日本のプロフェッショナル 日本の司法書士|2020年6月号

Profile

遠藤 省吾氏

えん道グループ代表
司法書士 

1955年、埼玉県東松山市生まれ。1987年、宅地建物取引主任者(現宅地建物取引士)試験合格。同年、司法書士試験合格。1988年、大宮で個人事務所を開業。2007年、司法書士事務所を法人化(2009年に再び個人事務所に戻す)。同年、あさひ測量ステーション(現:えん道測量設計)設立。2014年、一般社団法人えん道グループ、土地家屋調査士えん道グループ、行政書士法人えん道グループ設立。2015年、司法書士法人えん道グループ設立。

高齢者に対する身元保証サービス、安心サポートなど身元保証業務をグループの大きな柱に育てていきます。

 不動産登記、商業登記の専門家といえば司法書士。そんなイメージがある司法書士だが、社会的役割として相続相談で顧客とその家族を守り、後見人として財産管理を支える、いわば人生を最後まで見守るホームドクター的な役割も大きい。埼玉県さいたま市の司法書士法人えん道グループでは、その役割をさらに推し進めた身元保証業務を大きな柱にしようとしている。同法人を率いる司法書士・遠藤省吾氏に、司法書士をめざした動機から、グループとしての成長、身元保証業務、さらに今後の司法書士業界のあり方までをうかがった。

9回目の受験で司法書士試験に合格

 埼玉県さいたま市の司法書士法人えん道グループでは、司法書士、土地家屋調査士、行政書士、宅地建物取引士などの専門士業がワンストップでサービスを提供している。司法書士法人を中心に、土地家屋調査士法人えん道グループ、株式会社えん道測量設計、行政書士法人えん道グループ、一般社団法人えん道グループ、株式会社えん道エステートがグループを構成。これを牽引しているのが、司法書士・遠藤省吾氏だ。

 遠藤氏が司法書士をめざした背景には、「父も兄も司法書士」という環境が大きく影響している。
「私は、父が埼玉県東松山市の法務局で所長をしているときに生まれました。その後、秩父市、桶川市と転勤で引っ越し、桶川市で幼稚園から高校までを過ごしました。父が法務局をやめて、上尾市役所の前で司法書士事務所を開業したのが小学校6年のとき。その年、年の離れた兄は父の事務所に入り、働きながら司法書士資格を取得しました。兄と年が離れているのは、私は父が50歳のときに生まれた子どもだから。私が22歳のときに父は亡くなりました。そんな父と兄を見ていたことから、『絶対に自分も司法書士になる!』と意気込み、司法書士をめざしました。振り返ってみると、自分の意思よりも環境に影響されていたことが、受験期間を長引かせた要因かもしれません」

 実は遠藤氏、司法書士試験の合格は9回目の受験のとき。兄の事務所などで司法書士の実務を学びながら、受験生活を送った。実務では、自分で営業をするおもしろさも味わっていた。

「結局、父や兄に甘えていたから9回もの受験をすることになったのだと思います。受験勉強で家に籠るより、営業などで外に出ることが好きな私は、いろいろなことに惑わされて、自分をきちんと律することができなかったんです。何度も結果が出ない状況が続くとマイナス思考になって、劣等感の塊になります。6回目の受験で残念な結果だったときは、『このままじゃあダメだ。早くこの状況から逃げ出さないと、先に進めない』と痛感しました。そこで、スポーツクラブに通って重いバーベルを上げるなど、まずは自信をつけるところからやり直しました」

 7回目の受験は29歳のとき。「何とかここで決めないと、もう合格できない」と一念発起し、教材は本当に使うものだけに絞り込み、使わないと判断した教材はすべて捨てた。8回目の受験のあとには自信をつけるために宅地建物取引主任者(現:宅地建物取引士)試験も受験し合格。これをバネに、9回目にして司法書士試験に合格した。

 合格後、兄の事務所で一緒に働くという道もあったが、もう兄には甘えたくない。営業が好きなので自分で営業もしてみたい。何よりも受験中、勉強仲間が次々と合格して開業するのを目の当たりにしたときの悔しさがあった。だから自分で開業したかった。

 合格の翌年、1988年に遠藤氏は大宮法務局の隣に自身の事務所を開いた。

10年後の展望

 開業したての事務所は、わずか8坪の長屋のような作りのビルの1室。5軒のうち右から2つ目の部屋が遠藤氏のオフィスとなった。

「最初はひとりでやっていました。でも、開業して半年が過ぎる頃には働きづめで疲れ切ってしまい、ひとりでやることの限界を感じたんです。そこで、兄の事務所でも働いたことがある勉強仲間に来てもらい、何人かの職員も雇いました。そして翌年には結婚し、その後のマネジメントは現在専務をしている妻と一緒にやっています。オフィスは8坪から始まり、空いていた両隣の部屋や2階の空室も借りて45坪となり、人も徐々に増えて20名になりました。そして2003年に現在のオフィスビルに移転しました」

 開業して最初に手がけた仕事は、金融機関、建売業者、マンション業者からの不動産登記業務だった。さらに法務局の隣という立地を活かして、土地建物の謄本、会社の謄本や印鑑証明の取得申請を行った。法務局を訪れる申請者が通りすがりに事務所に立ち寄って、申請の代行を依頼してくれたのだ。今では考えられないが、この仕事だけで事務所の経費を賄うことができた。

 開業して間もなく、遠藤氏は地元の青年会議所に入会した。そこで、会議や組織運営、マネジメントの重要性にめざめた。青年会議所の先輩たちは当たり前のように自身と自社の10年後の展望を思い描いていた。遠藤氏が思い描いたこともなかった10年後の展望。衝撃を受けると同時に大いに感化された遠藤氏は、自分でも10年後の展望を考えてみた。そのとき考えた展望のひとつが「事務所を大きくしたい」ということだった。このときから、遠藤氏の組織運営ヘの取り組みが始まった。

徐々にグループの柱を確立

 遠藤氏が開業した当時は、不動産バブルと呼ばれる1980年代後半から1990年代初めにかけて地価が高騰した時代だった。1990年以後、地価は暴落し、不動産登記業務は減少していった。しかし、遠藤氏は持ち前の営業力で成長著しい建売会社から業務を受託し、その会社の成長とともに堅実に成長を続け、不動産登記、商業登記、法務業務を伸ばしていった。

 そして迎えた2000年、成年後見制度がスタートし、司法書士が後見人に就任できるようになった。成年後見制度に興味を持った遠藤氏は、すぐに公益社団法人 成年後見センター・リーガルサポートに登録し、必要な要件を満たして後見人として業務を行うようになった。それが現在、グループの柱のひとつである身元保証業務の始まりだった。

 2007年には、司法書士が行える不動産登記、つまりその建物が誰のものかを登記する権利登記の他に、その建物がどのようなものかを登記する建物表題登記や、建物滅失登記、土地確定測量・分筆登記までをワンストップで行うために、今日の土地家屋調査士法人えん道グループ(2014年法人化)と株式会社えん道測量設計を立ち上げた。これはお客様からの不動産関係の登記についてワンストップで依頼したいという要望に応えたものである。土地家屋調査士の資格を持たない遠藤氏は、有資格者を探して自社での不動産関係登記のワンストップ体制を実現したのである。これがグループ化への第一歩にもなっている。

 同じ2007年、遠藤氏は司法書士事務所を法人化し、2008年3月に大宮駅西口支店を設立した。その目的は2006年の貸金業法改正により、過払金請求ができるようになったことにある。当時、大勢の司法書士や弁護士がこの過払金返還業務に参入。遠藤氏もその波に乗ったのだが、この法人化は思わぬ方向に転がった。

「支店を出してWebサイトに広告を出すとすぐに電話がかかってきました。電話で相談に乗るだけですから、営業活動はいらない。極端に言えば、電話一本でできる。業務を進めるにあたり、それほど特別な知識やノウハウもいりません。過払金返還ブームが起きたため依頼者は大勢いました。簡単に仕事が取れる上に業務の難易度が高くないため、仕事を任せていた司法書士がみな『独立します』と言って出て行ってしまったんです」

 開業してから初めての挫折だった。遠藤氏は過払金返還業務に見切りをつけて、2008年12月には支店を閉鎖し、2009年には個人事務所に戻した。舵を切り直し、司法書士が核となって成年後見業務に家族信託などの信託業務も加え、間口を広げて相談を受けるようになった。それが現在のメイン業務の一つ、身元保証業務の発端となったのだ。

 身元保証業務を進めていくと、今度は相続分野の需要が増えてきた。相続業務を進めていく中で、戸籍収集など、司法書士ができない領域をカバーする行政書士業務をグループ内で行うため、2014年には行政書士法人を設立した。さらに2015年には、不動産業務を担うえん道エステートを設立し、改めて司法書士業務を司法書士法人に改組し、現在のグループ構成となったのである。

身元保証業務で安心を提供

 えん道グループの業務比率は、司法書士業務約7割、土地家屋調査士業務2〜3割、相続・身元保証業務などが1〜2割となっている。中でもえん道グループの特徴であり、強みといわれている分野が身元保証業務だ。

 身元保証業務には、老人ホームなどの高齢者向け住宅ヘの入居に際して必要な身元保証の引き受け(身元保証サービス)、自宅にひとりで住む際の見守り・入院時の身元保証の引き受け(安心サポート)、そして老後の不安を解消するために必要なさまざまなサポートを行っている。具体的な内容としては、死後事務委任契約、財産管理契約・任意後見契約、遺言書の作成支援・遺言の執行、日常生活支援サービスなどがある。

「身元保証は、認知症になってからの後見人や亡くなったあとに相続人がいない方の相続財産管理人として財産管理をしていく中で、例えば有料老人ホームなどへ入居する際に保証する身元保証サービスや、ひとり暮らしをする方の見守りをする安心サポートとして生まれました。それがお客様にとって確実に必要なサービスだと考えたからです」

 2014年に始まったこの身元保証業務・安心サポートとは、どのようなしくみになっているのだろうか。
 まず顧客が自宅で倒れた場合、見守りセンサーに12時間反応がなければ民間警備会社に自動的に通報が入り、救急援護要請をしてえん道グループに連絡が入る。連絡を受けたグループ職員が病院にかけつけて、入院手続きを行う。見守りサービスはこうした「機械的なサービス」から始まり、2019年3月からは郵便局と連携して郵便局員が定期的に訪問して顧客の様子をうかがう「人的サービス」にまで広がった。現在は安心サポートの顧客約110名中40名が、この「駆けつけサービス」と「声かけサービス」を利用している。

 ただし、この仕事は誰でもできる業務ではないと遠藤氏は指摘する。
「身元保証業務は職員によっても向き不向きがあるので、担当する人が限られます。介護や相続といった老人をサポートするのに生きがいを感じられる人、意義を感じられる人でなければできません。お客様から『○○さん来てくれないんだよ』と電話があって、『○○君、行ってないの?』と聞くと、『いやいや、今日の午前中行きましたよ(笑)』なんてこともしばしばです。こういったことも含めて、忍耐強くやらなければいけないことがたくさんあるのです」

 高齢者を狙った特殊詐欺の被害が多発する、そんな時代だからこそ、どれほど苦労があってもこうしたきめ細やかなサービスが必要なのだろう。

「プライバシーが重視されて、地域のコミュニティの力も薄くなっている。そんなときだからこそ、馴染みある郵便局の配達員や局長が訪問することで安心される方は多い」と話す遠藤氏。このサービスを提供するための苦労は大きいが、少しでも安心を提供できればと考えている。

学び、実践して80名の組織に成長

 司法書士業務、相続業務、身元保証業務、土地家屋調査士・測量・開発業務、不動産業務とグループの柱となる業務が確立され、えん道グループは現在総勢80名を数えるようになった。有資格者は、司法書士16名と同未登録者1名が在籍し、80名中55名が司法書士業務を担当する。資格者は司法書士に加えて行政書士2名、土地家屋調査士3名と同未登録者1名、宅地建物取引士1名が在籍している。

 拠点も増え、本部と大宮支店の他、2016年には千葉県柏市に支店を設置し、2019年に移転して流山おおたかの森支店に名称変更した。2018年からは兄が父から継いだ上尾事務所もグループに入った。

 えん道グループが大きく成長できたきっかけは、元をたどれば前述の開業当初に入会した青年会議所での経験に加え、地域社会奉仕活動などを行うロータリークラブ、そして2006年に入会した船井総合研究所の司法書士研究会での経験ににあると遠藤氏は語る。

「青年会議所には年齢の上限があるので、それを超えると今度はロータリークラブに入りました。私が所属したロータリークラブは60〜70名の組織ですが、2011年に急きょ会長に選出されました。この経験が大きなきっかけとなり、そこから年間計画、役割分担、組織作りを改めて深く考えるようになりました。

 ロータリークラブの会長は自ら進んでなったわけではありません。偶然、私に話が回ってきたのです。当時、会長になったはいいけれど、ここまで大きな組織の運営経験はありません。どうしたらいいのかと悩み、まずは人を分析することから始めました。例えば『この人はこの年齢になるまでにどんな役割を担ってきたのだろうか』ということを分析して、その人に合った役割分担を決めるのです。あとは年間計画を立て、役割を実践に移して組織を作りました。予実管理なども含めて、えん道グループの組織作りの大きな土台になりました」

司法書士研究会については、2006年に札幌市の士業見学会に行ったことが大きな刺激になっています。そこで規模拡大と組織作りに興味を持ちました。青年会議所で刺激を受け、司法書士研究会では視察や机上などで学び、ロータリークラブで実践・運営をしてきました。

めざすは「100名・10億円企業」

「これからの自分の組織は、ロータリークラブのような組織体制にしなければならない」
 そう考えてロータリークラブのモデルを取り入れて組織作りに着手し、既に10年が経った。グループ全体では、80名の組織となり多拠点にもなっている。拠点が離れていても実際に人の顔が見えたほうがなじみが持てると、拠点間をオンラインで結び、空間共有もできるWeb会議システムを2020年から導入した。

「おおたかの森支店がある流山市まで車で往復2時間、上尾市まで往復1時間かかります。しかし、Webを活用すればここに居ながら会議ができる。新型コロナウィルスの影響もあって、Web会議の役割が重要になってきています」

 毎年経営計画を立て、早めに年間行事計画も立てる。組織作りの中で遠藤氏は、「経営者として自分はお金を出す。働く人は労働力を提供する。だからフィフティ・フィフティにならなければならない。上から目線のピラミッド型ではなく、フラットな組織にならなければ成長しない」と気がついた。そこで現在は、1〜2月に経営計画発表会、6〜7月に検討会、11月に準備会と年3回の会議を開き、会議以外ではキャンプ、ボーリング、ゴルフといったレクリエーションイベントを委員会制度で職員が企画している。
「トップダウンではなく、みなで考え、下から企画が持ち上がってくる。そんな組織をこれからめざしていきたい。時間も大切だけれど、face to faceで向かい合うのも大事ですね」

 2020年1月の経営計画発表会では、2020年度の目標を定めた。1つ目は「デジタルシフト」。「すべてを対面でやらないテレビ会議の活用。すべてを人がやらない勤怠管理。すべてを紙でやらない受託簿などの電子化ペーパーレス化」の3つの効率化が挙げられている。2つ目は「働きかたシフト」。「限られた『時間』で成果を出すサポーター(アシスタント)を活用する。限られた『人』で成果を出すために、繁忙期には外注し提携司法書士とネットワーク化する。働き方改革の実施で出勤時間の見直しとフレックス制度などを導入すること」をめざしていく。最後に「ビジネスモデルシフト」。身元保証業務では、事業承継・家族信託の拡大を狙い、「いきいきライフプラザ(来店型)セミナー施設の設置。東京支店の設置検討。税理士業界への一層のアプローチ」の実現をめざしていく。

 調査・測量業務に関しては、「ワンマン測量を拡大し、3D測量・ドローン測量研究を進め、身元保証業務、調査士・測量業務、司法書士の3本柱へビジネスモデルをシフトしていく」計画だ。

 さらに2020〜2024年の「5年間計画」を策定し、「働く仲間100名、売上10億円」という大きな目標も掲げた。それも遠藤氏は実現できるだろうと断言する。

「現在80名の職員がいて東京支店を作るとなれば、そこに20名プラスされて100名になります。売上目標も現時点で約7億円なので、もう1つ拠点が増えれば10億円も夢じゃありません」

 なぜ遠藤氏は規模拡大にこだわるのだろうか。
「古くから働いてくれている職員に長く働いてもらいつつ、若い世代にもどんどん入ってきて活躍してもらうには、規模を大きくして適材適所を行い、すべての世代の人たちにとって働きやすい組織にしなければならないのです」

 10億円企業をめざしている遠藤氏にとって、開業からの32年間で一番大きなターニングポイントはどこにあったのだろうか。

「ある大きな失敗を乗り越えたときです。不動産の開発業務の際に、土地家屋調査士とうまくコミュニケーションが取れておらず、開発段階でしておかなければならない申請を忘れるという、致命的な失敗をしてしまいました。それが原因で土地家屋調査士のほとんどがやめてしまう事態になったんです。自分は土地家屋調査士の資格はないし、開発もやったことがなかったのですが、その失敗を挽回すべく先頭に立って対応し、なんとか乗り越えることができました。この経験は、成長への大きなターニングポイントとなりましたね」

 この失敗をしたとき、これで土地家屋調査の仕事はなくなってしまうと思ったという。しかし、残ってくれた職員が一緒に窮地を乗り越えてくれたことで盛り返すことができたのだ。

「最終的に、どこへ行っても人材が大事なんです。お客様から『この人に頼みたい』『この人なら頼みたい』と言われる人材がいなければだめなんです。到底自分ひとりでできるものではありませんから。開発の失敗のときに私の後ろ姿を見てついて来てくれた職員が一緒に窮地を乗り越えて、育ってくれた。彼らはすべてを任せられる信頼できるメンバーとして、中核となって組織を引っ張ってくれました。それがグループの成長につながりました。
 売上が伸びたのも、やはり良い人材が集まって、良い循環が生まれ、その中で世間的にも信頼を受けたから。加えてしっかりとした組織を作ってきたことが大きかったのだと思います」

 遠藤氏は「80歳までは現役を続けたい」と言う。なぜなら80名からの組織のトップとして、「身元保証業務を確立していくためにはまだまだ働かなければならない」と考えているからだ。
「身元保証業務は手間がかかりますが、一歩踏み込んで苦労してみると、苦労した分だけおもしろいと思うことができる業務です。司法書士業務は基本的に、『売る人よし、買う人よし、司法書士よし』の三方良しで『みんなよかったね』となります。しかし、身元保証業務は1対1なので『よかったですね、終わり』とはならないんです」

 実は遠藤氏も苦い経験をしている。後見人を引き受けているとき、被後見人の息子さんから「後見人をやめろ」とバッシングを受けたことがあった。その息子さんは司法書士会の苦情処理委員会にクレームを出したので、遠藤氏は呼び出されて何をしたのかと問い詰められたという。

「大変でしたけれど、今思うと良い経験をしました。でも、こういうところがすごく人間味があり人の機微が入っていて、すごく楽しい仕事だなと思うんです」
遠藤氏はそう言って笑った。

業界の未来を見据えデジタル化を推進

 今後AI、IoT、5Gとデジタル化が進めば、車の自動運転だけでなく空飛ぶ車も夢ではなくなるかもしれない。そうなれば、今まで以上に人間がやるべき仕事は変わってくるだろう。来るべき時代の司法書士として、遠藤氏は次のステップへと踏み出している。

「今は役所に提出するデータを書類で出し、その書類をデータとして残そうとするから七難八苦しています。これがデータからデータへと自動的に移せるようになれば、おそらく司法書士の定型業務は機械に取って代わられるでしょう。昔はタイプライターで入力していましたが、今は不動産物件情報もデータで貼り付けができるので、送られてくるデータに不備がない限り、まず誤りはなくなるはずです。そうなると、機械ができる単純作業は、ほとんどが人間から機械に移っていくでしょう。

 つまり司法書士業務が今のままでいいわけがないんです。なくなりはしないけれど業務のあり方は大きく変わってくる。司法書士だけでなく、多くの専門家領域で人間が担う部分は変わってくるでしょう。そして今後の社会のあり方がどう変わっていくかによっても、その内容は変わってくる。ただし、司法書士の分野において成年後見や身元保証業務といった調整能力を活かす領域は、人間のテリトリーと言っていいと思います」

 すでに司法書士業務を中心とした仕事を受託する代行業者も出てきている。新しい競合他社は今後も増えていくだろう。
「このような変化の中では、これまで通りの営業手法では生き残ることができません。必要とされるためには、より正確な情報を得て正確な処理をきちんとできるかどうかにかかってくると思います。すると、それができる優秀な人材を確保できた事務所が生き残っていくようになる。流れは変わってきています。

 事務所のWeb会議システムやペーパーレス化、ヒューマンレス化といったデジタル化を推進して、測量調査もドローン測量や3D測量を進めていかなければならないし、今まで以上にその精度を上げられるかが重要になってきます。つまり誰がやっても変わらないところは機械に置き換えられ、人にしかできない家族信託や財産管理など、コンサルティング業務プラスアドバイザー的な、提案型の総合コンサルティング業務でなければ生き残れないんです。そのためにはもっと職員のスキルを上げていかなければなりません」

 事務所の後継者について聞くと、23歳の長男が司法書士を受験中だという答えが返ってきた。ただし「受かったとしても経営能力があるかどうかはまた別問題」と言う。「無資格者が経営者では経営的に難しいだろうから、資格取得は必須になります。さらにそこから組織のリーダーとして息子が適任かどうか、見極めないといけない。だからまだ最低10年は私がやらないと(笑)」

 資格取得をめざしている読者には「素直な気持ちを大切に」とアドバイスする。
「試験勉強では素直に必要なことだけをやることが重要です。あまり自分で考えすぎてはいけません。私みたいにならないように注意してください(笑)。

 『合格』が目標ではなくて、『合格後』の夢を見ることが大切です。経営に向いている人は経営のスキルを、専門性をもっと深堀りしたい人は専門性を磨くことです。合格後に有資格者としてスタートしたら、専門家はそのまま専門家としてのスキルを深めればいい。でも、経営をめざすならまた別に経営の勉強をしなければなりません。経営の勉強も、青年会議所など学べる場所は多々ありますので、それを活用して刺激を求め、仲間とともに経営を学んでいくことが大切です。
 今は時代の転換点。今やるべきことをきちんとやってステップアップしながら、未来の予測も加えていってください」

 ロータリークラブの会長として試行錯誤の上で組織と計画を作った途端、東日本大震災で計画停電に。遠藤会長の計画は大きく狂ってしまったという。
「バブル崩壊を経験して、東日本大震災も経験して、最近では新型コロナウィルスも経験していますが、逆にピンチはチャンスだと思います。危機意識があることは一番大事ですからね」
 この不撓不屈の精神が、遠藤氏を支え続けた大きな原動力なのである。


[TACNEWS|日本の司法書士|2020年6月号]

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