特集
男女協働時代の資格受験
〜仕事、家事育児、勉強を両立した司法書士〜
清水 勇人(しみず はやと)氏
清水司法書士事務所代表
司法書士
法政大学経済学部国際経済学科卒業後、都内コンサルティング会社に入社。IPO準備支援事業、内部統制報告制度対応支援、メガバンクのシンクタンクと連携しての法令順守やガバナンスに関するコンサルティング等の業務に携わる中、会社法に興味を持ち、司法書士事務所へ転職して司法書士をめざす。2018年、司法書士試験合格。港区内の司法書士事務所を事業承継するかたちで、2019年、清水司法書士事務所を開業、法人顧客が多く商業登記のウェイトが高い事務所運営を行う。私生活では妻と2人の息子がいる。
社会人になってからの資格受験では、仕事と勉強の両立が大きなポイントになる。加えてさらに子育ても、となれば、難易度は格段に跳ね上がる。司法書士の清水勇人氏は、フルタイム勤務で出張もこなす多忙な奥様に代わり、ワンオペレーションで2人の子どもの育児と家事をこなしながら受験を続け、司法書士試験を突破。さらに第三者承継によって自身の司法書士事務所を開設し、既存のクライアントを守りつつ、次世代の司法書士事務所としての歩みを進めている。男女協働、事業承継という時代の波を次々乗り越えていく清水氏に、司法書士という資格の魅力とその可能性についてうかがった。
企業の不祥事を防ぐ仕事がしたい
──大学卒業後はコンサルティング会社に入社されたという清水さん。その後、司法書士をめざすことになったそうですが、学生時代はどのようなキャリアプランをお持ちでしたか。
清水 もともと、あまり大きな企業では働きたくないという気持ちを持っていましたね。大学生の頃には、食肉偽装事件やライブドア事件など上場企業の不祥事が続いていたので、企業の不祥事を防ぐことができるような仕事をしたいと漠然と考えました。就職活動を始める時期になると、一連の不祥事事件を機に、企業の不祥事を防ごう、会社のガバナンス(内部統制)をしっかり作り上げようという社会風潮が大きくなっていて、自分もそういったことに関わる仕事に就きたいと思いました。
当時、内部統制支援を行うコンサルティング会社はいくつかあったのですが、新卒を採用する会社は少なかったですね。専門的な業務ですから、監査法人で働いた経験がある人や公認会計士のような資格を持っている人を中途採用するケースが多く、そうした条件のない会社となると、自然と選択肢が絞られました。就職したのは、監査法人出身の公認会計士4名が設立したコンサルティング会社です。この会社で、IPO準備支援業務や内部統制報告制度対応支援などのコンサルティング業務に携わりました。その他、メガバンクのシンクタンクと提携して、法令順守やガバナンスに関するコンサルティング業務も経験しました。ちょうど金融商品取引法で定められた内部統制報告制度(J-SOX、2006年制定)が導入されたばかりの頃です。もともと、監査法人が企業を監査する上で、その会社の内部統制ができているかどうかをチェックする項目は存在したのですが、改めてそれを会社と監査法人が報告書にして外部に表示するという制度の運用が始まったので、その対応支援業務に携わりました。
会社法に魅力を感じ、司法書士をめざす
──希望したコンサルティングの仕事につきながら、なぜ資格取得をめざしたのでしょうか。
清水 その会社には公認会計士の方がたくさんいたので、自分がこのまま何のバックボーンもないままコンサルティングを続けていくというのが将来的に不安だったのです。自分も「手に職」というか、何らかの資格が必要ではないかと思いました。
当時の業務は会計の知識が重要だったので、まずは会計の勉強を始めたのですが、やってみると自分はあまり数字が得意ではないということに気づいたのです。ただ、内部統制報告書で扱う「会社全体の内部統制が取れているか」という部分はどちらかというと会社法の範囲でした。株主がいて債権者がいて会社があるという、三者のバランスが取れているかという部分で会社法を勉強する必要があり、そこで初めて会社法に触れて、もっと深く知りたいと思ったことが法律の勉強をしようと思ったきっかけです。大学は経済学部を卒業しましたが、もともとは法学部を希望していましたから、働きながら資格を取るのなら法律関係の資格にしようと考えました。
──そこから司法書士をめざすことにしたのですね。
清水 はい。そして次第に、司法書士をめざすのに実務を知らなくていいのかという気持ちも高まって、司法書士事務所で補助者として働きながら受験勉強をしようと、転職活動を始めることにしました。転職先の事務所は、東京司法書士会が紹介していた求人票を見て探したのですが、あまり条件にはこだわらず、いろいろな業務、多様な仕事を経験できる事務所を探しました。例えば決済が中心の事務所だとそれ以外の業務はなかなか経験できないとか、規模の大きな事務所では歯車の一部しか担当できず全体がつかめないということがあるので、なるべく商業登記も不動産登記も両方扱う事務所で、できれば商業登記をメインでやっている事務所がいいと考えました。せっかくコンサルティング会社で会社法を勉強したのですから、商業登記には必ず関わりたいという気持ちがありましたね。司法書士事務所は不動産登記がメインというところが多いのですが、このとき入った事務所は地域に根づいて幅広い業務を行っているところが魅力でした。あとは、自宅から近いという点も考慮しました。受験勉強をする上で、職場が近ければ可処分時間が増えるだろうと思ったからです。通勤の移動時間を勉強に使えるという考え方もあると思いますが、都内での通勤は座るのもきっと難しいでしょうから、「近さ」は外せないポイントでした。
新しいビジネスをサポートするIPO支援のおもしろさ
──転職先ではどのような仕事をしたのですか。
清水 転職先の司法書士事務所は、台東区で何十年も地域密着型の仕事をしているところでした。メガバンクの地元支店とおつき合いがありましたし、信用組合や信用金庫も何支店か得意先になっていました。近隣の税理士事務所や会計事務所ともつながりがあり、そうしたお客様からのご依頼で商業登記や不動産登記など、さまざまな業務を経験しました。本当にいい勉強をさせていただいたと感謝しています。携わった仕事の中でも特にやりがいを感じたのは、ベンチャー企業のサポートですね。取引のある会計士事務所がコンサルティング会社を作ってベンチャー企業のIPO準備支援を行っていたのですが、私はその事業を法律面でサポートする仕事を担当しました。
──どのような業種のベンチャー企業をサポートされたのでしょうか。
清水 ほとんどがIT系です。一例を挙げると、小売業が利用している「会計POSレジ」というものがありますが、それをタブレット端末で代用できるようなシステムを開発したベンチャー企業がありました。その会社は今、上場寸前になっていますが最初の設立段階から関わらせていただきまして、私が独立して事務所を構えた現在も、継続しておつき合いいただいています。その他にも、統計学を駆使してマーケティングを行っているベンチャー企業もありました。ビッグデータを統計学で解析し、それを大企業のマーケターやマーケティング部門と連携して活用するという企業です。最初に勤めたコンサルティング会社でもIPO準備支援の仕事はしていましたが、その頃とは違う法律の切り口でIPO準備支援に関われたのはとてもいい経験になりました。ベンチャー系の業務に関しては、当時務めていた事務所の代表がベンチャー系は守備範囲ではなかったので、ほとんど私が自分で勉強して対応しました。ベンチャー企業のIPO準備支援は、新しいビジネスの始まりに立ち会う高揚感がありましたし、中でもITベンチャーに勤めている方々は発想がおもしろいのでいつも刺激がありましたね。例えば出資を受ける方法として「こういうやり方はありませんか?」とこれまでにない斬新な切り口を提示されることもありましたし、新規ビジネスに対して法律的にどうアプローチできるかを考えるのは新鮮でした。可能であればこれからもずっとこういう仕事に携わっていきたいと思いました。
ほぼワンオペの家事育児
──仕事をしながら資格取得をめざし始めた清水さんですが、この間にご結婚もされていますね。
清水 はい。妻は大学の同級生で、大学卒業後しばらくしてからつき合うようになり、2012年に結婚しました。間もなく長男が生まれましたが、妻は大手電機メーカーのマーケティング部に勤めていて業務がかなり多忙なので、私の資格受験に対しては「家事にも育児にも負担をかけないのなら」というのが条件で承知してもらいました。以前からずっと家事や育児の役割分担は半々にしているので、同じようにオペレーションできるならどうぞという条件付きでした。
──仕事と家事育児の両立だけでも大変なところに、受験勉強も加わるとなると、かなり大変だったのではないですか。
清水 本当にハードでしたね(笑)。受験勉強を始めたといっても、最初の頃はほとんど勉強する時間はもてなかった記憶があります。勤めていた事務所が自宅に近かったので、保育園の送迎がしやすいというメリットはありましたが、それでも毎日のスケジュールはものすごくハードでした。送迎は私の担当だったので、朝8時に子どもを預けてから仕事へ行き、18時から19時の間にお迎えに行ったあと、夕飯はだいたい私が作っていました。後片付けと洗濯は妻の分担で、子どもを風呂に入れるのは私、寝かしつけるのは妻と、本当に半分半分ですね。子どもが0歳児の頃は、妻も時短勤務をしていたので早く帰ってきたりしていましたが、私の勉強時間は子どもが寝たあと22時位から深夜1時位まで、3時間とれればいいほうでした。試験が近づいてくると遅くとも朝5時には起きて勉強するので、日々4時間寝られるかどうかの生活です。残業になればもっと時間がタイトになりますから、仕事、家事育児、勉強の3つをこなすのは想像以上に大変でしたね。
──3年後にはもう1人お子さんが生まれていますね。
清水 はい。妻が職場復帰したのは長男が生後10ヵ月程の頃でしたが、次男のときは半年で復帰しています。次男が2歳、長男が5歳位になると、ほとんど私がワンオペレーションで家事育児をする状況になりました。というのも、当時妻が関連会社を統括する部署にいて、全国に点々と散ばる子会社を監査する業務だったからです。全国各地の子会社を訪問して業務改革を進める仕事ですから、週の半分位は出張で不在になります。この頃は半分シングルファーザーのような生活でしたね。子どもが熱を出したときが大変なのですが、通っていた保育園には病児保育の制度があったので、病院に連れて行って登園許可が貰えれば、病児保育の先生が預かってくれました。この病児保育には大変にお世話になりましたね。ただ、インフルエンザのように伝染する病気の場合は預かってもらえませんから、親が仕事を休んで看病しなければいけません。私の勤めていた事務所は理解のあるほうでしたが、それでも「休ませてほしい」と言いづらいときはありました。上司が共働きを経験していれば、なんとなく家事育児のやりくりの大変さが分かってもらえるのでしょうが、所長世代の方はほとんどが「男性が働きに出て妻は専業主婦」という時代です。今は男性も育児する時代だと知ってはいても、経験がないので実態がわからない、そういう壁はあるなと思いました。
──実際、保育園の送迎をするお父さんも珍しくなくなってきましたし、男性社員の育休取得を推奨する会社も出てきて、男性の育児参加も徐々に浸透してきてはいると思いますが、清水さんは「巻き込み力」というか、職場の理解を求めることはされましたか。
清水 やりましたね。言葉にして伝えないことには理解してもらえませんから、そこは努力しました。幸い代表が子ども好きでしたので、事務所内でも折に触れて子どものエピソードを伝えるなどして、状況を理解してもらったり、共感してもらったりしやすい環境を作るように心がけていました。
やれることは全部やる
──清水さんは司法書士試験合格までに10年かかっていますが、毎年欠かさず受験していたのですか。
清水 転職してから10年間、試験は必ず受けていました。受験して司法書士試験に合格するために転職したのですから、そこは外せませんでしたね。でも物理的に時間がなく、通学しての受験勉強はできませんでしたので、基礎の部分はTAC・Wセミナーの山本浩司先生の『オートマシステム』シリーズ(早稲田経営出版)で勉強していました。また、受験経験者向けの科目別講座を受けたり、過去問題集を何度も繰り返し解いたりしていました。
──司法書士事務所での実務は受験に役立ちましたか。
清水 司法書士試験は実務とリンクする部分が多いとよく言われますが、さすがに司法書士の日常的な業務とそっくり同じというわけではありません。ただ、まったく異なる業界で働きながら勉強するのと、司法書士事務所に勤めながら勉強するのとでは、モチベーションの維持に差が出ると思います。司法書士の業界に身を置くことで勉強が長続きするという人であれば、事務所に勤務するのがいいと思います。
──受験勉強で特に大変だったことや、その克服のために工夫していたことはありますか。
清水 司法書士試験は覚えなくてはいけないことがとても多いですから、膨大な知識や記憶を定着させることには苦労しました。特に初期の頃は、十分な準備ができないまま試験に臨んだこともありました。でもそれではいい点数は取れないですよね。知識を定着させるためには、ありきたりな方法ではありますが、とにかく何度も繰り返すことです。暗記も過去問題集も、反復できる時間を多く取れるほうが強いと思います。覚えたはずのことも、時間が経てばどんどん忘れていきますから、ポイントを絞って何度も繰り返す。そういうやり方のほうが試験結果もいいと気づいてからは、反復中心で勉強を進めました。
他にも、可処分時間が少ないのだから、やれることは何でも全部やるという感じでしたね。家事をするときも講義や条文を録音した音声を聞きながらやっていましたし、勉強以外でも工夫できることはないかと考えて実践していました。ひとつは集中力を保つための食事です。仕事で疲れていたりすると、勉強を始めてもすぐ眠くなってしまうことがありましたし、試験中にどう集中力を上げるかも課題でしたので、当時流行っていたローカーボ(低糖質)の食事法を研究して、炭水化物はどんな種類のものをどれくらいの量摂ればいいかといったことにも気を使った食事内容にしました。その他、集中力を高める呼吸法など、受験に役立ちそうなことはできるだけ普段の生活スタイルに取り入れるように努めました。
──生活全体を見直して受験に臨まれていたのですね。途中で諦めようと思ったことはなかったのでしょうか。
清水 ありましたね。本当に、何度もやめようと思いました。自分なりに工夫して努力して勉強していましたから、それが結果に表れないというのは気持ちが折れます。5~6回目まではまだどこか「勉強が足りていないのだからしょうがない、また来年がんばろう」と思えたのですが、勉強を重ねて模擬試験などでいい点数が取れるようになると「今年はいけるのでは?」と期待しますよね。それにもかかわらず合格できなかったときが非常に辛かったです。一度、家族の前で本気で泣いてしまったこともあります。8回目か9回目の受験のあと、自己採点をして択一式試験が通らないとわかったときでした。子どもも、試験が終わったらかまってもらえるということは理解していたので、「またたくさんあそべるねー」などとはしゃいでいたところに私が泣いたものですから、自分が「あそべるよね」と言ったせいで父親が泣いたと思ったのでしょうね、まだ小さいながら、ショックだったようです。
不合格が続いた最後のほうは、毎回やめることを考えていました。でも妻は「ここまでがんばってきたんだから、最後までやり切ろう」と言うのです。折々に模擬試験の結果や成績などを見せていたものですから、「この次の試験で受かるんじゃないの?」と言って、励まし続けてくれましたね。今はこうして資格を取れましたから、何だかんだ妻に支えられていたなと思います。
──合格がわかったときの奥様の反応はいかがでしたか。
清水 合格発表があってすぐにSNSでメッセージを送りました。「今までありがとう。ここまで続けられたのも君のおかげです」みたいな改まった言葉を送ったのですが、ちょうど妻は出張中で、合格発表日だと知らなかったものですから、私が何の話をしているのか全然わからなかったようで「え?何の話?」という反応がきて(笑)。もちろんその後に合格したんだよと告げたら、すごく喜んでくれました。一時期は永遠に合格できないのではと思っていたので、結果が出せて私も本当にうれしかったです。
第三者承継で事務所を開設
──2018年の試験に合格後、翌年には事業承継によってご自身の司法書士事務所を開業されましたが、それまでの経緯を教えていただけますか。
清水 きっかけをくれたのは、司法書士の新人研修で知り合った同期の友人です。その友人が、司法書士向けに職業紹介をしている会社が出していた求人票を見て「後継者を探している司法書士事務所があるみたいだから応募してみてはどうか」と勧めてくれたのです。その事務所は商業登記を扱っていた事務所で、所長が亡くなったけれども息子さんはまったく違う仕事についていて跡をつげないし、お客様の引き継ぎ先もなくそのままになっていて、事務所には補助業務をするスタッフの方も2名いるという状況でした。やりたかった商業登記ができるということで興味を持ち応募したところ、何回か面談をさせていただいた上で、事務所を承継させていただけることになりました。2019年7月に前職の事務所を退所して、8月に前所長の田中先生の事務所を事業承継するかたちで清水司法書士事務所を開業しました。田中先生とはもちろん面識はありませんが、お客様への挨拶回りなどは、田中先生の息子さんと、補助者のスタッフの方々と一緒に回りました。
──事業承継での開業後は、どのようにお仕事をしていますか。
清水 事務所を事業承継して1年を過ぎたところですが、長い実績のある事務所ですので従来からのやり方があります。それについては、以前から補助者をされているスタッフの方々に教わりながら実務にあたっているところです。お客様は法人が多く、大手上場企業も何社かとおつき合いさせていただいていますが、上場企業は子会社が多いので、そちらからもご依頼が来ますね。そして私の前職の事務所のお客様も、ベンチャー企業や個人的にコミットしていたクライアントなどは私の専任業務だったので、現在も引き続きおつき合いさせていただいています。他にも、会計事務所との取引が多いので、全体として商業登記のウェイトが高い事務所運営をしています。
2020年はコロナ禍でしたので、営業が難しかったですね。人と会わないと始まらない仕事ですから、そういう部分を制限されて厳しい面もありますが、とにかくアクションを起こすことを心がけて積極的に連絡を取り、会える人には会いに行くようにしています。
──今後の展望や目標を教えてください。
清水 当事務所はBtoB(企業間取引)の仕事が多いので、今後もより幅広い視点から顧客企業をサポートしていきたいです。この先、登記業務だけではお客様が司法書士に魅力を感じなくなるという流れは確実に来ています。「役員変更により登記が発生しますのでお願いします」「はい、できました」といった納品物のやりとりだけでは生き残れなくなるでしょうから、登記だけでなく会社を運営する上でのサポートをしたいと考えています。ガバナンスや法令順守など、お客様が困っている部分を解決するためのソリューションを提案できる、力のある事務所にしたい。新型コロナウイルスの影響によって、会社運営の仕方も従来とはまったく違ってきています。それに対して法律的にどのようなアプローチができるのかといった部分も、どんどん提案していきたいですね。
──挑戦できることはまだまだ多そうですね。
清水 もともと会社法やベンチャー系IPOの仕事を専門的にやりたい気持ちはありましたが、今後はそれにプラスしてお客様の課題解決のため、多方面にトライしたいと思っています。司法書士という資格は守備範囲が広く、やれることが多岐にわたります。会社法と民法は業務でいえばまったく異なる分野で、まして裁判業務となれば全然世界が違いますが、学ぶことによってカバーできる範囲やビジネスチャンスが広がります。学びがたくさんあるという点において司法書士は恵まれていると思いますので、あえて「選択と集中」はせずに多様な分野で積極的に挑戦してみようと考えています。
──将来の道を模索中の方や、資格取得をめざしている方々へメッセージをお願いします。
清水 偉そうなことは言えませんが、人生の中で「迷う時間」を極力少なくするといいと思います。誰しも迷いや不安に駆られることはあると思いますが、そういうときは、とりあえず手を動かしたり足を動かしたりして行動する。迷う時間を物理的になくすようにアクションを起こしてみると、新しい展開が生まれたり新たな出会いがあったりします。迷うことに時間を使って自分を追い込まないことが大事ですね。そのほうが長続きしますし、精神衛生上もいいと思います。受験勉強に置き換えて言うなら、「不合格になったらどうしよう」と考える時間があったら、そのぶんテキストを読むでも問題を1つでも解くでも、アクションを起こす。少しでも問題解決に向けた行動をするほうが、可能性に近づけるはずですよね。迷って本当に不安になると、人は「できない理由」を考え始めてしまいますので、それよりも行動しながら「どうしたらできるか」に思考を回すほうがいいと思います。どうか、見つけた目標に向かって最後までがんばっていただければと思います。
[『TACNEWS』 2021年2月号|特集]