特集 幅広いキャリアを活かせる会計の世界

天野 大輔氏
Profile

天野 大輔(あまの だいすけ)氏 

税理士法人レガシィ副代表 代表社員パートナー
公認会計士・税理士

1979年生まれ。2003年、慶應義塾大学文学部卒業。2005年、慶應義塾大学大学院文学研究科修了、同年、大手情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。2006年、基本情報技術者資格取得。2010年、公認会計士試験合格、同年、監査法人入所。2014年、公認会計士登録。2015年、税理士法人レガシィ入社、税理士登録。2016年、税理士法人レガシィ社員税理士。2017年、コンサルティング部部長。2018年、税理士法人レガシィ常務取締役。事業承継コンサルティング部部長兼任。2019年、税理士法人レガシィ パートナー、税理士法人レガシィ代表社員税理士。情報戦略本部長・経営戦略本部長兼任。2020年税理士法人レガシィ副代表。2018年9月号より、仕事と資格マガジン『TACNEWS』で『タックスファンタスティック』を連載中。

 相続専門の税理士法人レガシィは、1964年に税理士・天野克己氏が開業した税理士事務所に端を発している。現在の代表社員である公認会計士・税理士の天野隆氏が1980年に入所し、その後、資産税特化に舵を切り今日の礎を築いた。今回ご登場いただく公認会計士・税理士の天野大輔氏は、天野隆氏の長男。会計一筋にキャリアを積み上げてきたのかと思いきや、フランス文学研究、システム会社のSE職と、異色のキャリアを歩んできた。仕事と資格マガジン『TACNEWS』で毎月のコラム『タックスファンタスティック』も連載している天野大輔氏に、文学の世界からSEを経て一転して会計の道へと進んだ経緯、幅広いキャリアで培ったスキルをどのように今日の業務に活かしているのかなどについてうかがった。

祖父の影響でフランス文学研究に没頭

──2020年に税理士法人レガシィの副代表となった天野さんですが、子どもの頃はどのような職業につきたいと考えていましたか。

天野 中学生までは、野球やサッカーなどスポーツが大好きだったこともあり、なりたい職業はコロコロと変わっていたのですが、中でも覚えているのは私が小学生のときに自宅を建ててくれた大工さんです。家を建てている姿を見て「大工になりたい」と言ったら、父に「大工さんは体力勝負のように見えて、しっかり計算しながらやる仕事。計算力がなければできないんだよ」と言われたのです。今思い返すと、会計人である父らしいコメントでしたね。
 中学校に進学してからは、作家だった母方の曾祖父、平林初之輔の生誕記念式典に参加したのをきっかけに、文学に興味を持つようになりました。もともと本を読むのが好きだったので、大学では文学部に進み、大学2年で専攻を選ぶ際は、曾祖父がフランス文学を研究していて亡くなったのもフランスの地だったと聞いていたことから、憧れていたフランス文学の道を選びました。
 仏文研究にあたっては芥川賞作家でもある荻野アンナ教授のゼミに入り、主に20世紀のバタイユという思想家の小説を研究していました。荻野教授は有名人にもかかわらず学生にとても親身に接してくださり、今でも心の師匠です。文学研究にますます憧れましたね。学業以外では、入学当初に民族舞踊研究会という謎のサークルに勧誘され、どういうわけか入ってみたのですが、体を動かす活動であり意外とおもしろく、没頭しました。最終的に踊りを指導するリーダーまでやりきれたのは、サークルの仲間たちがとても素晴らしかったからです。関東の様々な他大学とも交流を深めることができ、また力を合わせてディズニーランドや日本各地の博覧会でデモンストレーションをやるなど、今にして思えば活動を通して人間関係を学べた時期で、あのときの仲間には感謝しています。
 就職活動の際は、雑誌の編集者にも憧れて出版社を受けましたが、一方でもう少し文学を深く研究したいという思いもあり、迷った末に、猛勉強をして大学院の文学研究科仏文学専攻に進みました。

──大学卒業後の進路を決める時点で、税理士法人レガシィ(以下、レガシィ)はかなりの規模に成長していたと思います。ご両親から会計の道を勧められませんでしたか。

天野 何度か勧められました。実際にオフィスに見学にも行きましたが、当時はあまり興味が湧かず、父方の祖父から「芸術の道は食えないぞ」と言われていたにもかかわらず、好きな道を進みたい一心で大学院に進学したのです。ありがたいことに、好きな道を進むことについては、家族全員応援してくれました。

──大学院修了の際は、どのような進路を選ばれましたか。

天野 フランス文学の研究はとにかく楽しくて、とことんのめり込むタイプの私に合っていました。けれども先に就職した友人からも、芸術では食えないぞと言われていましたね。大学院修了というタイミングは、社会人になるのか研究者の道をまい進していくかの分岐点だと感じていたので、ここでも非常に悩みました。大学院修了までは新卒として就職できても、博士課程に進めば、新卒として採用してくれるところはほぼなくなってしまうからです。
 最終的に、文学の道は本当に好きであればいつでも没頭できるけれど、社会に出るのはタイミングを間違えると難しいということで、就職する道を選びました。
 就職先は、当時隆盛を極めていたIT業界なら今後需要が増えていくだろうから、その世界のスキルを身につけておくと仕事の幅が広がるはずだと自分で考え、ITの道に進むことにしました。

──それまで学んだことのない未知の世界に飛び込んだのですね。

天野 はい。ITの経験といえばパソコンで大学のレポート作成をする程度しかありませんでしたが、サークルには理系の仲間もいて、多くがエンジニアになっていました。話を聞くと、ITの世界でのモノづくりは、作品研究をひたすら突き詰めた上でいい作品を作っていくという文学の世界に似ていました。ITの世界でいいものを作り多くの人に使ってもらうことは、出版社でいい雑誌を作る編集者になりたかった自分の憧れにも通じるものがあったので、大手情報システム会社への就職を決めました。

退路を断ち、公認会計士試験にチャレンジ

──システム会社ではどのような業務を経験されましたか。

天野 SEとして、システムのアウトソーシングを請け負っているカスタマーサービス部に約3年所属しました。データセンターで預かっているお客様のサーバーに障害が起きれば夜間や土日でも駆けつけるというハードな職場でしたし、当時は残業に対する考え方も緩く、体力勝負ではありましたが、非常にやりがいのある仕事でした。また同期やチームの仲間にも恵まれ、楽しさも感じていました。ただ、いつまでこの体力勝負の仕事が続けられるか、不安も感じていました。そんなとき、両親から改めて会計業界で仕事をしてみないかと誘われたのです。

──今日へとつながる転機になったのですね。

天野 はい。実は私がシステム会社に就職した2005年から、父のサポートとして母がレガシィに入り、組織改革に関わるようになりました。公認会計士(以下、会計士)でも税理士でもなく、それまでずっと専業主婦だった母が、子育てを終えたタイミングで仕事にチャレンジしたいと思ったそうです。現在では株式会社レガシィの専務取締役を務めています。
 母は、会計業界で働くことがとてもおもしろく、大きなやりがいを感じたようで、それからの母はとてもイキイキと仕事の話ばかりするようになりました。話を聞いているうちに「経営とはそんなにおもしろいものなのか」と私も興味を持つようになったのです。ですから会計業界に入ったのは、母の影響が大きいですね。

──お母様のチャレンジが天野さんの背中を押したのですね。

天野 会計の仕事をしてこなかった母だからこそ、客観的に見える部分があったようです。IT業界にいる私の話も興味を持って聞きつつ、会計業界のよい点と課題点を分析していました。その姿から「会計業界はいろいろな可能性がある。一方で他の業界から見ると改善すべき課題も見えてくる。会計業界で一生懸命やるのはおもしろそうだな」と感じました。
 そこで「会計業界でやっていこう」と志を立て、システム会社を退職して退路を断ち、受験指導校に通い始めたのが、この世界への第一歩でした。

──会計業界に入るにあたり、税理士ではなく会計士を選択したのはなぜですか。

天野 父が会計士だったことは大きいですね。また会計士資格を取得すれば、そのあと登録手続きを行うことで税理士資格も取得できるため、より幅広く仕事の可能性が考えられると思いました。

──受験時代のエピソードをお聞かせください。

天野 2007年にシステム会社を退職し、2008〜2010年までの3年間勉強しました。それまでとはまったく違うタイプの学問でしたが、小学生の頃から算数が好きだったので計算に対する苦手意識もなく、勉強は非常に楽しく、特に財務会計論の科目で勉強する簿記は、モチベーションが下がったときには最高の治療薬でした。悩まずに没頭できる作業的問題なので、パズルやクロスワードに近い感覚です。コツコツやるのは、語学における単語の暗記にも通じるものがありました。また、選択科目の経営学も学習内容がとても興味深く、楽しく勉強できました。
 1度目の受験は不合格で非常に落ち込みましたが、そのときも簿記に救われました。簿記の問題に集中すれば嫌なことを忘れられますし、とりあえず手を動かして簡単にできるものからコツコツ進められる。当時信頼していた講師の先生からも、簿記の練習だけはひたすらやって損はないと言われていたおかげで、精神的安定を取り戻せました。不合格ではありましたが、そこでやめようと思わずに「もっと勉強してやろう!」とプラス思考で捉えられたのはよかったと思います。
 こうして2010年、2回目の受験で会計士試験に合格しました。

監査、コンサルティング経験を経てレガシィ入社

──会計士試験合格後の進路を教えてください。

天野 2010年は就職氷河期と言われた時期で、4大監査法人に就職できたのは合格者の4割ほどでした。そんな状況ですから、社会人経験があるとはいえ、当時31歳だった私には年齢的に大手監査法人への就職は厳しいものでした。しかしここでも悲観的にならずに「中小規模の法人もたくさんある」と視野を広げて就職活動をし、無事に内定をもらうことができました。SEとしての社会人経験を通じ、大規模プロジェクトの中で歯車として働くよりも、中小規模プロジェクトでメインとして働く楽しさを経験していたこともあったので、中小規模の組織の中で、任された仕事についてある程度の裁量を持たせてもらうという働き方のほうが、自分の力を活かせるだろうという思いもありました。
 こうして2011年から2015年まで、新宿にある監査法人兼コンサルティング会社で実務経験を積みました。そこでは上場企業や上場準備会社などの会計監査、内部統制監査、事業再生、組織再編コンサルティング、M&Aコンサルティングと、監査だけでなくコンサルティング領域までチャレンジさせてもらい、とてもいい経験になりました。
 採用後すぐに中小規模法人の上場会社のインチャージを任され、自分の手の届く範囲で仕事を進めることもできました。自分としてはそれがとても楽しく、合っていたのです。あえて比較的小規模の組織に入り、多くを任せてもらえる仕事をやっていくのもひとつのやりがいだと思いますし、実力がある人にも向いている気がします。

──合格後、すぐにレガシィに入るという選択肢はなかったのですか。

天野 会計士登録には2年間の実務経験が必要ですし、レガシィに入る前にたくさんの経験を積んでおきたいと思っていました。業界のことをまったく知りませんし、税務・会計の場でのお客様対応も経験していなかったので、自信が持てるようになるまで、ある程度外で実務経験を積もうと考えたのです。ただしその後は両親との約束通り、レガシィに入って経営に関わってみようと思っていました。そうして5年ほど会計監査やコンサルティングを経験したのち、2015年にレガシィに入社しました。

──2015年にレガシィに入社したのは、何かきっかけがあったのですか。

天野 特に大きなきっかけはありませんでしたが、5年の実務経験の中で相続は経験していなかったので、早く相続実務を経験しておきたいという思いはありました。また有数の相続申告実績を持つレガシィで相続を経験できるのはとても有意義ですし、2015年には相続税及び贈与税の税制が改正され、それまで税金を払う必要がなかった人にも課税されるようになり、メディアで相続がかなり取り上げられていましたので、いいタイミングだと判断しました。

士業向けと一般向け、2つのプラットフォームをリリース

──レガシィで最初に着手したのはどのような業務でしたか。

天野 最初の仕事については、私から相続実務の現場で働かせてほしいと希望しました。両親は最初から経営に携わってほしいと考えていたようで「経営企画室」の肩書きを用意してくれていましたが、メイン業務である相続税申告の実務を知らなくては、何かを改善したいと思っても効果的に改善することはできません。そこでまず経営企画室と兼務で資産税部に所属させてもらい、相続対策や事業承継、相続税申告の一連の流れとそれに付随するコンサルティングに従事しました。
 その後も大地主の方向けにコンサルティング部長として実務を行いながらも、資産税部門におけるビジネスプロセスの改革(会計士試験の管理会計論で出てくる「BPR」)を担当しました。また、事業承継分野はそれまで専属部署がなかったので、2018年の事業承継税制大幅緩和のタイミングで新しく事業承継コンサルティング部を立ち上げ、部門長を兼任しました。

──経営面ではどのような業務をされたのでしょうか。

天野 SEの経験と知識を活かし、アナログ業務のデジタル化を推進することが私のめざすところでした。私が入った2015年は税制改正の影響で、相続相談件数が激増するのを目の当たりにしました。その急増に対応するための生産体制を整え、効率化のためのシステム導入、組織運営の再編は急務であると思いました。実際のところ、私が入った頃は業務の進め方はアナログで、資料は紙ベース、情報共有は対面での打ち合わせがメインだったのです。元SEで、オンライン中心の働き方に慣れていた私にとってその業務形態は非常に大きなギャップがありました。働き方改革の一環として業務のシステム化を第一歩として、法人内の情報共有を図り、データ活用なども行えるようにしてきました。

──SEの視点から業務の改善を行ったのですね。

天野 そうですね。2018年末には、代表、専務、メンバーとともに「レガシィ経営方針」として、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の3つを練り上げました。「『相続日本一』で培った知恵とテクノロジーでプラットフォームを作り、50代、60代の人々と心が通うナンバーワングループとなる」というビジョンを掲げて、これに基づく経営をしていこうと決めました。
 こうして実務から徐々にシフトして、ここ2〜3年は両親とともに経営の舵取りをする時間が増えました。その中でSE時代の経験から、今の時代の相続専門会社として、Webを使ってクラウド型サービスをやっていくべきではないかと考えて、情報戦略本部を新たに立ち上げ、その部門長としてWebサービスサイトの構築に乗り出し、プロジェクトを通してレガシィの次の発展に向けて進んでいます。

──どのようなサイトを構築されたのでしょうか。

天野 2020年末現在、累計相続税申告数約19,000件という業界トップレベルのノウハウを、できる限り多くの税理士に利用していただくために、全国の会計事務所との連携を推進し、士業ネットワークをWebでつなぐためのプラットフォームを作りました。それが「Mochi-ya」というWebサービスです。「餅は餅屋」をコンセプトにした、仕事を頼みたい税理士と引き受けたい税理士のマッチングシステムで、税理士に限らず社会保険労務士、行政書士、司法書士といった士業間をまたいだやりとりも可能です。
 それまでもレガシィでは、リアルの場で全国の税理士や士業の方と仕事のやり取りを年間1,000件以上してきましたが、その場をWeb上にも作り、さらに便利に士業同士で仕事のやりとりができるようにしました。

──一般向けはいかがでしょうか。

天野 「Mochi-ya」がBtoBであるのに対して、一般のお客様と税理士をマッチングする「相続のせんせい」というBtoCサイトもオープンしました。こちらは、相続で困っている一般のお客様に会員登録をしていただき、レガシィ並びに提携専門家が解決のお手伝いをする、双方向のやり取りが可能なサイトです。
 相続では戸籍謄本など紙の書類が必要なことが多く、これまでは郵送や面談で受け渡しをしていましたが、手続きが煩雑でタイムラグが生じる、原本のみでは資料の紛失リスクが高い、コロナ禍ではお客様も外出を控える、といった課題が多くありました。それを「相続のせんせい」では、会員になったお客様がスマートフォンで写真を撮ってアップロードするだけでデータのやりとりを可能にしました。
 また、相続を終えたあとにまた次の相続が発生したり、相続した不動産の売却や遺品整理に困ったり、さらに介護の必要が生じたりと、相続に関連する問題は本当に幅広いです。一般のお客様がそれらを個別に問い合わせるのはとても大変ですから、相続税申告が終わったあとも、「相続のせんせい」で一度つながった専門家を通して一気通貫でやりとりできるしくみにすることで、実務的ツールと情報提供ツールの両方をめざしていけると考えました。

現在にも活かされているスキル

──現在の実務面、経営面ではどのような活動をされていますか。

天野 相続税コンサルティングなど実務も一部で受けつつ、内部的には2020年11月から副代表という立場になりました。現在の業務は、士業務向けサービスと相続のエンドユーザー向けサービスの2つに大きく分けられますが、今はエンドユーザー向けサービスの事業部本部長としてリーダーシップを発揮する立場です。他にも、管理部門として人事や経理について代表、専務とともに意思決定して進めています。

──Webサービスの構築ではシステム会社での経験が大きく活かされていますが、学生時代からの幅広いご経験が今に活きている部分はありますか。

天野 フランス文学研究では「逃げずにとことんやる力」を培いました。今の仕事もとことん問題に対処して解決する力が必要ですし、トップに立った以上は自分で意思決定しなければならないので、そこでは大いに活きていると思います。また前述の学生時代からの恩師、荻野教授はテレビなどでもダジャレを連発することで有名ですが、教室や打ち上げの場で、そのダジャレをライブで学びました。今、私が『TACNEWS』で連載させていただいている原稿にも大いに活かしています(笑)。
 民族舞踊サークルでは、人間関係と組織で動くことを学びました。これはSEとして社会に出たときから常にその経験を活かしていると感じています。
 システム会社での経験は、Webサービスを提供する上で、自信を持って臨める点が大きいですね。もちろん技術面では新しいことが次々に出てきて、私の知らないこともたくさんあります。でも、まったく経験がなければ発想すら出てこなかったり、自分の思いをWebやシステムの専門家に正しく伝えることも難しかったりするでしょう。システム構築の進め方などを自分で実際に経験してきたことや、システム系の人との共通言語が身についていることも強みになっています。

──システム会社での経験はかなり活かせているのですね。

天野 監査法人で働いていたときも「ITの知識がなければ監査はできない」とまで言われていて、ITにまつわる監査は私の出番でした。監査法人で推奨しているスキルは「英語」「IT」「簿記」の3要素です。ほとんどの企業が今やITで動いている時代です。監査データもITを介して出てくるので、ITがすべての企業活動の基盤となっています。そのしくみが理解できなければ、本質的な監査はできません。会計士の修了考査でも、経営に関する理論及び実務では「コンピュータに関する理論を含む」とITに関する項目が設けられていますから、今後ますます重要になってきますね。

──監査法人時代の経験はどのように活かされていますか。

天野 代表との距離がとても近かったので、飲みに連れて行ってもらったり、考えを聞かせていただいたりする機会が多々ありました。営業の仕方を隣で学ばせていただけたのも、とても大きな財産です。代表は私の立場を知った上で、監査法人として今後やりたいことは何か、うちの事務所は何をやるべきかなど、いろいろ問題提起してくれました。経営は、問題解決という視点でいえばコンサルティングに近いと言えます。違うのは、お客様の問題解決なのか、自社の問題解決なのかだけ。このことをコンサルティングを得意とする代長に教えてもらえたのは、非常に有意義で今日に活きています。

──天野さんの立場を知った上でいろいろと教えてくれたのですね。

天野 入所2年が経つ頃、私から父がレガシィの代表であることを話したのですが、会ったことはないがよく知っていたようで、ぎくしゃくするどころかむしろさらにオープンに話せるようになり、経営についても教えていただけるようになりました。
 レガシィにも他の会計事務所の後継者候補の方々が入ってきてくれますが、将来後継者になりたいという意識があるためモチベーションがとても高いですね。がんばっている姿を見ると、同じ立場の自分もとても励みになります。彼ら彼女らの中には、レガシィを退職したあとも「Mochi-ya」などを通じてOBとして仕事のやりとりをするなど、信頼関係ができている人もいるので、いい関係を築けています。

──レガシィは人材育成機能も担っているのですね。今、会計業界では理系の人材が求められているのでしょうか。

天野 そうですね。まず、理系の方に会計士や税理士はとても合っていると思います。先ほどもお話ししたように、システム会社にいた頃から「会計のことがわかっていないとダメだ」とよく言われていて、会計とITの両方の知識が必要と考えている人は多くいました。就職活動でお会いした監査法人の方には、SEから会計士資格を取り、監査部門で働いている方もいて、私自身ものすごくシンクロしている気がしました。当社にも元SEで相続を扱う税理士をめざして入ってきたメンバーがいますし、税務で数字を扱うことや、税法という細かいルールが定められている中でシステマチックに対処していく部分がありますから、そこに興味を持ってくれる理系出身のメンバーが多くなっています。
 会計士試験も、現在の試験制度になってからは統計学という理系の方に親和性の高い分野が選択科目に入ってきています。税理士法人でも監査法人でも、IT化はますます進んでいきますので、理系の人材は今後も期待され増えていくでしょう。

執筆は大切な生き甲斐

──2020年に副代表になりましたが、いずれは事業承継する覚悟でいらっしゃいますか。

天野 はい、父も母もまだまだ元気ですが、いずれ事業承継させていただきたいと思っています。もちろん社内には私よりもキャリアがずっと長い会計士、税理士、スタッフがいます。ただ、入社後すぐに現場でゼロから実務を始め、一緒にお客様対応をしたり同じ目線で仕事したりする機会がありましたし、ありがたいことに何より父と母が非常に配慮してくれているので、いい関係性を築けていると思っています。

──レガシィとして、直近で計画されていることがあればお聞かせください。

天野 Webサービスを今後より多くの方に利用していただき、より価値のあるものにしていかなければなりません。高齢化社会において相続に関するサービスを提供する法人として、もっとできることがあると思いますし、さらなる成長でお客様にとってもメンバーにとってもよりよい会社にしていきたいと考えています。

──天野さん個人の今後の目標を教えていただけますか。

天野 今、ありがたいことに『TACNEWS』でコラム『タックスファンタスティック』の連載を2018年から2年半継続させていただいています。書くことが好きで得意だと思っているので、個人としては、執筆して発表することもライフワークにしていきたいですね。この連載は私の趣味でもあり、次は何を書こうかと思い悩むのはとても楽しい時間なので、お邪魔でなければ今後も続けていきたいと思います。仕事に関連することであれ関連しないことであれ、執筆の時間はとても大切な自分の生き甲斐になっています。

──資格取得をめざしている方々にメッセージをお願いします。

天野 面談などでたくさんの方にお会いする中で、会計・税務業界は、紆余曲折を経て、人生に悩んでいろいろ経験された方が志望されていることが多いと感じています。私たちのメンバーにも怪我で引退して第二の人生としてこの道を選んだ元プロスポーツ選手がいますし、お笑い芸人だった方がレガシィに興味があるということで就職説明会に来てくださったこともありました。特に会計士や税理士はお客様の人生に寄り添っていく仕事なので、そうした経験は大いに活きると思います。今までの経験をバネに、勉強にまい進して資格を取得できれば、きっと道が開けると思います。ぜひ自信を持って、その経験を誇りに、会計人の道をめざしていただきたいと思います。そして合格後は、一緒に仕事をする機会が持てるとうれしいですね。

[『TACNEWS』 2021年4月号|特集] 

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