日本のプロフェッショナル 日本の司法書士|2021年4月号
福井 朝子氏
司法書士法人大城節子事務所
代表司法書士
福井 朝子(ふくい あさこ)氏
1974年、千葉県成田市生まれ。1997年、専修大学法学部卒。同年、建設会社入社。2000年司法書士試験合格。同年、大城節子事務所入所。2005年、司法書士登録。2006年、簡裁訴訟代理等関係業務認定。2007年、公益社団法人 成年後見センター・リーガルサポート会員登録、後見人候補者名簿・後見監督人候補者名簿登載。2008年1月、大城事務所を法人化、司法書士法人大城節子事務所に名称変更の際、大城氏が代表社員に、福井朝子氏・赤羽彩美氏が社員に就任。2018年6月、大城代表が退き、福井氏・赤羽氏が2代目の代表社員に就任。
幅広い業務内容と多様な顧客層を持つ司法書士法人。
2代目として業務を継承し、さらに発展させていきます。
司法書士の魅力、それは、不動産登記から商業登記、企業法務、債務整理、簡易裁判訴訟代理、そして成年後見など多様なリーガルサポートが可能な国家資格であるという、その守備範囲の広さにある。そんな司法書士の世界では、近年女性司法書士のニーズが高まっているという。女性の強みを活かせる司法書士業務とは、一体どのようなものなのか。東京都渋谷区にある、女性のみが在籍する司法書士法人大城節子事務所の代表司法書士・福井朝子氏に、司法書士になった経緯から事務所の特徴、求められるスキルについてうかがった。
不動産への興味から司法書士に
不動産に関する権利は、当事者間で契約を結ぶだけでは完全とはいえない。取得した権利を登記して初めて世の中に権利を主張することができる。また会社についても、設立を登記することで初めて会社として認められて活動することができる。こうした不動産登記と商業登記がメイン業務とされている司法書士は、人々の権利や財産を守ることが仕事だといえる。また、簡易裁判所における訴訟代理権が与えられてからは、一歩踏み込んだトラブル解決もできるようになり、司法書士の業務領域はますます広がった。さらに成年後見制度に関与するようになったことで、市民の身近な法律家としての活躍が期待されるようになった。
こうした司法書士業務の広がりの中で、近年「相続については女性司法書士に相談したい」「成年後見を頼むなら女性がいい」といった、女性司法書士のニーズが高まっている。
とはいえここ数年の司法書士試験合格者のうち、女性が占める割合は23%前後。そして2020年4月現在、女性司法書士は全司法書士の18%と、まだまだ少数派だ。
その意味で、1986年に開業し、現在在籍する8名全員が女性である司法書士法人大城節子事務所は、女性司法書士のフロンティア的存在といえる。ここで創業者の大城節子氏の後を継ぎ、2018年から代表を務めているのが司法書士の福井朝子氏だ。福井氏は女性司法書士事務所の2代目代表となるまで、どのように歩みを進めてきたのだろうか。
1974年、千葉県成田市に生まれた福井氏。学生時代は法学部に在籍していたが、自身が司法書士になるとは考えもしなかった。実際、普通に就職活動をして入社した先は一般企業だった。
「就職氷河期だったためなかなか就職先が決まらず、そんな中ようやく内定をもらえたのが建設会社でした」
入社した建設会社では、アパートなどの収益物件を建てたいという資産家の顧客を開拓するため、会計事務所を回る営業職を担当。その会社で1年ほど仕事をする中で、自分が何をやりたいのか、自分の将来について改めて考えるようになった。
「この仕事を長く続けていくのは難しいだろう。それでも私はずっと働き続けていきたい。安定して仕事を続けていくなら、何か資格を取るのもいいかもしれない」
それまで資格を使って仕事をしようと考えたことはなかった福井氏だが、そう思ったときに初めて資格の必要性に気づいた。実は大学3年生のとき、1~2ヵ月の学習期間で行政書士試験に合格していた。しかし当時は資格を仕事に、というより「大学で学んだ法律が何かの足しになるかな」という程度の認識だった。そもそも、行政書士がどんな仕事をするかもよく知らずに受験したのだという。さらに、建設会社に入社してからも、業務上の必要性から宅地建物取引士も取得している。決して資格と無縁な人生ではなかったが、今まではすべて自然のなりゆきで取得したものだった。そんな福井氏が、社会に出て1年経ったこのとき、初めて自分の意志で資格を取得しようと勉強を始めたのが司法書士だった。
「書店で資格試験の本をパラパラと読んでみたところ、司法試験は同じ法律系資格でもハードルが高すぎるし、税理士、公認会計士はジャンルが異なるため勉強内容が肌に合わない気がしました。実は、消去法で選んだのが司法書士試験だったのです。法学部だったこともあって法律系科目が嫌いではなかったし、昔から不動産広告を見たりするのが好きで、不動産取引に関わる司法書士の仕事自体に興味があったのも一因です」
司法書士をめざそうと決めた福井氏は、受験勉強を極力短期間に抑え、効率的に勉強するために、すぐに受験指導校に通い始めた。平日は仕事が終わったあとに学校に通い、週末に復習と予習。入社1年目の終わりからそんな生活をしていたが、さすがに仕事をしながらでは勉強が追いつかなくなってしまった。一念発起した福井氏は、入社1年半で仕事をやめ、受験に専念する決断をする。たった1年半しか働かなかったので申し訳ないという思いは強かったが、受験に専念して1日も早く司法書士になる道を選択したのだ。
こうして15ヵ月間の受験勉強の末、1999年に受けた1回目の試験はミスもあって不合格となるも、翌年には無事、合格を手にすることができた。
フロントランナーの事務所に入所
司法書士をめざした段階で不動産に興味があったとはいえ、実際に不動産売買などに関わった経験があるわけではなかった福井氏。1日も早く実務を学びたいと、2000年11月の筆記試験合格と同時に、司法書士会で求人を探した。そうして見つけたのが、自宅から近かった大城節子司法書士事務所(当時)である。この段階で特に女性が多い事務所を意識して選んだわけではなかったので、当時の代表で創業者の大城氏が東京司法書士会副会長を務めていたことや、全国司法書士女性会を設立するなど、当時から女性司法書士のフロントランナーであったことは運命とも言えるだろう。
「有名な女性司法書士ということで周囲からも勧められましたし、面接の雰囲気がとてもよかったので入所を決めました」
福井氏が入所した2000年時点で、大城事務所はすでに15年の歴史ある事務所。現在オフィスがあるビル内で、今よりも狭いスペースにオフィスがあった。当時、司法書士は大城氏と福井氏を含めて4名、勉強中の補助者2名、計6名の所帯だった。ちなみに大城氏は「司法書士事務所で働くなら司法書士になるべき」という方針なので、今でも補助者は全員司法書士をめざす受験生だという。
当時は不動産登記法改正(2005年)以前でオンライン申請が始まっていなかったため、登記申請・申請完了書類の回収、売買不動産の調査などで、毎日法務局に通うのが福井氏のルーティーンだった。
業務内容は、福井氏が入所した頃から不動産の売買決済、契約の立ち合い業務が多かったので、福井氏もほどなく立ち会いを多く経験させてもらえるという幸運に恵まれた。それこそマンション1棟という規模の大きな登記もあれば、普通の1軒家の登記もあり、個人事業主が事業資金を借り入れることもありと、実に多様な顧客に会うことができたのは、福井氏にとって今につながる貴重な経験となっている。
「時期的にも任意売却物件など、債権者多数かつ決済出席者多数の決済案件もしばしばありましたので、そこに立ち合うことで度胸もつきました」
取引先企業も大手上場会社から地元の中小企業、家族経営の個人事業主まで、かなり幅広い業種、規模に接する経験ができた。そこから不動産登記でも商業登記でも、相手の状況に合わせた相談対応や提案ができるスキルを培うことができ、経験とノウハウは日々蓄えられていった。
「昭和の時代から始まった歴史ある事務所なので、仕事の幅も広いし、不動産取引相手も規模の大きい物件を扱っている企業から、地元の小さな会社までいろいろなタイプがあって、様々な経験を積むことができました。商業登記についても、上場企業の役員変更や組織再編も扱いますので、常に新しい経験ができる。何年経ってもそう思えるような、魅力的な職場です」
大城氏は「一人前になるまでは補助者として仕事を覚え、一人前に仕事ができるようになってから司法書士登録するべき」という考えだった。そのため福井氏は、補助者として経験を積んだあと、合格から5年後の2005年5月に司法書士登録をし、2006年に簡裁訴訟代理等関係業務の認定を済ませ、裁判所において訴訟代理権を持って法廷に立つことができるようになった。
2000年にスタートした成年後見制度については、あるきっかけがあり取り組み始めるようになった。所属する渋谷支部では当初成年後見に取り組む司法書士事務所は少なく、一部の司法書士の専門的業務となっていた。それが2007年頃、たまたま渋谷支部で成年後見に精通した司法書士が研修を開いてくれたのだ。それをきっかけに大城事務所も組織的に取り組み始めるようになり、福井氏も同年、後見人候補者名簿・後見監督人候補者名簿への登載を済ませた。成年後見は、自宅に通って話をするなど依頼者との密接なコミュニケーションが必要な業務であり、同性の後見人を希望する依頼者も多く、女性司法書士のニーズが高いのも特徴だ。女性のみが在籍する大城事務所との相性がよかったため、以降は積極的に引き受けるようになった。
老舗事務所を引き継ぐ覚悟
ここで業務内容をおさらいしてみよう。大城事務所には不動産登記、商業登記、債権譲渡、動産譲渡登記、裁判業務、成年後見がラインナップとしてあるが、不動産登記が最も比率が高く7~8割、商業登記2割、残りがその他の業務となる。融資に関連する登記の依頼や税理士からの依頼で受ける相続案件絡みの登記なども含めた不動産登記、商業登記、すべて合わせると年間1,000件にも上る案件をこなしているが、その中で不動産売買の決済が半分以上を占めている。
2008年に法人化を果たしたが、その背景には、「成年後見という長いスパンの仕事を受任するなら、個人事務所より法人のほうがより質の高いサービスの提供が可能になり、顧客満足度は高くなるだろう」という大城氏の考えがあった。そして、このタイミングで、現在は福井氏ともに代表を務めている赤羽彩美氏が事務所に加わることになる。今から13年前、司法書士5名、総勢8名のときのことだ。
成年後見に関わるためというのが法人化の最大の理由だったが、大城氏が65歳で代表を退くという事業承継の計画があったことも理由のひとつだ。以前から大城氏に「あとはよろしくね」と言われていた福井氏は、2008年の法人化に際して社員として経営者側に加わったときから、いずれ代表を引き継ぐであろうことを覚悟をしていたという。そして2018年、大城氏は計画通り65歳になった誕生日に代表を退き、福井氏と赤羽氏が代表に就任した。
「大城氏が長年培ってきた信頼と顧客を引き継ぐのは大変な重責でしたが、事務所を法人化したことも含め、準備を万全に行ってもらっていたので、スムーズな引き継ぎができ、これといった苦労はありませんでした。でも、まだまだ大城の名前で仕事を受けているようなものなので、これから私たちが信頼をいただき、仕事が増えていくように日々努力しなければと感じています」
もうひとりの代表を務める赤羽氏は、司法書士試験合格が福井氏の1年後、入所は4~5年後の後輩にあたる。長野県の実家で開業し2~3年経った頃、思うところあって再び上京し、大城事務所の門を叩いて15年になる。若いふたりが1988年から続く大城事務所を引き継ぐのに、相当な覚悟が必要だったのは想像に難くない。
女性の働きやすい環境を整備
大城事務所の大きな特徴は、何といっても福井氏と赤羽氏を含め、10年以上という勤務歴の長い所員が多いことだ。司法書士業界は入所後1~2年すると独立する人が多い。そんな中で離職率が低く、経験豊富なベテラン司法書士が多く在籍しているのは、事務所としての大きな強みである。
高い定着率の秘訣には、女性同士の気配りや、細やかな配慮があるようだ。この事務所の「これまでの最大のトピック」を福井氏に聞いてみると、7年前、赤羽氏が妊娠・出産して、休業後に職場復帰したことだという答えが返ってきた。
「私が入所した頃は仕事が忙しく、毎日残業続きで、遅くまで働いている時代でした。私より後に入所した赤羽も柱として仕事をしていたので、休業するとなったとき、赤羽のぶんもきちんと仕事をこなしていけるかどうか、私自身とても不安でした。でも、女性が結婚、出産、育児というライフステージを歩みながら仕事をずっと続けていくには、この課題をきちんとクリアして、フォローできる体制を実現しなくてはいけません。そこで赤羽の出産を機に、そうした休暇制度をきちんと整備して、女性所員みんなが働きやすい環境を整えようと決めたのです。
今は男性でも産前産後・育児休業を取る時代ですが、当時、女性しかいない事務所だったにもかかわらず、休業を取得して戻ってきた女性はひとりもいませんでした。それまでは独身の所員が多かったり、妊娠した人がいても出産後に転職してしまったりという状況でしたね。ですから7年前のタイミングで社内的制度を整備したことは、私たちにとってはとても画期的なことでした」
休暇体制を整えてから7年。現在は所内でふたり目の所員が休業を取得していて、2021年4月からの復帰を予定している。他にも2名が子育てをしながら働いているという。
豊かな経験と幅広い業務に裏打ちされたクオリティ
女性のみが在籍する大城事務所だが、前代表の大城氏は「女性だけの司法書士事務所」にこだわっていたわけではなく、男性所員がいた時期もあった。しかしいつの間にか「女性のみ在籍」を特徴とする事務所になっていたのだという。このことについて、福井氏は次のように話してくれた。
「不動産決済のときなど、契約の場では堅苦しい空気になりやすいので、話上手で雰囲気づくりが上手い女性が来てくれると助かると言われることがあります。成年後見を引き受ける際も、『家の中に入ってもらうから、女性のほうがいいです』と言って依頼される方もいます。法律相談をする際にも家庭の内情を話さなければならない場面が多々出てくるので、女性のお客様だと同性のほうが相談しやすいと思われる方も多いようです。うちは不動産決済をメインにやっているのですが、やはり話しやすいということなのか、不動産業者から『女性がいい』と言われることもあって、女性司法書士のニーズの高さを肌で感じています」
女性だけの司法書士法人というのは、ひとつの専門特化なのかもしれない。
昭和の時代からの長い歴史がある事務所で、相続や成年後見が絡んだ不動産決済案件、区画整理・開発案件、商事信託案件などの複雑な案件でも、不動産登記・商業登記・成年後見などといった区分けにとらわれず横断的に考え、経験豊富な司法書士が適切なアドバイスをすることができるというのは、大城事務所ならではの大きな強み。福井氏は前代表から事務所を引き継ぐ際、自分が代表を勤めるからにはこの強みを損なわないようにしたいと心に決めた。
「歴史の長い事務所で、いろいろなお客様がいて、扱う業務の幅も広い。今後もこれを踏襲し、オールマイティに幅広くお客様の要望に応えていきたいと思っています。何か新しい方向性でやっていきたいというよりも、今までの経験を活かし、それぞれのお客様に合ったアドバイスができる事務所であり続けたいですね」
改めてどこかをめざすより、過去を踏まえつつ、これまでのお客様にきちんと対応する。顧客満足度を高める基本である。これを可能にするのが、大城事務所の強みであるキャリアの長い経験豊富な所員たちだ。
「基本的にうちは全員担当制ですが、案件の問い合わせがあった場合にも、誰が電話を受けたとしても答えられるように、各案件を可能な限り全員で共有する体制を取っています。ですので事務所に連絡や問い合わせが入った際、直接の担当が不在でも、わからないということがありません」
任意後見制度や遺言の分野に注目
債務整理のテレビCMが流れたり、家族信託が話題になったりと、司法書士業界には「ブーム」としてニーズが高まる業務がある。そこにもあえて参入せずに、今目の前にある仕事の中から必要な情報を見つけ出し、応えてくのが福井氏のスタンスだ。今後注力していきたい分野も、今までも実績を積み上げてきた成年後見業務の中にあるという。
「少子高齢化社会の現代、『自分が年を取って判断能力が衰えてきた場合に、誰に面倒を見てもらったらいいだろう』と心配されている方は多いと思います。特に東京では、遠い親戚に気を使いながら頼むより、費用がかかっても専門家に財産の管理や病院・施設入所など、身上監護の手続きをしてもらいたいと考える方が増えているように思います。法定後見制度は、すでに判断能力が衰えてしまっている人に家庭裁判所が選任した専門家や親族など、後見人が付く場合に適用されますが、それに対して任意後見制度は、自らの判断能力がしっかりしているうちに将来の後見人をあらかじめ選んで契約するものなので、自分の意にかなった後見人を選ぶことができます。社会情勢的に任意後見契約の利用はこれから増えるだろうと思っていますし、任意後見制度と併せて遺言を含む相続関連の分野にも注力しています。疎遠な親族にではなく、お金を払ってでも専門家に頼みたいというニーズに応え、依頼者の任意後見制度利用や遺産承継業務に対応していきたいと考えています」
現在大城事務所では、成年後見で自ら後見人となっている案件が5件、親族を後見人として監督人を務めている案件が8件、任意後見契約を締結している案件が4件ある。
「今後も引き続き、様々な業務を経験してきたことを活かし、お客様の要望に対してオールマイティに応えられる事務所でありたいと考えています。そこをアピールポイントにしていきたいので、受注件数を増やすための法人大型化などは考えていません。むしろ今のまま、法的な漏れや抜けが無いように1件1件細やかにチェック、アドバイスしていくなど丁寧に対応することで、次のお客様につなげていく。そんな一人ひとりのお客様に向き合っていく仕事をしていきたいですね」
2020年から猛威を振るっている新型コロナウイルスに、いまだ振り回される2021年。大城事務所もその影響を少なからず受け、2020年4~5月以降、引き受ける案件は全体的に減少した。2020年の緊急事態宣言期間中は休業中の顧客先も多く業務量が減ったので、事務所でも輪番制を導入し働く体制を整えた。その際には東京都の助成金を使い、所員全員にテレワーク用のパソコンとプリンターを用意。業務上、不動産決済の際など、必要なときは出勤するが、それ以外の部分ではテレワークができるように、しくみ作りも進めた。
「不動産決済は、権利証などの引き渡しと代金の授受を行うもので、それを同時履行するために集まるわけです。一堂に会することで一度に手続きを済ませることができるわけですから、会って行う形式はなかなか変わりませんね。ただし、関わる皆さんが協力的で、例えば権利証などの登記必要書類を先に司法書士に預けてくだされば、仲介的立場で預かり、書類確認をして、お金が動く日は電話だけで済ませるという方法も可能です。皆さんが納得した上であれば、取り入れるのもいいと思いますね」
売主、買主、金融機関にとっても決済を儀式として残しておきたいという思いはまだ根強く、コロナ禍においても直接会わずにオンラインで済ませるというケースは少ないようだ。また、大城事務所では住宅ローン以外の借り換えや事業主の融資といった、個人の住宅ローンとは異なる本人の意思確認がより重要な案件が多いことから、すべてをオンラインにはできないと福井氏は考えている。
知識と経験を活かしたアドバイスを
現在、資格者6名、補助者2名の総勢8名という体制の大城事務所では、どのような人材を求めているのだろう。
「少人数で仕事しているので、やはり一緒に仕事をしていて気持ちがいい方、明るくて真面目な方がいいですね。コミュニケーション能力の高さを重視しています。事務所内でも外部でのお客様との対応でも、コミュニケーション能力が低ければミスが起きる可能性もあります。すべてを面接で見極めることはできませんが、可能な限り見ていますね。資格の有無については、合格者であればある程度のレベルの知識が担保されているので、必要とする場合もありますが、その時々の状況によって要件を決めています。ただ、あくまで人物像重視です」
以前は残業も多く、良好な労働環境とは言えなかった大城事務所だが、産前産後・育児休業制度については、先ほどのようにワーク・ライフ・バランスの推進に努めている最中で、家庭生活と仕事の両立ができるように支援している。「女性だけの職場だからこそ、所員が気持ちよく仕事できるように環境作りを進めたい」と福井氏は意欲を見せる。今後も大城前代表から引き継いだお客様を大切に、丁寧な対応で幅広くニーズに応えていくという。
「この事務所はとにかく居心地がいい。学べることも多いし、いろいろな経験ができる事務所なのでやめようと思ったことはありません。自分はここにいて、長く仕事をすることができて、本当によかったと思っています」
他の司法書士事務所を経験したことのない福井氏がそう断言できる大城事務所は、女性にとっておそらく本当に働きやすい職場なのだろう。環境面だけでなく、仕事としての魅力も溢れているに違いない。
福井氏自身も、65~70歳まで「ここで仕事を続けたい」と話す。
「そろそろ次の時代を担う人を探し始めなければと思っています。私だって20年経ったら大城が引退した65歳ですから(笑)」
最後に資格取得をめざそうとしている方々に、次のようなエールを送ってくれた。「様々な仕事がAIに代替されると言われていますが、知識と経験を活かしたアドバイスをできる専門職がなくなることはありません。ぜひ試験合格をめざして、がんばってください!」
[『TACNEWS』日本の司法書士|2021年4月号]