に喜びを感じている司法書士は大勢いると思うのです。私はそれが司法書士の仕事のやりがいだと思っています」

 人と人との調和。平和的解決。仲介。どれも司法書士だからこそできる「人と人をつなぐ仕事」だ。そんな仕事に生きがいを感じているから、健康であればできるかぎり仕事を続けたいと、近藤氏は考えている。

IT化によって、司法書士の仕事はどう変わるか

 AIなどによりますますIT化が進む中で、将来的に事務所はどのような方向をめざしていくのだろうか。
「単純な手続き作業は、徐々に失われていくと思います。残るのは、自分たちの経験とアイデアをフルに活かした、お客様の思いにマッチするようなコンサルティング型・提案型の業務だと思います。相続や事業承継の仕事でスキルを磨き、少数で付加価値の高い仕事をやっていきたいですね。そうなればオフィスも不要になって、それぞれが好きな場所で仕事ができるでしょう。そういう未来はあるかなと思っています」

 IT化先進国にはエストニアと韓国がよく挙げられる。IT化が進んだ先に、どのような未来が待っているのだろう。
「エストニアは届出書類がIT化され、生活のすべてがスマートフォンで完結していると言われています。しかし、そんなエストニアでも、IT化しないものが2つあるそうです。それは結婚手続きと不動産取引。どちらも高度な本人確認が必要なものです。重要な資産である不動産取引を、簡単で便利だからという理由だけでIT化に移行することは、IT化先進国のエストニアでさえやらない。ましてや保守的な日本は一気にIT化する国ではないだろうと推測しています。だから不動産決済における本人確認はなくならないと思います。ただ、不動産取引では事前に打ち合わせと書類作成、本人確認を済ませ、決済当日に司法書士はオーケーを出して、お金のやりとりは非対面決済で終了することも徐々に始まっています。今までのように5~10人も金融機関の応接室に集まるようなアナログ的仕事は、もうそろそろなくなるでしょう」

 金融機関の入出金や現金の授受があるからこそ、金融機関で立ち会いをしてきた。しかしスマートフォン上で決済できるようになったら、あとは本人確認さえきちんとできてしまえば、不動産決算の姿は一変する。

「自由」であることの素晴らしさ

 かつては司法書士の広告出稿が規制されていて、電話帳と金融機関の紹介以外、顧客とのアクセス方法がなかったが、今はそれぞれのアイデアと工夫次第でいろいろなサービスができる時代になったと、近藤氏は主張する。
「私が開業した当時は、皆が同じ方向を向いて、日本中どこの事務所へ行ってもやっている仕事、置いてある商品は判で押したように同じでした。今はみんながやっている仕事も、将来の方向性も、事務所の規模も違います。例えば司法書士と何かを掛け合わせて不動産業をやっている、他の資格を持って活かしている、保険代理店をやっている、コンサルティング業だけで登記は一切やらない、M&Aしかやらない、リモートで完結できる生前対策の提案だけやっている、と本当に多士済済でおもしろい。ですから受験生は、司法書士が食べていけない職業だと言われても真に受けないで、『自分は何をやりたいのか』にきちんとフォーカスしてください。それを実現すためのパスポートとして司法書士資格を捉えるべきだと思います。

 私はといえば、やはり新しいもの好きで、何か新しい仕事があると事務所に持ち込んで、1件目は皆でやってみます。すると2件目以降はスタッフに任せられるので、そうやってひとつずつ事務所としてできることを増やしています。家系図作成サービスも受任件数が増えていけば、必ず事務所の売上の柱になってくると信じています」

 そう語る近藤氏は、司法書士になって一番良かったと思うのは、人生が自由になったことだと語る。
「自分の足で立って、自分の頭で考えて、自分の目で見たものを信じて、日々お客様に感謝されながら生活できる。これはサラリーマンでは味わうことが難しい人生の喜びだと思います。お金のこと、人のこと、つらいことや大変なこともたくさんありますが、それでも自由であることは素晴らしい。そして毎年できることが増えていくので、あのとき司法書士になろうと決断したことは間違っていなかったと思います」

 スタート当初、YouTubeでは相続の話をしていたが、試験制度や受験をテーマにした動画を上げ始めると、登録者が一気に増え、コメントも目に見えて増えていった。「つまり登録者が観たいのはそういうものだ」と目から鱗が落ちた。
「私の動画を見て、司法書士をめざした方から『今年合格しました』というコメントを何通もいただきました。そんなふうにYouTubeを通じて『司法書士っていいな』と思ってめざしてくれる人がいたら、別に自分にメリットなんかなくてもいい。勉強を始めるか迷っている人の後押しができたら、それだけでうれしいです」

 そんな思いを胸に、今日も近藤氏は新たなチャンレジを続ける。1人でも多くの人に、司法書士の素晴らしさを知ってもらうために。

・事務所

東京都国立市東一丁目15番地21
ドマーニ国立2階
Tel. 042-501-2151

URL: http://www.accordo.or.jp/


[『TACNEWS』日本の司法書士|2022年3月号]

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